「お前のPC、初期化しといたから。もう出社しなくていいよ」 出社して数分で、部長にそう言われた。中学卒で入社した俺を、高学歴の部長は最初から嫌っていた。「中卒は仕事がさばけないんだろう」と毎日嫌味を言われ、ついに俺を追い出そうとPCを初期化したらしい。…

「お前のPC、初期化しといたから。もう出社しなくていいよ」 出社して数分で、部長にそう言われた。中学卒で入社した俺を、高学歴の部長は最初から嫌っていた。「中卒は仕事がさばけないんだろう」と毎日嫌味を言われ、ついに俺を追い出そうとPCを初期化したらしい。...

朝、出社して席に着くか着かないかのうちに、部長がやってきてこう言った。
「お前のPC、初期化しといたから。もう出社しなくていいよ。お疲れ様」
出社して数分で、俺はこの嫌がらせに完全に堪忍袋の緒が切れた。大きく息を吐き、パソコンの蓋を閉じて静かに立ち上がった。部長の前に立ち、心の底から言葉を絞り出した。
「あなたと働かなくていいと思うと、心が軽くなります。ありがたく退職させていただきます」
俺は笑顔でその場を去った。これから先、あんな連中と同じ会社で働くなんて、考えるだけでぞっとした。どれだけ良い製品を開発しても、あいつらは自分の手柄にするに決まっている。
俺は中卒だ。家庭の事情で中学を卒業してすぐに今の会社に就職した。だが、学歴だけで人を判断する連中に負けないよう、必死に勉強してきた。だからこそ、製品開発部の課長として、これまで何十ものプロジェクトを任されてきた。その自信とプライドはあった。
しかし、新しい部長の中川だけは違った。日本の名門大学を出ていることを誇りに、暇さえあれば自慢話ばかり。そして決まって俺にこう言った。
「君って本当に中卒なのかい? 毎日毎日残業してさ、やっぱり無能だな。中卒は仕事がさばけないんだろう」
周りの社員はクスクス笑う。俺は無視を決め込んだが、それが余計に彼を逆撫でするようだった。
ある日、部長に呼び出された。
「お前、社長から営業部への移動を打診されたのに断ったらしいな。本当か?」
「はい」
「社長の言うことを聞けないなんて、どうかしてるんじゃないか。中卒はそんなことも分からないのか。この部署にお前みたいな脳なしはいらないんだよ」
彼は俺をどうにかしてこの部署から追い出そうと、何度も何度も移動を迫ってきた。「俺が行けば取引は成功間違いなしです」と。
それでも俺は揺るがなかった。この製品開発には、俺にしかできない仕事があることを知っていた。会社の売上の9割を支える製品は、これまで俺が開発し、その工程管理のすべてを俺が行っていたからだ。
そして朝。俺は部長に言われた通り、会社を辞める決意をした。
夕方、会社から電話がかかってきた。部長が慌てふためいている。
「杉山! 今すぐ会社に戻れ! 早くしろ!」
「何を言っているんですか? 私は今朝、あなたに首を言い渡されたんですよ」
「いいから早く戻ってこい! 今すぐだ!」
余りの慌てように、俺は笑ってしまった。最初から分かっていたことだ。俺が辞めて困るのは、会社側だと。
しぶしぶ会社へ向かうと、部長と社長が飛び出してきた。
「お前、早くPCを立ち上げろ!」
「今朝、部長が俺のPCを初期化したじゃないですか。何のデータも残ってませんよ」
部長の顔が真っ青になった。社長は「何だってPCを初期化したのか!」と叫んでいる。
俺はさらに笑いが止まらなかった。なぜなら、会社の売上の9割を占める製品の製造工程はすべて俺のPCに保管されていたからだ。しかも、特許はすべて俺個人の名義で取得していた。無能な連中は、そんなことにも気づかずに、俺を追い出そうとしたのだ。
「このデータがなかったら、間違いなく倒産ですよ」
俺は強い口調で言い放った。さすがの二人も、今回は黙って下を向いた。
その後、社長は「会社に戻るなら、今までの製造方法を全部引き継いでから辞めろ」と命じてきた。
「この製品は俺が開発したものです。あなたたちに引き継ぐ義務はありません。どうしても引き継いで欲しいなら、毎月5000万円の保守契約料を払っていただきますが、よろしいですか?」
「バカにしやがって!」
「バカにしているのはあなたたちです。特許の価値が分かっていない」
実は、俺は朝に首を宣告された時、すぐに元社長の蒲田さんに連絡を入れていた。蒲田さんは新しい会社を立ち上げていて、すぐに「うちに来い」と言ってくれていた。
「この会社に戻ることは絶対にしません。これまでの製品を引き継ぐこともしません。この会社の未来は、一体どうなるんでしょうね」
俺は笑いながらそう言い、会社を後にした。
その後、会社はどんどん傾いていった。技術を持つスタッフは次々と辞め、社長と部長はどうにもならなくなった。最終的に、彼らは蒲田さんの会社に外部委託を懇願してきた。蒲田さんはそれを受け入れたが、委託金はなんと月1億円という厳しい条件だった。
そして俺は、新しい会社でまた蒲田さんの下で働ける喜びを噛みしめながら、毎日楽しく仕事をしている。近い将来、また市場を驚かせる高性能な製品を開発する日も、そう遠くはないはずだ。
数日後、俺は社長室へ呼ばれた。面接で不採用にしたはずの森下の件で、俺だけが呼ばれたのだ。
「西田君、君には人を見極める力がある。肩書きに囚われず、しっかりと会社に必要な人材を見つけてくれると信じている。君を役員へ昇格しよう」
「私は人事部として当然の仕事をしたまでです。昇格なんて」
「いや、人事というのは誰にでもできる仕事ではない。人間性を見るというのは、とても難しいんだ。これからも会社にとって必要な人材を見極めて採用してくれ」
俺は頭を下げた。たった一人の勝手な行動で、会社にこれほどの損害が出ることを身に染みて感じた。だが同時に、これまで自分がやってきた仕事は間違いではなかったと確信できた。社長のためにも、会社のために尽力してくれる人材を、これからも見極めていこうと心に誓ったのだった。

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