「私も最愛の息子をなくして辛いのだから。あきさん、あなたは私に尽くしなさい。ずっと嫁は私の奴隷よ。未亡人になろうがね」
夫・かず久が事故で亡くなってから、まだ一ヶ月も経っていない。なのに義母が最初に口にしたのは、私を支配し続けるという宣言だった。義母は、息子を失った悲しみより、嫁を好き放題にできる喜びの方が大事だったのだ。私はその瞬間、確信した。こんな頭のおかしい人間に、もう遠慮する必要はないと。
「お母さん、あなたは終わりなんですよ。私は全て知っているのだから」
そう冷たく告げると、義母は目を丸くして驚いていた。
「突然何を言い出すかと思えば。縁を切ったってこと?そんなこと簡単にできるわけないでしょ。これだから役立たずの嫁は」
以前なら、その侮辱の言葉に心をえぐられていたかもしれない。でも今は違う。私の心に湧き上がるのは、怒りでも悲しみでもなく、静かな決意だけだった。
義母が言い終わるのを待たず、私は用意していた書類を差し出した。義母は反射的にそれを受け取るが、意味が分かっていないようだった。
「それは『姻族関係終了届』と言います。お母さんは知らないでしょうから、控えを用意しておきましたよ。これを提出すれば、親族から抜けることが可能です。もう一度言いますね。私は他人になりました。尽くす必要なんて、1ミリもないんですよ」
「確かに私は知らないけど、どちらにせよ私に無断でできないでしょ。書類を提出する前に、私の許可がいるでしょ」
「本当に何も知らないんですね。姻族関係終了届は、義父母の許可なく提出できます。だからお母さんに無断でも問題ありません。理解できましたか?」
義母の顔色が変わった。顔を真っ赤にして、声を張り上げる。
「問題ないわけないでしょ!嫁は家族に尽くすべきなのに!黙って言うことを聞くのが当然なのに!こんなことして、ただで済むと思っているの?」
その声には、長年感じ続けてきた支配欲が色濃く滲んでいた。
義母の態度は、かず久が生きていた頃から変わらない。彼女は嫁である私を支配することで、自分の優越性を確認していた。煮物の切り方が1ミリ大きい、味噌汁の味噌が1グラム少ない、そんな些細なことまでダメ出ししてきたが、それは全て口実に過ぎなかった。義母自身は家事にこだわりなどなく、私に全てを押し付けて何もしない。1ミリや1グラムの違いが本当に分かるはずがない。目的は私を否定し、いびること。それだけだったのだ。
そんな義母から私を守ってくれていたのが、生前のかず久と義父だった。不穏な空気を感じると、さりげなくフォローしてくれる二人の存在は、私にとって唯一の救いだった。しかし、かず久が亡くなり、義父が病で歩けなくなってから、義母のいびりはエスカレートした。義妹のとみは結婚して家を出ていったが、義母はいびりをやめなかった。私が姻族関係を終了する理由には、十分だった。
義母は唐突に笑い出した。
「まあいいわ。あきさんが他人になったのなら、遺産を相続できるからね。別に役立たずの嫁がいなくなろうが、何も問題ないわ。ありがとうね、あきさん。姻族関係を終了してくれて。今思えば、私にとって好都合じゃない。他人に遺産を相続する権利も、この家に住む権利もない。さっさと出ていけ。役立たず」
「なるほど。本当にこの人は何も分かっていない。まあ、これも想定内だ」
「お母さん、後悔しないでくださいよ」
「バカなの?後悔なんかするわけないでしょ。もうあなたは用済みなのよ。二度と顔を見せるな」
鬼か悪魔のような形相で義母が睨みつけてきた。私は何も言わず、用意していた荷物を持って家を出た。何の策もなしに、私が忠告したとでも思っているのだろうか。必ず義母は後悔することになる。これは確定事項なのだ。
「お父さん、少しの間待っててくださいね」
まだ実家にいる義父に心の中で伝えてから、私はその場を離れるのだった。
それから13日が経った。リリカと新居に引っ越していた私は、今日も在宅で仕事をしていた。スマートフォンは、無視されることを前提にしているかのように、ひっきりなしに鳴り続けている。どれも義母からのものだ。はっきりとは数えていないが、おそらく50件以上は超えているだろう。私はあえて電話に出なかった。義母を焦らせるためだ。仕事がひと段落つき、もう十分だろうと思って出ると、今までにないほど怒りに満ちた義母の声が飛び込んできた。
「あきちゃん、今すぐ家に来なさい。逃げたらどうなるか分かってるわよね。いい、今すぐよ!」
その声は、怒り以上に焦りがひしひしと伝わってきた。まるで糸が切れたように声が震えている。だが私は慌てない。予測通りの反応だ。私は静かに電話を切り、準備を整えた。
車を走らせて実家に戻ると、家の中はまるで荒れ放題だった。リビングの床には散らばった洗濯物や食器が放置され、キッチンも食べかけのものや汚れた皿がそのままになっている。私がいなければ、まともに片付けもできないなんて。リビングの奥から、義母が形相を変えて飛び出してきた。
「あ、夫から聞いたわ。私に遺産相続の権利がないって。詳しく聞こうとしたら、あきさんを家に呼べって言われたの。あなた何か知ってるんでしょ?正直に話しなさい」
「分かりました。では単刀直入に言いますね。遺産は私の娘リリカが相続することに決まりました。なのでお母さんには1円とも渡しません。残念でしたね」
「リリカが相続するですって?!それはおかしいでしょ!あきさんは姻族関係終了届を提出して他人になった。だったらリリカも他人じゃない。遺産相続なんて不可能でしょ!」
「言いたいことは分かりますよ。ですが、間違ってますね。私が姻族関係を終了し、親族から抜けても、リリカの戸籍は残ったままです。リリカはお父さんとお母さんの孫であることに変わりはありません。だから相続権も残ります」
義母は震える手で顔を覆いながら、なんとか言葉を絞り出した。
「い、いつの間にそんなことになってたのよ。今からでも取り消して、私が遺産を相続できるようにしなさい」
「残念ですが、もう手遅れですね。お父さんが信頼できる弁護士さんに遺言書を預けています。遺産はリリカに相続されることに決まっています。もう覆せません。ちなみに、遺言書の偽造は無駄なので、やめてくださいね」
「嘘でしょ?遺言書をでっち上げてやろうと思ってたのに」
心の声が漏れてしまうほど、義母は動揺していた。
「あきさんみたいな役立たずがここまで用意だった理由。それは私の夫を誑かしていたからでしょ。なんて卑怯な女なのかしら。私をはめるためにこそこそして、恥ずかしくないの?遺産を手に入れるためにリリカまでも利用して。まともな人間のやることじゃないわ」
「まさか義母に人間性を問われることになるとは。これだけは想定外だった」
義母には、私と義父が親密な関係に見えていたのだろう。ただ、それはもちろん誑かしていたからではない。歩けなくなった義父の介護を献身的にしていただけだ。私の仕事は在宅でできるので、空いた時間は全て義父のために使っていた。介護は初めてのことで大変だったが、義父の人間性が大好きだったので苦ではなかった。
「お父さんを誑かしていたなんて、よくそんなことが言えますね。お母さんこそ、まともな人間だと思えないのですが」
「そうやってごまかそうとしても無駄。絶対にあきさんが仕組んだのよ。私は騙されないからね」
ここで私がどれだけ否定しても、義母は聞く耳を持たないだろう。でも何も問題ない。
「あきさん、来てくれたんだね。ここからは俺が話すよ」
やってきたのは、車椅子に乗った義父だった。義父の顔にも疲れが滲んでいる。義父は深呼吸をしてから、義母に話し始めた。
「あきさんの言った通りだ。リリカちゃんに相続することに決めた。遺言書も弁護士に預けている。ちなみに、あきさんは俺を誑かしたわけでも、リリカちゃんを利用しているわけでもない。今回のことは、俺から提案したことだからね」
「え?あなたから提案した?まさか、そんなことあるわけ。私はあなたの妻よ。夫なら私のことを優先するべき。妻である私が遺産相続するのは常識でしょう」
「そんな理屈は聞いたこともないな。お前はこそこそと陰ないびりを続けていた。結婚して家から出ていった娘のとみと共謀してな。それに俺は知っているんだぞ。お前があきさんから金をせびっていたことを。そんな奴が常識を語るな」
その場をピリピリとした空気が包み込んだ。義母は今までにないくらい驚きの表情を浮かべている。いつも温厚で優しい義父が怒りを露わにしたからだ。私も義父が激怒する姿を初めて見たが、背筋が凍る思いだった。
「せびっていたなんて人聞きの悪い。私は生活費のためにあきさんにお願いしていただけよ。だって、あきさんにはかずの保険金もあるじゃない。それを分けてもらおうとしただけよ」
義母は当然のように言い放つ。これを見て、私は改めて思った。かず久が保険金の受け取り人を私だけにしてくれたのは、義母のことを分かった上だったのだと。
「なるほど。お前はこう言いたいんだな。あきさんは保険金で生活に余裕があった。そんなあきさんからお金をもらって何が悪いと」
「え、いや、そんなこと言いたいわけじゃないわ。ただ私にも色々あったから、お金が必要だっただけよ。それに、実際に生活費はかずの保険金から出ていたんでしょ。だってあきさんは専業主婦なわけだし」
「何を言ってるんだ、お前は。生活費は全てあきさんが出してくれていたんだぞ。これはかずさんが亡くなる前からだ」
「はあ?かずさんが亡くなる前からですって?あなたこそ何を言ってるの?あきさんにそんなことできるわけないじゃない」
義母は全く信じようとしなかった。彼女は在宅での仕事に一切理解がない。「仕事」というのは外に出てやるものだと決めつけている。だから私に対して「パソコンをいじって遊んでいるだけ」という認識だった。こんな全時代的な考え方で見下しているから、大事なことが見えないのだ。
義父は深々と呆れたようにため息をつきながら、一冊の本を取り出した。それは最近SNSでも注目されている漫画だった。義父は淡々と話し始めた。
「結論から言おう。あきさんは漫画家だ。しかも大人気の漫画を手がける売れっ子なんだよ。収入においては、かずや俺よりもはるかに上だ。別に俺の遺産を相続しなくても、リリカちゃんと十分に生活していける。あきさんはかずの保険金も一切使っていないんだ」
「う、嘘でしょ?あなたは大企業の張本商事で働いていた。それよりも収入が上だなんて信じられないわ。それに、あきさんの部屋には漫画家らしいものは置いてなかったわよ。漫画って、紙とペンで書くものよね。それくらい私も知ってるわ」
これについては義母の言う通りだ。私の部屋には紙やペンなどは置いていない。だが、だからと言って漫画家ではないと否定はできない。私はタブレットを取り出して義母に見せた。
「お母さんは本当に何も知らないんですね。今の時代、紙やペンを使ったアナログでの作画だけではないんですよ。デジタル作画と言って、パソコンやタブレットで書くこともできるんです。近年デジタル化が加速していますが、それ自体は40年以上も前から始まっています」
タブレットには、義父の取り出した漫画と同じ絵が映っていた。私の正体を知った義母は、気まずそうに目を泳がせる。
「こんなものを用意したって、私は信じないわよ。どうせ二人して私を騙そうとしているんでしょ。その手には乗らないんだから」
義母は一切信じようとしなかった。でも、私と義父はそれ以上何も言わなかった。重要なのは、私が漫画家として収入を得ているという事実。役立たずと思っていた嫁に義母が養われていたという事実は、変えられないのだ。
義母は観念したように問いかけてきた。
「仮にあきさんが漫画家だったとして、どうしてすぐに家を出て行かなかったの?」
かず久が亡くなり、義母のいびりがエスカレートした時点で、私には家を出るという選択肢もあった。でも、私は家を出なかった。義父母を義母に任せることができなかったからだ。
「お母さんは家事や身の回りのことを全て私に押し付けました。それでも私が漫画家として仕事ができたのは、かずとお父さんのおかげです。結婚前から二人は私を応援してくれていました。私はその期待に答えたかった。それだけではありません。お父さんは歩けなくなり、介護は必要になりましたが、私に迷惑をかけたくないと、自分でできることは自分でされているんです。ご自身が大変なのに、私を守ろうとしてくれた。私は感謝しかありませんでした。そんなお父さんを置いていくことはできませんでした」
「俺はあきさんに自由になってもらいたかった。リリカちゃんと幸せになってもらいたかったんだ。ただでさえかずを失い、言葉では表せないくらい辛かっただろうに。そんなあきさんをお前は追い詰めていた。許せるはずがない。だから俺から姻族関係終了届と遺産相続について提案した。それで今に至っているのさ」
私たちの言葉に嘘偽りはない。お互いがお互いのために考え、動いた結果だった。
私たちの様子に、義母の顔色はどんどん悪くなっていく。このままでは全てを失う可能性がある。そう考えたのか、義母は驚きの行動に出た。
「あ、あなた、私が悪かったの。ついあきさんに辛く当たってしまったわ。言い訳しない。全面的に認めて謝罪します。だから許してください。あなたが許してくれないと、私生きていけないわ。遺産相続もできないなら、生活だって苦しくなる。私にはこの家しか残らないじゃない。どうしたらいいのよ」
車椅子の義父の前に膝まづき、懇願する義母。こんな弱々しい義母を見たのは初めてだ。本当に反省しているのかもしれないが、その前に義母は大きな勘違いをしている。
義父は呆れたように笑みを浮かべた。
「あきさん、そろそろお時間だね。準備をしようじゃないか」
「準備?何のことよ!」
「お母さん、勘違いしないでくださいね。あなたには何も残りませんよ」
「何も残らないってどういうこと?」
直後、インターホンが鳴った。私が玄関の扉を開けると、数人の業者が家の中に入ってくる。義母だけは突然のことに理解が追いついていない。
「それでは、2階から回収してください」
「回収って?この人たちは誰なの?」
「ああ、業者さんだよ。この家は売却したからね」
「ば、売却したですって?」
実は、実家は売却済みであり、すでに義父は施設に移ることを決めていた。当然、義母には一言も相談していない。
「ふざけないで!妻の私に相談もなく家を売ったの?」
「ああ、普通は名義人の妻に相談するのが筋だろうね。だが、この家の名義はかずに変更している。あきさんが結婚すると同時にね。そして、かず亡き今、名義人はあきさんになった。つまり、お前に相談する必要はないんだよ。あきさんの家をあきさんが売ることに問題あるか?」
言葉を失う義母を横目に、義父は私にニッコリと笑みを浮かべてくれた。家の売却についても、提案してくれたのは義父だった。
「お母さん、前に言われたこと、そのまま返しますね。あなたに遺産を相続する権利も、この家に住む権利もない。私をこき使うこともできませんので、さっさと出ていってくれますか?」
返事はなかった。運ばれていく荷物を前に、義母は魂が抜けたような顔をしている。そんな義母に義父が問いかけた。
「嫁は家族に尽くすべき。黙って言うことを聞くのが当然なんだよな。じゃあ、お前も黙って言うことを聞いてくれ。これからは自分のことは自分でするんだ」
義母の目に涙が浮かび始めるが、義父は容赦しなかった。
「ごめんなさい。本当に反省しているの。だから、家だけでも残してちょだ。このままだとホームレスになっちゃうわ。私がそんな目に会ってもいいの?」
まだ業者がいるというのに、義母は土下座した。
「謝る相手が違うんじゃないのか。ただ嫁というだけで奴隷扱い。遺産が相続できると思い込んで家から追い出す。自分が養われていたというのに、役立たずとののしった。お前はどれだけ間違えば気が済むんだ。本当に反省しているのなら、あきさんに謝罪するのが筋だろうが」
その鋭い言葉に、義母の顔は大量の涙で覆われた。私は義父に感謝している。義父は歩けなくなって私よりも不安だろうに、それよりも私を守ることを優先してくれている。
「そ、そうよね。先にあきさんに謝るべきだったわ。ごめんなさい。私が悪かったの。後悔しているわ。だから、考え直して欲しい。帰ってきて欲しいのよ」
「お母さん、私は言いましたよね。後悔しないでくださいよって。その時、あなたはこう言いました。後悔なんかしない。さっさと出ていけ、二度と顔を見せるなと。私はお母さんのお望み通りにしているだけです。二度と顔を見せませんから、安心してくださいね」
義母は震えるだけで、何も言えなくなってしまった。
荷物の回収を終えた業者がいなくなったことで、実家は静まり返った。もう義母に言うことはない。私と義父も家を出る準備を始めたが、次の言動に思わず足を止めることになった。
「私を捨てるのね。勝ったわ。もうあなたたちには頼まない。私には娘のとみがいる。とみは私の味方よ。きっと私の現状を知れば助けてくれるはず。家族は支え合うものだからね。残念だったわね、あきさん。あなたの思い通りにならないわ」
義母は不敵に笑っていたが、私と義父は無言で家を出た。義母がとみを頼ることも想定内だ。本当にバカな人。義母の未来を想像し、私と義父は大きくため息をつくのだった。
数日後、私は義父がいる施設へと足を運んでいた。施設は静かな場所にあり、周りには広がる緑が見渡せる。私は訪れるたびに義父が少しずつ元気を取り戻しているように感じられ、心から安心できる瞬間が増えてきた。
そんな中、私のスマホが突然着信を告げた。表示されたのは義母の名前だった。
「とうとうこの時が来たか」
施設の人に迷惑をかけたくないので、場所を移動してから電話に出る。案の定、義母は大声で第一声を放った。
「あきさん、お願い。今すぐお金を振り込んで欲しいの」
「早速お金の無心ですか?もう私には頼らないって言ってたのに」
「私もそのつもりだったわ。でも、今はそんなことも言ってられなくなったの。どうしてもまとまったお金が必要で。実は、とみさんのためですよね。旦那さんとトラブルがあって離婚を迫られている。慰謝料請求もされているから、お金が必要だ。違いますか?」
「え?なんであきさんが知っているの?とみは結婚してからあなたとは連絡取ってないはずじゃ」
「ええ、とみさんからは連絡は来ていません。私からとみさんに接触したんですよ。お母さんは最後にとみさんを頼ると予想していました。だから先回りして手を打とうと思いまして。お母さんに追い出されてから13日間で行動を起こしたんです。とみさんにはこう伝えようと考えていました。お母さんが遺産を相続しようとしている。とみさんを差し置いて自分だけいい思いをしようとしているとね。ですが、それを伝える必要はありませんでした。だって、とみさんは最初からお母さんの味方ではなかったと知ったので」
「は?とみが私の味方でない?どういうこと?」
「私が接触した時点で、とみさんは旦那さんから慰謝料を請求されていました。その慰謝料はお母さんに払ってもらうつもりだと言っていましたよ。私が泣きつけば何でも言うこと聞いてくれるって、とみさんは笑ってましたね」
「嘘でしょ?まさかとみが私を裏切るなんて」
「お母さんが私にお金をせびっていたのも、とみさんに渡すためだった。違いますか?お母さんが何にお金を使っていたのか気になってはいましたが、とみさんが笑っているのを見て気づいてしまったんです。ちなみにとみさんが私にお母さんのことを話したのは、私が姻族関係を終了したと知らないからです。とみさんはまだ私がお母さんの言いなりだと勘違いしているようでした」
全て話すと、義母は完全に沈黙した。唯一の味方だと思っていたとみさんに騙されていた。それは義母にとって最悪の真実だったのだろう。もう義母には頼れる人はいない。本当の意味で全てを失ったということになる。でも、それは義母の行いが招いた結果だ。自業自得以外の何者でもないだろう。
「お母さん、お金が必要なら自分で働いてください。それこそ当然のことじゃないですか?家族は支え合うもの。一方的に寄りかかるものではありません。考え方を変えない限り、同じことを繰り返しますよ」
「ごめんなさい。でもね、私だって息子が亡くなって辛かったのよ。息子がいてくれたら、私だってこんなことしなかったわ。分かってくれるでしょ、あきさん」
「いいえ、分かりません。お母さんはかずが亡くなって1ヶ月も経っていないのに、嫁を好き放題にできるそっちの方が重要だった。私はそう感じていました。だから許せそうにもありません。今日で、本当に最後です」
電話の向こうで、義母の声が途切れた。まだ義母は何かを言おうとしていたが、私はそのまま電話を切った。今後義母がどうしていくのかは分からないが、彼女が変わらない限り、最悪の未来が待っていることは間違いないだろう。できることなら変わってほしい。義母自身のためだけでなく、周りの人たちのためにも。
その後、義母の様子は義父から聞くことになった。義母は私に突き放された後も、何度も義父に連絡を試みたようだったが、全て徒労に終わっている。当然、義父も手を差し伸べることはなかった。ただ、義父は義母のことを心配しているようだった。義母はこれまでまともに働いたことがない。その上で、私たちに隠れて借金を抱えていたと発覚したからだ。友人たちから少しずつ借りているらしいが、その額は膨れに膨れ上がっているようだ。私にお金をせびっていたのは、とみに渡すためだけでなく、その借金の返済のためだったのだろう。義母が遺産を相続しようとしていたのも、借金が原因だったのかもしれない。とにかく自分の過ちに気づいて、やり直してほしい。それが義父の願いだった。
一方、私はリリカと新居で平穏に暮らしている。仕事も順調で、私の書いている漫画はアニメ化も決定した。すぐに義父に伝えると、自分のことのように喜んでくれた。それが義父への恩返しになるのなら、私はこれからも頑張っていけるだろう。リリカも私のお手伝いをしてくれるようになった。娘の成長は何よりも嬉しい。やっぱり、家族は支え合うものだ。きっと天国にいるかずも同じ気持ちだろう。



