私は小さな建築会社の社長です。廃業寸前で、事務員も全員辞めてしまい、途方に暮れていました。そんな時、外で測量事務所の所長が一人の女性を怒鳴りつけているのを見ました。「この嘘つきめ、年齢を偽って応募するなんて不採用だ!」女性はただ頭を下げるだけで、何も言い返せませんでした。彼女が肩を落として歩き出すのを見て、私は声をかけずにはいられませんでした。「うちの会社で働いてみませんか?」そう言った瞬間…

私は小さな建築会社の社長です。廃業寸前で、事務員も全員辞めてしまい、途方に暮れていました。そんな時、外で測量事務所の所長が一人の女性を怒鳴りつけているのを見ました。「この嘘つきめ、年齢を偽って応募するなんて不採用だ!」女性はただ頭を下げるだけで、何も言い返せませんでした。彼女が肩を落として歩き出すのを見て、私は声をかけずにはいられませんでした。「うちの会社で働いてみませんか?」そう言った瞬間...

気がつくと、目の前の事務所の前で、測量事務所の所長が一人の女性に向かって怒鳴っていた。「この嘘つきめ、年齢を偽って応募するなんて、不採用だ!」女性はただペコペコと頭を下げるばかりで、「本当なんです。信じてください」と小さな声で繰り返していた。所長は「こっちにも仕事があるんだ。あんたの嘘に付き合ってる暇はないんでね」と吐き捨て、バタンと玄関のドアを閉めてしまった。

私は小さな建築会社の社長をしている。といっても、父から会社を引き継いだだけだ。一軒家の建築を専門に扱ってきたが、大手に仕事を奪われ、今では廃業寸前の状態だった。さらに追い打ちをかけるように、長年事務を務めてくれた女性二人が突然辞めてしまい、私は事務仕事も抱え込むことになった。帳簿を眺めながら深いため息をつく。今月は一件も契約が取れていない。

気分転換に外の空気を吸おうと出たところで、さっきの光景を目撃したのだ。女性は肩を落として歩き出し、私の前を通り過ぎた瞬間、そのマフラーが道に落ちた。私はそれを拾い上げて声をかけた。「あの、これ落としましたよ」。女性は振り返り、頭を下げた。「すいません。ありがとうございます」。よく見ると、目の下のくまがひどく、髪も乱れていた。

話を聞くと、彼女は事務職の面接を受けに来たのだという。しかし、履歴書の年齢と見た目が違うと言われ、なかなか話を聞いてもらえなかったらしい。私は失礼だと思いながらも、聞かずにはいられなかった。「差し支えなければ、これまでどんなお仕事を?」「建築会社や不動産会社で事務をしていました。とある事情があって辞めたのですが」丁寧で落ち着いた受け答えに、嘘をついていないことがわかった。

「もしよかったら、うちの会社の面接に来てみませんか?うちも建築会社で、ちょうど事務を募集しているんです」彼女は目を丸くした。「え、私でもいいんですか?」私は頷いた。彼女を連れて会社に戻り、履歴書を確認すると、年齢は45歳と書いてある。見た目はもう少し上に見えるが、それだけ苦労してきたのだろう。そして、資格の欄を見て驚いた。書ききれないほどの資格が並んでいたのだ。どれも簡単に取れるものではない。「これら、すべて取得されたんですか?」「はい」彼女は小さく頷いた。

私は即決した。「今すぐ入っていただけませんか?」彼女は驚いた顔をした。「私、こんなボロボロで老けて見えるのに、本当にいいんですか?」「容姿なんて関係ないでしょう。これだけの資格を揃えるのは、よほどの努力をしない限り不可能ですよ」彼女は恥ずかしそうに下を向いた。「今まで、女が資格ばかり取っても意味がないって言われることが多かったんです」私は言った。「そんなことありません。仕事に真っ直ぐ向き合っている証拠ですよ」すると彼女は、初めて安心したように微笑んだ。

彼女は野さんという名前で、下の名前で呼んでほしいと言った。苗字が変わるかもしれない、という言葉が気になりつつも、その時は深く追及しなかった。翌日から彼女は出社し、指定した時間の15分前には来て、事務所を掃除してくれた。仕事は早いだけでなく正確で、分からないことはまとめて一度に質問してくる。今まで二人でこなしていた事務作業を、彼女は一人で全て処理してしまった。

私は彼女を助けたつもりでいたが、実際は私の方が助けられていた。ある日、現場を見たいという彼女の希望で、一緒に現場へ行った。職人たちも彼女に優しく声をかけてくれる。帰り道、彼女がふと言った。「車を車検に出すと代車が来ますよね。家も同じように、仮の住まいとかあるんですか?」その言葉で、私の中で何かがひらめいた。

以前、不動産屋の社長が空き家の貸し手がつかないとぼやいていたこと。解体屋の社長が仕事がないと困っていたこと。家は人が住まないと傷む。ならば、立て替えの際に解体と引っ越しも同時に引き受け、仮住まいまで用意すればどうだろうか。顧客は家具の移動を心配するが、こちらで全部やれば、本人たちは荷物だけを持って移動すればいい。リフォーム事業も始めれば、さらなる効果が期待できる。私はすぐに行動に移した。すると、少しずつだが成果が出始めた。

一緒に働くうちに、野さんは自分のことを話すようになった。彼女は早くに両親を亡くし、学歴の代わりに資格をたくさん取ったこと。35歳の時に結婚したが、夫から「女は仕事をするな」と言われ、専業主婦になったこと。しかし、夫は生活費として月に2万円しか渡してくれず、その中で食費や光熱費をやりくりする生活をしていたこと。その結果、洋服も買えず、美容室にも行けず、一度離婚を切り出したが、夫が逆切れして怖くなってしまったこと。その後、夫の両親の介護が始まり、夫の命令で彼女が一人で全て担っていたこと。そして、介護が終わり、自分の姿を見て驚き、離婚を決意したこと。

私はなんとかして助けてあげたいと思った。まずは住む家だ。貯金がないことには家も借りられない。そこで、ある空き家に彼女に住んでもらうことを提案した。仕事の一環として、実際に住んで居心地を確かめてもらうのだ。彼女は申し訳なさそうにしていたが、喜んで引き受けてくれた。こうして、彼女は夫の家に離婚届を置いたまま、引っ越しをした。

それから、彼女は髪を明るく染め、新品の服を着て出勤してくるようになった。あまりの変わりように、私は一瞬誰だか分からなかった。自然に笑顔が出るようになった彼女を見て、私は幸せな気持ちになった。ひょっとしたら、私は彼女のことが好きなのかもしれない。そう思い始めた矢先、事件は起こった。野さんの夫が会社に乗り込んできたのだ。

「おい、野、俺はお前と別れる気は微塵もないぞ」彼はそう言って、離婚届を破り捨てた。そして、彼女の腕を強引に引っ張った。「お前は黙って俺の言うことだけ聞いていればいいんだよ」「やめてください!」私は二人の間に入った。「ちょっと落ち着いてください。ここは会社ですよ。いきなり押しかけてきてどういうつもりですか?」彼は私を睨みつけた。「おお、あんた誰だよ」「この会社の経営者ですが、これ以上騒がれるようであれば警察を呼びますよ」「家庭のことに部外者が口出しするんじゃねえ。ほら、帰るぞ」しかし、野さんは言い返した。「嫌です。私は帰りません。私はあなたと別れます」「お前まだそんなことを言ってるのか?俺は真面目に働いているし、不倫もギャンブルもしてない。どこに別れる理由があるんだ?」私は腹が立って仕方なかった。「あなたは彼女のことをずっと傷つけているんですよ。別れる理由としては十分じゃないですか?」私がそう言うと、彼は怒鳴った。「こんな小さな会社の社長が偉そうに俺に指図するんじゃねえ!」

すると、野さんが彼の手を振り払った。「その会社のことを悪く言わないでください。社長とお父さんが大切に育ててきた会社なんです」「お前…」彼は驚いていた。彼女から反論されたのは、きっと初めてだったのだろう。「仕事の邪魔なので今すぐ出て行ってください。本当に警察を呼びますよ」彼女は毅然と言い放った。彼は圧倒されたように、逃げるようにして去っていった。

彼女は息を切らし、力なく椅子に座り込んだ。私のために体を張ってくれた彼女に、私は感動していた。自分のためにここまでしてくれる女性に出会ったことがない。間違いない。私は彼女のことが好きだ。そう確信した。

しかし、恋愛に奥手な私は、どうやってデートに誘えばいいのか分からなかった。そのまま一年以上の月日が流れてしまった。彼女がうちの会社に来て、もうすぐ二年になろうとしていた。私は少々強引ではあるが、それを機会にしてデートに誘ってみた。彼女はとても喜んでくれた。私は奮発して高級なレストランを予約した。

初めて二人きりで食事をし、夜景を見つめる彼女に気づかれないように、私は指輪を取り出した。「野さん、僕と結婚してください」彼女は驚いて指輪を見つめていた。返事が来るまでの時間が、とても長く感じた。「ありがとうございます。こんな私でよければ、よろしくお願いします」彼女は涙を流しながら、指輪を受け取ってくれた。

こうして私たちは夫婦になった。それから会社はどんどん大きくなっていった。父も安心して引退し、今では母とのんびりとした生活を送っている。私は今でもたまに思うことがある。あの日、野さんがうちの会社の面接を受けに来なければ、そして私が彼女を採用しなければ、こんな幸せな未来は訪れなかっただろう。出会いというものは、こんなにも人生を変えるのだ。私たち夫婦は、この奇跡的な出会いに感謝しながら、今日も一生懸命仕事に励んでいる。

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