「あんたにはもったいない。私が住むわ」…

「あんたにはもったいない。私が住むわ」...

「この家はあんたにはもったいない。私が住むわ」

新居のタワーマンションに越してすぐ、長年私を無視し続けてきた義母が頻繁に泊まりに来るようになった。そして今日、ついに「私が住む」と言い出したのだ。

当然、私は断った。すると、今度は夫の正一が口を挟んできた。

「一緒に住めないなら出てけ」

私に向かってそう言った。義母はニヤニヤと笑っている。ああ、そうか。この二人は最初から私を追い出すつもりだったんだ。

「後悔するわよ」

私はそう言い残して家を出た。

私の名前はミスズ。41歳の会社員だ。夫の正一とは結婚して15年目になる。夫婦生活としてはそれなりに長いが、結婚当初からずっと悩みがあった。義母との関係だ。

悪いというわけではない。だが義母は私を敵視していた。あからさまに、ただ無視をするのだ。私が話しかけても、挨拶をしても、全て無視。私と正一には二人の娘がいるが、長女は私に似ていて、次女は正一に似ている。だからなのか、義母は長女に対して非常に冷たかった。次女はこれでもかというほど甘やかすのに、長女には厳しく嫌なことを言う。私が指摘しても無視されるだけだった。

私は正一に相談したことがある。

「ねえ、お母さんのこと何とかしてくれない?」

「え? 何が?」

正一は目の前で見ていることもあるのに、長女をかばうことなんて一度もなかった。自分の娘なのに、義母の方が大事なのかと怒りが爆発しそうだったが、話し合いの場では冷静を装った。

「でもさ、お袋だって嫌なことをしてやろうって思ってるわけじゃないと思う。お前の被害妄想が膨らんでるだけじゃないか」

正一はあくまで義母の味方だった。長女の味方になってあげられるのは私しかいない。そう思って、私は二人の娘を精一杯可愛がり、義母と正一とはあまり関わらないようにして暮らしていた。

そんな日々を過ごしていたが、先日、ついに私たちは新居を構えることになった。コツコツと貯金し、昇格も果たした。共働きだったこともあり、タワーマンションも夢じゃない位置まで来たのだ。

正一はあまり協力的ではなく、購入には消極的だった。だが手続きを進めていくうちに変化が見られ始めた。

「俺、家具とか好みのやつ見て決めておいたから。家電もこの機会に一新しようと思って目星つけてる」

驚いたが、乗り気になっているならよしとしよう。そう思っていた。だが、間取り図を見た時、一つ疑問が浮かんだ。

「ねえ、子供たちの部屋って一人一部屋あるわよね。どうして二人一緒にしたの?」

「子供部屋が一人一部屋なんて贅沢だろう。一緒でいいんだよ。どうせ一部屋与えたら部屋にこもって出てこなくなる。だから一緒にしたんだ」

理解できないこともない。子供たちも不満そうな顔をしたが、「嫌なら部屋を与えない」という正一の言葉に反論するのをやめた。私は次女が小学校を卒業するまで一緒の部屋という条件を出し、正一も納得した。次女は現在小学校5年生。2年もしないうちに一人一部屋が与えられるならいいだろう。私はこの時、まだ正一の本当の狙いに気づいていなかった。

そして私たちはタワーマンションに新居を構えた。子供たちも私も、かつて住んだこともない高さに興奮していた。だが、新居を構えてすぐ義母が遊びにやってきた。今までほとんど来なかったのに、引っ越し祝いだろうか。

「へえ、豪勢な家だね。これも全て正一のおかげか。あんたたち、お父さんに感謝しなさいよ」

義母はこの家に住めるのは正一のおかげだと私たちに言ってきた。長女は苛立って、私に愚痴をこぼした。

「なんであの人が急に来たの? いつも来ないくせに、こういう時ばかり来るんだね」

「引っ越し祝いに来てくれただけよ。すぐ来なくなるわ」

私はそう言って長女をなだめた。しかし、私の予想に反して義母は頻繁に宿泊するようになった。一週間に一回は泊まりに来る。その間、私には特に話しかけてこない。私が気を使って話しかけても、相変わらず無視だ。自分に用がある時だけ話しかけてくる。

いい加減、我慢の限界だった。

ある土曜日、義母が朝から家を訪ねてきた。彼女が来て喜んでいるのは正一くらいしかいない。

「おお、また来たのか? 飯持ってきた?」

「ええ、今日もあなたの好きなものをたくさん作ってきたわよ。どうせあなたの嫁は何も作ってくれないだろうしね。そうでしょ、ミスズさん」

「そんなことないと思いますけどね」

泊まりに来るようになってから義母の口数は増えたが、それは全て私に対する嫌味だった。そろそろ言い争いに発展しそうだ。ここまで我慢してきたのは、すぐに来なくなると思っていたからだ。だが、頻繁に訪ねてくる義母を見て、我慢している自分がおかしくなってきた。もう次に何かされたら、こちらも黙っていない。その覚悟でこの日を迎えていた。

今日は子供たちも友達と遊びに出かけている。家には私と正一、そして義母だけだ。何か起こりそうな気がしてならなかった。すると義母が伸びをしながら言葉を放った。

「ここのところずっと来てるから慣れ始めてきたわ。いい家ね。ここなら住みやすいわ」

今、住みやすいと言った? 私は自分の耳を疑った。まさか、とは思うが、義母はここに住む気なのだろうか。すると義母は家具の配置などを考え始めた。

「ちょ、ちょっと待ってください。もしかして、お母さん、ここへ住むおつもりですか?」

「そのつもりだけど、何か問題でもあった?」

はっきりそう告げられた。最悪な展開だった。頻繁に泊まっていたのは、気に入っているだけだと思っていたのに。会話もまともにできず、無視してくる人と一つ屋根の下で暮らすなんて、ストレスが溜まるだけだ。私は正一の方を見たが、彼もまた平然としていた。

「お袋をこの家に住ませるなんて、分かってたことだろう。俺には一部屋開いてるし、使えばいいだろう」

そこで私は気づいた。なぜ子供部屋を二つにせず、一つにしたのか。義母の部屋を用意するためだったのだ。

「一緒に住みたくないと言っているわけじゃないんです。ただ、どうして私に何も言ってくれないんですか?」

「はあ。同居するのなんて、あんたに拒否権ないでしょ。ミスズさんは長男である正一に嫁いできたわけでしょ。だったら同居するのは当たり前じゃない」

義母は私への非難を続けた。すると、義母の言葉がエスカレートしてきた。

「そもそもこの家だけど、あんたにはもったいない。私が住むわ」

「無理です」

当然、私は断った。怒りで頭が沸騰しそうだった。すると、そこへ夫の正一が口を挟んできた。

「一緒に住めないなら出てけ」

私に向かってそう言った。義母はニヤニヤと笑っている。ああ、そうか。この二人は私のことが嫌いなんだ。だから私を追い出そうとしている。私はそう思って、二人にこう言った。

「後悔するわよ」

その瞬間、二人は爆笑した。

「後悔? おいおい、笑わせんなよ。お前みたいな奴が一人いなくなったって変わらないんだ。それにお袋に盾突く奴がいなくなったら、この家も平和だな」

「本当ね。私もあなたがいなくなれば、余計にこの家に住みやすくなるわ。出ていくならどうぞ出ていってちょうだい。あなたには頭を冷やす時間も必要でしょう」

「頭を冷やすってどういうことですか?」

「今のあなたは興奮気味なのよ。だからきっと戻ってくるわ。とりあえず頭を冷やしてきなさい。後悔するのはあなただと思うけど」

大笑いする二人を見て、私は家を出ていった。

子供たちが帰ってくるまで外で待ち、帰ってきた二人に今からついてくるように話した。ちょうど春休みだったので、学校が始まるまで時間がある。私はアパートを契約し、その間はビジネスホテルに宿泊して子供たちもそこで過ごさせた。子供たちを私が引き取っているのは義母も正一も知っている。そのため子供たちの荷物を取りに行く時だけは入ることが許されていた。

「もうリタイアした方がいいんじゃない? 一人で子供を育てていくのは案外大変なものよ」

義母はそう言っていたが、不思議と怒りの感情は湧かなかった。ニヤニヤと笑う義母とは反対に、顔色が悪くなっている正一が目に入ったからだ。

私たちが家を出てから二週間が経過した頃、正一から電話が来た。相談したいことがあるそうだ。様子から、私は何の話か分かっていた。あんなに大見得を切っていた正一が、今になって頼ってきているのだ。とりあえず話だけは聞いてやることにした。

タワーマンションの自宅へ行くと、落ち込んだ表情の義母と正一がいた。私が来た瞬間、まるで救世主が来たかのように玄関まで出迎えに来た。相当追い込まれているようで、ちょっと笑えてきた。

「二人ともどうしたの? 私のこと、玄関まで迎えに来ることなんてなかったじゃない?」

「そ、そんなことないよ。それに今日は俺が呼んだんだ。これくらい当然だろう」

「そ、そうよ。さあ、上がって上がって」

重苦しい雰囲気の中、正一からの第一声は謝罪だった。

「本当にすまなかった。どうか俺たちのところへ戻ってきてくれないかな。ごめんなさい。お願いします」

私に散々文句を言っていた二人が、今目の前で頭を下げている。

「出ていけって言ったのはそっちよね。今度は戻って来いなんて、随分勝手なことだと思わない?」

正一は苦い表情で話を続けた。そう、このタワーマンションは私と正一の収入で生活が成り立っている。私だけならやっていけるが、正一の収入だけでは生活を回していくのは難しい。だからこそ、彼は私を頼ってきたというわけだ。

「悪いけど、お金のために戻って来いなんて冗談じゃないわ。子供たちのためにもう我慢してきたけど、もう嫌よ。あなたたちと生活することはありえない。ついでに今日は離婚届けを持ってきたから、書いてくれる?」

私が離婚届を出すと、二人は完全に固まった。すると、我慢の限界だったのか義母が噛みついてきた。

「ふざけるんじゃないわよ、この子。あんたは嫁でしょ。だったら夫のピンチくらい助けなさいよ」

「お、おい、お袋、やめろ」

私は余裕の笑みを浮かべて二人を見下ろした。

「ああ、それが本心なんですね。それならやっぱり離婚です。もうこの決意は揺らぎません。もし離婚しないって言うなら、弁護士立ててやります」

正一と義母はその場に崩れ落ちた。

その後、私と正一は離婚。親権も私が持つこととなった。正一たちは今回の件で大揉めして、二人は別々に暮らすことになった。そしてタワーマンションの維持費を払っていくことはできず、借金も膨らみ、正一は自己破産した。自己破産すれば楽だと思っていた彼だったが、借金をしていたのは消費者金融だけではなく、怪しい金貸しにも手を出していたらしい。彼らは自己破産した正一を諦めることはなかった。そのため、探し出して連れて行かれたようだ。回収されることを考えていなかった正一は自由がなくなり、今はどこで何をしているか分からない。

さらに義母は一人になったことで物忘れが激しくなった。誰も看られず、親戚の一人が施設に入れたらしい。今は日々記憶がなくなっていき、そのうち私たちのことはもちろん、正一のことも忘れてしまうかもしれない。あれだけのことをしたのだ。このくらい仕方のないことだと思う。

私と娘たちは現在アパートで暮らしている。一度はタワーマンションに住んだから娘たちも残念がっていたが、義母と一緒に住むくらいなら今のままでいいと言っていた。結果的には良かった。これからまた娘たちと幸せな人生を送れるように、私はもう一度タワーマンションを夢見て前進していくつもりだ。

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