結婚式当日、新郎が用意したビデオレターが流れた瞬間、会場は凍りついた。スクリーンに映し出されたのは、妻と、私が「実の父親」だと知っている男が、花嫁の家に楽しそうに入っていく姿。私は花嫁の育ての父親なのに、彼女に「結婚式に来るな、あんたはただの他人でしょ?」と言われていた。夫婦として25年、娘として育ててきたのは全て無駄だったのか。妻のスマホを覗いた時、私は全てを知った。そして、復讐を誓った。…

結婚式当日、新郎が用意したビデオレターが流れた瞬間、会場は凍りついた。スクリーンに映し出されたのは、妻と、私が「実の父親」だと知っている男が、花嫁の家に楽しそうに入っていく姿。私は花嫁の育ての父親なのに、彼女に「結婚式に来るな、あんたはただの他人でしょ?」と言われていた。夫婦として25年、娘として育ててきたのは全て無駄だったのか。妻のスマホを覗いた時、私は全てを知った。そして、復讐を誓った。...

私は54歳のサラリーマンだ。

29歳の時、今の妻となるくみ子と出会った。彼女は24歳で、職場に派遣で来ていた。最初は事務的な付き合いだけだったが、飲み会で隣の席になった時、彼女の芯の強さに惹かれて自分からアプローチした。

くみ子は美人で仕事もできて、周りの誰もが認める存在だった。正直、俺のような冴えない男が落とせる相手ではないと思っていた。だが飲み会から半年ほど経った頃、必死のアプローチが実り、初めてデートをすることができた。

デートを重ねて付き合うことになった。だが実は、その段階では俺はくみ子に子供がいることを知らされていなかった。

付き合って半年ほど経った頃、彼女は突然「大事な話がある」と言った。

「実は、私には子供がいるの」

驚いた。そして迷った。本当の父親ではない俺が、その子を幸せにできるのだろうかと。

だが、一ヶ月後、当時3歳だったナナに初めて会った。くみ子に似た大きな黒い瞳。俺に向ける無邪気な笑顔。母親のことを思って一生懸命仲良くしようとしてくる姿に、俺は心を打たれた。

俺はくみ子とナナを幸せにすると心に誓った。そして付き合って1年後、俺たちは結婚した。

最初の数年は平穏だった。だがナナが中学生になった頃から、俺に対して急に冷たくなっていった。

「ナナも反抗期なんだよ。そのうち戻るわ」

くみ子にそう言われて、俺も深く考えないようにしていた。

しかし、事態は悪化していく一方だった。ナナが高校生になると、俺の存在を完全に拒絶するようになった。

「近寄らないで」
「私がリビングにいる時はリビングに来ないで。同じ空間にいるのも嫌」

そう言うナナの目は、かつての無邪気な娘の面影が全くなかった。暴言とも言える言葉に、俺の心は毎日のように傷ついた。

さらに悪いことに、くみ子も徐々に俺から離れていった。いつの間にか、くみ子は俺の分の食事を用意してくれなくなった。俺は仕方なく外で食べるか、コンビニで買ってきて部屋で食べた。家族との会話もなくなり、同じ家に住みながらまるで他人のような生活だった。

ナナが大学生になると、俺と一緒にいたくないからと、都内で一人暮らしを始めた。ナナがいなくなると、くみ子も外に出ることが多くなった。一週間帰ってこないことも珍しくなかった。

誰もいない家で、俺は3LDKの広さを持て余しながら虚しさに襲われた。こんな人生だったのか。

ナナが家を出て4年。27歳になった時、くみ子から「今度ナナが結婚する」と聞かされた。

俺は嬉しかった。ついにこの時が来たかと。俺にとっては大事な娘であることに変わりはなかったからだ。

数日後、久しぶりにナナが家に来た。くみ子は外出中だった。

「結婚おめでとう。結婚式はいつやるんだ?」

俺は喜び勇んで聞いた。

しかしナナは冷たく言い放った。

「あんた、まだこの家にいたんだ」
「ありがとう。でも結婚式には来なくていいから。つーか、絶対来ないで」

「なんでだ? 俺は父親だぞ」

「父親? 何言ってるの? あんたはただの他人でしょ?」
「他人に結婚祝われても気持ち悪いだけなのよ」

ナナはそう言って部屋にあった荷物を運び出し、帰ってしまった。

俺は「他人」と言われたことに、ひどくショックを受けた。本当に血のつながった娘だと思って育ててきたのに。

深い悲しみに襲われた。だが、ナナの結婚祝いとして貯めていたお金だけでも渡したいと思った。俺は妻に住所を聞いて、ナナが一人暮らししている家へ向かった。

インターホンを鳴らすが、返事がない。留守のようだ。遠くからわざわざ来て、このまま帰れるわけもなく、俺は家の前でしばらく待っていた。

しばらくすると、人が二人やってきた。

俺は自分の目を疑った。

なぜ、あいつがナナの家にいる?

そこにいたのは、ナナとくみ子、そして一人の男だった。その男のことは知っていた。

ナナの実の父親だ。以前、くみ子に顔写真を見せられたことがあった。

俺は全てを察した。くみ子はその男と不倫をしていて、俺ではなくその男を「父親」として選んだのだ。

俺の心の中で、何かが音を立てて崩れていく音がした。

あの日から俺の復讐が始まった。

結婚式当日。会場には新郎新婦の大切な人からのビデオレターが流れることになっていた。それは新郎が新婦に内緒で準備したものだった。

大画面に映し出されたのは、ナナの幼い頃からの記録だった。初めて歩いた日、幼稚園の入園式、お遊戯会、卒園式、小学校の入学式。大切な場面がつなぎ合わされ、会場の多くの人の涙を誘った。

しかし、新婦の母親だけは、何か落ち着かない様子で画面を見つめていた。

突然、映像が乱れ、感動的なBGMがプツリと途切れた。

これまでとは全く違う映像が流れ出した。

そこには、ナナとくみ子、そして見知らぬ男性が仲良く話しながら、ナナの住むマンションの中に入っていく様子が映っていた。

会場がざわつき始めた。

その後、スクリーンに文字だけの映像が映し出された。

『これは、新婦であるナナの育ての父親である私が、結婚祝いを渡すためにナナの家に行った時に目撃した光景です。私の妻であるくみ子とナナ、そして一人の男性がナナの家に入っていきます。私はその男性を知っていました。この男性はナナと血のつながった父親です。以前、くみ子に顔写真を見せられたことがあったのですぐに分かりました』

会場にどよめきが走る。

「どういうこと?」
「花嫁にはお父さんが二人いるの?」

ナナとくみ子は席を立ち上がり、ヒステリックに訴え始めた。

「やめて! 今すぐビデオを止めて!」
「あれはデタラメよ!」

しかし新郎は真剣な表情でスクリーンを見つめたまま動かなかった。

スクリーンの文字は続く。

『その光景を見た時、私は全てを察しました。妻とその男は不倫をしていて、妻は私ではなくその男を父親に選んだのだと』

会場のざわめきはさらに大きくなった。

『思い返してみれば、心当たりがたくさんありました。ナナは中学生になった頃から私に強く当たるようになりました。初めは反抗期だと思っていましたが、思えばくみ子が時々外泊するようになったのもその頃でした。ナナが高校生になると私への扱いはますますひどくなり、毎日のように暴言を浴びせられました。くみ子も私の食事だけ用意してくれなくなりました。ナナが大学生になると家を出て一人暮らしを始めましたが、その頃からくみ子は家に帰ってこない日が続くようになりました。その時点で気づくべきでした』

会場は沈黙に包まれていた。

『ナナの家でさっきの光景を目撃した時、私の中で何かが崩れました。わずかに残っていた二人への愛情が、綺麗さっぱりなくなってしまったのです。私は二人への復讐を誓いました。私の人生をめちゃくちゃにした二人が、私に人生をめちゃくちゃにされても文句は言えないはずです』

『私は妻が寝ている間に妻のスマホを見ました。暗証番号は検討がついていたのですぐにロックを解除できました。SNSのトークを遡ると全て分かりました。ナナが小学6年生の時、くみ子はその男と偶然再会し、そのまま不倫関係になりました。ナナが中学生になったタイミングで、くみ子はその男とナナを合わせ、度々三人で出かけるようになりました。ナナはその男に懐くようになりました。そしてナナの一人暮らし用に借りた部屋は、実は三人の家だったようです』

画面が切り替わり、SNSのトーク画面の写真が複数枚流れた。

『これが証拠の、不倫相手とのトーク画面です。私としては見たくもないですが、私の伝えたいことは以上となります』

そう最後に残して、スクリーンは消えた。

しばらく沈黙が流れた後、新郎が静かに口を開いた。

「ナナ、これはどういうことなんだ?」
「育ての父親は10年前に亡くなった。今はお母さんと二人で暮らしてるって言ってたじゃないか。全部嘘だったのか」

ナナは黙り込む。

「育てのお父さんより、母親の不倫相手を選んだのか」
「お前は育てのお父さんをないがしろにして、婚約者にとんでもない嘘をつくような最低な人間だったんだな」

ナナは何も答えず、ただ俯いていた。

新郎は続ける。

「俺はそんな奴とは結婚したくない」

ナナは予想外の言葉に驚いたように顔を上げた。

新郎は会場全体に向かって大きな声で宣言した。

「僕は一村ナナとの婚約を破棄します。式も中止にしてください」

再びざわつく会場。しかし、最初とは違い、新郎の決断を賞賛する声が目立った。

ナナは大声を上げて泣きながら懇願した。

「それだけはやめて! お願いだから! 何でもするから!」
「お父さんをないがしろにしたことも謝るから、ごめんなさい!」

ナナが頭を下げる。涙が赤い絨毯にポタポタと落ちた。

しかし新郎は冷たい目で言い放った。

「謝る相手を間違えてないか?」
「謝るならお父さんに、今までしたことを謝るんだな」
「俺はもうお前に好きとか愛してるとかいう感情は一切ない。すまないが、関係も今日限りにしたい。もう連絡してこないでくれ」

新郎は左手の薬指の指輪を乱暴に投げ捨て、会場を出ていった。

それに続き、出席者も続々と退席していった。もはやナナとくみ子を擁護する人は誰一人いなかった。

それから半年ほど経った今、俺はくみ子に結婚式の前に離婚を切り出され、すでに離婚届は提出済みだ。戸籍上の関係もなくなった今、俺は一切二人と会っていない。

結婚式の件で、ナナは「くみ子が不倫したせいで結婚がなくなった」と怒りをくみ子に向けたため、くみ子とナナも今や連絡を取っていないようだ。

俺は初めは家族を完全に失ったことに寂しさを感じたが、今はもう吹っ切れている。もう3LDKの広さを持て余してはいない。

今後は俺だけのために生きるんだ。

リビングの四人掛けソファーに背を向け、広い天井を眺めながら、俺はそう決意した。

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