私は39歳、家族を養うサラリーマンです。ある日、32歳の上司が突然、私にこう言いました。「お前、中卒だそうじゃないか。中卒は本社にはいらないよ。明日から店舗に移動だ。」ハーバード卒の彼は、私の学歴を嘲笑い、母子家庭で育ったことまで侮辱しました。必死で掴んだ大型契約が翌日に迫る中、私はその場を辞表で去る決意をしました。上司の暴挙を止めようとした仲間たちの手で、ある証拠が残されていたのです。翌日…

私は39歳、家族を養うサラリーマンです。ある日、32歳の上司が突然、私にこう言いました。「お前、中卒だそうじゃないか。中卒は本社にはいらないよ。明日から店舗に移動だ。」ハーバード卒の彼は、私の学歴を嘲笑い、母子家庭で育ったことまで侮辱しました。必死で掴んだ大型契約が翌日に迫る中、私はその場を辞表で去る決意をしました。上司の暴挙を止めようとした仲間たちの手で、ある証拠が残されていたのです。翌日...

平田が突然、俺のところに来て、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら言った。

「おい、鈴木。聞いたぞ。お前、中卒だそうじゃないか。」

俺は一瞬、何を言われているのか理解できなかった。確かに俺は中卒だ。しかし、それが何だというのだろうか。

「さっき、お前と前の部署で一緒だったやつから聞いたぜ。なんでここにいるわけ? 中卒は本社にはいらないよ。明日からどこの店舗に移動だ。早く荷物まとめろ。いつまでも低学歴の人間にいられちゃ邪魔だからな。」

俺の名前は鈴木正。39歳のサラリーマンだ。幼い頃に両親が離婚し、母子家庭で育った。貧しい環境だったこともあり、中学を卒業すると同時に働き始めた。母は高校進学を勧めてくれたが、家族に迷惑をかけてまで進学する理由はなかった。そんな母も10年前に病気で亡くなり、以来、俺は一人で生きてきた。

5年前に結婚し、今は妻と息子と暮らしている。この秋には、家族がもう一人増える予定だ。妻のお腹の中に、新しい命が宿っているのだ。

俺が働いているのは、大手コンビニエンスストア「レインボーストア」の本社だ。営業課の係長として、主に商談を担当している。今、俺が取り組んでいるのは「サイエンステクノロジー」との契約締結だ。セルフレジなどの機械を製造販売する、日本有数の会社である。この契約が成立すれば、うちの会社にとってかなりの利益になることは間違いない。

しかし、相手は日本最大手の会社だ。一筋縄ではいかないだろう。この商談を持ってくるまでに、どれほどの努力を重ねたことか。よくここまでやってきたと思う。ここで気を抜くわけにはいかない。俺は念入りに準備を進めていた。

もちろん、準備をしているのは俺だけではない。営業課の仲間たちも何かと手伝ってくれている。みんな明るくていい人ばかりだ。誰かが困っていれば、すぐに手を貸そうとしてくれる。そんな素晴らしい精神は、うちの会社の社長、坂口さん由来のものかもしれない。

坂口さんは、相手の立場に関わらず、誰にでも常に紳士的に接することで知られている。部下に対しても、きちんとした敬語を使うのだ。大企業の社長ともなれば、ふんぞり返ってしまいそうなものだが、坂口さんにとってはそれが当たり前らしい。俺も何度かお話しさせてもらったが、本当に他人を思いやる心でいっぱいの人だった。俺は密かに坂口さんのことを目標にしている。彼のような経営者になることを夢見て、起業のための貯金もすでにかなり貯めている。しかし、安定した会社員生活を長年続けてきたこともあって、なかなか踏ん切りがつかないでいる。

そんな営業課に、一人だけ浮いた存在がいる。それが平田だ。この春、32歳という若さで営業課長に抜擢された男だ。俺よりも7歳も年下だ。平田はハーバード大学を卒業したという華麗な経歴を持つ。ただ経歴がエリートなだけなら、別に気にすることはない。しかし、平田という男は、自分のキャリアをとんでもなく鼻にかけているのだ。

平田は元々、うちの会社のロサンゼルス支社にいたらしいが、どういうわけか本社の営業課にやってきた。噂では、ロサンゼルス支社にいた頃、上司と大喧嘩して本社に飛ばされたとも聞く。真偽のほどは定かではないが、平田ならば十分ありえそうな話だ。

平田は自分自身を「仕事ができるエリートサラリーマン」だと思い込んでいる。この勘違いが、さらに奴の立場を悪くさせている。実際はまるで正反対で、平田は他人を敬うことを知らないため、取引相手の怒りを買うこともしばしばだ。その度に、俺たち部下が奴の尻拭いをさせられているのだ。

そんな上司のもとで、サイエンステクノロジーとの商談を翌日に控えたある日。俺は前日だというのに、なんだか緊張してしまい、仕事も手につかないような状態になっていた。浮き足立った状態では、うまくいく話も不成立に終わってしまう。俺は精神を落ち着けるために、目を閉じて深呼吸をしていた。

すると、平田が俺の近くにやってきた。できれば大事な時期に、こんな理不尽な人間とは口を聞きたくないものだ。しかし、上司を無視するなんて社会人としてありえない。俺は平田に用件を尋ねた。すると、平田は最初の言葉のように、俺を中卒だと侮辱し、明日から店舗へ移動だと言い放ったのだ。

平田の極めて一方的な通告を、俺は最初、全く理解することができなかった。そもそも、こんな風に移動を告げることなんて、本来ならばありえないはずだ。ましてやここは、大手企業の本社である。俺は平田に反論した。

「そんなことをいきなりおっしゃっても、もしも俺を移動させたいのならば、然るべき理由と共に、適切な手続きを取っていただかないと。」

しかし、平田は言い放った。

「だから言ってるじゃないか。中卒は本社にいらないの。考えてもみろよ。お前みたいな低学歴の人間が、レインボーストアの営業課の係長だなんて、おかしいだろ。」

とんでもない話だ。平田はどうやら、何もかもが学歴で決まると思っている学歴至上主義者らしい。今までもそんな嫌いはあったが、案の定だった。そもそも、そんなことを言うならば、平田のような仕事のできない男が課長を務めていることの方が、よっぽどおかしいではないか。俺は思わずそう反論しようとしたが、なんとかこらえて言葉を飲み込んだ。こんなことを言おうものなら、平田はさらに俺を侮辱してくるに違いないからだ。

しかし、平田は俺が反撃してこないのをいいことに、どんどん好き勝手な言葉を並べ立て始めた。

「お前、母子家庭育ちなんだって。母子家庭って本当にあったんだな。俺は両親からちゃんと愛情を受けて育ったから、そういうの知らなくってさ。」

冗談ではない。俺だって母の愛情を一心に受けて育ったのだ。そもそも、母子家庭イコール不幸という式は成り立たない。こいつはそんなことも知らないのか。俺は怒りを通り越して、呆れてしまった。

平田が知っていることといえば、ただ一つ。他人を罵倒する言葉のみである。その点にかけてのみ、こいつはプロフェッショナルと呼べるのかもしれない。平田は引き続き、馬鹿にするような笑い声をあげていた。

周りの仲間たちは、平田があまりにひどい暴言を吐くのを聞いて、奴を止めようとしてくれた。やっぱり、信用できる仲間たちだ。しかし、平田は言った。

「なんだよ。お前ら、ハーバード大卒のこの俺に逆らおうっていうのか。言っておくけどな。この営業課で一番学歴がいいのは俺だぜ。そのことを忘れるんじゃない。」

もはや、この男には何を言っても無駄なようだ。まさに、糠に釘状態である。仲間たちは平田の言葉を聞いて諦めてしまったらしく、申し訳なさそうに俺を見つめるばかりだった。でも、俺はその気持ちだけでも嬉しかった。

「それにしても、この男はどういうつもりなのだろうか。」

俺は平田に尋ねた。

「もしも私が地方の店舗へ移動するとして、私が今日まで担当していた商談はどうするのですか? 課長。そのことをどうお考えですか?」

平田は鼻で笑った。

「ふん。お前程度の低学歴者が取ってこれる契約なんて、高が知れているだろう。そんなもの、代わりの担当者なんて五万といるんだから、お前は気にすることないんだよ。」

契約というものは、一朝一夕で獲得できる代物ではない。事前の準備、そして商談での交渉を何度も繰り返した末に、ようやく合意まで達することができるのだ。もちろん、双方が納得いかない場合は、契約を見送ることだってある。そんな大事なことを、平田は随分と軽論じているらしい。俺は営業の人間として、奴の考え方がどうしても許せなかった。

こんな理不尽な奴が上の立場に座っていては、今後のレインボーストアは危ないかもしれない。今まで社長をはじめとする全社員たちが頑張ってここまで築いてきたものを、平田が壊してしまう性質のようだ。なんとしてでも、それだけは阻止せねば。しかし、ただの平社員である俺にできることなんて、はっきり言ってないに等しい。俺はそのことに気づいて、思わず俯いてしまった。

平田はそんな様子を見て、自分の言葉で俺が深く傷ついたと勘違いしたらしい。大声で笑いながら言った。

「面白いなあ。その辛そうな顔。最高だよ。まさに中卒って感じだ。そうだ。スマホで写真撮らせてよ。後で他の奴らにも見せて回るから。」

そう言って、平田はスマホを取り出した。そして、あろうことか俺の顔を撮影しようとした。俺は、そのあまりに卑劣かつ侮辱的な言動に、声を荒げた。

「やめてください。」

平田は興を削がれたのか、文句を言った。

「なんだよ。つまんねえやつだな。」

とうとう堪忍袋の緒が切れた俺は、平田に対して忽然とした態度で言った。

「それならば、じゃあ、首でお願いします。」

平田はそんな俺の言葉に面食らったらしく、間抜けな声をあげた。俺は必要なものだけをまとめて、それを持って足早にオフィスから出ていく。オフィスの出入り口のドアノブに手をかけたその時、平田は言い放った。

「ま、好きにしろよ。」

俺は平田の言葉に振り向くことなく、オフィスを後にした。

翌日。本来ならば、今日はサイエンステクノロジーとの商談の日である。しかし、俺は自宅でぼんやりとしていた。テレビでお昼のワイドショーをなんとなく見ていると、スマホから着信音が鳴った。俺は電話に出て要件を伺った後、ある場所へと向かった。その場所とは、昨日まで毎日通っていたレインボーストアの本社である。しかし、足を運ぶ先はいつもの営業課ではない。俺は社長室のドアをノックした。返事を待って中に入ると、そこには坂口さんが重厚な机の前に腰かけている。そして、その向かいに立っているのは平田だ。

坂口さんが言った。

「よし、これで揃いましたね。」

そして、坂口さんは平田をじっと見た。

「昨日の件ですが、昨日、君がこの鈴木君に暴言を吐いたという報告が上がっているんですが。」

平田は坂口さんの言葉を遮って、否定した。

「とんでもない滅相もございません。この私がそんなことをするわけがないではないですか。」

一体、どの口が言っているのだろうか。俺は平田が平気で嘘をつく姿に、思わず吐き気を催した。坂口さんはそんな平田に対し、USBメモリを提示した。

「しかし、ここに君が暴言を吐いている音声データがあるんですがね。」

平田はその途端、わなわなと震え始めた。どうやら、昨日、営業の仲間があの騒動の最中にこっそりと録音してくれていたらしい。やはり、持つべきものは仲間である。俺は少しだけ報われたような気持ちになった。

明らかに動揺している平田を前に、坂口さんはさらに言葉を続けた。

「この件の処分については後ほど検討するとして、平田君。今日が何の日か知っていますか?」

平田はさっぱり分からないらしく、首を捻りながら、見当違いな答えを坂口さんに投げつけた。

「えっと、温泉の日とかですか? それとも、ボウリングの日ですかね?」

そんな珍妙な返答にも、坂口さんは表情をぴくりとも変えずに言った。

「今日は、あのサイエンステクノロジーとの商談を予定していた日ですよ。」

平田はそれが何かと首をかしげた。さすがの坂口さんも、この平田の様子に呆れ返ったらしい。坂口さんは大きなため息をついた。

「君が鈴木君を首にしてしまったせいで、彼が担当していたサイエンステクノロジーとの商談は破談になってしまったんですよ。君、この責任を一体どう取るつもりですか?」

平田は言った。

「そんなの、別の担当者にやらせればいいだけじゃないですか? 営業には、こいつよりもっと学歴が上の人間がたくさんいるんですから。」

すると、あのいつも温厚な坂口さんが、ついに声を荒げた。

「何を言っているんですか!」

その声はかなり迫力のあるもので、平田のみならず、俺まで思わずビクッと反応してしまったほどである。坂口さんは言った。

「サイエンステクノロジーとの契約で、うちは20億円もの利益を見込んでいたんですよ。営業課長の君なら、そのことはもちろんご存知ですよね。」

平田は目を見開いて叫んだ。

「20億円!?」

その顔はまさに顔面蒼白といった具合で、血の気がほとんど見られないほどだ。どうやら奴は、まるでそのことを知らなかったようである。本当にこの男は、課長として全く機能していない。

坂口さんは平田を睨んだ。

「今後、これほどまでに高額の利益を得られる機会は早々ないでしょう。それを、平田君がぶち壊してしまったのです。」

平田は慌てふためきながら言い訳を始めた。

「でも、俺はただこいつに地方の店舗への移動を命じただけで、首にしたわけじゃ… 。」

坂口さんは再びUSBメモリを見せながら、その言い訳を断ち切った。

「この音声データを聞いた限りでは、平田君に非があることは火を見るより明らかです。」

平田はどうにかこの状況を打開しようと、様々な保身の言葉を投げかけた。しかし、そのどれもが坂口さんの心に届くことはなかった。坂口さんは静かに言った。

「ロサンゼルス支社で問題を起こした君を更生させようと、あえて営業課の課長に就任させた私の判断ミスでした。」

そして、坂口さんは立ち上がり、俺に向かって頭を下げた。

「鈴木君、この度は辛い思いをさせて本当に申し訳ない。トップに立つ者として謝罪させてください。」

俺はすっかり恐縮してしまった。顔を上げた坂口さんは、再度平田をじっと見つめた。

「ところで、昨日の騒動の音声を聞いたところ、君はしきりに低学歴の人間を馬鹿にしているようですが。」

平田は、こんな状況にも関わらず、妙にハキハキと言い切った。

「はい。だって、学歴のない人間なんて生きてる価値がありませんから。当然のことですよ。」

ここまで来ると、なんだか哀れにさえ思えてくる。平田の言葉を聞いた坂口さんは、静かに尋ねた。

「そうですか。ところで、私自身も最終学歴は中学卒業であることを、君はご存知ですか?」

そう。坂口さんも俺と同じく、中卒からここまでのし上がってきた人なのである。俺はそんな教養の一致もあって、坂口さんのことをある種の親近感を抱きながら尊敬しているのだ。平田は坂口さんの学歴についても、やはり知らなかったらしい。平田は大声をあげた。何とも耳障りな声である。坂口さんも俺と同じように感じているらしく、平田に苦言を呈した。

「そんな大声を張り上げなくても、ちゃんと聞こえていますから。」

平田は落ち着きなく社長室をぐるぐると歩き始め、何事かブツブツと呟いている。

「そんなバカな、そんなことあるわけない。」

どうやら社長の学歴を知って、精神的に少しおかしくなってしまったらしい。人間というものは、自分が信じているものが崩れてしまうと、あっという間にその人自身も壊れてしまうほど弱いものである。特に平田のように、強い信念というよりは偏見を持っている人間ならば、なおさらだ。

坂口さんが咳払いをした。それを合図にしたかのように、平田はようやく足を止めた。そして、坂口さんは改めて告げた。

「今回のことは、こちらとしても黙って見逃すわけにはいきません。平田君には、それ相応の処分が下るでしょう。覚悟しておいてください。」

平田はその言葉を受けて、しばらく黙っていた。しかし、とうとう耐えられなくなったらしい。平田は「うわあ」と叫び声をあげて、社長室の壁を拳で殴りつけ始めた。全くとんでもない行動に出る男だ。俺は平田を止めようとしたが、それを坂口さんが制した。

「鈴木君が怪我をしては元も子もない。まあ、彼には好きなようにさせておきましょう。」

俺はその言葉に頷いた。平田は力を込めて壁を殴り続けている。とても知能のある生物とは思えない。そして、平田はその拳で社長室の壁に大きな穴を開けてしまった。途端に、その音を聞きつけた警備員たちが部屋の中へとやってくる。暴れながら叫び続ける平田は、警備員たちに制圧されてしまった。そして、坂口さんの指示のもと、どこかへと連れて行かれた。

坂口さんは俺に提案してくれた。

「ところで、鈴木君を解雇するという昨日の話は、なかったことにさせていただけませんか? 君がこの会社を本当にやめたいのならば、もちろん止めませんが。」

とても嬉しかったが、俺は首を横に振った。

「ありがとうございます。しかし、申し訳ありませんが、その申し出は辞退させていただきます。俺には夢があるんです。あなたのような社長になるという夢が。」

坂口さんはそんな俺の言葉を聞いて、にっこりと笑った。

「そうですか。わかりました。今までどうもありがとう。」

そう言って、深く頷いてくれた。

その後、平田には即刻解雇処分が言い渡されたらしい。平田は職を転々とすることになった。しかし、その他人を馬鹿にする態度が多くの人間の怒りを買ったことは言うまでもない。たとえ採用まで漕ぎつけても、またすぐに解雇されてしまう繰り返しのようだった。そんな状況に嫌気が差した平田は、SNSでとても条件のいいバイトを見つけ、その仕事をすることにした。しかし、それは特殊詐欺絡みの闇バイトに他ならなかった。そのことに気づけなかった平田は、とうとう警察に捕まってしまった。平田は相変わらずで、捕まった時も警察官に学歴を聞いては馬鹿にしていた。しかし、そんな態度のせいで、平田はかなり厳しい取り調べを受けているようだ。

一方、俺はといえば、ついに念願の起業を果たした。これまでの経験を生かした営業代行サービスを行う会社である。そして、嬉しいことはもう一つある。妻が無事に出産し、俺に娘が誕生したのだ。小さな生まれたばかりの妹を慈しむ息子の姿は、何とも微笑ましい限りである。

俺はこれからも、家族のために、そしていつか尊敬する坂口さんに肩を並べられるように、頑張って働いていきたいと思う。

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