「千早さん、あんたヤクザの組長である私のこと舐めてるの?これでも食らいなさい」—…

「千早さん、あんたヤクザの組長である私のこと舐めてるの?これでも食らいなさい」—...

「千早さん、あんたヤクザの組長である私のこと舐めてるの?いい度胸じゃない。これでも食らいなさい」

そう言うと、ひろ子さんは私の頭を日本酒の瓶で殴りつけてきた。瓶は割れ、私の服は酒でびしょびしょに濡れてしまった。

その日、私は家族で高級寿司店に食事をしていた。まだ生魚が食べられない娘が稲荷寿司を食べていたところ、偶然同じ店に来ていたママ友のひろ子さんが「貧乏臭い」と難癖をつけてきたのだ。

私は「寿司屋だから好きなものを頼んでいいだろう」と告げ、その後も難癖をつけてくるひろ子さんに構わず食事を続ける。だがひろ子さんはそんな私たち家族の態度が気に入らなかったのだろう。自分はヤクザだと言って私たち家族を脅しつけると、いきなり瓶で殴ってきたのだ。

濡れてすっかり酒臭くなった私は、呆れと怒りの入り混じった感情でひろ子さんを見る。得意になって笑うひろ子さんは、この直後一気に地獄へ落ちることになる。

私の名前は小倉千早。普段は小倉組というヤクザで若頭をしている。私には6歳になる娘の理沙がいて、私も夫も娘の理沙を何よりも可愛がっていた。そしてその日、私たちは家族で高級寿司店に行くことになる。

娘はすでに何度も高級寿司店に行っており、店の雰囲気には慣れている。店にいても騒ぐような恥ずかしい振る舞いをすることはない。ただまだ生魚が苦手なようで、店に行っても稲荷寿司ばかりを注文していた。店の大将もそれを知り、いつも娘には稲荷寿司を出してくれている。私たち家族は大将の心配りも気に入り、その店の常連になっていた。

だがその日、私たち家族は偶然にもママ友であるひろ子さんと会ってしまったのだ。

「あら、偶然じゃない。千早さんもこの店で食事?千早さんって結構お金持ちなのね。とてもこんな高級店に来られるような人には見えなかったけど」

ひろ子さんは私を見るなりそう言って笑う。

ひろ子さんの子供は理沙と同じ小学校に通っているのだが、かなり癖の強いママとして有名だった。些細なことで小学校の教師や他のママさんたちに激しい罵倒をするようなところがあり、周囲のママたちから距離を取られているのだという。その上、気に入らないことがあると自分はヤクザなのだと言い、他のママたちを脅して自分の言い分を押し通したり厄介事を押し付けてくるそうだ。

その日のひろ子さんは、まるでヤクザであることを誇示するかのように金ピカに光るゴツいアクセサリーをジャラジャラと身につけ、いかにもブランド物のスーツといった服を着ていた。一方、私たち家族はどう見ても一般人にしか見えないような、それでいて高級寿司店に行くのに下品ではない服装だった。

「なによ、貧乏臭い。このお店は一般人が気楽に来れる場所じゃないのよ。素直に回転寿司みたいな庶民のお店に行きなさいよ」

ひろ子さんは私たち家族を明らかに馬鹿にする。私たちはひろ子さんとその家族に関わらないよう、離れた席で食事をすることにした。

娘はその日も大好きな稲荷寿司を頼んでいた。するとそれに気づいたひろ子さんは、「それ見たことか」と鬼の首を取ったような顔をした。

「ほら、私の言った通りじゃない。千早さんの娘さん、さっきから稲荷寿司しか食べてないわ。いつも回転寿司にしか行ってないから、貧乏が体に染みついてるのよ。だからこんなところに来ても安いネタしか食べられないのね。せっかく高級店に来てるのに、貧乏さったらありゃしないわ。せっかくいい店に来たのなら、もっと高いネタを頼むのが礼儀ってものじゃないの」

ひろ子さんはそんな娘をあざ笑う。私はいいが、娘にまで難癖をつけられてはたまらない。

「娘は稲荷寿司が大好きなの。ただ好きなものを食べているだけだから、そんなこと言わないでくれる?」

「それって高級なネタの味が分かってないってことでしょ。やっぱり貧乏自覚ってことじゃない。普段の生活がみみっちいから、みみっちさが高級店でも出ちゃうのね」

私はひろ子さんにそう告げたのだが、ひろ子さんはすっかり私たち家族を貧乏人と決めつけ、その後もしつこく私たち家族に絡み続けた。

「あら、またあの子稲荷寿司を食べてるわよ。こんな高級店に来てまで稲荷寿司を食べるなんて、普段の生活でも安いものしか食べてないのね。それに稲荷寿司だけ食べたいなら回転寿司に行くなり、スーパーの稲荷寿司を買った方がよっぽどいいんじゃないの。見てるこっちまで貧乏臭い気持ちになってくるわよね」

私たち家族は無視をして食事を続けていたが、娘は自分の悪口を言われているのに気づいたのか、すっかり箸が止まってしまった。

「ママ、私、稲荷寿司食べない方がいいのかな?」

「何言ってるの、理沙?ここは好きなネタを握ってくれるお店なんだから、理沙の好きなもの注文していいのよ」

するとひろ子さんはこちらを試すように口を挟んでくる。

「何言ってるの?高級店ではちゃんといいネタを食べないと大将に失礼ってものだわ。それに娘が貧乏らしい食事をしていると、ご両親も恥ずかしい思いをするでしょう。ほら、千早さんだって今随分と惨めで恥ずかしい気持ちでしょ」

「もう、ひろ子さん、いい加減にして。私は娘に好きなものを食べて欲しいと思ってこの店に来たのよ。それにわざわざ我が家の食べ方に文句をつけなくてもいいでしょ。お互い家族での食事を楽しみましょうよ」

私がそう告げると、ひろ子さんは鋭い視線で私を睨みつけた。

「あら、千早さん、私に口応えするつもり?私が一体どれだけすごいのか、あなたはまだ知らないみたいね」

「何を言っているの?私たちは同じ小学校に子供を通わせているママ同士で、そこに上下なんてないと思うけど」

「そんなことないわ。金と力がある家が上。これが世間の常識なんだからね。私はね、大海組で組長をしているの。この私に意見を言うなら、大海組に逆らうのと同じことだと思いなさい」

ひろ子さんがヤクザだと名乗ったことは、正直あまり驚かなかった。以前からママたちの間でもヤクザを名乗っていると噂で聞いていたし、今日もまるでヤクザのような格好をしていたからだ。だが一般のお客さんが多いこの店でヤクザを名乗ったことには驚いた。一般の人はヤクザに対してあまりいい感情を抱いていないと思っていたからだ。

案の定、周囲の人たちはひろ子さんがヤクザを名乗ったことに明らかに引いている。

「ひろ子さんがヤクザなのは分かったわ。でもそういうことは、こういう場所ではあまり言うものじゃないわよ。ほら、他のお客さんたちが驚いているでしょ。それに最近警察だって厳しいんだから、あまり人前でヤクザを名乗って脅かすような真似はしない方がいいと思うわ」

「何よ、千早さん。片親の分際で全然ヤクザにビビってないじゃないの。可愛げないわね」

私もヤクザだが、普段は他のママたちと同じような生活をするよう心がけている。今日も他のお客さんと同じような服で来ていたから、ひろ子さんは私もヤクザだとは思っていないようだった。

「とにかく、これ以上私たち家族に難癖をつけてくるのはやめてもらえる?私たちだけじゃなく、他のお客さんにも迷惑になるから」

私はひろ子さんにそう告げ、家族で寿司を楽しむことにした。それでもひろ子さんは「やれ貧乏人だの」「店のランクが分かってないだの」と散々難癖をつけてきた。だが私たち家族が全く相手にしなくなったので、次第に苛立ちを募らせていく。

とうとう我慢の限界に達したのか、ひろ子さんはいきなり立ち上がると、近くに置かれていた日本酒の瓶を手に取った。

「千早さん、あんた何様のつもり?ヤクザである私を無視するなんていい度胸じゃないの?どうやら少し痛い目を見ないと、ヤクザの恐ろしさが分からないようね。これでも食らいなさい」

そして私の頭めがけて日本酒の瓶を振り下ろしてきた。私はとっさにガードをしたので、幸いにも瓶が直撃することはなく、大きな怪我もしなかったが、テーブルにぶつかった瓶は派手に割れてしまい、私の服はこぼれた日本酒でびっしりと濡れてしまった。

それまで静かに見ていた夫は堪忍袋の緒が切れたようで、ゆっくり立ち上がると怒りを込めた目でひろ子さんを睨みつけた。

「いい加減にしろ。お前、大海組の組長とか言ったな。今からお前の組を潰してやるから覚悟しろ」

そう言ってスマホを手に取り、部下へと電話をかけ始めた。一方のひろ子さんは手を叩きながらゲラゲラと笑っていた。

「ちょっと、私の組を潰すってどういうことよ。大海組を潰そうっていうの。あなた、一般人だから知らないと思うけど、大海組って結構大きいヤクザなのよ。それを片親のあなたがどうやって潰そうって言うのよ。やれるもんならやってみなさいって言うのよ」

ひろ子さんは夫に嘲笑を浮かべながら何度もそう言い、絡み続ける。だがそれから30分後、ボロボロになった男が店へ転がり込んできた。

「あなた、若頭の白石じゃない。一体どうしたの?」

どうやら入ってきたのは大海組の若頭のようだ。全身が傷だらけでスーツもボロボロの男を見て、ひろ子さんは随分驚いているようだった。

「何よ、ひどい怪我じゃない。その怪我は一体どうしたの?一体何があったのよ」

「そ、それが組長。俺たちがいつものように事務所にいたら、突然ヤクザが襲撃してきて事務所をボロボロにしていったんです。部下も大勢やられて、何人も病院に運ばれていきました。俺はせめて組長に知らせなければと思い、急いでここに」

「一体どこの組の連中がそんな真似を。あいつら名乗ってなかったの?」

「実は相手はどうやら小倉組の連中みたいなんですよ」

「小倉組ですって?そんな大きな組の連中が、どうしていきなりうちの組を襲撃したりするのよ。大体なんでそんなにボコボコにされているの?うちの事務所にも精鋭が集まっていたはずじゃない」

「相手がそれだけ強かったんですよ。俺たちも必死に立ち向かいましたが、とても歯が立ちませんでした」

驚くひろ子さんを前に、夫はゆっくり立ち上がると高笑いをした。

「どうだ?宣言通りお前の組をぶっ潰してやったぜ」

「ど、どういうこと?あんた片親じゃなかったの?まさかあなた?私と同業者?」

「なんだ?俺の顔も知らねえとは。大海組の組長はとんだ脳なしのようだな。俺は小倉組長、小倉吉秀だ。ちなみに嫁はうちの若頭だよ」

「そんな…千早さんの旦那があの小倉組の組長ですって」

「おい、ここで暢気に飯を食ってる場合じゃねえだろ。事務所を見に行かなくてもいいのか?最も、今更言ってももう遅いだろう。もうお前の事務所は廃墟同然にボロボロになっている頃だろうけどな」

夫の言葉を聞いて、ひろ子さんは真っ青になって店を出ていった。

「さっき電話してた相手は部下だったのね」

「ああ、そうだ。その部下から連絡があった。事務所にいた構成員は徹底的に痛めつけてやったし、事務所もめちゃくちゃにしたそうだ。組を立て直すにも相当時間がかかるだろうな。二度と俺たちに逆らうことはねえさ」

夫はそう言ったが、私はなんとなく嫌な予感がしていた。そしてその予感は的中することになる。

翌日、いつものように小倉組の事務所にいる私の元に一本の電話がかかってきた。

「お前が小倉組の若頭、小倉千早か」

知らない男は声を潜め、まるで周囲の様子を伺うように話す。明らかに怪しい電話だったので、私はすぐにスピーカーモードをオンにしてフロアに会話の内容が伝わるようにした。男は組長の夫や他の組員たちが聞いているのも知らずに話を続ける。

「お前の娘は俺たちが預かっている。返して欲しければ、現金2億を持って指定の場所まで来い。いいか?必ずお前1人で来るんだ。さもなくば娘の命はないと思え」

「待って。娘を誘拐したって本当なの?それにあなたは一体何者?どうしてこんなことをするの?」

「1つ目の質問は、今から証拠を送る。2つ目の質問は、俺たちに会えばすぐ分かることだ。3つ目の質問は、お前たちが邪魔だと思う連中なんていくらでもいるということだな」

直後、スマホに映像が送られてくる。そこには縛られてぐったりした様子で、冷たそうな床に転がされている理沙の姿があった。ひどくボロボロな廃屋で、映像だけでは場所が分からない。

「理沙、一体どうしてこんなことをするの?あの子はまだ子供なのよ」

「それに答えるつもりはない。娘を無事に返して欲しければ、今から1時間後、2億を持って山奥の潰れたキャンプ場へ来い。その中にある廃屋の三階で取引をする。いいか?必ず1人で来るんだ。もし部下を連れて大勢で来たのなら、娘の命はないと思え」

相手はそう告げると一方的に電話を切る。

「大変。あなた、今から1時間後にキャンプ場へ行くとしたら、すぐに出ないと間に合わないわ」

「2億、すぐに準備できる?」

「金庫を開ければそれくらいは準備できるが…1人で行くつもりなのか?いくら何でも危険すぎる」

「でも1人で行かないと、理沙の命が危ないのよ。相手が誰だか分からないけれど、子供に手を出すようなやつだもの。何をするか分かったものじゃないわ」

「それなら俺もついていく。大勢の部下を連れて行けば相手にも悟られるだろうが、俺1人なら気づかれないはずだ。それに俺だって理沙の親なんだ。こんな時にじっとしていられるかよ」

私たちは互いに頷くと、アタッシュケースに2億を準備して指定された場所まで駆けつける。到着し、きっちり1時間が経った後、私たちは指定された廃屋へと向かった。廃屋は思ったより雑然としており、夫は置き去りの荷物の影に隠れて潜む。

すると廃屋の奥から何者かが声をかけてきた。

「時間通りじゃない。それに本当に1人で来たようね」

「ひろ子さん、あなたが…一体どうして」

「決まっているでしょう。あなたの旦那に私の組はボロボロにされたのよ。ほとんどの構成員は大怪我をして壊滅状態。しばらくとても活動できそうにないわ。でも私はやられたらやり返す主義なの。だけど小倉組みたいな大きい組と正面から戦ったら勝てるはずもないでしょ。だからあんたの娘を誘拐したってわけ」

ひろ子さんの後ろには理沙がぐったりと俯き、椅子に縛られている。意識がないのか身動きしない理沙を見て、私は悲鳴をあげそうになった。

「理沙、大丈夫?ひろ子さん、理沙は無事なの?」

「心配しなくても大丈夫よ。今は薬を飲んで眠っているだけだから」

「薬?理沙はまだ子供なのに、薬なんて使ったの?そんなことして何かあったらどうするつもり?」

「千早さんだって人の親でしょ。そんなことしたら危険だってことくらい分かっているわよね。だって仕方ないじゃない。あんたの娘がギャーギャー騒ぐんだから。それより、ちゃんとお金は持ってきたのよね」

気づいたら私はひろ子さんの部下に取り囲まれていた。襲撃を受けず無事だった構成員を集めて、私を待っていたのだろう。私に電話をかけてきたのも部下の1人に違いない。夫は理沙を救出する隙を狙っていたが、ひろ子さんが理沙にぴったりくっついていて離れないため、なかなか隙がないようだ。

「さあ、こっちに来て2億渡しなさい」

私は言われた通りひろ子さんの前に行き、置いてある机にアタッシュケースを置く。

「はい。約束通り2億よ。これでいいんでしょう?娘を返してくれる?」

「いちいち私に指示しないで。それに、この程度で済むわけないでしょ。あなたの旦那には私の可愛い部下たちが散々お世話になったんですもの。あなたにも責任取ってもらわなくちゃね」

「責任?私に何をしろって言うの?」

「そうね。まず謝罪しなさい。『私に逆らってすいませんでした。二度と小倉組は私たちに手出しをいたしません』って、そうやって謝るの、いいわね」

ひろ子さんに言われ、私はその場に膝をつくと土下座をし、言われた通り謝罪する。すると近くにいたひろ子さんの部下が私の頭を踏みつけた。

「いい気味ね。それじゃ次は少しばかり痛めつけてあげるわ。うちの構成員たちはほとんどが大怪我で入院したんだもの。あなたにだって責任があるものね」

続いてひろ子さんは部下に命令し、四方八方から私を殴りつける。私はうずくまり必死に殴られるのを耐えたが、体中がボロボロになっていた。

「あはは。いい気分だわ。でもそれくらいにしておきましょう。今あなたに死なれたら、金が手に入らないもの。そのアタッシュケース、番号の鍵つきよね。開けてくれない」

私は言われるがままアタッシュケースの鍵を開ける。中にはひろ子さんたちが指定した通り2億の束がぎっしりと詰め込まれていた。

「本当に2億持ってきたみたいね。さすが小倉組ほど大きな組になると、このくらいの金すぐに準備できるのね」

ひろ子さんは目を輝かせ、アタッシュケースを覗き込む。そして他の構成員たちと2億があるか確認するため、金を数え始めた。

その時、ようやくひろ子さんが理沙から離れる。それに気づいた夫はすぐさま理沙に近づき縄を解くと、ぐったりする理沙を抱き上げ走り出した。

私は夫が理沙を連れ出したのを確認すると、目の前の2億にすっかり気を取られたひろ子さんを殴りつけた。

「何するの?娘の命が惜しくないの?」

「娘ならもう返してもらったわよ。たった今、私の夫が助け出してくれたの」

「ここに小倉組の組長も来ていたの?」

「そうよ。私の娘に手を出したこと、後悔させてあげるわね」

私はそのままひろ子さんを思いっきり殴りつける。ひろ子さんを守ろうと他の部下たちも襲いかかってきたが、娘を安全な場所へ連れ戻してきた夫がすぐに加勢してくれた。

「もう理沙は無事だ。部下にも連絡した。すぐこの廃屋に来るだろう。こいつらを全員片付けるぞ」

私は夫と共に迫りくる部下たちを片っ端から投げ倒す。ほどなくして小倉組の構成員たちも廃屋に駆けつけ、周囲に潜んでいたひろ子さんの部下たちを次々と拘束していった。どうやら小倉組の部下たちは私たち夫婦を心配して、すぐ近くまで来てくれていたらしい。

あっという間に全ての部下が拘束され、自分自身もボコボコにされたひろ子さんは、パンパンに腫れ上がった顔で私たちへ土下座をした。

「ごめんなさい。もう許して。二度と小倉組には逆らわないわ」

「今更何を言ってるの?理沙を誘拐した上、妙な薬まで飲ませるような相手を許せるわけがないでしょ」

「そうだ。そもそもどうして理沙や千早を狙ったんだ?」

「そ、それは妻である千早さんと娘を始末すれば小倉組も弱体化するだろうと思ったからよ。千早さんは女だから、人数が減った組でもなんとかなると思ったし。妻と娘を失ってあなたが動揺すれば、小倉組も少しは弱体化すると思ったから」

ひろ子さんの言い分に、私たちはすっかり呆れ果てた。

「とにかく、うちの理沙を誘拐した罰は受けてもらわないとな」

「そ、そんな。何でもするわ。お金なら払う」

「お前みたいな器の小さい組から金なんてもらわなくても、うちは十分やっていけるんだよ。何でもやるって言うなら、その命で償え。なあに、心配するな。せっかくいい景色の山まで来てるんだ。このまま埋めてやるよ」

夫はひろ子さんと部下たちを手頃な場所に連れて行き、その場で穴を掘るように命令する。ひろ子さんたちは何度も謝罪し、泣きながら自分たちが埋められる穴を掘っていた。だが誰一人逃げ出すこともなく穴を掘らせ、見事な穴ができた後、その上から容赦なく土をかけ、みんなで踏み固めていく。

最初は謝罪し、それから泣き喚き、最後は怒って恨み言を吐いていたひろ子さんも、やがて静かになっていった。

私たちは無事にひろ子さんを埋め終えるといつもの生活へ戻る。幸いなことに理沙はすぐに目を覚まし、元気な様子で私たち夫婦に飛びついてきた。ひろ子さんに触られた時の記憶はあまりないようで、すぐに普段通りの理沙に戻ってくれた。

それから数日後、ひろ子さんが消えたことで、他のママ友たちは以前より過ごしやすくなったという声がよく聞かれるようになっていた。ひろ子さんの家族は心配するかと思っていたのだが、実は以前からヤクザの組長であるひろ子さんの横暴に夫も子供も散々振り回されており、今は以前よりのびのび過ごしているという。

そして私たちは、また近いうちに楽しい寿司の食事を邪魔されたリベンジとして、あの高級寿司店に行く予定だ。今からすでに寿司に行くのを楽しみにしている私が、理沙に言う。

「もう遠慮しなくていいから、好きなだけ稲荷寿司が食べられるからね」

そう告げると、理沙は嬉しそうに笑って頷く。私はその笑顔を見て、改めて娘が無事だったことを喜ぶのだった。

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