葬儀の会場の外で、親戚たちがり子を嫌そうに見ながら、大声で話し始めた。
「わざわざ遠くから来てやったのに、挨拶もできないなんて。この子、どうする?」
「施設に入れちゃいましょうよ。」
り子に聞こえようがお構いなしに、そんなことを言う。
両親を一度に失ったばかりだというのに、心配するどころか、あんな話をしている。
り子は黙って涙を流し、その場に立ち尽くしていた。
施設に入ったら、り子はどうなるんだ?
果たしてまともに生きていけるのか?
大親友の忘れ形見を、このままにはできない。
俺はある決意をして、り子に声をかけた。
「り子ちゃん、おじさんのところで暮らさないか?」
優しく声をかけようとしたが、緊張して何か怪しくなってしまった。
顔も引きつり、額からは滝のような汗。
端から見たら不審者そのものに見えたかもしれない。
「え……?」
り子は驚いた様子で顔を上げた。
俺は焦って早口で喋る。
「あ、ごめん、ごめん。いきなりこんなこと言って。でも、り子ちゃんを一人にできない。お父さんって呼ばなくてもいいし、そう思わなくてもいい。ただ、俺を頼ってほしいと思ってる。困ったことがあったら、何でも相談してくれていいよ。俺が支えになるから。ずっと一緒に暮らさなくてもいいんだ。進学とか就職で家を出る目途が立ったら、出て行ったっていい」
り子を施設に行かせたくなくて、必死になって言葉を並べた。
もう自分が何を言ってるのか分からなくなるくらいに。
すると、り子は静かに頷いた。
「……いいの?」
「え、本当にいいの?」
「うん。あの親戚たちのところに行くよりはマシだよ。でも、大学に合格したらすぐに出ていくからね」
り子は、大学に入学したら学生寮で暮らしたいという。
「分かった」
その様子を見て、親戚たちはひそひそ話を始めた。
色々と憶測で何か言っていたが、俺は聞こえないふりをした。
その後、俺は法的な手続きを取り、り子の後見人になって彼女を引き取った。
だが、これで一安心というわけにはいかない。
ある日突然両親を失ったり子の心は、そう簡単には癒えないだろう。
り子の顔から笑顔が消えていた。
当然、俺に対しても心を閉ざしていて、一日のほとんどを自室にこもって過ごしている。
ただ、自分の分の家事は自分でやっているから、気力がないわけじゃないと思うけど、心配だ。
当然ながら、俺とも会話なんてしないから、家の中には重い空気が漂うだけだった。
やっぱり、こんなおっさんに引き取られるなんて嫌だったか。
俺はり子にどう接していいか分からず、途方に暮れていた。
そのまま数日が過ぎた時のことだ。
仕事が終わって家に帰ると、り子がキッチンに立ち、料理をしていた。
危なっかしい手つきで包丁を持ち、野菜を切っている。
俺は思わず駆け寄った。
「何やってるの?」
り子はちらっと俺の方を見て、すぐに手元に視線を戻す。
「今カレー作ってるから、ちょっと待ってて」
「じゃあ、俺も手伝うよ」
俺はまだ切っていない野菜に手を伸ばそうとした。
すると、り子は俺の手を止めた。
「やらなくていい。仕事で疲れてるでしょ。今日は休んで」
ぶっきらぼうに、しかし有無を言わさない雰囲気で言ってきた。
「分かった」
一応は返事をしたが、り子に料理ができるのか内心不安だった。
その不安は的中した。
出来上がったカレーは、不揃いな大きさの野菜に、ルーは薄く水っぽい。
その反対に、ご飯は水が少なくて硬かった。
それでも、り子なりに頑張って作ってくれたんだと、ありがたくいただく。
しかし、り子は自分の作ったカレーを食べながら、無言で眉を潜めている。
俺は慌てて彼女に声をかけた。
「作ってくれてありがとう。おいしいよ」
そう言うと、り子はさらに眉を潜めた。
「無理しなくていいよ。こんなバラバラなカレー、美味しいわけない」
「確かにちょっと不格好なところもあるけど、味は悪くないよ。柔らかさと硬さのバランスがいいと思う」
俺はり子を慰めるために無理にフォローしたが、彼女にはバレバレだったようだ。
「いいよ。無理してお世辞言わなくたって。うまく作れていないのは自分でも分かってるから。私、今までまともに料理なんてしたことなかったんだ」
り子は俯く。
「じゃあ、今度から一緒に料理しようよ。分からないことがあったら、俺が教えるからさ」
り子は黙って頷いた。
翌日から、俺たちは時間があれば二人で料理をするようになった。
最初は最低限の会話だけのぎこちない共同作業だったが、少しずつ会話が生まれるようになる。
「野菜は俺の切り方を真似してみて」
「うん」
俺が料理のやり方を教えると、り子は素直に聞いてくれた。
一週間もすると、野菜の切り方もうまくなってきたから、二人でシーフードカレーを作ることを提案した。
「これ、うまいな」
「実は、シーフードカレーってふ彦の好物だったんだよ。きみかさんと付き合っていた時、よく作ってもらったって言ってたよ」
「そうだったんだ。知らなかった」
「え、知らなかったの? 家でカレーは食べなかったの?」
「食べたけど、普通のカレーだった」
「もしかしたら、私がイカが嫌いだったから作らなかったのかも」
「そうだったのか。なんかごめん。無理にシーフードカレーなんか作らせて」
「うん。でも、このカレーはすごく美味しく感じる。自分で作ったからかな」
り子はそう言って、嬉しそうに笑う。
その笑顔を見て、俺は少しだけ安心をした。
「これがお父さんの大好物だったんだね。作れてよかった」
「うん」
「もしかして、他にもお父さんの好きな食べ物知ってる? 知ってたら、もっと教えてほしい」
「り子ちゃんが良ければ、いつでも」
それから、俺たちは料理をしながら、ふ彦の思い出話をするようになった。
ふ彦の話をすると、り子は自然と笑顔になる。
その笑顔を見ると、俺も嬉しくなった。
り子のメンタルの様子を見ながら、俺は料理だけでなく、掃除のコツや洗濯の仕方、さらにはちょっとした家計の管理も教えた。
「とみさんって、家事上手なんだね。正直言って意外でした。てっきり仕事と趣味のことしかやらないオタクだと思っていたから」
り子は感心していた。
警戒心も溶けてきたようで、顔つきも柔らかくなっている。
このまま順調に行けばいいと思っていた、そんなある日のことだ。
仕事から帰ると、り子がソファーで頭を抱えていた。
「何かあったのか?」
顔を上げたり子は、涙目になっていた。
この日、学校でクラスの子たちが進路の話をしていたところを見て、急に不安になったらしい。
「私、これからどうなっちゃうの?」
両親がする前は、二人のお金で死亡していた大学に行くことになっていた。
だが、両親が亡くなってしまった。
今、大学の進学費用をどうしたらいいかと、急に不安に襲われたようだ。
「大丈夫だよ。ご両親の遺産もあるし、俺もその辺の助力は惜しまない」
「とみさん、頼っちゃっていいの?」
「うん。り子ちゃんのことは俺がちゃんと守るし、何があっても支えるよ」
俺の言葉に、り子は安心した表情を浮かべた。
それから、り子は俺を信頼できる存在として受け入れてくれたようだ。
家にいる時は一緒にご飯を食べて、洗濯や掃除も二人でやるように。
それに、学校のことを話してくれるようになり、かなり心を開いてくれたようだ。
そして、時間ができると一緒にアニメを見ては感想を言い合ったり、休日は二人で買い物や外食に行ったりと、楽しく過ごしていた。
そんな中、取引先の社長からこんなことを言われた。
「藤原君ももう35歳だろ。そろそろ身を固める気はないのかい?」
「はあ。まあ、そうですね」
「実はうちの娘なんだがね。もう28歳になるというのに、いい相手がまだないんだよ。そこで、うちの娘とお見合いしてくれないか?」
「え、俺なんかでいいんですか?」
「藤原君のように仕事もできて誠実な男性なら、任せられると思っているんだ。どうだろう? 一度だけでも、会ってもらえないか?」
「……分かりました」
得意先の提案を断るわけにもいかず、俺は受け入れた。
まあ、悪い話ではないしな。
前々からそろそろ結婚した方がいいとは考えていたから、ちょうどいいかもしれない。
本当は今のり子との暮らしが楽しいけど、来年には大学進学のため俺の家から出ていく予定だ。
いつまでも一緒にいられるわけではない。
楽しい生活の後に一人になるのは、きついもんな。
そう思って引き受けたお見合いだが、なんだか気持ちがモヤモヤする。
俺は家に帰ると、リビングのソファーに座っていると、り子が声をかけてきた。
「暗い顔をして、どうしたの?」
俺は迷ったが、お見合いの話を正直にり子に伝えることにした。
すると、り子の顔が見る見るうちに曇っていく。
「本当にお見合いするの? とみさん、結婚するわけ?」
不安に眉を潜めるり子に、俺は慌てて声をかける。
「だ、大丈夫だよ。お見合いの話がすんだとしても、結婚するのはり子ちゃんが大学に進学した後のことだから。り子ちゃんが相手の人と一緒に暮らすことはないよ」
そう言っても、り子の表情は曇ったままだ。
「とみさんは、結婚したいから、早く私がいなくなればいいって思ってるんでしょう?」
「そんなことないよ。ただ、り子ちゃんは大学に合格したら家を出るって言ってたから、その後にと言っただけだよ。確かに最初はそう思っていたけど……今は違うよ」
彼女はそう言うと、俺に抱きついてきた。
「り子ちゃん、どうしたの?」
今までり子にこんな風に接触されたことはなく、焦ってしまった。
「こうされても、何とも思わない? ドキドキしない?」
顔を上げた彼女の頬は赤く、目は潤んでいる。
こんな経験がない俺は、どうしていいか分からず、戸惑ってしまう。
すると、彼女はぐっと俺に顔を近づけてきた。
「変なことをしないの?」
俺はやんわりとり子を引き離す。
すると、り子はふてくされた顔になった。
「もういい。こうなったら、その気になるまで引き下がらないから」
この日から、り子は俺にぐいぐい接触するようになった。
買い物に行く時も、俺にくっついてくる。
「こうして二人で歩いていると、デートみたいだね」
り子はそう言うと、俺の腕に自分の腕を絡めてきた。
「り子ちゃん」
俺は慌ててり子から離れようとするが、彼女は俺の腕を強く掴んでくる。
「私にこうされるの、嫌なの?」
「そういうわけじゃないけど、人が見ていただろう。さっきからスーパーの客たちの視線を感じていた」
「そんなこと、私は気にしないよ」
「でも、変な関係だと周りに誤解されたら……」
そう言いかけると、一人の少年がり子に近寄ってきた。
「あれ? り子さん、こんなところで会うなんて」
ニヤニヤしながら近づいてくる少年に対して、り子は警戒したような表情をする。
「誰? あの子、クラスメート?」
「最近、席替えで隣の席になったんだけど、しつこく私に話しかけてくるのよね」
り子とはクラスメートのようだが、あまりいい印象ではないようだ。
「お兄さんと買い物に来たの? せっかく会えたんだから、俺と一緒にお茶でもしない?」
そう言って、少年はり子の方へ手を伸ばす。
しかし、り子はとっさに少年を避けて、睨みつけた。
「この人は、私の彼氏よ」
「はえ?」
り子の言葉に、少年は愕然とした表情をする。
俺も驚いて、声をあげてしまった。
「そ、そうなの? 彼氏にしては、年が離れすぎてない?」
「あなたには関係ないでしょう。そんなことより、今はこれ以上私に話しかけないでくれないかな。デートの邪魔なの」
「あ、うん、分かった」
少年はしぶしぶ頷くと、その場を離れていった。
「あんなこと言って、大丈夫なの? いくら断るためとはいえ、クラスメートにあんな嘘ついて」
「うん。いいの。あれくらい言わないと、あの子しつこいから」
「でも、あの子に俺のことを言いふらされでもしたら、明日から学校に行きにくくなるんじゃないの?」
「別にいいよ。とみさんとのことなら、言いふらされても構わない」
り子は俺の腕を強く掴んだ。
その後は何のトラブルもなく買い物を終えて、家に帰った。
翌日、帰宅した俺を待っていたのは、り子の手作りケーキだった。
「とみさん、お誕生日おめでとう」
「そうか。今日は俺の誕生日か。あ、ありがとう。美味しそうなケーキだね」
そう言いながら、俺はり子の向かいの席に座る。
「うん。とみさんのために、頑張って作ったんだよ」
り子はフォークを持つと、ケーキに刺して、俺の口元に運ぶ。
「はい。あーん」
「え、もしかして、り子は、あれをやろうとしているのか?」
よくカップルがやる、あれを。
俺は戸惑ったものの、素直に口を開け、フォークの上のケーキを頬張った。
「ん。すごく美味しいよ」
「よかった。とみさんに喜んでもらえて」
「り子ちゃんのおかげで、楽しい誕生日になったよ」
「そっか……じゃあ、来年もこうやってお祝いしてあげる」
「それでいいの? り子ちゃんは、進学して家を出たいって言ってたでしょ?」
俺の問いに、り子は口を尖らせる。
「私、この家を出たくない。とみさんが良ければ、このままここで暮らしたい。だめかな?」
「ダメじゃないけど、り子ちゃんはそれでいいの? この家から大学に通うとなると、電車で片道1時間近くかかっちゃうよ」
「それでもいい。とみさんから離れたくない」
り子は真剣な顔で俺を見つめた。
「私は、とみさんが好きなの。とみさんの恋人になりたい。だから、お見合いは断ってほしいの。これからもずっと、二人で暮らしていきたい」
り子は泣きながら訴えてきた。
その表情に、俺は戸惑ってしまう。
ここ数日、り子がアピールしてきていたことには気づいていた。
でも、それは俺がお見合いをすると知ったことで不安になり、そこから嫉妬心が芽生えての行動だと思い込んでいたのだ。
しかし、目の前のり子の表情は真剣そのもの。
どうするべきか悩んだものの、俺は正直な気持ちを伝えることにした。
「り子ちゃん、ごめんな。君のことは、友人の娘としか見れないんだ」
俺の言葉に、り子は愕然とする。
友人の娘。
親子ほど年が離れている。
こう言った方が、り子のためになるだろう。
「そ、そうだよね。変なこと言って、ごめんなさい」
こう言うと、り子は引きつった笑顔を浮かべ、自分の部屋に戻って行ってしまった。
翌朝、俺はいつも通りにり子に挨拶をしたが、彼女は顔をそらす。
そして、無言で朝食を作り始めた。
俺もいつも通りそばで朝食作りを手伝うが、り子は視線を合わせようとしないし、体を近づけることもない。
朝食が完成すると、気まずい雰囲気のまま食卓に座った。
この重い空気を変えなくてはと思い、俺はり子に話しかける。
しかし、り子の返事はそっけないものばかりで、会話は続かない。
その後も、また気まずい沈黙が流れた。
昨日までは、俺に自分から話しかけてきて、くっついてきたのに。
告白を断ったのが、よほどショックだったのか。
まあ、俺も振られた経験があるから、り子の気持ちは痛いほど分かる。
しかし、彼女の気持ちに答えられない以上、今は放っておくしかない。
り子も大学に行けば、俺なんかよりもっといい男に出会えるだろう。
彼女の幸せのためには、これでいいんだ。
少し寂しくもあるが、り子のためだ。これでいい。
数日後、り子とは仲直りができないまま、お見合いの日になってしまった。
「行ってきます」
「うん。行ってらっしゃい。気をつけてね」
もちろん、り子はこの日がお見合いだということを知っている。
口では気遣いの言葉をかけてくれるが、その表情は引きつっていた。
本心では、俺が他の女性と結ばれることを望んでいないのは明白だ。
その表情を見ると、モヤモヤしてお見合いに行く足が重くなる。
待ち合わせの場所に行くと、すでに見合い相手の静香さんは来ていた。
静香さんは美人で、上品そうな女性だ。
だが、そんな彼女を見ても、俺の気分は沈んだまま。
それでも、相手と近況を話したりしていたんだが、俺はり子のことが頭から離れなかった。
「どうかされましたか?」
静香さんが心配そうに尋ねる。
なんだか申し訳ないな。
静香さんはいい人なのに、彼女を前にしても、り子のことばかり考えている。
こんな状態じゃ、静香さんに失礼だ。
そう思った俺は、思い切って口を開いた。
「静香さん、今日は楽しい時間をありがとうございました。でも、大変申し訳ないのですが、今回のお話はお断りさせてください」
そう言った、その時だ。
「とみさん!」
なんと、り子が俺たちの前に現れたのだ。
「り子ちゃん、どうしてここに?」
「お見合いのことが気になって、きちゃったの。やっぱり、とみさんのこと、諦めきれない」
「り子ちゃん……」
「えっと、お知り合いですか?」
俺たちの様子を見て、静香さんは首をかしげる。
俺が友人の子供を引き取っている旨を説明しようとすると、り子がずいずいと出て行って、声をかけた。
「あなたが、とみさんのお見合い相手ですよね。申し訳ありませんが、とみさんはあなたに渡しません。先手を打たせてもらいます」
「先手?」
「こら、り子ちゃん、静香さんに失礼だろ」
俺は慌てて静香さんに頭を下げた。
「静香さん、すみません。この子は友人の娘で、訳があって俺が引き取っているんです。ちょっと、最近トラブルがありまして……」
「とみさんがお見合いするのが嫌で、私が先手を打って告白したんです。でも、とみさんには友人の娘としか見られないって断られて。でも、やっぱり私は、とみさんのことが本当に好きなんです」
り子の言葉に、静香さんは目を丸くし、俺は焦りと照れで顔が熱くなる。
「こら、それは静香さんには関係ないことだろう」
そう言って、俺はり子を注意したが、静香さんは急に笑い出した。
「面白い子ですね。もしかして、お見合いを断ったのも、その子が理由ですか?」
「え、とみさん、お見合い断ったの?」
「うん。静香さんには申し訳ないけど……」
「大丈夫ですよ。実は私も、今日はお断りするつもりで来たんです。私、今は仕事が楽しくて仕方ないんですよ。でも、結婚が娘の幸せと信じて疑わない両親が心配だったようで、勝手にセッティングしたんです。最初からちゃんとお断りすればよかったですね」
「こちらこそ、中途半端な気持ちで来てしまって、すみませんでした」
「いえいえ、こちらこそ。まあ、今回はお互い縁がなかったということにしませんか? 父には、自分の気持ちを正直に言って、私から断ったと伝えます。藤原さんは、その子と幸せになってください」
「あ、ありがとうございます」
バタバタしたお見合いになってしまったが、円満に断ることができた。
静香さんと別れ、家に向かって歩いていると、り子が聞いてきた。
「ねえ、とみさん、私のためにお見合いを断ったって、本当なの?」
「本当だよ。お見合いの最中も、ずっとり子ちゃんのことを考えてた。もし静香さんと結婚したら、り子ちゃんはどうなるんだろう。そう思ったら、気持ちがどんどん暗くなったんだ」
「そっか。私の気持ち、届いたんだね」
「うん。こうなってみて初めて、自分の気持ちが分かった。俺がこれからもずっと一緒にいたいのも、本当に大切にしたいのも、り子ちゃんだけだ」
「嬉しい。これからも、よろしくお願いします」
「俺の方こそ、よろしくね」
それから数ヶ月後、り子は無事大学に合格。
そして、卒業式を終えたり子から、俺は改めて告白をされた。
「大学でも真面目に勉強して、とみさんにふさわしい大人になれるよう頑張るね。だから、とみさん。私の恋人になって」
「うん。分かった。ありがとう。まずは、勉強をしっかり頑張ってよ」
俺の言葉に、り子は満面の笑みを浮かべ、抱きついてきた。
今までは同居人だったけど、これからは恋人同士だ。
一緒に暮らす名目も変わってから、3年半が経った頃、り子の内定が決まった。
それを機に、俺はり子にプロポーズ。
もちろん、彼女からの返事はオッケーだったよ。
それを受け、俺はり子を連れて、ふ彦夫婦の墓に報告に行った。
お墓に手を合わせ、り子を幸せにすると誓う。
ふ彦も、きみかさんも、まさか自分の娘が俺の嫁になるなんて、思わなかっただろうな。
俺もだ。
でも、夫婦になるからには、天国で二人が安心できるように、全力で守っていこうと思う。



