居酒屋のざわめきの中、部長の声が響き渡った。
「みんな、お疲れ様。あ、それでさ、この三谷のことをちょっと見てくれよ。こいつ、本当に何もしてないからな。」
十数人が集まる懇親会。周囲は酒を酌み交わし、楽しげに笑い合っている。だが私はその輪に加わらず、黙って席に座っていた。
「三谷だけは、本当にどこからどう見ても昇進試験の無能者だな。仕事してるふりさえ下手くそで、目も当てられない。」
部長の言葉に同調するように、周囲の笑い声が広がる。その様子を横目に、私は静かに席を立った。
「私、今日限りで部長とのお付き合いを終わらせていただきます。」
周囲の笑い声が止まり、一瞬静寂が訪れた。しかし背後からは、部長の嘲笑が聞こえてくる。
「やっとその気になったか。いいぞ。そのまま消えてくれ。」
部長の嘲笑を聞き流しながら、私は店を後にした。この瞬間が、彼の人生を一変させることになるとは、まだ誰も気づいていなかった。
私の名前は三谷。35歳の会社員で、勤務先は郊外のベッドタウンにある。その街は多くの有名企業がメインサーバーやシステム管理部門のオフィスを構えていることでも有名だ。私は1年前から、そこにあるとある有名企業の管理部門オフィスで働いている。
所属部署は広報支援課。私はそこでアナリストとして、データ解析や財務資産管理業務を任されていた。都内の本社から少し離れたこの街で、私は黙々と働いている。おまけに業務内容は社内でも重要機密事項とされているため、似たような業務を扱う部署とですら交流を持つ機会がない。
「お久しぶりです。ああ、ええ、そうですよね。あれからもう2年ぶりとかですよね。最後に会ったの、本社の階会でしたっけ。」
同じ会社の同じオフィスにいる人とこんな会話をするのも珍しいことではない。同僚たちと仲が悪いわけではないが、互いに必要以上の干渉も接触も避けて、神経を使っている。私の職場環境とはそういうものだった。
「三谷さんって中途だよね。」
「うん。まあ、経歴とか謎だよな。」
「だよね。なんか何してるのかよくわからないよな。」
「あれだよ。うちに来てみたものの、やれることなくて座ってるだけ、って。」
「何それ?そういう噂もあるんだけど、間がち嘘とも言えない気がしてさ。」
気軽に仕事の話ができない。そんな過ごし方をしているせいか、私に対するオフィス内での評価は良くない。同僚だけならまだしも、私は直属の上司からも良い評価を受けていなかった。
「私は会社のために身を粉にしている。だが、この怠け者の三谷はただの給料泥棒だ。」
私の上司である石川部長は、広報支援課を率いている。彼は金融機関やマーケティング系の企業でアナリストを務めた経験があり、若い頃はアメリカで駐在員をしていたという。十数年前にヘッドハンティングされて私と同じ会社に所属するようになったが、部長は入社早々に大きな成果を上げたそうだ。
「私は実績という裏打ちがあってここにいる。会社員というのは、そうあるべきものだろう。」
最初は本社勤務だった部長は、自ら志願してこの郊外オフィスにある広報支援課に移動した。社内で最も新しい部署を率いたいという野心を持った彼は、息巻いて仕事をしている。しかし欲とは裏腹に、彼は人を軽んじるタイプだった。
「黙って仕事をしていることは美徳でも何でもない。机に向かうふりをしているだけかもしれないんだ。」
部長はよく私のオフィスの前で、私を罵る。近くにいる同僚たちは、そんな部長を見て無関心を装う。私のことをよく知らず、部長と同じようなことを言っている人が多い現状を考えれば、それも当然だ。
私はとりあえず気づいていても、特に反応せずにいる。自分の仕事は自分が一番よく把握しているのだから、同じ必要もないのだ。その上で私は部長を冷静に眺めていた。彼は社歴こそ長いが、最近は入社当時の栄光を自慢するばかりで、目立った成果を残していない。それこそ、部長が仕事するふりをしている人と変わらなかった。
私はとにかく自分の仕事に全力を注ごうとしていた。だが、それは部長の怒りのセンサーを刺激するらしい。
「おい、三谷。どうせ暇なら本社のセミナーを手伝ってこい。」
「え、それは来月のですか?」
「そうだよ。」
「申し訳ありません。来月は出張の予定もありまして、それを確認してから出ないと答えられませんが。」
「うるさい。出張もどうせ嘘なんだろ。どこに頼んだか知らないが、ここを出たくて適当に入れたんだろうが。」
部長は私が仕事をしている様子を見ると、それが気に食わないのか、本来は自分が任されたであろう仕事を押し付けるようになった。私のスケジュールなど知るよしもないという感じで、次から次へと仕事を投げる。しまいには部長の雑用まで頼まれるようになり、私の職場環境はあまり良くないものへと変わっていった。
「来週の懇親会、出るよな。」
ある日、部長は私を広報支援課と関連部署が開催する懇親会に誘った。半年後に開始する大型新規プロジェクトを前にした食事会、いわゆる飲み会だ。日頃あまり接触しない社員たちが、懇親会をきっかけに互いを知る。部長は言った。
「出るっていうか、どんな暇人でもプロジェクトに関わるなら、出てもらわないと困るんでな。」
「はい。承知しております。」
月例会の開催は私も早々から知っていた。出席の確認は取られるが、実際は顔合わせのために強制参加になるのも把握していた。部長に言われるまでもなく、参加を決めていた懇親会だ。
当日はオフィスの最寄り駅前の居酒屋に、広報支援課と関連部署から十数人が集まった。日頃の接触はあまりなくても、それなりに名前や顔を知っている。仕事の話もできる範囲であれば可能だ。酒が入る場でもあり、出席者たちはそれなりに盛り上がっていた。
盛り上がっているのは部長と、その周囲の人たちだけ。私はと言うと、日頃の芳しくない評価が広まりすぎたおかげなのか、誰からも腫れ物のように扱われた。それどころか、私が誰かに話しかけても無視をされる。
「おい、いいか?乾杯を忘れてたから、今からするぞ。」
懇親会の序盤、上機嫌の部長がグラスを手に立ち上がった。私以外は、その呼びかけに笑顔で応じて楽しそうにしている。部長はそんな仲間たちの顔を見ると、乾杯の挨拶を始めた。
「さて、みんないつもお疲れ様。あ、それでさ、この三谷のことを覗いてほしいんだけど。こいつは何もしてないからな。」
部長は私を指さして、大きく笑った。酔ったのか、赤い顔で楽しそうにしている部長は、そのままの勢いで乾杯と発声する。それに応じた仲間たちも、乾杯と言って私を見て笑う。
「いいか?この懇親会で分かるのは、みんなの出来だよ。私もそうだが、私の周りのほとんどは有能者だ。」
部長は自分の席に戻ると、自分が信頼している仲間たちに語り出した。
「三谷だけは、本当にどこからどう見ても昇進試験の無能者だな。まったく、仕事してるふりまで下手くそで、目も当てられない。」
部長が私への評価を口にするたびに、周囲は笑う。
「おまけにプロジェクトにも参加するって言うんだ。まあ、無能者でも欲はあるんだな。金はいただきたいわけだ。厚かましいな。」
部長は私への暴言をつまみにして、酒を煽っていた。周囲も同じで、彼らも笑いながら私を見て酒を飲む。
強制参加の懇親会。大型案件開始前には当たり前の習慣。そんなことを思い出して気づいたのだが、この習慣を作ったのは、誰あろう石川部長だった。彼は群れることを好み、飲み会や食事会が好きな人だ。このオフィスのトップとして、彼は飲み会を主催して人望を得ていた。職場の飲み会、食事会は部長の独断だ。そこから分かることは、この日の懇親会も同じだということだった。
部長はこの懇親会で、私を下げてバカにすることを目的としていたのだ。プロジェクトのことなど二の次で、本当の目的は人前で私をこき下ろしたかった、というところだろう。
「しかし、金も欲しい。最低限の会費を払って、飯もたくさん食いたい。どこまで厚かましいんだ、三谷。」
「なんだよ。全部その通りだろ。図星すぎて何も言えないだろう。」
「あの、もうよろしいでしょうか?」
「あ?何がだ?」
私は部長への不満を、淡々と伝えることにした。
「もう、私に何か言うのは今日限りでよろしいでしょうか?」
「はあ?何言ってんだ?」
部長はだらだらと私への不満を漏らしていた。そんな部長を聞きながら、私は自分の思いを伝えようと口を開いた。
「私は部長のお役に立てないようなので、私も今日限りで部長とのお付き合いを終わりにしようかと思いまして。もちろん、退職の手続きは規則に従いますが、この場で退職の意思はお伝えしようと思いまして。」
私は淡々と、部長に退職したいと伝えた。傍から見れば、売り言葉に買い言葉で会社を辞めようとしているように見えたかもしれない。だが、私は本当に冷静に、部長とはもう付き合いきれないと思っていた。
「今後は、私から関係部署に話をします。部長には退職手続きに協力をいただければ助かります。」
「そうですか。では、今日はこれで失礼します。」
私は部長と部長の仲間たちに礼をして、席を離れた。店から出ようとする私には、部長やその仲間たちの嘲笑が聞こえた。
「やっとその気になったか。会社辞めるっていいね。」
「いやあ、部長のおかげですよ。部長が常に的確なコメントをしてくれたから。」
「そうですね。いやあ、これでスッキリする。」
当然のように部長を持ち上げる声ばかりで、私を止める声は上がらない。私は部長たちの笑い声を聞きながら、店を出た。先のことをどれくらい考えていたのか、今になっても分からない。しかし、不思議と疲れは感じず、淡々と翌日にやることの段取りを思い浮かべていた。
懇親会の翌日、私は普段通りに出社した。退職を決めたとはいえ、片付けるべき仕事はあるし、人事に退職の意思を報告しなければいけない。それからデスクやロッカーの片付けもしなければならなかった。私は仕事をしつつ、手近なものを箱に入れて持ち帰る準備を進めた。
私が何をしていても、周囲は無関心。前日に何があったかなど関係なく、オフィスにはいつもと同じ時間が流れていた。
「おい、三谷!」
こちらに向かってくる足音に顔を上げると、石川部長と目があった。彼の顔には脂汗が浮かんでいて、表情もどこか硬い。
「ニュースチャンネルは見たか?うちの株価が、どうも、こう、大暴落に近い落ち方してるんだ。」
「株価が?」
「はあ。ちょっと待ってもらえますか?」
私は取り乱している様子の部長を制し、ネットニュースに目を通した。経済ニュースを見ると、速報の一つに会社に関するニュースがあった。それを見る限り、部長の言うように会社の株価が大きく下落している。
「なるほど。なるほど。」
「だ、だから、お前、なんでそんなに落ち着いてるんだ?」
私はニュースを見ても特に何か感じるわけではなく、思ったことを口にした。すると部長は、私の肩を揺さぶって叫んだ。
「お前、社長がお前を呼べって!お前なら会社を救えるって言ってるんだよ!」
「なんて言った?お前も何も知らないのか?」
「ああ、そうですか。」
「そうですか、じゃない!説明しろ!何がどうなってるんだ?」
「どうなってるも何も、社長はお分かりなんでしょうね。」
「お前、俺の質問に答えろよ!」
「答えろと言われましても、申し訳ない。」
部長は私の肩を掴んだまま怒鳴っていたが、私は一言詫びて彼の手を肩から外した。
「そう言われても、私はほら、部長の言うように無能ですから。質問の意味すら分かりかねますね。」
私は部長に笑顔で答え、自分の作業を再開した。持ち帰るものを箱に詰めて、部長をいないものとして無視する。
「おい、ふざけるな!お前、仕事しろよ!ちゃんと対応しろ!」
部長は相変わらず脂汗まみれで私に叫んでいた。周囲ではこちらに目を向ける人もいたが、やってくるわけでもない。ただ、部長だけが騒ぐ異様な空間。
しかし、そこに部長と同じくらい脂汗を流す人物が現れた。
「三谷君!よかった、頼む!君に支援を頼みたい!」
脂汗を流した青い顔でオフィスに駆け込んだのは、私や部長の勤務先、本社にいるはずの社長だった。社長は私の前で止まると、私にすがりつくようにして頼んだ。
「株価が下がったんだ。せっかく持ち直したというのに。これじゃあ、また頼む。何か方策を、手を貸してくれないか?」
社長は手短に株価暴落の一部を私に伝え、私に何とかしてくれと部長と同じように頼み込んだ。社長を前にして、私の気持ちは一瞬揺らぐ。しかし、ここまで来たらと、私は自分の主張を維持した。
「社長、申し訳ありませんが、私は日頃このオフィスで無能者だと言われていまして。部長がそうおっしゃるんですが、そういうことなんだろうと感じています。ですので、残念ながらお役には立てないかと。」
私はすがる社長を避けるようにして、混乱の場を抜けようとした。だが、そんな私の言葉が気になったのか、社長が石川部長に問いかけた。
「待ってくれ、石川君。どういうことだ?」
「え、あの、三谷君に無能だと言っていたというのは本当か?どうして?」
「社長、あの、何か勘違いが。」
「勘違い?何がだ?」
「ですから、彼は特にこれと言って実績があるわけでもなく、ですから何をしているのか分からず。」
「待て、石川君。三谷君のことは把握しているよな。」
「え、た、谷ですか?」
社長は部長に苛立っていた。その理由が分かるのは私だけで、部長はしどろもどろで狼狽えるだけだった。社長は私を一瞬見ると、ため息をついた。
「三谷君には、資産運用を一任してきた。彼は元々、ファンドマネジメントの専門家だったからな。ITやネットワーク関連の知識もあるから、ここにいてもらっているが、本来は我が社の資産管理と運用が本業だ。」
社長が私の顔を見て頷く。私もそれに頷いて返して、社長の言葉を肯定した。すると沈み込むのは部長で、私を見て愕然とした表情に変わっていた。
社長の言うように、私はかつて外資系の金融機関でファンドマネージャーを務めていた。それ以前の経歴で言えば、日本で大学を出た後に留学して金融ビジネスについて学び、金融で有利になる資格も取得している。外資では年功序列で働き、正直なところアーリーリタイアが可能な収入も得た。それでも働き続けるのは、今の会社の社長にスカウトされたからだ。
社長が就任当時、会社は前任者たちが積み上げてしまった赤字と負債の蓄積と向き合わねばならなかった。社長は会社の再建と財務の健全化を目指し、人脈を頼りに私に声をかけていたのだ。資産の管理と、売り払えるものを売ってお金を得る。私は地道な部分から会社の資産運用を任され、コツコツと数字を積み上げた。そして、私の任務は社内でもトップクラスの機密事項とされた。内部から外部に情報を持ち出す者がいないとも限らない。そんな可能性も考慮して、私の仕事は隠されてきたのだ。
隠密のように働き、確実に結果を残し、私は会社が背負い込んだ赤字を取り返すまでやってきた。だが、それも株価暴落のニュースで分かるように、吹き飛ぶ寸前になっている。
「三谷君には、いてもらわなければ困るんだ。」
社長が唸るように突き放すと、部長は社長を見る。
「石川君、何てことをしてくれたんだ!」
社長が怒鳴り、部長に詰め寄る。
「お、申し訳ありません!」
「申し訳ないだと?そもそも、君は自分の部署で働く社員たちのことを分かっているんじゃないのか?何をしてきたんだ?」
社長の叱責は止まらない。部長は防戦一方だ。社長は、部長が私のことを把握していないのはおかしいと指摘し、詰問した。いくら私の業務が機密事項として扱われているからと言っても、私の直属の上司は情報を与えられている。それなのに、部長はそれに目を通してもいない。今回の騒動で、それが露見した。
「無能者など、よく言えたものだ。職務怠慢の君の方が、よほど無能だ。」
社長は真っ赤な顔で部長を睨みつけた。私は二人の間に割って入る気もなく、その場を去ることを考えて身を引く。
「今すぐだ。今すぐ三谷君に謝罪しろ。」
社長は部長を指差し、彼に私への謝罪を命じた。指差された部長は、よろよろと私の前に歩み出て、頭を下げた。
「申し訳ない。これまでのことは、全部冗談なんだ。許してほしい。本心では、君が無能などと思っていなかったんだ。」
「お願いします。どうか、謝罪を受け入れてもらえないか?」
部長は大声でそう言い、下げた頭を上げない。私は、部長の頭に向けてそう答えた。
「無理ですよ。今になって、あなたの言葉の何を信じろと?有能なあなたが、この危機に対処してみては?」
私は部長に、言いたいことをぶつけていた。誰に何を言われても、私はもう退職の意思を変えるつもりはない。だからこそ、言いたいことを言った。
「いい加減にしてくれ、石川君。君のこれまでの行いが悪いからだ。君が彼を辞めさせようとするから、そうさせたんだ。元を言えば、君に彼を評価するだけの権限があったのか?君は、三谷君が辞めた後の責任を取れるのか?君が問題解決できるという証拠と責任は?」
私の固い決意を知った社長は、混乱したかのように叫び、その混乱を部長に向けた。激怒する社長に、部長はなす術がなかったのだろう。うろたえるだけで、言葉もろくに出てこない。
「石川君は、解雇される側にふさわしいというのなら、それは君じゃないのか?」
「ま、待ってください!」
「無理だな。今後はもう、君に関わってもらいたくない。三谷君への説得も、私や他の者がやる。」
社長は部長に、その場からの退場と将来的な解雇を告げた。部長はどうにか残ろうと粘ったが、最後は社長の秘書や関係者に連れられて、オフィスを出ることになった。
私はその後、社長から謝罪をされ、話し合いの場を設けたいと言われた。
「分かりました。でしたら、後日改めて。」
社長は悪くない。それを思えば、まだ何か聞くべき話もあると思ったのだ。
数日後、私は本社で社長から改めて正式な謝罪を受けた。そして、その謝罪を受け入れることに決め、今後も会社に残ると意思を変えた。
「今後どうするのか、私の業務内容の共有について方法を考えたい。」
私は社長にそう申し入れ、働きやすい環境作りを協議した。直属の上司や同僚たちには、説明可能な範囲で私の業務を把握してもらう。その上で、今回浮上した問題に取り組む。環境の改善と同時に、もう一度会社の再建に取り組む日々。それは忙しかったが、それでも何とか形にはなり、会社は当面の危機を脱した。正直、私でもどうなることかと感じたが、山を越えたことにはほっとした。
私の状況は変わりつつあったが、部長はそうもいかなかった。騒動の後、社長は部長に関する調査を社内で行った。その結果、過去と現在に至るまでの各種ハラスメントがあったことが発覚した。様々な告発が寄せられ、部長はそのまま、満場一致で懲戒解雇となった。
部長が去り、社内で何が起きていたのか明らかになると、私の周囲では私への謝罪がブームになった。正体不明だった社員が実は大物だったと分かって手のひらを返す。何とも皮肉な事態だったが、私は全ての謝罪を受け入れた。
静かに働きながら、今は目の前の仕事に集中している。騒動をきっかけにして、私の待遇は役員と同様になった。社長直轄の財務担当者、というのが今の私の肩書きのようなものだ。それに伴い、当然のように責任は大きくなった。しかし、今の私は雑念もなく、結果を出そうと燃えている。
働く意欲は、まだまだある。それを大事に、私はまだ会社の中で頑張るだけだ。



