「ニートのお前が、なんでここにいるんだ?」―中学の同窓会で散々「中卒のくせに」と馬鹿にされた後、役員会議の席で、かつての同級生が俺を見て叫んだ。彼は大手ゲーム会社の社長の息子で、いつも金持ち自慢ばかりしていた男。俺はそんな彼の嘲笑を聞き流していた。あの時は。だが、その会議の席で、彼の父親が俺に深々と頭を下げた。「この方は、我々の会社を買収したマルエの社長だぞ」その瞬間、彼の顔から血の気が引い…

「ニートのお前が、なんでここにいるんだ?」―中学の同窓会で散々「中卒のくせに」と馬鹿にされた後、役員会議の席で、かつての同級生が俺を見て叫んだ。彼は大手ゲーム会社の社長の息子で、いつも金持ち自慢ばかりしていた男。俺はそんな彼の嘲笑を聞き流していた。あの時は。だが、その会議の席で、彼の父親が俺に深々と頭を下げた。「この方は、我々の会社を買収したマルエの社長だぞ」その瞬間、彼の顔から血の気が引い...

同窓会のざわめきの中で、背後から届いた声に、俺は振り返った。

「おお、銃殺。生きてたんだな。」

そこには、学生時代と変わらない嫌味な笑みを浮かべた足立孝志が立っていた。彼は当時のまま、上から目線で胸を張っている。

「俺は親父の会社で専務やってるんだよ。もうすぐ社長だな。」

そう言って差し出された名刺には、彼の父親が経営する大手ゲーム会社の名前と、「専務」という肩書きが印刷されていた。俺は内心苦笑しながら、その名刺を受け取った。

彼の自慢話は止まらない。先週のアメリカ旅行、行きつけのキャバクラでの散財。中学時代、いつも「パパに買ってもらった」と新作ゲームや海外旅行の話ばかりしていた彼は、大人になっても何も変わっていなかった。

「で、お前はどこで働いてるんだ?どうせ大したことないんだろうけど。」

ついに話が俺に向く。彼はいつものように、人の不幸を確認して優越感に浸りたいだけだった。

「ああ、大したことないよ。今スマホゲームを作ってるんだ。」

俺が淡々と答えると、彼は堪えきれずに吹き出した。

「スマホゲーム?さすが中卒だな。そんなくだらない仕事してるとはよ。脳内まで中卒かよ?」

ゲーム会社の社長の息子で、自身もその会社の専務という立場にいながら、その発言。ゲームには夢が詰まっていて、それを自分の手で作れることは、この上なく素晴らしいことなのに。彼はそれを、同級生たちの前で笑いものにした。

反論したい気持ちを抑え、俺は愛想笑いを返すしかなかった。微妙な空気が流れた、まさにその時だった。

「おい、見ろよ。これ足立の親父じゃないか?」

スマホを見ていた友人の一人が、俺や足立を含む全員に見えるように画面を掲げた。そこには、足立の父親について書かれたネット記事が表示されていた。

見出しにはこうある。

「『ゲームするやつはバカだ』ゲーム会社社長の暴言」

どうやらキャバクラでの発言がリークされたらしい。記事には、「学歴の低いやつしかゲームなんてしない」と発言したと書かれ、コメント欄は大炎上していた。あの日の中学時代。足立が「ゲームをするやつはバカだな」と言った時、親子揃って同じ考え方だったのかと、妙に納得した。

顔を真っ赤にして慌てる足立。しかし、記事にはまだ続きがあった。

「今回の騒動は本筋ではなく……」という書き出しの下には、父親の会社が業績悪化のために近々買収されることが決まっているという事実が書かれていた。大幅なリストラの可能性も示唆されている。

「お前の会社、買収されるのか?」

噂話が好きな同級生がニヤニヤしながら尋ねると、足立はますます慌てふためく。

「そんなこと聞いてないぞ!」

さらに、関連記事には「カエルの子はカエル」という見出しで、足立孝志自身が会社の金で私的に遊興している写真がいくつも掲載されていた。ナイトプールで女性を両脇に侍らせ、酒を飲んでいる写真。女性たちに向かって札束をばらまいているような写真。キャバクラの話は、全て会社の金だったんだな。

「俺じゃない!違うぞ!」

言い訳をしながら後ずさる足立。同級生たちの冷たい視線に晒され、逃げ場を失った彼は、そのまま後ろに数歩下がった瞬間、派手に足を滑らせた。

「ガシャーン!」

音を立てて倒れ、置いてあった飲み物を頭からかぶってしまう。固められた髪から色付きの液体が滴り落ち、自慢の高級スーツにはシミがじわじわと広がっていく。彼は呆然としたまま、立ち上がれずにいた。

静まり返った会場に、誰かが吹き出す声が響く。足立はそれに気づくと、小さい声で何か呟きながら、よろよろと立ち上がった。そして、慌てて鞄をまとめると、もたつく足で、逃げるようにして会場を去っていった。

──あの場に居合わせた全員が、この話がこれで終わったと思っただろう。翌月、俺は自社の役員会議に出席していた。

会議資料に目を通しながら席に着くと、会議室に足立孝志と、その父親である足立社長が入ってくるのが見えた。彼は周囲を見渡し、俺に気がつくと、動きを止めた。そして、驚愕の表情を浮かべながら、俺を指差して声を上げた。

「ニートのお前が、なんでここにいるんだ?」

この大きな声に、他の役員たちがざわつく。しかし、彼の声を聞いた隣の父親が、目を丸くして彼を怒鳴りつけた。

「誰に向かって口を聞いているんだ!」

足立社長に怒鳴られ、孝志は体を縮こまらせる。意味が分からないというように、目を泳がせている。

そんな様子に、足立社長が説明した。

「この方は、我々の会社を買収する山陽のゲーム会社、マルエの社長だぞ。」

その瞬間、今度は孝志の目が驚愕に見開かれた。

「何が、どうなっているんだ……?」

独り言のように呟き、その場に立ち尽くす。俺は社長だ。あの「マルエ」の。

幼い頃、母が買ってくれたたった一本のゲーム。それが全ての始まりだった。母子家庭で育った俺は、他の家よりも貧しい暮らしだったと思う。朝も夜も働き詰めの母の前で、新しいゲームが欲しいと駄々をこねたことは一度だけ。彼女は悲しそうな顔をした後、それでも優しく俺を抱きしめて言ってくれた。

「今までたくさん我慢させていたね。誕生日、楽しみに待っててね。」

忘れもしない、12歳の誕生日。仕事に出かける前の母は、夕食を食べながら、キラキラとした袋を俺に手渡してくれた。「お誕生日おめでとう。これはお母さんからのプレゼントよ。」中を覗くと、同級生たちが持っているゲーム機と、CMでも放映されていた新作のRPGソフトが入っていた。母は、俺が嬉しそうに箱を開ける様子を、ニコニコしながら見守ってくれていた。

ゲームは、俺に光を与えてくれた。母が仕事で遅く、夜一人で寂しい時も、ゲームを起動すれば、俺は勇者になれた。友達と喧嘩した日も、ゲームの中には、一緒に旅をする仲間がいた。このゲームだけが、俺の世界を無限に広げてくれた。そして、思うようになった。「こんな魅力的なゲームを、俺も作りたい」と。

中学に入学すると、塾に行くお金がないことは分かっていたので、必死で授業を聞き、分からないところは何度でも先生に質問した。その結果、常に学年十位以内の成績をキープできた。しかし、朝も夜も働き、体調が悪い日でも無理をして仕事に出る母を見て、俺は決断した。高校へは進学せず、働くことを選んだのだ。担任の先生には何度も止められ、母にも反対されたが、どうしても家計を助けたかった。

中学卒業後、いくつかのアルバイトを掛け持ちする傍ら、独学でプログラミングを学び始めた。自分の考えたことが、そのまま画面上で動くのが面白くて、勉強に夢中になった。やがて、自分でスマホゲームを開発し、販売を始めた。今思えば拙い作品だったが、徐々に収益を得られるようになり、「面白い」というユーザーの声も届き始めた。

そんなある日、SNSに一通のメッセージが届いた。送り主は、ゲーム業界で有名な「マルエ」の社長。俺が初めて買ってもらったあのゲームを作った会社だ。彼は、俺の作品を見て「魅力を感じた」と綴り、ぜひ一度会いたいと言ってきた。子供の頃から憧れていた人からの連絡に、俺は飛びついた。

面談の場で、マルエの社長は、年下で学歴もない俺に、礼儀正しく、そして丁寧に接してくれた。

「どういうところが面白いと感じたのか?」
「どうすればもっと良くなると思うか?」

独学でここまでやったことに感心したように頷き、彼は身を乗り出して言った。

「是非、うちの会社に来てほしい。一緒にゲーム開発をしないか。」

願ってもない誘いだった。母にもすぐに報告した。
「母さん、俺、夢だったゲーム会社で働けることになったよ。」
長年働き詰めで苦労してきた母は、しわしわの手で顔を覆いながら、呆然としていた。
「それで、これからは母さんに楽をさせてあげられるよ。」
その言葉を聞いて、母は嗚咽を漏らしながら、泣いて喜んでくれた。

それから十数年。俺はマルエで開発に携わり、幾つものヒット作を世に送り出した。特に、俺が開発したタイトルが世界的にヒットし、業績は大きく伸びた。業界内で唯一、足立の父親の会社だけが、マルエより売り上げが上だったが、それもあのヒット作で逆転した。そして、社長が引退する際、後任に俺を指名してくれたのだ。

社長就任の話はニュースにもなり、ネット記事にもなって、かなり話題になっていた。だからこそ、同窓会で友人たちが俺を取り囲み、祝福してくれたのだ。その中で、ゲーム業界にいるにも関わらず、足立だけが、俺が社長になったことを知らなかった。たまたま出ていたネット記事を読んでいなかったのだろう。彼の視野の狭さが、身から出た錆だった。

「面白いゲームを作るのに、学歴は関係ないですよ。」

俺の言葉を聞いた足立孝志は、悔しそうに拳を握りしめ、顔を歪める。しかし、父親の足立社長の隣の席に、おとなしく座るしかなかった。

「では、本日の議題である、足立ゲームズの買収について話を進めさせていただきます。」

俺のその言葉に、親子は緊張した面持ちでこちらを見つめる。

「今回の買収にあたって、大幅な人員削減は必要ないと判断しました。」

ほっとした表情を見せる親子。だが、俺は続けた。

「しかしながら、これからマルエを大きくしていくために、切らねばならないものがあると思っています。先日、足立社長と専務に関するとあるネット記事を拝見しました。」

俺の発言に、二人の顔色が変わる。俺は役員に視線を向け、プロジェクターにある報告書を映し出させる。

「これはお二人に関する調査報告書です。ネット記事を鵜呑みにしたわけではありませんが、念のため調査を進めておりました。足立社長、これは事実でしょうか?」

報告書には、足立孝志による低学歴の社員への嫌がらせ、会社の金の私的流用。父親である足立社長は、内部情報を投資家へ漏らし、株式の売買益の一部を謝礼として受け取っていたことなど、悪事の数々が記載されていた。役員が一つ一つ読み上げるのを聞き終えると、二人の顔は顔面蒼白になっていた。

「事実ということであれば、今後、一緒に仕事をすることは難しいでしょう。」

俺が冷たくそう言い放つと、親子は膝から崩れ落ち、項垂れたまま、黙って地面を見つめることしかできなかった。

役員会議の数日後、足立社長は金融商品取引法違反で摘発され、会社から追放された。社長を失った足立ゲームズは、事実上、マルエに吸収されることになった。そして、足立孝志は、度重なるパワハラと会社の金の私的流用が原因で解雇となった。実家の財産も、父親の違約金や賠償でほぼ失ったらしく、彼は途方に暮れていた。

しばらくして、社長室の俺のところまで、足立孝志が泣きながらすがりついてきた。

「何でもします!外だけはどうかやめてください!このままだと働き口もなくて、金も返せないんです!」

解雇されたとはいえ、彼には会社に返済すべき金が残っていた。俺は冷めた目で、彼を見下ろしながら静かに告げた。

「じゃあ、なんとかするよ。」

俺は彼を倉庫管理を行う部署へ異動させ、肉体労働をやらせることにした。彼は今、周囲に偉そうな態度を見せることもなく、黙々と働いているという。中学時代、金持ちだからと言い張り、何でも手に入れると思っていた男が、誰よりも額に汗して働くことになった。

経営者という重責を担うようになったが、俺の根っこにあるものは、変わらない。初めてゲームを起動した瞬間のワクワク感。世界はいつだって、ゲームの中に広がっていた。俺はこれからも、ゲームの一プレイヤーとして、そのキラキラした気持ちを誰かに届けるため、遊び心を忘れずに、世の中をワクワクさせる作品を作り続けていこう。心にそう誓った。

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