「お前が30分で完璧に資料を読み込んだら、俺が会社を辞めてやるよ。」そう言って高笑いしたのは、ハーバード卒のエリート社員、杉村だった。中卒の俺を心から見下し、毎日のように暴言を吐いてきた男だ。社長肝入りのプロジェクトでリーダーに抜擢された彼は、俺が必死に集めた資料を一切読まずに「ネットで十分だ」と捨て置いた。そしてプレゼン本番、彼の傲慢な発表は先方のアメリカ人を激怒させ、会場は一瞬で凍りつい…

「お前が30分で完璧に資料を読み込んだら、俺が会社を辞めてやるよ。」そう言って高笑いしたのは、ハーバード卒のエリート社員、杉村だった。中卒の俺を心から見下し、毎日のように暴言を吐いてきた男だ。社長肝入りのプロジェクトでリーダーに抜擢された彼は、俺が必死に集めた資料を一切読まずに「ネットで十分だ」と捨て置いた。そしてプレゼン本番、彼の傲慢な発表は先方のアメリカ人を激怒させ、会場は一瞬で凍りつい...

プロジェクト発表の朝、営業部の空気は張りつめていた。社長肝入りの大型案件、日本のアレルギーフリー食品をアメリカの大手オーガニックスーパーチェーンに売り込むという計画だ。社長自らが「社運をかける」と宣言し、全社員がその言葉に耳を傾けた。

その直後、プロジェクトリーダーに任命されたのは杉村だった。海外の名門大学を出たエリートで、同期の中でも常に一歩先を行く男。彼は爽やかな笑顔で「精一杯頑張ります」と決意を述べ、周囲から拍手を浴びた。俺も拍手をしながら、ここで自分のできることをやろうと静かに思っていた。

杉村は部下を選ぶ権限も与えられ、まず最初に俺の名前を挙げた。俺は中卒だ。彼から見れば最も見下してよい存在なのだろう。オフィスで上司の姿が消えると、杉村はいつもの傲慢な口調に戻った。「高卒の連中もそうだが、お前みたいなクソみたいな学歴の奴らはしょうがないから使ってやるよ。」彼はそう言い放ち、俺たちに資料集めを命じた。「いいか、お前らは資料を集めて書類を作ればそれでいい。余計なことをしたらミスしたと上に報告してやるからな。」

俺は杉村が嫌いだったが、仕事に感情を持ち込むのは違うと思っていた。彼に頼まれた資料以外にも、先方の要望に応えるために役立ちそうな法律の資料や市場データ、海外の流通事情を調べた専門家の意見も集めた。ネットだけでは得られない情報を、知り合いの大学教授やアナリストに連絡を取り、何とか揃えた。

約束の日、俺はその資料一式を杉村のデスクに置いた。「これが君が頼んだ資料だ。それから、役立つと思って補足も集めてみた。」すると杉村は眉をひそめ、嫌味ったらしくページを数枚めくってから言った。「なんだよ、余計なことするなって言っただろうが。難しい本と資料ばっかりで、めんどくせえ。」俺は「しっかり読み込んでもらいたい」と冷静に伝えたが、彼は顔を真っ赤にして逆上した。「お前、マジでバカだな。なんで中卒がハーバード卒の俺に指図するんだよ。」そう言い放ち、資料をデスクの隅に積み上げたまま、その後は一度も開こうとしなかった。

プレゼン当日がやってきた。開始30分前、俺は杉村に確認した。「資料は読んだのか?」彼は鼻で笑った。「ああ、最初に適当に見たよ。めんどくさいし、役に立つとは思えなかったからな。俺はネットで調べた情報で完璧にやるから、お前は黙って立ってればいい。」

俺は最終確認のつもりで「今からでも要点だけ頭に入れた方がいい」と進言したが、杉村は手を振り払った。「そんなに言うなら、お前が読めよ。お前が30分で完璧に資料を読み込んだら、俺が会社を辞めてやるよ。お前の才能を評価して推薦もしてやる。どうだ、面白いだろ?」彼は声を上げて笑った。煽りだ。俺にキレさせて、暴言を吐いたと騒ぐつもりだったのだろう。

だが俺は静かに頷いた。「分かった。君の言う通りにする。要点だけ説明するよ。」俺は資料の束からその日のプレゼンに必要なものを抜き出し、10分ほどで目を通した。そして杉村に、これだけは押さえておくべきだという部分を簡潔に伝えた。杉村は驚いたように目を丸くしたが、すぐに「口から出任せかもしれないな。お前の言うことを信用するようになったら、俺も終わりだわ」と笑って、プレゼン会場へ向かっていった。

会議室には社長や幹部、そしてアメリカから招かれた役員とトップバイヤーが並んでいた。杉村は流暢な英語で挨拶をし、スクリーンを使って自ら作成した企画書の説明を始めた。最初は堂々としたものだった。だが、10秒と経たないうちに空気が変わった。アメリカ側の役員が立ち上がったのだ。「申し訳ないが、話にならない。」もう一人のバイヤーも顔をしかめて同意した。「私たちが聞きたいのは、こういう話ではない。私たちが取り扱う商品の特性や、実際の販売に必要な情報だ。あなたは収支や流通の形式ばかり語っているが、何も伝わってこない。」

会場が騒然とする中、杉村は顔を青ざめさせながら「申し訳ありません、もう一度説明させてください」と必死に食い下がったが、先方の2人は首を振り、席を立とうとしていた。社長が杉村を問い詰める。「杉村君、これは一体どういうことだ?」杉村は言い訳を探すようにうろたえるばかりだった。

俺は静かに立ち上がり、先方の2人と話をした。彼らが何を求めているのかを聞き出し、社長に現状を正直に伝えた。「杉村君のプレゼンでは、本来説明されるべき商品の特徴や、アメリカ市場の実情が全く語られていません。彼はデータを形だけ並べているだけで、顧客のニーズを理解していないのだと思います。」

社長は唇を噛み、杉村を一瞥した後、先方の2人に頭を下げて引き止めた。「どうか少しだけお待ちください。代わりに説明させてください。」そして俺に目を向けた。

俺は資料を手にスクリーンの前に立った。「今一度、私から補足説明をさせていただきます。」先方も席に戻り、俺は杉村が使った画像データを基に、商品の特性や市場での実績を分かりやすく言葉にしていった。杉村が無駄にした資料の中身を頭の中で整理し、アメリカ側が本当に知りたいこと、社長の狙い、その両方を満たすように話を組み立てた。流暢な英語で、彼らが食いついてくるように丁寧に、具体的に。先方の役員が大きく頷いた。「そうだ、私たちが聞きたかったのはこういうことだ。」バイヤーも拍手をし、「これで今後の不安はない」と言ってくれた。

プレゼンは何とか成功に終わった。社長は俺の肩を叩きながら興奮した様子で言った。「樋口君、君がいなかったらどうなっていたか。さすがだな。伝説の外商マンの息子は違う。」周囲もざわついた。誰よりも驚いていたのは杉村だった。彼は口を開けたまま、俺をじっと見つめていた。

社長の言葉の通り、俺の父はかつて業界で知らない者はいない伝説の外商で、役員の一人でもあった。俺は海外で生まれ育ち、中学時代だけを日本で過ごしていた。だから英語は自然に身についていた。日本での学歴は中卒だが、アメリカでは高卒資格を取っていたし、コミュニティカレッジでビジネスと不動産についても学んでいた。その後は父の貿易会社を手伝い、実務経験を積んでから、自分の可能性を広げたくて日本に戻ってきたのだ。杉村が見下していた俺の学歴も語学力も、実は彼が想像もしていないような背景があった。

社長は「中卒でも胸を張れ。君のような人間こそ、会社に必要なんだ」と言って握手を求めてきた。俺はその手を握り返し、これまでより少しだけ胸を張った。

その直後、社長は声を低くして杉村を見た。「杉村君、君は一体何をしていたんだ。君の態度は傲慢で、独りよがり極まりなかった。君の今後の処遇については、こちらで検討させてもらう。」杉村は必死に頭を下げて謝ったが、社長は振り払った。「もういい。君は自分の行動を反省すべきだ。」

その場には苦い空気が流れた。俺は少し迷ったが、杉村に一言だけかけた。「杉村君、このままだと君が自分で辞める前に、会社から退職を迫られるかもしれないね。」彼は反論する気力もないのか、その場に崩れるようにうつむいた。

あれから2週間が経ち、プロジェクトは新体制で順調に進んでいる。杉村はこれまでの態度や言動が全て問題視され、退職が決まった。彼は会社が運営する南太平洋の小島にある農場で管理スタッフとして働くことになったそうだ。俺は後任としてプロジェクトの中心に立ち、課長職を任され、来週からまたアメリカ出張だ。忙しいが、今までやったどの仕事よりも刺激的で、楽しいと思う。俺は与えられたチャンスに応えながら、これをさらに広げていくつもりだ。

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