入社初日、東大卒の課長が俺を底辺高卒と見下して説教してきた。「上司の言うことは絶対。れが社会のルールだから肝に命じておいてね」と。俺は黙ってそれを聞いた後、こう言った。「じゃあ焼きそばパン買ってきてください」すると課長は顔を真っ赤にして怒鳴ったが、俺は一度も声を荒げなかった。れがきっかけで、あの男は自分が誰を怒鳴りつけているのかを知ることになるんだけど…。彼が待っていたのは、ただの新入社員じ…

入社初日、東大卒の課長が俺を底辺高卒と見下して説教してきた。「上司の言うことは絶対。れが社会のルールだから肝に命じておいてね」と。俺は黙ってそれを聞いた後、こう言った。「じゃあ焼きそばパン買ってきてください」すると課長は顔を真っ赤にして怒鳴ったが、俺は一度も声を荒げなかった。れがきっかけで、あの男は自分が誰を怒鳴りつけているのかを知ることになるんだけど…。彼が待っていたのは、ただの新入社員じ...

柏木蒼太、十九歳。政治性の高校を出て、入社初日。父が倒れてから、昼は働き夜は学校に通う生活を三年続け、ようやく正社員としてこの会社に戻ってきた。今日から正式に、この場所で働くのだ。

挨拶回りをしていると、皆が「何を今更」と笑いながらも、温かく迎えてくれた。顔なじみの社員ばかりだから、気持ちは楽だった。最後に残ったのは、今年転職してきたばかりの課長、内田という男だけだった

「内田さん、お仕事中失礼します」

声をかけると、内田は面倒臭そうに振り返った。こちらの挨拶を無視して、いきなり尋ねてくる。

「随分若いけど、いくつだ?」

「今年で十九歳になります」

「十九歳?じゃあ大卒ってことか?」

「いいえ、定時制高校だったので、四年生でした」

その瞬間、内田の表情が軽蔑に変わり、わざとらしく大きなため息をついた。

「はあ…。お前みたいな底辺高卒が、なんでこの会社に入れたんだ?」

「やってられないよな。俺は東大出なんだよ。なのに、高卒と一緒に働かなきゃならないのか。しかも定時制だぜ」

その言葉に、俺の中で何かが沸騰した。定時制高校は、俺が家族を養うために選んだ道だ。父さんと母さんと三人で生きていくための、誇りある選択だ。それを、こんな男に馬鹿にされて黙っているわけにはいかない

「どういう意味でしょうか?」

「だから、一生懸命勉強していい大学に入って、別の会社で経験を積んだ俺が、君みたいな青二才と一緒に働かなきゃいけないのは、やってられないと思ってもしょうがないでしょ?わかんないかなあ」

内田は鼻で笑い、恩着着ましく説教を始めた。

「あのね、大人の世界では察するっていう能力が必要なんだよ。でも、噛んでも教えてもらえるわけじゃないの。そんな甘えた態度だと仕事にならないよ。大丈夫?」

そして、小ばかにした笑みを浮かべて、こう付け加えた。

「それから、上司の言うことは絶対だからね。逆らわずに従うこと。これが社会のルールだから、肝に命じておいてね」

俺は黙ってその話を聞いていた。内田は、自分の威厳に圧倒されたと思っているのだろう。その満足そうな笑みを見て、俺の心に一つの感情が芽生えた。この男を、少し懲らしめてやりたい

「上司の言うことは絶対ってことですね」

「その通り。理解してくれたんだね」

「はい。じゃあ腹が減ったんで、焼きそばパン買ってきてください」

俺の一言に、内田の顔が見る見るうちに怒りで真っ赤になっていく。

「お前、ふざけてるのか?」

「ふざけてませんよ。いいから早くパン買ってきてください」

「お前、全然理解してないな!上司に逆らうなって言ってるんだ!」

「上司の言うことは絶対って教えてくれたのは、内田さんじゃないですか?何回も言わせないでください。早くパン買ってきてもらっていいですか?」

三度目の怒声がオフィスに響いた時、社長の大谷さんが現れた。

「どうした?大きな声出して」

「社長、聞いてください!このガキが俺に指示してきたんです!子供のおふざけにしても度が超えてますよ!」

しかし大谷さんは、静かにこう言った。

「いや、おふざけじゃないよ。蒼太君は、君の上司だからね」

「……え?」

「蒼太君は、これからうちの部長になるから。内田君は課長。つまり、蒼太君は君の上司になるからね」

「な、んで…どういうことですか?」

「蒼太君に部長として我が社を引っ張っていってほしいって、私の方からお願いしたんだよ」

内田は納得がいかない様子だった。その内田に、大谷さんは説明を続ける。

「内田君もプログラマーの榑橋くれなら、柏徹也の名前は聞いたことがあるだろう?」

「もちろん!柏徹也って言ったら、業界じゃ知らない人がいない天才ですよ!」

「蒼太君はね、徹也君の息子なんだよ」

「まさか…!」

内田が言葉を失う横で、俺は密かに胸を張っていた。天才と言われる父の名前を、この東大卒の男が知っていること自体が、正直誇らしかった

「そして徹也君は、うちの社員だったんだ。部長として、うちの中心になって活躍してくれていたんだよ」

そう話す大谷さんの声は、少し寂しげだった。

「しかし、徹也君は重い病気になってしまってね…体に障害を負ってしまったんだ。そのことは内田君も知ってるだろう?」

「はい…」

「でも彼には息子がいた。それが蒼太君だ。蒼太君は子供の頃からお父さんにプログラミングを教わっていてね。中学生の頃には、お父さんの仕事を手伝えるまでになっていたんだよ」

「中学生で…ですか?」

「そう。それが何を意味するかは、内田君にも分かるだろう?つまり彼も相当な天才だ」

「天才なんて、ほどじゃ…」

思わず照れてしまう。

大谷さんは構わず続けた。

「それでね、蒼太君は高校生のパートでありながら、社員の仕事を補佐していたんだよ。れどころか、教える立場になることもあったんだ」

「ああ…」

「プログラミングの知識、それに人に教える能力。れらが揃った蒼太君には、お父さんのように部長として会社を引っ張っていってほしいって、私の方からお願いしたんだよ。文句あるかい?」

「い、いえ…ありません」

内田は力なく頷いた。すると大谷さんは、何かを思い出したように俺の顔を見て言った。

「そうだ…って天才蒼太!」

その呼び名に、思わず笑みがこぼれた. 高校生の頃、ここでパートとして働きながら色んなプログラミングコンテストに出場し、一時期たくさんの賞をもらっていた。コンテストに出れば必ず入賞する俺は、教会で「天才蒼太」の名前で呼ばれるようになっていたのだ。まさか内田がそれを知るとは思わなかったが…

すると、内田が急に立ち上がり、深く頭を下げてきた。

「本当に申し訳ありませんでした!あなたがまさか、あの天才蒼太だとは知らず…。自分は上司に対し、不届きな態度を取りました。重過ぎるとは思いますが、降格なり謹慎なり、処分は受けます!」

「いえ、そんな…いいですよ。知らなかったんですから、しょうがないです」

「しかし…」

「でもそれより内田さん、これから俺と力を合わせて、この会社のために働いてくれますか?」

「もちろんです!俺にできることなら、何でもやらせていただきます!」

「よろしくお願いします」

そして二人で握手を交わした。大谷さんは、笑顔で見守ってくれていた。

「じゃあ…まず焼きそばパン買ってきます!」

内田が真剣な顔で走り出そうとしたので、慌てて引き止める。

「いいです!冗談ですから!」

俺と大谷さんは、思わず笑ってしまった。しかし、その様子を見て、きっとこの人は会社のために実直に働いてくれるだろうと思った。

俺は社長や他の社員さん、内田さんたちと共に、父さんがいた頃よりも、もっと立派な会社にすべく、頑張っていこうと心に決めた。

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