「嫌なら出て行ってもらえますか?」——同居初日、荷物も片付かないうちに、嫁の莉絵が私にそう言い放ったんです。私は六八歳、長年住んだ家を売り、千五百万円を頭金として渡して、息子夫婦の新居に引っ越してきたばかりでした。「年金の振り込み口座を、私たちに変更してください」それが、新居に着いて最初に言われた言葉でした。しかも、断れば「役立たずのばあさんはいらない」と。食事は台所の残り物、部屋は四畳半の…

「嫌なら出て行ってもらえますか?」——同居初日、荷物も片付かないうちに、嫁の莉絵が私にそう言い放ったんです。私は六八歳、長年住んだ家を売り、千五百万円を頭金として渡して、息子夫婦の新居に引っ越してきたばかりでした。「年金の振り込み口座を、私たちに変更してください」それが、新居に着いて最初に言われた言葉でした。しかも、断れば「役立たずのばあさんはいらない」と。食事は台所の残り物、部屋は四畳半の...

朝の光が新居の窓から差し込む中、私はまだ段ボール箱すら片付いていない玄関に立っていました。つい一時間前、長年住み慣れた家を売り、息子夫婦との新しい生活を始めるためにここへ来たばかりです。「お母さん、大事な話があります」リビングのソファに座るよう促され、息子の健二と嫁の莉絵が向かいに腰を下ろしました。てっきり生活のルールの説明かと思ったら、莉絵が差し出したのは一枚の紙でした。年金振り込み口座の変更届けです。「今すぐ記入してください。お母さんの年金、月18万円でしたよね。それを私たちの口座に振り込むように手続きしてください」あまりに唐突な要求に言葉を失う私に、莉絵は当然のように続けました。「同居するなら当然でしょう。生活費として管理させてもらいます」「でも私の老後の蓄えは…」「お母さんにお金なんて必要ないでしょう」健二も頷きます。「母さん、素直に従ってよ。れが我が家のルールなんだ」私には私の考えがある——そう言いかけた時、莉絵が吐き捨てるように言ったのです。「嫌なら出て行ってもらえますか? 」

その言葉に私は凍りつきました。まさか同居初日に、こんな言葉を投げつけられるとは。

半年前のことです。夫の清が救急搬送され、そのまま帰らぬ人となりました。人一人になった私を心配した健二が言ったのです。「母さん、一緒に住もう。新しい家を建てるから」その優しい言葉を信じ、私は住み慣れた家を売却しました。その代金1500万円を息子夫婦に渡したのです。「これで頭金にするよ。母さんありがとう」あの時の健二の笑顔だけを信じていました。家族三人で幸せに暮らせると。

それなのに、新居に着いて最初に言われたのが年金の要求でした。しかも断れば出ていけと。「お母さん、聞いてますか? 」莉絵の声で現実に引き戻されました。「あの1500万円は家の頭金でしょう。それとこれとは別です」「母さん、もう決まったことなんだ。年金の件よろしく頼むよ」二人は当然のような顔で私を見つめています。私の心の中で、何かが音を立てて崩れていくのを感じました。

莉絵は立ち上がり、キッチンからお茶を持ってきました。ただし自分と健二の分だけです。「お母さんのお茶は自分で入れてくださいね。母乳さん使いじゃないので」その言葉に私は驚きを隠せませんでした。「莉絵さん、私たち家族でしょう? 」「家族?

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」莉絵は鼻で笑いました。「家族ならなおさら年金を渡すべきじゃないですか」「そうだよ、母さん。家族なんだからお金は共有だろ」でも老後の医療費とか——「保険証があれば十分でしょう。それにお母さんって健康じゃないですか? 」「今は健康でも、いつ何があるか…」「その時はその時です」莉絵はあっさりと言い切りました。「大体、老人がお金を持っていても使い道がないでしょう。それより私たちが有効活用した方がいいんです」有効活用——ローンの返済とか、車の買い替えとか、春菜の習い事とか…。五歳の孫娘の名前が出て、私は少し考えました。確かに孫のためなら、と思いかけた時、莉絵の次の言葉で気持ちが覚めました。「それに私だって欲しいものがあるんです。ブランドバッグとかエステとか。私の年金で当然でしょう」お母さんを養ってあげるんですから「養う? 」私は耳を疑いました。「私、自分の生活費くらいは…」「何言ってるんですか? 」健二が口を挟みました。「住む場所も食事も全部俺たちが提供するんだぞ」「でもこの家の頭金は…」「それは投資だろ」健二の言葉に私は言葉を失いました。「母さんだってこの家に住めるんだから十分得だろうが」

「そうそう。お母さんの部屋、見ました?

案内しますね」家に連れられて二階に上がりました。一番奥の北向きの部屋でした。「ここです」ドアを開けると、四畳半ほどの狭い部屋。窓は小さく、昼間なのに薄暗い。「ちょっと狭いかもしれませんけど、老人には十分でしょう」「これが私の部屋? 」「文句あるんですか? 」莉絵の声が険しくなりました。「南向きの広い部屋は私たちのものです。当然でしょう」階段を降りながら、莉絵は家事についても説明し始めました。「それから、家事は全部お母さんの担当です。掃除、洗濯、料理、買い物、全部です」「でも私も六八歳で…」「まだまだ元気じゃないですか? それにただで住まわせてもらうんだから、それくらい当然です」リビングに戻ると、健二が追加しました。「あとは春菜の世話もよろしく。保育園の送り迎え、習いごとの送迎、全部頼むよ」

まるで無料の家政婦扱いです。「ちょっと待って。私も人間よ」「何か文句があるの?

」莉絵が声を荒げました。「お母さん、勘違いしないでください。ここは私たちの家です。私たちがルールを決めるんです」「でも、嫌なら出て行って——さっき言いましたよね」また同じ言葉を投げつけられ、私は黙るしかありませんでした。「それから、食事のことですけど」莉絵はさらに続けました。「私たちは食卓で食べますが、お母さんは台所でお願いします」「なぜ? 」「だって、食事中におばあちゃんがいたら気を遣うじゃないですか」「おばあちゃん…」まるで他人のような呼び方に胸が痛みました。「春菜にもそう教えてあります。バーバじゃなくて、おばあちゃんって」「健二も同調します。母さん、あまり春菜に甘い顔しないでよ。教育に良くないから」まるで私が孫に悪影響を与える存在のような言い方でした。「あ、そうそう」莉絵が思い出したように言いました。「友達を呼ぶ時は、お母さんは部屋から出ないでくださいね」「どうして? 」「だって恥ずかしいじゃないですか」「恥ずかしい…? 」「貧乏臭い格好したおばあちゃんがうろうろしてたら、友達に笑われちゃう」「明日からエプロンでも着てください。家政婦らしく」家政婦——その言葉が胸に突き刺さりました。「お母さん、返事は?

」「…はい」小さく答えると、莉絵は満足に頷きました。「よろしい。じゃあ年金の書類、夕食までに記入しておいてくださいね」

二人はリビングを出ていきました。一人残された私は、震える手でカップを握りしめました。これが私の新しい生活。息子と孫と暮らせるはずだった夢が、まるで奴隷のような扱いに変わった。でも私には行く場所がありません。家は売ってしまったし、貯金も残りわずか。年金だけが頼りなのに、それも取り上げられようとしている。窓の外を見ると、立派な庭が広がっていました。この家のために、私は全てを失ったのでしょうか? いいえ、まだ失っていないものがあります。私は静かに立ち上がり、バッグから携帯電話を取り出しました。

夕方六時、家に呼ばれて台所に向かうと、食卓には豪華な夕食が並んでいました。ローストビーフ、エビのグラタン、新鮮なサラダ——いい香りが漂っています。「美味しそう…」私が思わずつぶやくと、莉絵が振り返りました。「これは私たちの分です。お母さんのはそこ」台所の隅にある小さなテーブルを指差しました。そこには昨日の残り物らしい冷えた味噌汁と、硬くなったご飯、そして漬け物が置かれていました。「これが私の夕食? 」「文句あるんですか? 食べられるだけありがたいと思ってください」健二と春菜が食卓に着きました。「わあ、ご馳走!

」春菜が嬉しそうに声をあげます。「ママ、おばあちゃんは? 」「おばあちゃんは向こうで食べるのよ」「で、おばあちゃんは家族じゃないからよ」莉絵の言葉に、私は息を飲みました。「そうなの? 」春菜が不思議そうに私を見ます。「そうよ。おばあちゃんはお手伝いさんなの」「ふん」五歳の孫は、あっさりと納得してしまいました。

私は冷たい残り物を口に運びながら、楽しそうな家族の会話を聞いていました。まるで透明人間になったような気分でした。

「春菜、明日は英語教室よ」「やった! 」「おばあちゃんが送ってくれるから」健二が付け加えました。「でも教室の中には入らないでもらって。他のお母さんたちに合わせたくないから」「なぜ?

」と聞く前に、莉絵が説明しました。「だってみんな若くて綺麗なお母さんたちなのよ。こんな貧乏臭いおばあちゃんがいたら、春菜が恥ずかしい思いをするでしょう」「ママの言う通り」春菜も同調します。「おばあちゃん貧乏なんでしょう? 」「春菜ちゃんだってママが言ってた、貧乏おばあちゃんだって」子供の無邪気な残酷さが、私の心をえぐりました。

食事が終わると、私は食器を片付け始めました。「お母さん、ちゃんと洗ってくださいね。私、汚い食器使いたくないから」莉絵はそう言い残してリビングへ行ってしまいました。食器を洗いながら、私は考えていました。なぜこんなことになってしまったのか。千五百万円も渡して、息子家族のために尽くしているのに。洗い物を終えてリビングを通ると、三人でテレビを見ていました。「おばあちゃん」春菜が私を見て言いました。「あっち行って」「テレビ見てるから」「春菜ちゃん、おばあちゃんも一緒に…」「やだ、おばあちゃん臭いもん」私は凍りつきました。「そうよ」春菜の言う通り、莉絵が娘を褒めました。「おばあちゃんは自分の部屋に行ってなさい」「でもまだ七時で…」「うるさいわね」健二が嫌だったように言いました。「母さん、空気読んでよ。俺たち家族の時間なんだから」家族の時間——私は含まれていないのです。とぼとぼと二階の実質に向かいました。狭い部屋に入ると、涙がこぼれてきました。これが私の老後。息子と孫と幸せに暮らすはずだったのに、まるで下僕以下の扱い… ドアをノックする音がしました。「お母さん」莉絵の声です。「はい」ドアを開けると、莉絵が書類を持って立っていました。「年金の変更届け、まだでしょう? 今すぐ書いて」「莉絵さん、もう少し考えさせて…」「何を考えるんですか?

」莉絵の顔が険しくなりました。「まさか拒否するつもり? 」「いえ、でも…」「じゃあ、明日の朝一番に出て行ってもらいます」「え? 」「だって、役立たずのばあさんを置いておく義理がないでしょう? 年金も渡さない、家事もまともにできない…」「家事はちゃんと…」「黙って!

」莉絵が声を荒げました。「いいですか? ここにいられるのは私たちの慈悲なんです。感謝しなさい」「慈悲…? 千五百万円も出して、家事も全部やって…」「それに」莉絵は冷たく笑いました。「お母さんが出て行っても、誰も困らないのよ。二も春菜も私も」その言葉が私の心に深く突き刺さりました。「むしろ、いない方が清々するかもね」莉絵は書類を押し付けました。「十分以内に書いて、下に持ってきて。できなければ荷物まとめて出ていって」そう言い残して、莉絵は去っていきました。

私は書類を見つめました。これにサインすれば、私は本当に無一文になってしまう。でもサインしなければ、今夜にでも追い出される。その時、ふと気づきました。家も健二も、私のことを何も知らない。私がただの貧乏な老人だと思い込んでいる… 私は静かに微笑みました。「そろそろ潮時ね」小さく呟いて、私は携帯電話を取り出しました。

「相原先生ですか?

持月です。準備はできていますか? 」「はい、全て整っています。いつでも実行できますよ」「明日の朝一番でお願いします」「承知しました。それにしても、息子さん夫婦はまだ気づいていないんですね」「ええ、私が持月財閥の後取り娘だということも、この家の本当の所有者が誰かということも」電話を切った後、私は古い写真を取り出しました。若い頃の私と、持月グループの創業者である父が写っています。望月詩——それが私の本名です。日本有数の財閥である望月家の一人として生まれ、莫大な資産を相続しました。でも夫の清と出会い、彼の「普通の生活がしたい」という願いを受け入れ、一般人として生きることを選んだのです。父から相続した資産は、今も手つかずで残っています:現金、株式、不動産を合わせると、五億円を超える額です。でも私はそれを隠し、清と静かな生活を送ってきました。健二にも私の正体は教えていません。「普通の家庭で普通に育って欲しかった」から。ところが、その結果がこれです。私は苦笑しました。力を見せつけるのは好きではありませんが、もう我慢の限界です。

次に、私は別の番号に電話をかけました。「社長室です」「持月です。明日、臨時株主総会を招集してください」「承知いたしました」「議題は、社長の交代についてです」電話の向こうで驚きの声が上がりました。実は、健二が勤めている会社は、持月グループの子会社の一つ。そして私はその会社の筆頭株主なのです:もちろん名義は隠していますが、健二は自分の実力で出世したと思っているでしょう——実際は、私の息子だからこそその地位にいられたのです。それからもう一つ、私は念を押しました。「この家の登記を確認してください」「はい…あ、これはどうなっていますか? 土地、建物、全て持月詩子様の名義になっております」「そうです。私が裏から手を回していたのです」息子夫婦は知りませんが、この家を購入する際、千五百万円は確かに頭金として使われましたが、残りの三千五百万円は私の会社が肩代わりし、そして名義も私に移していました。つまりこの家の本当の所有者は私なのです。莉絵たちは自分たちの家だと思い込んでいますが、実際は私の家に居候しているに過ぎません。

明日、全てを明らかにします。私は決意を固めました。

部屋のドアが乱暴にノックされました。「お母さん、まだなの? 」莉絵の苛立った声です。私は年金変更届けを手に取り、ドアを開けました。「これですか?

」「そうよ。早く書いて」「分かりました。でも、一つ確認があります」「何? 」「私が年金を渡さなければ、本当に出ていけと? 」「当たり前でしょう」莉絵は腕を組みました。「役立たずはいらないの? 」「そうですか」私は書類をビリビリと破りました。「何してるの?

」莉絵が叫びました。「決めました。出ていきます」「はあ? 」莉絵の顔がみるみる赤くなりました。「本気? 行くところなんてないくせに」「それは私の心配です」「健二、ちょっと来て! 」呼び声で健二が二階に上がってきました。「どうした?

」「お母さんが出ていくって」「健二は私を見て鼻で笑いました。「母さん、虚勢はやめなよ。どこに行くんだ? 」「それは明日のお楽しみです」「明日? 」「ええ、明日の朝、きちんとお話しします」私は二人の前を通り過ぎ、階段を降りました。「待てよ」健二が追いかけてきました。「母さん、考え直せ。今謝れば許してやる」「謝る? 」私は振り返りました。「健二、あなたこそ謝ることがあるんじゃない?

」「はあ? 俺が? 」健二は呆れたような顔をしました。「母さんを住ませてやってるのに」「その言い方、清さんが聞いたら悲しむわね」亡き夫の名前を出すと、健二が少し怯みました。「とにかく、明日の朝八時、リビングに集まってください」「なんで俺たちが? 」「大切な話があります。あなたたちの将来に関わることです」私は意味深に微笑みました。莉絵と健二は顔を見合わせました。「まさか、遺産とか…?

」莉絵の目が輝きました。「もしかして、株とか資産があるの? 」やはりこの二人は、金のことしか頭にないようです。「明日のお楽しみです」私はそれだけ言って、実質に戻りました。

部屋に入るとすぐに、準備を始めました。明日、全てが変わります。この家の本当の所有者は誰なのか、思い知らせてあげましょう。窓の外を見ると、星が輝いていました。「清さん、見ていてください」私は静かに微笑みました。「息子に、本当の現実を教えてあげますから」

翌朝八時、リビングに莉絵と健二、そして春菜が集まっていました。「で、何の話? 」莉絵が苛立たしそうに聞きました。「まさか本当に出ていくつもり? 」「ええ、出ていきます」私の言葉に、莉絵は勝ち誇ったような笑みを浮かべました。「やっぱりね、どうせ行くところもないくせに強がっちゃって」「健二も同調します。母さん、もう謝っても遅いからな」「謝る?

誰が誰に? 」私は落ち着いた声で聞き返しました。「決まってるだろ。母さんが俺たちに」「その前に、一つ質問があります」「なんだよ」「この家の所有者は、誰だと思っていますか? 」「莉絵が即座に答えました。「私たちに決まってるでしょう。ローンも私たちの名義だし」「そうですか」私はバッグから一枚の書類を取り出しました。「では、これをご覧ください」「何これ? 」莉絵が書類を受け取り、目を通し始めました。次第に顔色が変わっていきます。「嘘…」「どうした?

」健二が覗き込むと、彼の顔も青ざめました。「不動産登記簿… 所有者… 持月詩子… 」「はい」私は頷きました。「この家の所有者は、私です」二人は呆然と書類を見つめていました。「で、でもローンは俺たちが…」「ローンはすでに完済されています」私の会社が肩代わりしました。「会社?

」その時、玄関のチャイムが鳴りました。「失礼します」相原弁護士が入ってきました。「おはようございます、望月様」「相原先生、ご苦労様です」莉絵と健二は、突然現れた弁護士に戸惑っていました。「なんで弁護士が…? 」「説明していただけますか? 相原先生」相原弁護士は書類を広げました。「まず、この不動産について説明します。確かに頭金千五百万円は健二様が支払いましたが、残りの三千五百万円は持月コーポレーションが支払い、同時に所有権も持月詩子女様に移転されています」「持月コーポレーション…? 」健二が震える声で聞きました。「まさか、あの持月財閥の…

」「はい」相原弁護士は頷きました。「そして望月詩子女様は、持月グループの会長です」莉絵のカップが手から滑り落ち、床に散らばりました。「嘘でしょ? 」「本当です」私は立ち上がりました。「私は持月財閥の後取り娘。総資産五億円を超える資産を持っています」「健二は口をパクパクさせて、言葉が出ないようでした。「で、でも母さんは… ただの… ただの貧乏な老人…

」「私は苦笑しました。「あなたたちがそう思い込んでいただけです」相原弁護士が続けました。「さらに、健二様の勤務先である東洋商事は、望月グループの子会社です」「え? 」「そして望月様は、東洋商事の筆頭株主でもあります」健二の顔が真っ青になりました。「ということは… あなたの地位は… 私の一存で決まります」私は冷たく言い放ちました。「莉絵が叫びました。「なんで黙ってたんですか?

」「黙っていた? 」私は眉を上げました。「あなたたちこそ、なぜ私のことを確認しなかったの? ただの貧乏な老人だと決めつけて、年金を奪い、家事を押し付け、部屋に閉じ込め——挙句の果てには『嫌なら出てけ』ですから」「私の声が鋭くなりました。「千五百万円も援助してくれた人に対して、同居初日にする仕打ちですか? 」春菜が泣き出しました。「ママ、どうしたの?

」莉絵は娘を抱きしめながら、必死に弁解しました。「で、でも知らなかったんです… 知らなかった… 」「私は冷たく笑いました。「知っていたら態度を変えていたということですね」莉絵は言葉に詰まりました。「先生、手続きをお願いします」「承知しました」弁護士は新たな書類を取り出しました。「まず、この家からの退去通告です。所有者である望月様の意により、一週間以内に退去していただきます」「そんな! 」健二が立ち上がりました。「母さん、待ってくれ…

」「昨日、あなたは何と言いました? 」私は健二を見据えました。「『謝っても遅い』と言いましたね」健二は唇を噛みました。「それに」相原弁護士が続けました。「東洋商事の臨時株主総会において、健二様の降格が決定されました」「降格? 」「はい。本日付けで部長職を解任し、一般社員となります」健二は膝から崩れ落ちました。「そんな… 母さん…

ひどい… 」「ひどい? 」私は立ち上がりました。「同居初日に年金を奪おうとし、家政婦扱いし、『家族じゃない』と言い放った人が、よく言えますね」莉絵が土下座しました。「お母様、申し訳ありませんでした! 」「急に様付けです」私は冷たく言いました。「現金なものですな」「謝ります!

全部謝ります! だからどうか… 」「受け取りません」私は冷たく言い切りました。「あなたたちは、私を金づるとしか見ていなかった。それがよくわかりました」「違います! 」莉絵が必死に否定しました。「じゃあ、なぜ年金通帳を?

」莉絵は答えられませんでした。「なぜ私を家政婦扱いしたの? それはなぜ、『嫌なら出てけ』と? 」一つ一つ問い詰められるうちに、莉絵も健二も何も言えなくなりました。「お母様、お願いです」健二が頭を下げました。「せめて、この家だけは… 」「無理です」私はきっぱりと断りました。「私の家に、私を侮辱した人間を住ませる理由がありません」春菜が泣きながら言いました。「おばあちゃん…

ごめんなさい… 」孫の涙に、少し心が痛みました。でももう決めたことです。「春菜ちゃん、おばあちゃんは、貧乏おばあちゃんなんでしょう? 」春菜は首を振りました。「違う… おばあちゃんは…

すごい人… 」「今更ね」私は相原弁護士に目配せしました。「退去期限は一週間です。それまでに出ていかなければ、法的措置を取ります」「お母様! 」莉絵が私の足にすがりつきました。「お願いです! もう一度チャンスを!

」「チャンス? 」私は莉絵を見下ろしました。「昨日、あなたは言いましたね。”役立たずのばあさんはいらない”と」莉絵の顔が青ざめました。「あれは… その本心でしょう」私は莉絵の手を振り払いました。「五億円の資産があると知った今、態度を変えても遅いのです」健二が最後の抵抗をしました。「でも母さんも、僕たちを騙してた… 」「騙した?

」私は息子を見つめました。「私は一度も嘘はついていません。ただあなたたちが勝手に思い込んだだけです」「穴の根も出ないとは、このことでしょう」私は相原先生に頷きました。「先生、私は今日でここを出ます」「承知しました。ホテルの手配は済んでおります」私は階段を上がり、荷物をまとめ始めました。後ろから莉絵と健二の鳴き声が聞こえてきます。でももう振り返りません。「嫌なら出てけ」——その言葉が、そっくりそのまま帰ってきただけです。

三ヶ月後、私は都心の高級マンション最上階から、東京の景色を眺めていました。「望月様、お茶をお持ちしました」家政婦の田中さんが優雅にティーセットを運んできます。「ありがとう、田中さん」「今日もいいお天気ですね」「本当に清々しい朝だわ」私は窓際のソファに座り、ゆったりとお茶を楽しみました。あの狭く暗い部屋とは、雲泥の差です。携帯電話が鳴りました。相原弁護士からです。「望月様、ご報告があります」「どうぞ」「健二様夫婦の件ですが、予定通り先月末に退去されました」「そう」「現在は、莉絵様の実家に身を寄せているようです」「莉絵の実家は、小さな二DKのアパート——あの豪華な一軒屋とは比べ物になりません」「健二様の仕事は一般社員として働いていますが、かなり苦労されているようです」「部長から一般社員への降格、プライドの高い健二には相当な屈辱でしょう」「収入も三分の一になり、生活は困窮しているとのことです」「自業自得ね」私は冷たく言いました。「それから」相原弁護士が続けました。「莉絵様はパートを始められたそうです」「ブランドバッグやエステどころか、日々の生活費を稼ぐのに必死なようです」「一度、健二様から連絡がありました」「なんと… もう一度会って謝りたいと」「私は鼻で笑いました。「断ったのでしょうね」「はい、望月様のご指示通り、面会を拒否しました」

その時、玄関のチャイムが鳴りました。「失礼します」田中さんがインターホンを確認します。「望月様… 春菜様という小さなお嬢様が… 」「孫が一人で?

」「通してください」しばらくして、春菜が恐る恐る入ってきました。以前の生意気な態度はどこにもありません。「おばあちゃん… 」「春菜ちゃん、一人で来たの? 」「うん… ママには内緒」春菜は俯きながら、小さな手紙を差し出しました。「これ…

おばあちゃんに」手紙を開くと、たどたどしい文字で書かれていました。「おばあちゃんへ。んなさい。んぼうおばあちゃんなんて言って、んなさい。おばあちゃんは世界で一番すごい人でした。う一度会いたいです 春菜より」私の目頭が熱くなりました。「春菜ちゃん… 」「おばあちゃん、本当にごめんなさい」春菜は泣き出しました。「ママがね、『おばあちゃんはお金持ちだから優しくしなさい』って言ったの… でも違うよね… 違うって…

」「おばあちゃんは、お金持ちだからすごいんじゃない」私はそう言って、春菜を抱きしめました。「優しくて、強くて、正しいから、すごいの」五歳の孫が必死に理解しようとしている姿に、心を打たれました。「今、どんな生活してるの? 」「狭いお家で… ママはいつも泣いてる… パパも元気ない…

」「そう… 」「学校の友達にも、貧乏になったって言われる」皮肉なものです。私を貧乏呼ばわりしていた彼らが、今は本当に貧しい生活を送っている。「春菜ちゃん、おばあちゃんに会いたかった? 」「うん… 毎日会いたかった…

」「じゃあ、月に一度だけ会いましょうか」春菜の目が輝きました。「本当? 」「ただし、条件があるの」私は春菜の目を見つめました。「人をお金で判断しちゃだめ。貧乏でもお金持ちでも、みんな同じ人間なの」「うん… 」「それから、お母さんとお父さんの言うことだけじゃなくて、自分で考えること」「分かった」春菜を見送った後、私は一人考えていました。息子夫婦の失墜を見て、感慨はありました。「嫌なら出てけ」と言った人間が、自分たちが出ていく羽目になった。これ以上の痛烈な結末はありません。でも、春菜のような罪のない子供まで苦しむのは、本意ではありません。

数日後、相原弁護士を通じて健二に連絡を取りました。「条件付きで、援助を考えてもいい」電話の向こうで、健二が息を飲む音が聞こえました。「本当ですか? 母さん?

」「条件を聞きなさい」私は厳しく言いました。「まず、春菜の教育費——月十万円を信託で設定します」「それだけでも助かります… 」「ただし、あなたたちは一切手をつけられません。春菜の教育にのみ使用されます」「はい… 」「それから」私は一呼吸おいて言いました。「莉絵さんと離婚しなさい」「え? 」健二が驚きの声をあげました。「金銭目的で結婚し、金銭で人を判断する女性と一緒にいても、春菜のためになりません」「でも…

」「これが条件です。受け入れられないなら、援助はしません」長い沈黙の後、健二が答えました。「… 分かりました… 考えさせてください」

その後、健二夫婦は激しく言い争い、結局離婚することになったと聞きました。莉絵は慰謝料も養育費も取れず、実家に戻ったそうです。「人を金で判断した報いね」私はつぶやきました。今、私は本当に自由です。多くの資産があり、誰にも指図されず、誰からも軽蔑されることもない。時々、春菜が遊びに来ます:以前とは違い、礼儀正しく、思いやりのある子に成長しています。「おばあちゃん、小学校でね、友達が『お金持ちになりたい』って言ったの」「そう」「でも私は言ったの。『それより正しい人になりたい』って」「偉いわね、春菜ちゃん」「だっておばあちゃんが教えてくれたもん」健二もたまに手紙を送ってきます。「母さん、あの時は本当に申し訳ありませんでした。金に目がくらみ、母さんの愛情を踏みにじりました。今は一人で暮らし、一から出直しています。いつか母さんに認めてもらえる息子になれるよう、頑張ります」認める日が来るかどうかは分かりません。でも、少なくとも気づいたことは評価できます。

私の物語はここで一区切りです:同居初日に「嫌なら出てけ」と言われ、年金を奪われそうになった老人が、実は五億円の資産家だった——そして傲慢な息子夫婦に完璧な仕返しをした。これは復讐ではありません。正義の実現です。人を軽視し、金だけで判断する者は、必ず自分も同じ目に合います:これが世の中の定理なのです。もしあなたも家族から理不尽な扱いを受けているなら、諦めないでください:あなたにも、隠された力があるかもしれません:そして何より大切なのは、自分の尊厳を守ること——年を取っても、お金がなくても、人として尊重される権利があるのです।私は今、本当に幸せです:真の勝利とは、相手を打ち負かすことではなく、自分の尊厳を守り抜くことなのですから。