「お母さん、あなたがいなくても誰も困らないんだから。」
姑の笑い声が、バーベキューの煙と一緒にぐるぐると頭の中を回っていた。義兄の嫁である義姉は、優雅に椅子に座ってスマホをいじりながら、写真を撮るために私に「どいて」と言う。
夫の啓介は、汗だくで野菜を焼いている。私はキッチンと庭を何度も往復しながら、肉を串に刺し、野菜を切り、焼けたものを運ぶ。私の子供たちの皿に乗っているのは、網の端っこで焦げた野菜の切れ端だけ。長男夫婦の子供たちの皿には、次から次へと肉が運ばれていく。
「ほら、もっと容量よく焼かないと肉が足りないぞ。」
義兄が焼き肉を頬張りながら、啓介に指示を飛ばす。姑は私に好き勝手な指示をまくしたてる。さすがの啓介も我慢の限界に達し、姑に抗議した。
「母さん、さすがにやりすぎだろ。バーベキューに呼んでおいて、うちの子にこんな野菜の切れ端ばかり渡さないでくれよ。」
姑は目を釣り上げて怒鳴り返す。
「なんですって。食べさせてやってるだけでありがたいと思いなさい。この食材は誰のお金で揃えていると思っているの?」
その光景を見て、私の腹の底で何かが切れた。
「ですがお母さん、私の助けがなければその話は成り立たないんじゃないんですか?」
私の反論を、姑は心底馬鹿にしたように鼻で笑った。
「肉や野菜を切っているだけで何を偉そうなことを言ってるの?これだから次男のお嫁さんになるような人は。あなたなんかいてもいなくても何も変わらないわよ。」
義姉も困ったような顔を作ってため息をつく。義兄もまるで子供に言い聞かせるように言った。
「次男夫婦が出しゃばってくると、せっかくの楽しい場も白けるんだよ。」
私は彼らの顔を見ずに、姑に最後の確認をした。
「じゃあ、私はいなくても平気なんですね。」
「は?帰りたいの?結構よ。さっさと帰りなさい。誰も引き止めないから。あなたがいなくても誰も何にも困らないわよ。」
私は夫と子供たちに向かって静かに言った。
「それじゃあ、みんな帰りましょうか。」
子供たちもさすがに今日の扱いに耐えかねていた。誰も何も言わず、皿を置いて、私たちはさっさと義実家を後にした。車に乗り込みながら、私は心の中で固く誓った。
私がいなくて困らないですって。ええ、やってやろうじゃないの。私の手助けなしで、あなたたちがどこまでその豊かな暮らしを続けられるのか、じっくり見させてもらうわ。
あの日から一ヶ月が経った。私たちは義実家とは一切連絡を取らず、穏やかな休日を過ごしていた。今まで無理に仲良くしなきゃと思っていたけど、関係を絶つことがこんなに快適なんて。あの時決断してよかった。
せっかくだから次の長期休暇での旅行の計画でもゆっくり立てようかと話していると、家のインターホンが鳴った。ドアを開けると、そこには大慌ての義兄と義姉が立っていた。後ろから、事情がよく分かっていない様子の姑も不満げな顔でついてくる。
「あら、おかしいですね。うちには用はないと思ってましたけど。」
私が笑うと、姑がまず口を開いた。
「何よ、次男の嫁が調子に乗って。わざわざ来てやったというのに。」
「まあまあ母さん、今はそういうのいいから。」
義兄が姑を制する。私は彼らをリビングに案内した。対面して座ると、義兄は作り笑いを浮かべ始めた。
「いやあ、みささん、啓介。この前のバーベキューは俺たちが悪かった。本当にすまない。だから、そのお詫びと言ってはなんだが、やり直しをしようと思ってな。ちゃんともてなすから、明日あたりうちに遊びに来ないか?もちろん子供たちも一緒にさ。」
「そうなのよ。高級なお肉もたんまり用意したの。今度はみささんたち家族にたくさん食べて欲しいわ。」
義姉も必死にごまをするように媚びた笑顔を向けてくる。だけど、私たちの決意は固まっていた。
「もういいよ、兄さん。これまでずっと我慢してきたけど、あなたたちの態度はどこか超えている。俺たちは飯使いじゃないんだ。」
「ええ、子供たちもとても悲しい思いをしました。もうあのお家には行きたくないと言っています。ですから私たちとしては、もう絶縁させてもらったつもりです。」
私たちのきっぱりとした返事に、義兄と義姉の顔がさっと青くなる。
「そ、そんなこと言わずに、これからも仲良くしよう。啓介とはたった二人の兄弟だし。私たちが悪かったから。」
「あ、そうだ。今回のバーベキューには美味しいデザートもあるのよ。」
いい大人がデザートごときで釣られるか。
その時、今まで黙っていた姑が、ふんとした様子で口を開いた。
「浩司さん、幸さん、何次男夫婦なんかにペコペコしてるの?絶縁したいって言うなら勝手にさせればいいじゃない。この人たちは、こっちが親切にしてやったらやっただけ。あなたたちは優しすぎるのよ。」
姑は何も分からずにやって来たのだった。私は笑ってしまった。
「お母さん、お兄さんとお姉さんが必死に謝っているのは、優しさからなんかじゃありませんよ。私という便利な存在を失って、これからの自分たちの生活に困り始める予感がしてきただけですよ。」
私の言葉に、義兄と義姉はさらに顔を青くするだけだった。私は、まだ状況が理解できていない姑に向き直った。
「お母さん、少しお話よろしいでしょうか?」
私の静かな声に、姑は不機嫌そうに顔を上げる。
「お父さんが亡くなった後、残された民泊の事業はお兄さんが継ぎましたよね。」
私の確認に、姑は待ってましたとばかりに胸を張った。
「そうよ。長男の浩司があの人の民泊を立派に引き継いで、しっかり利益を上げてくれているわ。おかげで我が家は安泰。まさに一家の大黒柱よ。」
この人、本当に何も知らないのだ。亡くなった義父は、マンションの一室を部屋ごと貸す民泊を営んでいた。義兄が亡き義父の事業を継いだものの、予約は一切入らなくなり、経営は立ち行かなくなっていた。私は姑に尋ねた。
「お兄さんが継いだ途端、予約が一軒も入らなくなって経営が立ち行かなくなったことも、もう忘れたんですか?」
すると姑は顔を真っ赤にして怒る。
「当然覚えているわよ。浩司は民泊経営なんて初めてだったんだから、戸惑うのは当たり前じゃない。でもすぐにノウハウを掴んで、あっという間に軌道に乗せたわ。今では夫が経営していた頃よりずっと業績がいいのよ。」
「お母さん、その民泊が今軌道に乗っているのは、本来誰かがやるべきことの全てを、この私がやっているからです。」
私の言葉に姑は呆気に取られて口をパクパクさせている。その横で、義兄と義姉は気まずそうに床を見つめていた。
「お兄さんが継いでから、全く機能していなかった予約サイトの管理。海外から来るお客様との英語での予約受付や問い合わせ対応。宿泊中に起こるありとあらゆるトラブルへの対応。お客様が帰った後の清掃と備品の交換手配。そして自治体への届け出のような法務的な処理まで。それら全てを、私がオンラインで完結できるように管理システムを整えて運営していたんです。そうですよね、お兄さん。」
義兄は言葉に詰まる。プライドが高い彼は、姑には私がやっていることを言わなくていいと散々言ってきていたのだ。
「経営の名義はあくまでお兄さんですから、民泊の利益は全てお兄さんご夫婦の口座に入ります。私が報酬として受け取っていたのは、月一万円ちょっとのバイト代だけでした。」
「そ、そんな嘘でしょ。浩司は優秀な経営者で、うちの民泊だってレビューもすごくいいって言ってて。それが全部みささんの手柄だっていうの?」
私の暴露で、姑は動揺して汗をかいている。散々見下してきた次男の嫁に、まさか生活の全てを支えられていたなんて思いたくもないのだろう。私はそんな姑に追い打ちをかけた。
「バーベキューの日に、あなたなんていなくても誰も困らないとおっしゃいましたよね。ですから私は、それならと思って全ての業務から手を引いただけです。私が作った管理システムの使い方は、お兄さんもお姉さんもご存知のはずですよね。私はレクチャーまでして、何度もご自分たちで全てできるようになってくださいと言ったはずですけど。」
私の問いかけに、義兄と義姉は青ざめたまま言い訳を始める。
「いや、えっと、確かに使い方は聞いたような気もするけど。私はパソコンなんて全然わかんないんだから。そんなこと言われても。いきなり職場放棄なんて、大人として無責任がすぎるんじゃない?」
今まで静かに成り行きを見守っていた啓介が、静かに口を開いた。
「兄さん、姉さん。みさがどれだけの能力を使って経営していたかすら分かってないんじゃないか。みさは結婚前、大手ネット代理店でウェブマーケターとして働いていたんだ。どうすれば宿の予約が埋まるか、その道のプロ中のプロなんだよ。」
啓介はゆっくりと、しかし強い口調で続けた。
「兄さんたちはそんなみさの知識と技術を、この数年間ただ同然で使っていたんだ。いや、利用していたんだ。みさがお父さんの残した民泊だからって言うから、今まで黙って見ていたけど、もう俺も我慢の限界だ。事業を継いだのは兄さんなんだから、これからは自分でしっかりやってくれ。みさは何もシステムを使わせないと言ってるわけじゃないんだ。そのまま使っていいと言ってくれているんだから。あとは従業員でも雇ってちゃんと給料払えばいいだろう。」
夫の言葉に、義兄と義姉は弾かれたように顔を上げる。
「う、無理だよ。システムって言ったって、管理画面を見ても何がなんだかわけが分からないんだ。」
「そうよ。パソコンもだけど英語だってできないんだから、海外からのお客さんの対応なんてできるわけがないじゃない。みささんに戻ってきてもらうのが一番手っ取り早いのよ。」
義姉は今にも泣き出しそうな顔で私に向かって頭を下げ始める。
「頼むから、みささん。前みたいに助けてくれ。うちにいてパソコン触るだけで、俺たち一家を助けられるんだぞ。お願いだから。このままじゃ子供たちの飯も服も買えない。」
私は冷たく言い放った。
「私がこれまで無償同然で手伝ってきたのは、唯一優しかったお父さんが大切にしていたあの民泊が荒れていくのを見たくなかったからです。ただ、その一心でした。でも、あなたたちは一線を超えてしまった。私たちの頭上に土をかいて調子に乗りすぎたのよ。もう二度と、あなたたちに利益をもたらすような事業をする気はありません。」
「そ、そこをなんとか。」
なおも手を合わせて拝もうとする義兄に、私は問いかける。
「お兄さん、あのバーベキューで、今日は俺の奢りだとそう言いましたよね。そのお肉代が、私が家事や育児の合間を縫って必死に民泊の管理をしていた結果生まれたお金だと分かっていましたか?」
義兄は言葉に詰まって真っ赤な顔でうつむいた。すると、今まで黙っていた義姉が目に涙を浮かべながら私を睨みつけてくる。
「結局、お金なのね。みささんは、結局お金なのよ。」
「お金?どういうことでしょう?確かに私が受け取っていたのは、働きに見合わない金額でしたけど。」
私の言葉に、義姉はわざとらしく大きなため息をつくと、急に偉そうな態度になった。
「ふん、じゃあ月にそれなりの給料を払ってあげればやってくれるってこと?ああ、そういうことね。家族のために頑張れるような優しい心は、みささんにはなかったんだ。」
罪悪感を植えつけようとするような、ねっとりとした言い方だ。義兄も「兄貴」とばかりに不機嫌な態度に戻る。
「はあ、なるほどな。金で誠意を見せてみろってことか。こっちは親父が残した事業を守るっていう社会的責任を背負ってやってるってのによ。気安いもんだな。次男の嫁は。」
どこまでも変わらない人間性を持つ二人に、私は満面の笑みを浮かべて答えた。
「いいえ。お兄さんたちが何十億とお金を積んだとしても、もう二度とあなたたちのサポートをすることはありません。ありがたいことに、啓介は一流のホワイト企業に勤めていて、我が家は経済的に全く困っていませんから。」
「ええ。」
義兄と義姉の間抜けな声が重なった。今まで黙っていた啓介が、少し照れながら口を開く。
「ああ、本当にいい会社に就職できてありがたいよ。努力すればきちんと評価されるし、まとまった休みも取りやすいから家族との時間もきちんと取れる。今度、昇進も決まってるんだ。だから、みさと子供たちを金銭的に困らせることは絶対にないよ。」
その言葉に、義兄と義姉はわなわなと震え始めた。
「はあ?啓介が何を知ってるっていうんだ。俺は。」
「そりゃ兄さんは俺のことなんか全く興味なかったからね。就職を報告した時も、好き好んで社畜になるだなんて物好きだって笑ったよな。自分はその時、大学を留年中だったくせに。」
「うるさい。」
義兄は大学を何度も留年し、その後は会社を点々としていた。義兄にとって、姑の民泊を継ぐ話は渡りに船だったのだろう。だけど、この数年間働きもせずに得ていた収入が途絶えそうになったから、義姉と揃ってただ金を乞いに来ているというわけだ。啓介はそんな二人に向かって、今まで溜め込んでいたであろう怒りを静かにぶつけた。
「みさは事業をしているって言っただろ。兄さんたちがみさの才能にきちんと感謝して、最初から正当な報酬を払っていれば、こんなことにはならなかったんだぞ。」
しかし啓介の正論は彼らには全く響かない。
「何よ。私たちだって名義人として書類にサインしたり税金を払ったり、大変なことはやってきたわ。」
「そうだ。それにみささんにまともな給料なんて払ったら、俺たちの取り分が少なくなるだろうが。」
最後の最後まで、二人の口から出てきたのはどこまでも自分本位な言葉だけ。その姿を見て、私はこの人たちはもう救いようがないのだと心底軽蔑した。その時、今まで黙って話を聞いていた姑がぽつりと呟いた。
「じゃあ、啓介の方が浩司より出来が良かったってこと?今は、啓介の方が社会的地位も上なのね。」
その問いは、長男である義兄ではなく私に向けられていた。
「まあ、普通に言えばそうでしょうね。」
私が静かに頷くと、姑は大きなため息をついてから、信じられない言葉を口にする。
「なんだ、さっさと言ってくれればよかったのに。決めたわ。私、これからは啓介たちと同居するわ。収入がなくなる浩司にとっては、養う家族が一人減るのはいいことよね。」
その冷たい言葉に、今まで母親からの寵愛を一心に受けてきた義兄が、怒りに顔を歪ませた。
「なんでだよ、母さん!俺は啓介よりすごいんだぞ!啓介はたまたまいい企業に務めてるってだけだ。俺が本気を出せばもっとすごいんだからな。」
姑は、そんな苦しい言い訳を繰り出す息子を、冷めた目で見つめるだけだった。
「考えてみれば、浩司はいつも口先ばかりだったわね。幸さんも結婚以来一度も社会に出ていないから、今更当てにはできないでしょうし。そもそも、幸さんはみささんみたいに誇れるような立派な経歴もないものね。」
ここまで侮辱され、ついに義姉がブチ切れる。
「なんですって!よくもそんなことが言えるわね。私はずっとあなたとの同居が嫌だったのよ。あなたの機嫌を取りながら毎日耐えてきた私に向かって、その口の聞き方は何なの?出ていくって言うなら止めないわ。さっさと出ていきなさいよ。」
「まあ、なんて人なの?やっぱりあなたは根がきつい女だとずっと思っていたわ。」
嫁と姑の醜い言い争いが始まった。
「何がきつい女よ。あんただって口を開けば誰かの悪口愚痴のオンパレード。一緒にいるこっちが疲れるって言ってるの。」
「なんですって!調子に乗って。あなたもご近所の誰それのファッションがダサいだの車がしょぼいだの毎日言ってたじゃない。」
「それはあんたに合わせてやってただけでしょうが。その割には楽しそうだったじゃない。」
「そもそも、あなたそれでお友達が少ないんじゃない?幸さんが女友達をうちに招待したことって一度もないものね。」
姑の言葉で義姉がぐっと息を飲むと、姑は勝ち誇ったように私と啓介に向かってにっこりと微笑んだ。
「というわけです。みささん、これからよろしくね。」
けれど、私と啓介は顔を見合わせてから、お互いに目線だけで拒否を伝え合う。
「お断りします。どうしてうちに住めると思うんですか?びっくりですよ。」
私が言うと、啓介は隣で悲しそうに頷いた。
「母さん、自分のしてきたことを忘れたのか?俺たちはもうあなたたちとは縁を切ったつもりでいる。今まで通り、可愛くて出来のいい長男と引き続き一緒に暮らせばいい。」
その言葉に、姑は顔を真っ赤にして騒ぎ始めた。
「そんな!収入のない長男一家とこれから暮らしていけるわけがないわ。浩司はもう40代半ばよ。まともな再就職なんて難しいでしょうし、生活が困窮してしまうわ。お願いだから、あなたたちと同居させてちょうだい。」
姑は今にも泣き出しそうな顔で私たちを拝み倒してきた。しかし、私たちの心はもう動かない。
「手遅れです。私たちは、お母さんが言うところの出来の悪いぼんやりした次男夫婦ですから。あなたのような賢い方の考えることはよく理解できません。申し訳ありませんが、さっさと出ていってください。」
私のきっぱりとした拒絶に、姑はついにその場にへたり込んだ。なおも「お願い、見捨てないで」と懇願する姑。その横で、顔面蒼白のまま立ち尽くしていた義兄が、震える声で私たちに訴えかけてきた。
「みささん、啓介、俺たちが悪かったのは認める。でも、家族だろう?少しは助けてくれるのが当たり前じゃないか。このままじゃ、俺たち本当に路頭に迷うんだぞ。」
「そうよ。お願い。私も浩司さんがこんなに無計画だなんて知らなかったの。私も被害者なのよ。だから助けて。もう二度とみささんの悪口なんて言わないから。これからはあなたの言うことなんでも聞くから。だから、民泊の仕事、戻ってきてちょうだい。」
「嫌ですって言ってますよね。路頭に迷わないで済むよう、自分で努力してください。」
私の冷たい返事で、義姉はしくしく泣き出した。隣で義兄も姑も呆然としている。啓介はそんな三人を見つめ、静かに語った。
「母さんは、ずっと長男が一番だと言い続けた。兄さんたちも、俺たちのことはずっと出来が悪いと見下してきたじゃないか。出来の悪い俺たちに頼るな。」
そして私は、静かに玄関のドアを開け放つ。
「お話はもう終わりましたよね。どうぞお引き取りください。これ以上、私たちの平穏な時間をあなたたちに邪魔されたくはないわ。」
しばらくグズグズしていた義実家の三人だったけど、私も啓介もそれ以上口を開くことはなく、ただ三人を見つめていた。それでやっと私たちの気持ちが動かないことを悟ったのか、義兄を先頭に、義姉も姑も一度もこちらを振り返ることなく、すごすごと我が家から出ていった。私はその背中に向かって静かにドアを閉めた。カシャンと鍵をかける音が、やけに心地よく響いた。こうして、私たちの長い戦いはようやく終わりを告げたのだった。
さて、最後に、あの三人がどうなったかについて。当然ながら、義兄と義姉にあの民泊を経営できるはずもなかった。私が手を引いた途端、予約は途絶え、高評価だったレビューはクレームで埋め尽くされた。どうやら経営者が変わったようです、という憶測のレビューが多くを占めるようになったという。あっという間に、ただ税金だけがかかる負債物件と化した家とマンションは、結局、二束三文の値段で手放すことになったそうだ。
義兄と義姉は今では夫婦揃って低賃金のアルバイトを掛け持ちし、日々の生活費を何とか稼いでいるという。そして、そんな彼らと今も一緒に暮らしているのが姑だ。今更一人で賃貸物件を借りることもできず、彼女にはもう息子夫婦に寄生するしか生きる道はなかったのだ。お金に余裕がなく常にイライラしている義兄夫婦は、家事の一切を姑に押し付け、その泣けなしの年金さえも自分たちの生活費として狙っているらしい。姑が少しでも文句を言おうものなら、「お袋のせいでこうなったんだ」と義兄から怒鳴られる毎日だという。姑も近所の人を捕まえては、「長男は甲斐性なしだ」「嫁は鬼だ」と毎日愚痴をこぼしているそうだ。
かつて、出来のいい長男夫婦と可愛がり持ち上げていた姑。今ではその自慢の長男夫婦と毎日罵り合いながら、先の見えない貧しい生活を送っている。まさに自業自得という言葉がぴったりの結末だった。
そして最後に、私たち家族の今について。義兄夫婦が二束三文で手放したあの民泊の一軒家とマンションだけど、実は不動産会社を介して、私たちがこっそり安く買い取っていた。亡くなった義父さんが大切にしていたあの場所が、知らない誰かの手に渡るのだけはどうしても忍びなかったからだ。もちろん、経営のノウハウは全て私の頭の中にある。私が再びオーナーとして管理を始めると、民泊はあっという間に以前のような人気を取り戻し、安定した収益を生む我が家の立派な資産となった。
そのおかげで、ほとんど家にいながらにしてかなりの金額を稼げるようになった私は、子供たちの将来のために十分すぎるほどの貯金ができるようになった。これで子供たちにも選ばせてあげられる道が増えたね、と夫と二人で喜んでいる。夫の仕事も順調そのものだ。そして何より、一番のストレス源だった義実家の付き合いが完全になくなったことで、私たちの生活には心の底からの平穏が訪れた。毎年の夏休みに計画する家族旅行も、今では少しリッチな旅館やホテルを選べるようになった。子供たちの楽しそうな笑顔を見ていると、あの時勇気を出して戦って本当に良かったと心からそう思うのだ。
私たちの夏休みは、もう憂鬱なことなど何一つない。楽しい予定だけでいっぱいだ。



