「お母さん、後ろ!」…

「お母さん、後ろ!」...

通話が切れない。さっきまで義母と孫の顔を見せ合いながらテレビ電話をしていたのに、画面にはまだ義母の家が映ったまま。操作を間違えたのだろうと思い、義母が気づかないのをいいことに、しばらくそのまま覗いていた。すると突然、義母の背後に人影が映った。義母は一人暮らしのはずなのに。その人影の正体がはっきり映った瞬間、私は息を飲んだ。大輔だった。離婚したはずの元夫が、そこにいた。

大輔は典型的なクズだった。結婚生活中、子供が生まれた日もパチンコ屋にいて、臭い手で赤ん坊に触れようとして騒ぎを起こした。働きもせず、私が稼いだ金を勝手に抜き取り、キャバクラ通い。離婚を切り出せば、ATM代わりにすると脅された。両親は他界し、弁護士を雇う金もない。私は昼は事務、夜はスナックで働き、それでも大輔に金を抜かれる日々に耐えていた。

転機は大輔が「女を妊娠させた。中絶に50万よこせ」と言い放ったこと。さすがに限界だった。頼れるのは遠方に住む義母だけ。ほとんど会話もない関係だったが、藁にもすがる思いで電話をした。義母は深いため息をついたあと、「可愛い孫のためなら一肌脱ぎましょう」と言ってくれた。

義母は翌日、大輔に300万円と離婚届、制約書を突きつけた。大輔は嬉々としてサインし、「これでお前から解放される」と捨て台詞を残して出ていった。私は義母に頭を下げるしかなかった。義母は「孫のためにやっただけ。あなただけなら助けていなかった」と言い、帰っていった。それから私は清々しい日々を送り、義母にパソコンをプレゼントしてテレビ電話を始めた。月に数回、孫の成長を見せられるようになり、義母は喜んでくれた。

しかしある日、義母が物忘れがひどくなったと相談してきた。金の計算が合わない、アクセサリーをなくす。私はメモを送ってもらうように提案し、病院にも行こうと約束した。そして今日のテレビ電話も終わりの時間。義母がイヤホンを外したが、操作を間違えたのか画面は繋がったままだった。私は何となく義母の生活を覗いていた。するとまた、あの人影。

大輔が義母の家にいた。彼はタンスを漁り、アクセサリーや現金をポケットに詰め込んでいる。私は「お母さん、後ろ!」と叫んだ。義母は振り向き、大輔を追いかけた。私は警察に通報した。大輔は逮捕され、義母の物忘れの原因は盗まれていたからだと判明。大輔は妊娠させた女のヒモ男に脅され、義母から奪った300万円が尽きた後も、金品を盗み続けていたのだ。警察への自白から、大輔は何度も義母の家から金を盗んでいたことが発覚した。罪を償うどころか、面会では「許してくれ」と薄っぺらい言葉を繰り返し、義母は「自業自得よ」と一蹴した。

義母の物忘れはストレスによるもので、大輔が捕まってからはすっかり治まった。私は今も義母とテレビ電話を続けている。もしあのとき大輔と別れていなかったら、私の息子は犯罪者の息子になっていたかもしれない。義母に救われた命と未来を、私はこれからも息子を大切に育てることで返していく。

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