外から見れば、一家は完璧に見えた。40年間、夫の後ろで黙って立ち続け、怒鳴られれば沈黙し、決められれば従う。それが道代の人生だった。けれど、貯金は尽き、夫の認知症は進み、パートの時間は半分に減った。梅雨の夕方、冷蔵庫の中から見つけたのは、見知らぬ健康食品の請求書、40万円。口座の残高は1万2千円。夫は「会社の部長への義理だ」と涼しい顔で言った。相談した区役所は冷たく、頼った娘の美由には「お母さんはいつもお父さんの後ろに立ってたね」と言われ、20万円を断られた。追い詰められた道代は、介護離婚という言葉を知る。そして、夫を施設に送る決断をする。夫が施設の車に乗る直前、振り返って言った「留守を頼む」という言葉が胸に刺さった。一人になった夜、道代は自分だけの布団を敷き、自分だけの味で食事を作った。涙は止まらなかったが、それは明日への一歩だった。



