家族に迷惑をかけたくない。重になるから離婚しよう。
夫の悠人が退院して帰宅するなり、消え入りそうな声でそう言った。彼は私と娘の葵、そして義両親を見渡しながら涙を浮かべていた。無理もない。数ヶ月前の交通事故で半身不随になり、車椅子生活を余儀なくされたのだから。
「こんな時に助け合うのが家族じゃないか」「お父さんの言う通りよ。私たちがついているわ」
義両親がそう励ます。だが、私は静かに口を開いた。
「何言ってるの?私、1ヶ月前から独身だけど」
義両親が絶句する。私は淡々と続けた。
「もう私たちは新居に引っ越したから」
義両親は言葉を失い、夫は戸惑いの表情を浮かべた。だが、私たちが真実を伝えているだけだと分かってもらうには、まだ話が足りないようだ。
「ずっと言えなかったことがあります。悠人は私を奴隷のようにこき使っていました」
私は深呼吸をして、話し始めた。少しでも反発すれば離婚を口にして脅し、時には手を上げる。翌朝には記入済みの離婚届をテーブルに置かれる。恐怖で支配されていた。
「さっき『家族に迷惑をかけたくない』と言ったけど、あれは全部演技よ」
義両親は信じられない様子で首を振る。夫も「そんなことするわけない」と否定するが、私は証拠を用意していた。数ヶ月前、私が自転車とぶつかって骨折した時、彼は一度も見舞いに来なかった。退院後も無理やり家事をさせ、ニヤニヤしながら楽しんでいたのだ。さらに、受験を控えた娘のことにも無関心だった。
「どこの大学を受けるのか、知っていますか?」
夫は何も答えられない。義両親も戸惑うばかりだ。だが、これで終わりではない。私は写真の束を取り出し、夫に放り投げた。床に散らばった写真には、夫と見知らぬ女性が写っている。
「それが嫁いびりと娘に無関心だった理由です。彼には愛人がいるんですよ」
夫は顔色を変え、「そんなの出鱈目だ」と否定する。だが、私はさらにスマホを取り出し、電話をかけた。数分後、インターホンが鳴り、義理の両親の前に現れたのは、写真に写っていた30代の女性、リカだった。
「私は悠人さんの上司です。ただの仕事関係です」
リカはそう言うが、夫は震えていた。私は続ける。
「お父さん、お母さん。悠人が入院したのは出張中の事故と言いましたが、それも嘘です。彼は浮気旅行に行くつもりだったんです」
義両親の視線が夫に向かう。夫は何も言えず、ただ黙り込むだけだった。
夫は開き直り、言い放った。
「正直、お前なんていらなかったんだよ。俺にはひながいる」
その言葉に、私は悲しみさえ感じた。だが、もう引き返せない。私はさらに調べ上げた事実を突きつける。夫は単身赴任中も浮気を続け、ひなには独身だと偽っていた。それを知ったひなの父親、金融会社の社長は激怒し、夫を追い詰めた。
結局、夫はひなの父親の会社で働かされることになった。給料のほとんどは慰謝料と損害賠償として差し押さえられ、私のもとにも毎月、慰謝料が届く。義母と義妹も、義父の厳しい監視のもと、それまでの贅沢な生活を失った。
私は独身に戻り、自由を手に入れた。仕事に集中でき、キャリアも評価されている。夫がかつて私に「働くか出ていくか選べ」と言ったことを思い出すと、皮肉な巡り合わせだと感じる。だが、もう振り返ることはない。私はこれからも、自分の道を歩いていく。



