電話が鳴ったのは、閉店間際のカウンターの上だった。画面には、かつてクラスを牛耳っていた金持ちの息子の名前。同窓会の予約、40人分。ありがたいと思い、前日から準備をしてきた。それなのに、当日の昼にかかってきた電話の第一声は「お前の店はキャンセルな」だった。続けて聞こえたのは「貧乏くさい店でやるより、俺の寿司屋でやるわ」という笑い混じりの言葉。大の大人が、大口予約をしておいてのこの仕打ち。この店…

電話が鳴ったのは、閉店間際のカウンターの上だった。画面には、かつてクラスを牛耳っていた金持ちの息子の名前。同窓会の予約、40人分。ありがたいと思い、前日から準備をしてきた。それなのに、当日の昼にかかってきた電話の第一声は「お前の店はキャンセルな」だった。続けて聞こえたのは「貧乏くさい店でやるより、俺の寿司屋でやるわ」という笑い混じりの言葉。大の大人が、大口予約をしておいてのこの仕打ち。この店...

同窓会の連絡が来たのは、閉店間際のカウンターに座っていた時だった。電話の向こうの声は、昔と変わらず自信に満ちていた。久しぶりに入った大口の予約、40人分の同窓会を俺の店で開くと言った元同級生の言葉を、俺は素直に信じた。店を継いでから、まとまった売り上げになる大きな予約は滅多に入らなかったから、正直ありがたかった。前日まで準備を進め、当日の朝も新鮮なネタを仕入れ、寿司を握るのも、板場に立つ準備もすべて万全にした。だけど、当日の昼過ぎにかかってきた電話は、ドタキャンの知らせだった。

「悪いけど、やっぱりキャンセルで。俺の店で同窓会を開くことにしたんだ。お前の店みたいに古臭くて、貧乏が滲み出てるような店でやるのは、さすがに恥ずかしいからな。40人分の予約、お前にとっても大きかっただろうけど、残念だったな。」

電話越しに聞こえてくるのは、俺を嘲るような笑い声だった。昔から変わらない。金持ちの息子だった奴は、今も自分の立場に胡座をかいて、俺を見下している。大の大人が、大口の予約をしておいてドタキャンする。しかも、その理由が「店が貧乏くさいから」だと。許せるはずがなかった。俺は、握りかけていた寿司ネタを置き、静かに電話の向こうの声に言い返した。

「お前がそんな店を経営しているっていうなら、教えてやるよ。俺がこの店で出している寿司は、じいちゃんの代から受け継いだ、毎朝魚市場で仕入れる新鮮なネタだけだ。お前が『貧乏くさい』と笑ったこの店で、俺は自信を持って客に寿司を握っているんだ。」

その言葉に、電話の向こうは一瞬固まった。だが、俺の話はそこでは終わらない。俺は、この店の歴史と、そして、この店を守るために何をしてきたかを、彼に思い知らせるつもりだった。

「じいちゃんの時代は、行列ができるほど繁盛していた。父さんの代も、常連客に支えられて順調だった。だけど、向かいに回転寿司のチェーン店ができてから、客足は減る一方だった。父さんは必死で働いたが、それでも店は傾いていった。母さんは店を助けるために、早朝と夜にパートに出て、無理がたたって病気で亡くなった。高校の時、同級生にお前たちにボロクソに言われたこともあったけど、俺はこの店を守り続けてきたんだ。」

電話の向こうは、黙ってしまった。俺は、続けた。

「今、この店はケータリングの依頼でなんとかやってる。この前も、銀行の幹部社員たちが集まるパーティーの料理を任されて、俺が仕込みをしたんだ。確かに、お前たちの言う通り、俺の店は飾り気がないかもしれない。だが、この板場に立ってきた誇りは、お前の見下すようなものとは違う。お前が『貧乏くさい』と笑ったこの店で、俺はこれからも客に最高の寿司を握り続ける。」

その瞬間、電話の向こうで何かが崩れる音がした。もしかしたら、奴が自分の言葉を後悔したのかもしれない。だが、俺には関係ない。俺は、この店で生きてきたのだから。

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