高校の同窓会で、ずっと俺を見下してた金持ちの男が「お前、どうせ今も長屋暮らしの貧乏人だろ?」って皆の前で笑った。でも、その日の夜、彼の上司になることになるなんて、その時は知る由もなかった。彼は俺の会社の課長で、翌週には俺が彼の部署の新任部長として挨拶することになる。彼の「下っぱは真ん中がマナーだろ」という言葉が、俺の中で何かを確信に変えた。俺はあの日の借りを返すつもりで、静かに立ち上がること…

高校の同窓会で、ずっと俺を見下してた金持ちの男が「お前、どうせ今も長屋暮らしの貧乏人だろ?」って皆の前で笑った。でも、その日の夜、彼の上司になることになるなんて、その時は知る由もなかった。彼は俺の会社の課長で、翌週には俺が彼の部署の新任部長として挨拶することになる。彼の「下っぱは真ん中がマナーだろ」という言葉が、俺の中で何かを確信に変えた。俺はあの日の借りを返すつもりで、静かに立ち上がること...

「おい、下っぱ真がナだろ。」

その言葉を放ったのは、高校の同級生だった田政治。場所は、転勤先の部署の親睦会だった。俺、金本荒野は、その場で静かにビールを飲みながら、この男が何も変わっていないことを悟った。

俺は小学生の頃にアメリカで暮らしていた。父の海外赴任について行ったのだ。しかし、帰国後、父は交通事故で突然この世を去った。母は泣き崩れ、俺は泣くこともできずにいた。それから俺は暗くなり、口数も減った。

母はパートを掛け持ちし、母方の祖父が長屋で俺たちを支えてくれた。祖父は「お前を絶対に高校まで出す」と言ってくれた。祖父のおかげでなんとか高校に進学したが、そこにいたのが田政治だった。彼は家が金持ちで、俺を「長屋の貧乏人」と馬鹿にし、パシリにしていた。

「おい、こうや。バイトの油臭せえぞ。どうせまたファミレスのキッチンだろ。」

そんな言葉を毎日のように浴びせられても、俺は何も言い返せなかった。俺はただ、バイトで貯めた金で買った中古パソコンに向かっていた。プログラミングに夢中になることで、現実から逃げていた。

高校卒業後、大学には行かなかった。祖父が紹介してくれたIT企業に就職し、昼は雑用、夜はプログラミングに没頭した。20歳でアプリを開発し、特許を取得。入社10年で課長にまで上り詰めた。だが、その2年後、祖父が病に倒れた。

実家に帰ると、祖父はもう何も話せなくなっていた。それでも、俺の手を握る力は強かった。祖父の葬式の後、駅前の居酒屋で一人酒を飲んでいると、背中を叩かれた。

「よう、こうやじゃねえか。どうせまた無職でぶらぶらしてんだろ?」

そこには、あの頃のままの田政治が立っていた。

「俺はな、もう課長なんだぜ。お前、名刺見るか?」

差し出された名刺を見て、俺は驚いた。そこには俺が働く会社の名前が書かれていた。しかも、彼は同じ部署の課長だった。

その後も政治はスーパーで会えば「無職かよ」と言い放ち、俺はそのたびに無言でやり過ごした。そんなある日、会社の部長が病で退職し、俺に後任の話が来た。そう、部長として。

そして親睦会の日。俺は居酒屋の大広間で社員たちと挨拶を交わしていると、政治が現れた。

「よう、なんでお前がここにいるんだ? 俺の名刺見て中途入社してきたのか?」

「政治、もう学生じゃないんだ。落ち着いたらどうだ?」

「はあ? 何を偉そうに。どうせ今も長屋暮らしなんだろ?」

「長屋の何が悪いんだ。俺がどこに住もうが、俺の自由だろ。」

その時、社員の一人が政治を制した。

「課長、今日は部長を迎える大切な日です。少し落ち着いてください。」

「んだと、け太まで俺に立てつくのか?」

やがて親睦会が始まり、政治は俺に言い放った。

「お前、真席から移動しろ。下っぱは真ん中がマナーだろ。」

「政治、じゃあ席を変わってくれ。お前が真ん中へどうぞ。」

「は? 頭おかしくなったのか?」

その時、息を切らした社長が駆け込んできた。

「金本君、遅くなってすまない。突然弟が倒れてしまって。」

「平野社長。お大事にしてください。初めまして、金本荒野です。」

「よく来てくれた。君の活躍は聞いておるよ。おい、田。金本君と席を変われ。」

政治は真っ青な顔で立ち上がった。

「皆さんに紹介します。この金本君が、新しい部長です。」

俺は席を立ち、社員全員に挨拶をした。政治は顔を真っ赤にして震えていた。

翌日、社長が部署全体に告げた。

「これからは海外との取引も増える。分からないことは金本部長に聞くように。」

すると政治が立ち上がった。

「高卒の英語なんて知れてるだろう。分からないことは俺に聞けよ。」

まだ見下している。俺は大きくため息をついた。

その後も政治は、部下の三山け太に「高卒の無能」と言い続け、トイレ掃除までさせていた。け太は高卒で入社した27歳の青年だ。俺はけ太から相談を受け、彼が録音していた政治の暴言の音声を聞いた。それは酷いものだった。

「これ、社長に聞いてもらうよ。」

「部長、ありがとうございます。正直、毎朝胃が痛くて。」

「今日は俺のポケットマネーだ。美味いもの食って元気出せ。」

そう言って飲みに行った翌日、俺は社長室を訪ねた。音声を聞かせ、経理の不正も調べてほしいと伝えた。社長は静かに言った。

「政治は僕の甥なんだよ。少し甘やかしすぎたな。経理のことが判明次第、君に任せる。僕も高卒だ。この業界で学歴は関係ない。」

数日後、経費の不正書類が発見された。俺は政治を呼び出し、スマホの録音を聞かせた。

「は田君、これ、聞いてくれる?」

事務所内は静まり返った。政治は顔を真っ青にして震えている。その時、平野社長が現れた。

「おい、政治。この経費は一体何だ?」

「おじさん、それは……」

「親睦だと? そんなものは経費で使えない。損害賠償してもらうぞ。あと、お前の社員への暴言も聞いた。俺も高卒だが、文句があるか?」

政治は何も言えず、半泣きでデスクを片付け始めた。その後、彼は事務所を去った。

け太を含め、社員全員が安堵の息を吐いた。政治は最終就職先もなく、親からも勘当されたらしい。今は借金をしながら日夜アルバイトをしていると聞いた。

なんだか、すっきりした。

その後、俺は部署内の本部長に昇格し、海外との契約もスムーズに進んだ。そして、事務の女性から告白され、今は結婚を前提に付き合っている。

あの日の居酒屋で、政治が俺を「下っぱ」と呼んだ時、俺は何も言い返せなかった。でも今は、胸を張って言える。

俺は、俺の人生を生きている。

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