「貧乏人がよく来られたわね」——タワマンのママ友リーダーに言われた最初の言葉はこれだった。彼女が私をパーティーに招待したのに、まるでゴミを見るような目で笑われて。息子の豊かは「2階の庶民はゴミ」と同級生に言われ、幼稚園に行くのを拒否している。でも私は決めた。この侮辱をただ黙って受け入れるわけにはいかないと。計画は、彼女たちが最も誇るもの——子供の英語力——を舞台に、彼女たち自身の土俵で思い知…

「貧乏人がよく来られたわね」——タワマンのママ友リーダーに言われた最初の言葉はこれだった。彼女が私をパーティーに招待したのに、まるでゴミを見るような目で笑われて。息子の豊かは「2階の庶民はゴミ」と同級生に言われ、幼稚園に行くのを拒否している。でも私は決めた。この侮辱をただ黙って受け入れるわけにはいかないと。計画は、彼女たちが最も誇るもの——子供の英語力——を舞台に、彼女たち自身の土俵で思い知...

「貧乏人がよく来られたわね」

あいさんの言葉に、コミュニティルームの空気が一瞬で凍った。タワーマンションのママ友リーダー、あいさん。彼女が私をこのパーティーに招待したのに、その口調はまるで招かざる客を追い払うようだった。

数ヶ月前、仕事の関係でこのタワーマンションに引っ越してきた。息子の豊かはもうすぐ6歳。近所の幼稚園に通い始めたばかりだ。

初めての登園日、豊かは緊張しながらも先生にしっかり挨拶ができた。すると同じクラスのゆう君が話しかけてくれて、豊かはすぐに打ち解けた。ゆう君のママとも仲良くなれて、この街での生活もうまくいきそうだと思った。

だが、その翌日のことだった。マンションのエントランスで女性たちが集まっているのに出くわした。その中の一人、あいさんが私に声をかけてきた。

「あら、おはようございます」

「おはようございます。最近引っ越してきた鈴木智子です。よろしくお願いします」

「はーん」

あいさんは私を上から下まで値踏みするように見た。話を聞くと、彼女たちはみんな豊かの通う幼稚園のママ友らしい。年長クラスで同じだと言う。

「ところで智子さんは何階に住んでいらっしゃるの?」

「2階ですよ」

すると周りから笑いが起こった。

「あら、2階。随分と庶民的なのね。私たちは全員高層階に住んでいるのよ。まあ、私は最上階だけど」

何がそんなに偉いのか。私はその場を後にした。

数日後、豊かが突然「幼稚園に行きたくない」と言い出した。熱もなく顔色もいい。ただ、ひたすら行きたがらない。私は幼稚園を休ませることにした。

気分転換に散歩に出ると、ゆう君のママに会った。喫茶店で話を聞いてもらうと、彼女は豊かに優しく尋ねた。

「ねえ、豊か君。幼稚園で何かあった?」

豊かは黙って下を向いている。

「何かお友達に嫌なことを言われた?」

豊かの体がビクッと反応した。ゆう君のママが「例えばゴミとか」と言いかけた瞬間、豊かは大きな声で泣き出した。

「もう幼稚園行きたくないよ」

私は豊かをぎゅっと抱きしめた。ゆう君のママは話してくれた。この幼稚園では、タワーマンションの高層階に住む親たちが低層階の住人を馬鹿にする風潮があるらしい。子供たちの間にもその上下関係が浸透しているという。あいさんの息子のカイト君はクラスのリーダー的存在で、豊かに「2階の庶民」だと暴言を吐いているようだった。

その日の夜、夫にすべてを話した。夫は冷静に聞いていたが、その目には怒りが宿っていた。

翌日、ゴミ出しに行くとあいさんたちがまたエントランスで話し込んでいた。

「あら、智子さん、最近幼稚園に来ていないけどどうしたの?」

「幼稚園に嫌なお友達がいるらしくて」

「あら、そうなの?それは大変ね。でもずっと家にいても退屈でしょ?私たち明日ここでパーティーをするのよ。よかったらいらっしゃる?」

「本当は高層階の人しか呼べないのだけれど、智子さんは特別に来てもいいわよ」

周りの女性たちがクスクスと笑った。

「まあ、恥知らずとはこのことね。この会の参加者はみんな高層階に住んでいるエリートなのよ。貧乏人が来たら浮いちゃうんじゃないかしら」

「貧乏人は高層階なんて住めないからそもそも世界が違うのよ」

誘っておいてこの言い草。私は引かなかった。

「高層階に住むつもりはないですけどね。でも是非そのエリート様たちにお会いしてみたいです。きっと豊かにもいい刺激になると思いますし」

「そんなに言うなら智子さんの席も用意しておくわ。是非ご主人もご一緒にいらして」

あいさんたちはそう言ってそれぞれの部屋へ帰っていった。

帰宅すると、私は豊かに明日のパーティーに行くことを伝えた。

「カイト君がいるところになんて行きたくない。絶対嫌だ」

豊かが嫌がるのは分かっていた。しかし、この作戦には豊かが必要だった。

「豊か、嫌な気持ちはよくわかる。でもね、ママにいい考えがあるの」

「何それ?」

私は豊かに作戦を伝えた。豊かはその作戦を聞くと、顔色がパッと明るくなった。

翌朝、私たちは着替えてコミュニティルームへ向かった。ドアを開けると、みんなが一斉にこちらを見る。豊かが少し怯えた表情をしたので、私は背中をそっと叩いた。

「あら、本当にいらしたの?貧乏人がよく来られたわね」

「それにしても随分素敵なお洋服ね。一丁前じゃない」

周りがクスクスと笑う。普段動きやすい服を着ているからだろう。私は気にせず返した。

「TPOをわきまえて服は選んでるんです。普段こんな服を着てもしょうがないですから」

あいさんは一瞬眉をひそめたが、すぐにマウントを取り始めた。

「まあいいわ。ここにいる子供たちはね、みんな近くの私立小学校を受験するのよ。南関の超エリート小学校だから、みんな英語がペラペラなのよ。そうだわ。今から面接の練習も兼ねて、一人ずつ英語で自己紹介をしましょう」

カイト君から順番に自己紹介が始まった。なるほど、悪くはないが付け焼き刃に過ぎない。発音の未熟さや語彙の少なさが目立つ。これでエリートとは笑わせる。

「さあ、最後は豊か君よ。どうぞ」

周りが一斉に豊かを見る。あいさんは子供相手にも関わらず意地の悪い顔をして豊かを見つめていた。

「豊か、いつも通りでいいわよ」

豊かは一息つくと、自己紹介を始めた。周りがざわつく。当たり前だ。豊かとこの子たちとではレベルが違う。豊かは大人顔負けの発音で流暢に、さらに身振り手ぶりを交えながら話した。

「皆さんとしっかりお話をするのはこれが初めてですよね。何か質問はありますか?英語でどうぞ」

誰も言葉を発しない。数秒の沈黙の後、カイト君が言った。

「なんて言ってるかわからなかった」

素直に分からないことを認めるのはいいことだ。しかし、あいさんは良しとしなかった。真っ赤な顔をしてカイト君を睨んでいる。

「そうね。子供には難しかったかしら。でもお母様方はもちろん分かりましたよね」

誰も目を合わせようとしない。

「え、まさか幼稚園児の話が聞き取れなかったんですか?エリートの皆さんが。しょうがないですね。あいさん、皆さんに日本語で訳してあげていただけますか?」

あいさんは明らかに焦った表情になり、周りを見渡すだけだった。

「エリートなんですよね。もちろん分かりますよね」

「じゃああなたはどうなのよ。英語で話せるの?」

見事な逆切れだ。

「英語ね。構いませんよ」

私は軽く英語で自己紹介をした。

「まあ、分かるわけがないかしら。どうかしら?あ、フランス語の方が良かったですか?」

ちょうどその時、夫が遅れて入ってきた。

「皆さん、遅くなって申し訳ございませんでした。鈴木徹也です。以後お見知りおきを」

夫が自己紹介をすると、みんながざわざわと騒ぎ始めた。

「鈴木徹也って…まさか」

あいさんの顔がみるみる青ざめる。

「皆さんよくご存知ですよね。そう、夫は子供たちが受験する予定の小学校の理事長です。私たちは仕事の関係でこちらに引っ越してきたんです。まあ、もうすぐ引っ越すんですけどね。ああ、でも隣のマンションに引っ越すだけなので、これからもよろしくお願いしますね」

「え、隣って…」

隣のマンションはここよりもランクが高い。そこの最上階に住む予定だったが、工事が間に合わなかったため、このマンションに仮住まいしていたのだ。

「皆さん、夫の小学校を受験してくださるんですよね。ありがとうございます。でも残念ながら、今のままでは皆さん不合格ですな」

夫は淡々と言った。

「我が子が求める生徒は協調性と思いやりがある子供です。今のまま全と悪の区別もつかないようでは、うちには入れません。妻と通話をつなげていたので自己紹介も聞いていましたが、英語のレベルもまだですね。あれではお遊びに過ぎません。うちが超難関と言われているのは、人間性と頭の良さが両方備わった子供でないと入学できないからです。いじめをするようなお子さんは論外です」

夫にばっさりと切られ、周りのママたちは開いた口が塞がらない。

「何を偉そうに!」

そう言ってあいさん親子は帰って行った。

私たちもやることはもう終わったので、帰宅することにした。

「豊か、よくやったわ。作戦は大成功ね」

「うん。みんなきっと僕がゴミじゃないって思ってくれたよね」

私が豊かに言った作戦は、みんなと同じように英語を話すと分かってもらうことだった。言うまでもなく、豊かの英語レベルの方がはるかに高い。だから普段は相手のレベルに合わせて話していた。あえてその高い実力を見せることで、大人たちは思い知り、子供たちは豊かを見直すだろう。そう思っていた。

週明けの月曜日、豊かは久しぶりに幼稚園に行くと、嬉しそうに話してくれた。

「今日ね、カイト君以外みんなごめんなさいって謝ってくれたんだよ」

豊かをゴミだと言っていた子供たちが反省して謝ってきたらしい。カイト君は意地でも謝ろうとせず、今はクラスで孤立しているようだ。

その後、豊かは毎日楽しく幼稚園に通っていた。孤立しているカイト君を不便に思って声をかけてはいるが、そっぽを向いてどこかへ行ってしまうらしい。

「でもね、僕知ってるんだ。本当はカイト君もみんなと遊びたいんだよ」

きっとあいさんがカイト君に何か言っているんだろう。カイト君自身は悪い子ではない。親の教育の問題だ。

月日は流れ、卒園の日を迎えた。あれから豊かは休むことなく幼稚園に通い、楽しい時間を過ごすことができた。この春からは小学生になる。

あのタワーマンションのママたちは、夫に一言言われた後に心を入れ替えたようだ。ボランティア活動を始めたり、生活態度を改めたりしたようだ。一人を除いてだが。

あいさんはあれからマンションのママたちの間で孤立していったらしい。カイト君以外の子供たちは私立小学校に合格することができたが、カイト君は落ちてしまったようだ。その上、あのタワマンも無理して買っていたようで、現在ローン地獄だそうだ。カイト君を公立の小学校に通わせることになったが、そこでもタワマンマウントをするため散々だった。さらにはあいさんの夫の会社が倒産し、家計は火の車だ。それが原因で二人は喧嘩し、離婚したようだ。

あいさんは人知れずタワマンを売り払い、実家に戻ったらしい。カイト君もあいさんに連れられて引っ越し、転校を余儀なくされた。

向こうではマウントを取らずに友達ができるといいな。

私たちは予定通り隣のマンションの最上階に引っ越した。豊かがゆう君と一緒の小学校を希望していたため、そのまま夫の小学校に通っている。

「こんにちは。お邪魔します」

「ゆう君、いらっしゃい」

ゆう君と豊かは相変わらず仲がいい。結局、どこに住んでいるかなんてさして問題じゃないんだ。子供たちが笑ってくれていたらそれでいい。

私は子供たちの笑い声を聞きながら、窓の外を見下ろしていた。

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