「あなたと結婚している意味がない。子供の面倒も見てくれない父親なんて必要ない。もう離婚しましょう」…

「あなたと結婚している意味がない。子供の面倒も見てくれない父親なんて必要ない。もう離婚しましょう」...

「あなたと結婚している意味がない。子供の面倒も見てくれない父親なんて必要ない。もう離婚しましょう」

そう言って、嫁は記入済みの離婚届を俺の前に差し出した。

俺は反論しなかった。だって、言われていることは事実だったから。

俺の名前は勇。当時31歳。結婚して5年目。1つ年上の嫁・裕子と、4歳になる娘・ゆみがいた。

出会いは取引先の年1回のパーティー。酒に弱い俺は飲みすぎてラウンジで休んでいた。そこへ、人混みが苦手で逃げてきた裕子がやってきた。

「いや、疲れますよね。もう帰りたいです」

「本当に強制参加とかやめて欲しいですよね」

そこから話が弾んだ。家も近所で年も近く、すぐに意気投合。連絡先を交換し、食事に行くうちに自然と交際が始まった。お互い仕事が好きで、結婚はすぐには考えていなかった。でも、ゆみを授かったことで、迷わず結婚を決意した。

裕子は妊娠を喜んでくれた。裕子の両親も大喜びだった。俺の両親は早くに亡くしていたので、その喜びはひとしおだった。

娘・ゆみが生まれてから、生活は一変した。夜泣きがひどく、寝られない日々が続いた。裕子はぐったりしていた。俺は言った。

「俺の収入だけで十分生活できる。無理に仕事復帰しなくても大丈夫だよ」

でも裕子は首を振った。

「私に専業主婦はできない」

2人で話し合った結果、共働きを続けることになった。

問題は俺の仕事だった。昔から出張が多かったのだが、子供ができてから状況が変わった。しかも、俺の出張は急に決まることが多い。

「え、また出張なの?今日は私も遅いから、代わりにゆみの迎えをお願いしたかったのに。またお母さんに頼まなきゃじゃん。はあ」

「いつも急でごめん」

このやり取りがどんどん増えていき、家の空気は険悪になっていった。それでも出張を断るわけにはいかない。俺は変わらず出張の日々を続けていた。

そんな時だ。

『今日の夜、出張から帰ってきたら話がある。早く帰って来れそう?』

裕子からメールが入っていた。何を言われるか、想像はついていた。

仕事を終えて、俺はそのまま家へ急いだ。裕子はすでに帰宅していて、ゆみはもう寝ていた。ゆみの寝顔を見てから、リビングへ戻った。

「話したいことって何?」

俺は椅子に座り、裕子に聞いた。

「分かってるんじゃないの?あなたは昔から出張ばかりで、家にいないことが多いじゃない?結婚している意味あるのかなって、ずっと思ってたの。意味ないよね」

そこまで言われると、俺も反論できなかった。確かに、子供の面倒を見れていないことは分かっていた。家に帰るのもゆみが寝てからが多く、土日も関係なく出張。休みという休みがなかった。

その分、裕子だけに負担をかけていたことも反省していた。だから俺は、裕子が決めた通り離婚に同意した。ゆみの親権は裕子に。裕子の両親も子育てに積極的だったので、俺は大丈夫だろうと思っていた。

裕子は「養育費はいらない」と言ったが、俺にできることはさせてほしいと、毎月養育費を渡すことにした。裕子もそれなりに稼ぎが良かったので、金銭的に困ることはないと思っていた。

離婚してからも、俺は相変わらず出張ばかりの日々。なかなかゆみに会うこともできずにいた。そんな中、会社の事業拡大で海外へ進出。さらに忙しくなり、海外出張が当たり前になっていった。休みもあまり取れず、寝て起きて仕事しての繰り返し。

そんな時だ。久しぶりに友人の電話が入った。

「久しぶり。元気か?今日、お前の元嫁見たぞ。男と一緒にいた。隣の席にたまたま座ってたから話が聞こえたんだけど、お前と結婚してた時から付き合ってたみたいなんだよな。今更かもしれないけど。念のため報告」

もう離婚しているし、仕事が忙しすぎて、そんなことはどうでも良かった。それよりも早く寝たかった。

「わざわざありがとう」

友人に伝えて電話を切り、俺はすぐにベッドに入った。明日も早いから寝なきゃ。

それから俺は仕事の功績が認められ、海外を任されることに。海外生活にも慣れてきて、仕事に生きがいを感じていた。

それから5年後、俺はさらに昇格し、本社へ配属になった。やっと日本へ戻れることになった。その頃には、仕事も自由に休みを取れるようになっていた。

ある休日、俺は家でテレビを見ていた。ニュース番組で、派遣労働者の雇い止めの特集が流れていた。

「雇い止めか。今多いみたいだよな。大変だよな」

俺はその特集を何気なく見ていた。そこで、娘を引き取って離婚した後、大手会社から不当解雇されたシングルマザーの話が取り上げられた。

「なかなか仕事が見つからず、生活に困っています。今は前の夫からの養育費と生活保護頼りで生活しているんです」

その女性は涙ながらに話していた。

「娘に欲しいものも買ってあげられない。本当に心苦しいです。夫と離婚したことが間違いだったのでしょうか?」

そう言って、離婚前の親子写真を見て号泣している。写真の顔にはモザイクがかかっていたが、俺はそれが俺たち親子の写真だとすぐに確信した。

そして、部屋の狭いワンルームで、決して綺麗とは言えない服を着て勉強している娘が映った。

俺は涙が止まらなかった。

「ゆみ、ごめんよ。ゆみ、ごめんよ」

気づくと、俺はそう連呼していた。離婚後すぐに海外へ行ってしまい、今まで会うことができなかった娘。

心配で仕方なかった。俺は連絡することにした。裕子に離婚以来初めて連絡したが、すでに番号は使われておらず、共通の友人もいない。だから、元嫁の実家へ連絡してみることにした。

まだ番号は使われており、お母さんが出た。俺はテレビで見たことを伝え、詳しい状況を聞くために、お母さんと会う約束をした。

そしてお母さんから、衝撃的な事実を聞かされた。

「実はね、あなたと結婚してた時から、ある1人りの男と交際してたみたいなのよ。それがまた、ろくな人じゃなくてね。お金関係も女関係もだらしなくて、私もすぐに別れなさいって言ってたんだけど、なかなか別れなくてね。あなたと離婚してから、その男と暮らしてたみたいなんだけど、頑張って貯めてたお金を持って逃げられたみたいなのよ。それから裕子、変わってね」

俺は昔、友人から聞いた話を思い出した。あの男のことだろう。

「それから、お金稼ぐために夜の仕事をするようになって、男もコロコロ変えてね。ゆみのことほったらかしよ。だか、らゆみは私が面倒見てるの。今は家にいるわよ。そして私、裕子とは親子の縁を切ったの。娘に合わせてとも言ってこないのよ。本当にひどい親よ。あなたが見たテレビは、娘のゆみがまだ裕子と暮らしてた時ね」

こんなこと言う資格がないかもしれないけど——俺はお願いした。

「娘と合わせて欲しいです」

「もちろんよ」

お母さんはゆみを連れてきてくれた。離婚してから7年が経ち、当たり前だが娘は大きくなっていた。

久しぶりすぎて、何を話していいのか分からず、あまり話せなかった。レストランで食事をし、今までできなかった親しいことをしたいと伝えた。

お母さんのセンスだろうか、ゆみの格好が今時の子のものではないことに気づいた。

「ゆみが欲しいものを買いに行こう」

そう言って、ショッピングモールへ連れ出した。最初は遠慮していたが、自分の好きな服や靴を選び、やりたいゲームなどを買って、ゆみは喜んでいた。

そしてそのまま俺の家へ。日本へ戻ってくる時にこれを機にと思い、俺は勢いで新築マンションの購入を決意していた。無駄に広い家で1人暮らしをしてた。

「すごい綺麗。大きい」

まだ新しいマンションを見て、ゆみは目を輝かせている。

「ここで一緒に暮らさないか」

俺はゆみへ言った。

「ママは一緒にじゃないの?」

少し不安げな表情。ゆみももう大きいから分かると思うけど——俺はそのまま伝えた。

「ママはパパ以外の男の人がいるから、一緒には住めないよ」

「そっか。そうだよね」

ゆみももう中学生。意味をちゃんと理解しているのだろう。

お母さんにも報告すると、背中を押してくれた。

「もちろんよ。あなたが父親なんだから、私のことは気にしなくていいのよ。今までの分、親子の時間を取り戻してね」

それから、ゆみとの2人暮らしが始まった。

元嫁はと言うと、俺は育児放棄の話を聞いた時点で、もう養育費を払う必要はないと思い、すぐに支払いを止めた。

そしたら案の定、元嫁から連絡が来た。

「娘の面倒を私が見ているのに、養育費を入金しないとはどういうことよ!」

元嫁は怒鳴っている。声だけで分かった。当時の元嫁とは別の人格のように感じる。ずっと怒鳴り続ける元嫁。

そんな態度に、さすがに俺は腹が立って言い放った。

「おい、どんの口が言ってるんだ?娘をほったらかして男に依存している母親なんて必要ない。2度と娘の前に顔を出すな。もちろん俺の前にもだ」

「男に依存しているですって!あなたのせいよ!私たち親子より仕事を選んだくせに、ふざけるな!」

一切反省もせず、まだ懲りずに怒鳴り続けている。

俺がどうしようかと考えていると、ゆみがやってきて電話を奪ってこう言った。

「ママでしょ。ゆみだよ。パパすごく優しくて、ゆみ幸せだよ。だか、らもう大丈夫。ママでね」

そう言って電話を切った。

そして「すっきりした」と笑顔のゆみ。

俺はその行動に少し驚いたが、実は強く育ってたんだなと感じて、涙が出そうだった。

それ以以降、元嫁から連絡が来ることはなかった。

ただ、元嫁からお母さんには連絡があったらしい。

「また男に騙されて、お金を取られた。どうしていいか分からない」

泣きながら言ってきたそうだ。

「自分でどうにかしなさい」

そう言って、お母さんは突き放したそうだ。

俺が好きだった元嫁は、どこに行ってしまったのだろう。悲しくなってしまう。いつか、ゆみのためにも良い母に戻ってくれたら、もちろん嬉しい。

そして今日は、ゆみの誕生日。お母さんも呼んで、家でパーティーの準備をしている。

「誕生日プレゼント、何が欲しい?」

そう聞くと、ゆみは笑顔で答えた。

「パパと映画を見たい」

まだ少しお互いに気を使いながらではあるが、親子として再スタートができている。そう実感できて、嬉しく思う。

まだ時間はかかると思うが、今までゆみにできなかったことを、これからたくさんしていきたい。

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