「どうして来たのよ。あなたはこの家にふさわしくないって言ったじゃない。」
高級す視点の前で、義姉の弓が私に向かって激しく詰め寄ってきた。その目は鋭く、私を底辺の人間だと見下すような目だった。
看護師の私は、夫・蒼太とこの5年、互いに忙しい中でも支え合ってきた。付き合って5年、ようやく結婚の挨拶に彼の実家へ来たのは、つい先日のことだ。
「俺の選んだ人なんだから自信持ってよ。何か言われたら俺が助けるからさ」
蒼太の言葉に少し安心したものの、石一家である彼の家に着いた時、私は緊張でガチガチになっていた。義両親だけでなく、義兄夫婦や他の親族も正揃いしている。私は深く頭を下げて自己紹介した。
「それでみささんは何をしている方なの?」
義母に聞かれて、私は看護師ですと答えた。すると義兄の妻である弓が、バカにするような口調で口を挟む。
「看護師?もしかして玉残し狙い?」
必死で否定する私を、蒼太の叔父も追い打ちをかけるように言う。
「研修狙いの看護師もいるからな」
さらに弓が聞いてきた。
「ご家族はお父様は何のお仕事をされているの?」
父は早くに亡くなっていて、と小声で答えると、弓は「やっぱり」と言わんばかりの表情をした。
「母子家庭ってこと?いるのよね。お金発作に意思と結婚する女って」
大きなため息をつく弓を見て、私は言葉を失った。すると蒼太が苛立った様子で大きな声を出した。
「姉さん、初対面で失礼じゃないですか?みさはお母さんに迷惑をかけたくないって学費も自分で用意して国交立大学に入ったんです」
「それに彼女は一生懸命な看護師を俺は見たことがありません」
あまりの褒めように思わず顔が赤くなってしまう。弓は「ごめんなさいね」と言って微笑んだが、目は笑っていなかった。
すると、無口な義父が口を開いた。
「国立大学に進むなんてすごいじゃないか。うちの息子2人はあまり頭が良くなくてね。まあ、金を積んでなんとかしたというわけだよ」
真顔で言われたが、義父なりのジョークだとすぐに分かった。蒼太も義兄も学生時代から成績は常にトップだと聞いている。義父の冗談に場の緊張が少し和んだ。
「スかじりといえば弓スかじりだけどな」
義兄はちらりと弓を見ると冷たく言った。弓は有名なお嬢様学校を卒業しているが、頭が良くなくても金を出せば入学できると言われている学校だ。義兄の発言が気に食わなかったのだろう。弓は義兄を睨みつけた。
「失礼なこと言わないで。家柄で言ったら私の方が上じゃない。母子家庭のこと比べないでちょうだい」
そう言って今度は私をきつく睨みつけ始めた。初対面の挨拶で夫婦喧嘩を間の当たりにするとは思わなかった。私がオロオロしていると、義母が助け舟を出してくれる。
「やめなさい。言い争いなんてみっともないわ」
義母にめられ義兄と弓は大人しくなる。そして私の方を向くと、義母が静かに言った。
「今日みたいに周りから嫌な言葉を言われることもあると思う。みささんは石一家にとつぐ覚悟はある?」
私は強く頷いた。蒼太と付き合ってから、先輩看護師に嫉妬されたことは多々ある。それでも私たちは負けなかったし、逆に絆が深くなったものだ。
「俺はみ咲との結婚しか考えられないから見守っていて欲しいんだ」
反論する人は誰もおらず、「結婚おめでとう」と祝福してくれた。幻格な両親のことだから、きっと祝福されないだろうと思っていた。しかし予想に反して、義父も義母も優しく受け入れてくれた。ただ1人、弓だけは納得できない表情をしていたのが気になっていた。
こうして無事に結婚挨拶も終え、入籍した。結婚したからと言って蒼太との関係性が変わったわけではない。1つ変わったことといえば、頻繁に弓から誘いが来ることだ。
「明日買い物へ行きましょう。意師の妻としてふさわしい服装を教えてあげる」
弓はよく「意師の妻」という言葉を使っていた。対面で馬鹿にしてきたくせに、よく買い物なんかに誘えるなと最初の頃は驚いてしまった。しかし彼女の様子を見たところ、どうやら私より優位に立ちたいらしい。私の給料では買えないような服を次々に買っては見せびらかしてくる。
今日もブティックに行くと、弓は大量のブランド服を買い込んでいた。その量にお兄さんて稼いでいるんだなと感心してしまう。
「前から言っているけど看護師やめたら。忙しい医師の夫を支えるのは妻の役目よ」
買い物後にお茶をしていると、弓が口を開いた。またか。私はうんざりする。会うたびに専業主婦になれと言ってくるのだ。
「私は栄養のことを考えているからレトルトなんて使ったことないわ。床には誇りなんて1つも落ちていない。あなたは意志の嫁としてちゃんとしているの?」
確かにレトルトカレーが続く時もあるし、誇りが溜まっていることもある。自分でも不安になったことがあり、その時に蒼太に聞いてみた。私は看護師をやめて専業主婦になるべきなのか、と。すると蒼太は真面目な顔をしてこう言ってくれた。
「看護師はやめないでほしい。生きと働いている姿に俺は惚れたんだから」
蒼太の言葉を思い出した私は、「私は看護師をやめるつもりはありません。そ太さんも理解してくれています」と言い返した。すると弓が鼻で笑う。
「本気?あなたみたいな育ちの悪い女なんてきっとすぐに飽きられて浮気されるわよ。頭がいいことしかがないじゃない」
弓は突然ストレートに見下してきた。家のことを馬カにするなんて許せない。腹が立った私は、思ったことをぶち負けた。
「じゃあお姉さんの鳥江は実家がお金持ちなことくらいですかね。お兄さんとも不ですし、浮気される心配をする前に信じる努力をしたらどうですか?」
言いすぎたかなと思った時にはすでに遅い。弓は顔を真っ赤にして怒っており、まるで赤鬼だ。
「なんて失礼なの?あなたみたいな子にふさわしくないわ」
弓はそう言うと怒って帰ってしまった。このことの天末を蒼太に話すと、ケラケラ笑い出す。
「あの嫌味な姉さんによく言ったじゃ。まあ時間が経てば落ち着くでしょう」
やってしまった後悔していたが、それもそうかと思った。むしろ買い物やお茶の誘いがなくなって嬉しいくらいだ。
「そういえば、ゆみさんってどのブティックに入っても偉そうなの。お得意様なのかな」
「買い物好きだからじゃない」
蒼太は軽く流したが、なんだか気になる。私は1人の友人に電話をかけた。
「もしもし。聞きたいことがあるんだけど」
次に弓と会うのは数ヶ月先の正月だろうと思っていたが、義母から食事会をしないかと翌日連絡が来た。義父が今年完暦なので、関を高級す視点でしようというお誘いだったのだ。弓に会うのは憂鬱だったが、義父のお祝いはしたい。きっともう忘れているだろう。私は食事会を楽しみにしていた。
店の前で待っていると、義兄夫婦がやってくる。私を見つけた義師は険しい表情でスカスカと歩み寄ってきた。
「どうして来たのよ。あなたはこの家にふさわしくないって言ったじゃない」
激しく詰め寄る弓を、義兄と蒼太が慌てて止めに入る。
「あんたが言ったこと忘れてないんだからね。友達の悪い貧乏人のくせに生意きなこと言って」
弓はどんどんヒートアップしていく。
「母子家庭育ちのあんたみたいな人間を底辺って言うのよ。底辺とは絶対一緒に食べたくないわ。さっさと帰れ」
店の前でギャーギャーと騒ぐ弓に、義兄は頭を抱えていた。するとその時、冷たい声が響き渡る。
「じゃあ、あなたが帰ってちょうだい」
この冷たい声の主は義母だった。まさか義母が見ていたとは思わなかったのだろう。弓は小さくつくと後ろを振り返った。
「お店の前で騒ぐなんて恥ずかしくて仕方ないわ」
義母の言葉に、弓は頷く。
「みさんが失礼なことを言っていたので反論していただけです。私はこんなにも夫を支えているのに」
ヒステリックモードに突入したのだろう。またもや声が大きくなってくる。
「そもそも蒼太さんがこんな底辺な女を連れてくるのが悪いわ。今からでも離婚しなさい」
もう言っていることがむちゃくちゃだ。当然蒼太は呆れた顔をしている。
「頼むからこれ以上ヒステリックにならないでくれよ」
「そもそもあなたが悪いのよ。私の学歴を馬鹿にするから」
ついには義兄と弓の喧嘩が始まってしまった。すると義母が再び止めに入る。
「本当は後日改めて聞く予定だったけど、あなたがこんなに騒ぐならここで聞くことにするわ。ゆみさん、隠し事があるわよね」
義母の言葉に、言い合いをしていた声がぴたりと止む。
「隠し事って何のことですか?」
弓は平成を予っているが、声は少し震えていた。
「さんが教えてくれたの。あなたの老皮壁について」
弓の顔はさっと青ざめる。
「いつもお姉さんが言っている百貨点がありますよね。私の友人そこで働いているんです」
なぜ弓がこんなにブランド服を買えるのか、疑問で仕方なかった。最初は義兄は随分心が広いんだなと思っていたのだ。しかし不かな妻に高額な買い物を自由にさせるだろうか。そう考えた時、違和感を持ったのである。実家が金持ちだから両親からお小遣いをもらっている可能性も考えた。だが弓は義兄の元にとついでからは1度も実家を頼ったことないと自慢げに言っていたのだ。蒼太の話によると、義兄はお金に無頓着で給料も貯金も弓任せだとか。だからこそ弓は好き放題にお金を使っていたのだろう。友人に聞いたところ、弓は店の乗客で1日に何十万も買って帰ることもあるという。ただあまりにも態度がでかいため、店員からは煙たがられているらしい。
「これにお姉さん家族カードでキャッシングしていませんか?」
これは単なる予想であり、証拠はなかった。しかし予想は適中したようで、弓はさらに真っさになる。
「どうしてそれを」
「金遣いの彼女のことなので借り入れもしていると思った。お金の大切さも分からない上に外でイり散らすだなんて。これそ意の妻として恥ずかしいと思わないの?」
義母に老兵器を指摘された弓は、何も言えずに黙り込んでしまう。
「職員にも随分態度がでかいらしいね。苦情が来ているよ」
無言で話を聞いていた義父も、我慢できなくなったのか言い出した。弓は義父たちがいない時間を見計らって診療所に顔を出すと、「掃除が行き届いていない」だのと文句をつけては怒鳴り散らしているのだ。特に浮気を疑っている事務3人への態度はひどく、「夫に色目を使うならやめろ」と迫っているらしい。実情を聞いた義父は、このままでは職員がやめてしまうと危機を感じていたのだ。
お金を使い込まれていたと聞いた義兄は怒り狂っていた。
「いくら借りたのか全て話せ」
弓は謝罪もせず、ただ突っ立っているだけ。義兄はその態度を見て人袋の角が切れたようだ。
「お前みたいな態度がでかい女。離婚だ。今まで使い込んだ金は返せ」
まさか離婚を言い渡されると思っていなかった弓は、必死で「離婚したくない」と混願している。しかし義両親も義兄も蒼太も、誰も弓の言葉には耳を傾けない。すると弓は、私の方を見て猫撫で声を出した。
「同じ嫁の立場であるみさちゃんなら、私の気持ち分かってくれるよね」
何を今更言うのか。私は笑ってしまう。
「底辺女に助けてもらうんですか?家柄で人を見下す態度をしてきたのはあなたですよ。お金持ちのご実家に助けてもらってください」
きっぱり言い捨てると、弓はがっくりとうなだれた。こうして義兄と弓は離婚することに。弓は離婚届を出してもまだごねていたが、ご両親が引き取りに来たらしく、実家へ強制相感されていた。これまで使い込んできた金額は数百万を超えており、「返せない」と実家に泣きついた弓。両親にお金は払ってもらったものの、「旦那の金を使い込んだ女」だと近所で噂になっているようだ。新しい男と再婚するのは難しいに違いない。両親は「外に出すのが恥ずかしい」としばらく家から出ないようきつく言っているという。もちろん現金もクレジットカードも没収。大好きな買い物でストレス発散ができない弓は、実質で小もり切りになっていると聞いた。
なぜ裕福な家庭育ちにも関わらず私より優位に立とうとしたのか、最後までよくわからなかった。義兄曰く、弓には学歴コンプレックスがあったという。私が蒼太と結婚してから「国立大学卒業の賢い嫁が来た」と親族の間でもて囃されたのが気に入らなかったようだ。お金持ちだからと言って幸せになるわけではない。弓の姿を見てよくわかった。
そして私は義母にある疑問をぶつけてみた。
「なんで私との結婚を許してくれたんですか?石一家にとつぐ女性って家柄が大切なんじゃないのかなって」
おずおずと聞く私に、義母は笑顔で答えてくれた。
「実は私も昔、研修だったお父さんと出会って結婚したのよ。子供が生まれる前は看護師だったの」
看護師だった義母は、親族から結婚を猛反対されて大変だったとか。息子たちには同じ苦労をさせたくないと、長男にはいい家柄のお嬢様を見合いで出会わせた。だが弓と結婚した長男は全然幸せそうではなく、むしろ結婚生活に疲れているように見えたという。だからこそ次男には好きな相手と一緒になって欲しいと、最初から認めるつもりだったらしい。
「まさかジナ男が連れてくるのが看護師だなんて驚いちゃった。やっぱり血は争えないわね」
私と義母はクスクスと笑い合った。それから私は、看護師として義父の診療所で働くように。弓の嫌みにも負けなかった私の強さを気に入ったと、義父が雇ってくれた。以前よりも給料は上がったし、大好きな家族の近くで働けるのはとても幸せだ。



