「オタクの部品は高すぎるんだよな。コスパが悪すぎる。安くしてくれないか。」…

「オタクの部品は高すぎるんだよな。コスパが悪すぎる。安くしてくれないか。」...

取引先の新社長が、突然こちらを馬鹿にした態度で言い放った。

「オタクの部品は高すぎるんだよな。コスパが悪すぎる。安くしてくれないか。」

手応えは十分にあった。長年付き合いのある取引先が、社長が代わった途端にこの始末。正直、耳を疑った。

「以前も申し上げましたが、物価高騰でコストも上がっています。これ以上、価格を下げるのは難しいですね。」

そう答えると、新社長はさらに畳みかけるように言った。

「うちの会社が、青木製作所にとって大事な大口取引先だって分かってるだろ? 今までかなりの金額を払ってきたんだ。」

「確かに、先代の社長の頃からお世話にはなっていますが…」

「じゃあ、もうオタクの製品は要らないよ。契約は今日で終了な。」

その言葉に、部屋の中の空気が凍りついた。俺は田中大輔。家電部品を製造する青木製作所で部長を務めている。ここは創立10年のベンチャー企業で、大企業にはできないきめ細かいサービスとアフターフォローを売りにしている。少しずつ顧客も増え、取引先との信頼関係も築いてきた。

以前は大企業に勤めていたが、もっと取引先と密に関わりたいと思っていた矢先、青木社長に声をかけられた。彼は「一緒に会社を大きくしよう」と言ってくれて、俺は創立メンバーとしてこの会社に飛び込んだ。10年間、共に働き、製品開発も一緒にやってきた。今では上司というより、信頼できるパートナーだ。会社の規模はまだ小さいが、俺はこの会社が必ず大きくなると信じている。定年までここで働くつもりでいた。

そんなある日、取引先である長谷川電気から社長交代の連絡が入った。先代の社長が体調を崩し、息子が社長に就任するという。

俺は青木社長と一緒に挨拶に行った。受付で名前を伝えると、佐藤部長が社長室まで案内してくれた。しかし、ドアが開いた瞬間、俺たちは驚いた。長谷川新社長は、机に足を乗せて座っていたのだ。

「失礼します。」

「どうぞどうぞ。適当に座って。」

座る前に名刺だけ置いてくれ、と言われ、俺は名刺交換もまともにできないのかと呆れた。名刺を机に置くと、青木社長もやれやれという表情を浮かべていた。まだ就任したばかりで、これから教育されるのだろうと、とりあえず自分に言い聞かせた。

ソファーに座り、改めて自己紹介を済ませると、名刺を見た長谷川社長が眉をひそめた。

「青木製作所。ああ、あのコスパが悪い部品会社か。」

「うちとしてもギリギリの金額で提供しているんですが、物価高騰などで色々と厳しくて…」

青木社長は笑顔で答えたが、明らかに作り笑いだった。

「それは経営力が足りないんじゃないかな。今はコスパ重視の会社が多いんだよ。やっていけなくなっちゃうよ。」

明らかに馬鹿にした口調だ。

「今後は社長も交代することですし、こちらとしてもお互いに気持ちのいい取引をお願いしたいですね。」

「そうだね。」

「俺、忙しいからそろそろ帰ってくれる? 社長って大変だからさ。」

あまりの失礼さに、俺の怒りは頂点に達しそうだった。それでも何とか「失礼します」とだけ言って部屋を出た。俺の顔には怒りが現れていたらしく、青木社長がポンポンと肩を叩いてなだめてくれた。

「あの会社ももう終わりかもな。」

「そうですね。」

誰が見てもまともな社長ではなかった。長谷川電気の将来が心配になった。

会社に戻ると、青木社長が言った。

「長谷川電気との取引がいつまで続くか分からない。新しい取引先を探そう。」

「分かりました。明日から新規の営業先を訪門します。」

その日から、俺たちは新規顧客を獲得するために営業を強化した。幸い、新しい取引先も見つかり、これから忙しくなるなと思っていた矢先のことだ。

1ヶ月ほど経った頃、会社に突然、長谷川社長と佐藤部長がやってきた。アポもなしに突然訪問してくるとは、本当に非常識な連中だ。俺は社長室に呼ばれ、緊張した面持ちで向かった。

「今日は突然、どうされたのですか?」

「オタクの部品は高すぎるんだよな。コスパが悪すぎる。安くしてくれないか。」

「以前にも申し上げた通り、物価高騰でコストも上がっており、これ以上価格を下げるのは難しいですね。」

「そうか。長谷川社長、どうしますか?」

「うちは青木製作所にとって、大事な大口取引先だと思うんだけどな。今までかなりの金額を払ってきたでしょ。」

「そうですね。先代の社長の時代からお世話になっていますから。」

青木社長の表情からは怒りが伝わってくる。しかし、長谷川社長たちは気づいていない。

「それなのに、こちらの言うことが聞けないってどういうことだ?」

「価格を下げられない理由は、何度もお伝えしています。長谷川電気さんが提示されている金額では、部品を作ることはできません。」

「じゃあ、もうオタクの製品は要らないよ。契約は今日で終了な。」

「そうおっしゃるのなら、仕方ありませんね。」

「本当に契約終了してよろしいんですか? 今月に納品予定の部品もありますが。」

「ああ、全部要らないから。売れるところがないなら処分しなよ。」

俺は怒りに震える手を必死に抑えていた。すると、今まで何も言わなかった青木社長が口を開いた。

「分かりました。こちらとしては、御社の要望に答えるのは難しいので仕方ありません。今日で契約は終了ですね。」

「ご理解いただけて嬉しいよ。これからはもっと安価で大量生産できる部品にしなよ。」

そう言って、長谷川社長は笑った。俺はこの人たちは本当に何も分かっていないのだと思った。契約終了の書類は後日送付します。そう伝えて、俺たちは彼らを帰した。彼らは笑顔で帰っていった。

「あの人たちは、本当に何も知らないんですね。これから先が思いやられますな。あれは特許を取っている製品なのに。」

実は、長谷川電気に下ろしていた基盤装値は、俺と青木社長とで発明し、特許を取った製品だ。この特許があるからこそ、青木社長は会社を立ち上げた。特許の期限が切れるまで、あと約10年はある。契約を打っ切って損害が出るのは長谷川電気の方だ。それなのに、彼らはその事実に気づいていない。

その翌日、長谷川社長から俺当てに電話がかかってきた。

「お待たせいたしました。田中です。」

「もう一度、契引したいんだ。」

俺が言い終わると間もなく、長谷川社長は話し出した。声はかなり焦っているようだ。基盤装値が製造できないことが分かり、慌てて電話してきたのだろう。

「契引を打っ切ったのはそちらの方ですよ。契引終了の書類も今日投送する予定です。」

「お前じゃ話にならないな。社長に自価談判させるから、電話を変われ。」

「社長は会議中で、電話にでることはできません。」

ここまで来ても、こんなに失礼な態度が取れるのかと呆れてしまった。

「このままだと、うちの売上の9割が失われるんだよ。再契引するんだから、早く変われよ。」

実は、長谷川電気の売上のほぼほとんどを占めるコー ドレス掃除機には、うちの基盤装値が必需だった。しかもこの掃除機は、SNSで若者に人気の芸能人が愛用していると載ったことで、注文数が爆発的に伸びていた。現在では3ヶ月ほどの予約待ちになっている。

「社長はただ今、会議中です。しかも、この基盤装置の契約については、全て私に任せられています。」

「な、なんだって。」

「私は契約打切りと言われた時に、本当に打切りにして良いのか確認いたしました。それなのに、こちらが再契約を求めるのはおかしいですか?」

「だから、再契約すると言っているだろう。こっちだって、特許を取っているなんて一言も言わなかっただろ。」

「お互いに大事な取引先ですから、もちろんご存知だと思っていました。」

「なんだって。知らなかったこっちが悪いとでも言うのか。それが取引先に対すう態要かよ。」

「大事な契約の話を電話でするなんて、ありえません。まずはアポを取って、出直して下さい。」

俺はそう言って電話を切った。そしてすぐに社長室へ行き、この一件を話した。

「やっと気づいたか。まあ、今日のうちにアポの連絡が来るかな。」

「そうですね。今後の契約はどうしましょうか?」

「まあ、うちとしては新い取引先も見つかっだし、何の損害もない。相手の出方を見よう。」

すると、青木社長のスまホが鳴ったので、俺は退室した。どうやら先代の社長から連絡があり、明日の14時から長谷川社長との面談が入ったらしい。

翌日、長谷川社長と佐藤部長が会社へ来た。俺は青木社長と一緒に、社長室で彼らの話を聞くことになった。

「この度は申し訳ございませんでした。す、すみませんが、もう一度契約を結んでもらえませんか?」

長谷川社長と佐藤部長は頭を下げた。

「本当に反省しているんですか?」

「はい。この度の無礼な態度をお許しください。社長もかなり反省しております。」

青木社長はため息をついた。

「本当にすみませんでした。あのコードレス掃除機が製造できないと、うちは倒産してしまいます。もう一度契約を結んでもらえないでしょうか?」

2人は土下座までしている。

「2人ともソファーに座りなさい。これで、うちとの取引がどれだけ大事なのか分かりましたか?」

「はい…」

長谷川社長は俯いたまま、元気なく答えた。

「君たちは、取引先の大事さをちゃんと勉強すべきだ。先代の社長が作り上げた基礎をしっかり受け継いで、さらに大きくしていくのが君たちの仕事だろう。」

2人は泣きそうな顔をしていて、何も言えない。どうやら、俺たちが作っている基盤装置の製造をライバル会社に頼んだところ、特許が申請してあり製造できないと言われたらしい。そこで初めて、今回の契約打ち切りで大きな損害を被るのが長谷川電気自身だということに気づいたのだ。

「実は昨日、先代の社長、君のお父さんから電話があったんだ。」

「え?」

「これからもよろしく、と頼まれたよ。」

「う…」

「君たちと契約を結ぶのは簡単だ。だが、一つ条件を出す。」

「あ、はい。何でもおっしゃってください。」

「まずは、社会人としてのマナーを身につけなさい。君たちの態度で、こちらはかなり不快な思いをしてきた。」

「すみませんでした。」

「もっとちゃんと勉強をやり直すことだな。君たちの態度次第では、すぐに契引を打ち切るからな。田中君もこれでいいかな。」

「はい。これからも態度はしっかり見ていきます。」

「今回は、先代の社長に免じて許すとしよう。お父様に感謝するんだな。」

「ありがとうございます。これからは自分の言動に責任を持ち、社会人として1から勉強し直します。」

2人はそれぞれ俺たちにお礼を言って退出した。

実は、昨日青木社長にかかってきた着信は、先代の長谷川社長からだった。息子から契引打切りの話を聞き、心配になって連絡してきたらしい。先代とは会社の創立当時からの付き合いで、かなりお世話になっていた。息子の不始末を詫び、これから息子の教育を頼みたいとの電話だったのだ。

青木社長も、このままだと長谷川電気は倒産してしまうかもしれないと心配していたので、先代の頼みを引き受けたのだろう。青木社長はかなり面倒見がよく、社員教育にも力を入れている。将来は会社を担っていく人材を育でたいと常々言っている。その人柄を見込んで、先代の長谷川社長も連絡してきたのだ。

後で分かったことだが、長谷川社長と佐藤部長は幼なじみだった。佐藤部長は長谷川社長を外部から唆し、コスパの悪い高額な部品を全て安価なものにして、会社の利益を上げようとしていた。そして、それを実績として佐藤部長は副社長に就任し、かなりの年収をもらう予定だったらしい。つまり、佐藤部長は自分の利益を優先し、会社の利益など考えていなかったのだ。

しかし、先代の社長が体調を崩したことで、何の知見も持たないまま息子が社長に就任してしまった。本らいなら、まだ長谷川社長は経営学を学びながら取引先との信頼も徐々に進める予定だったらしい。先代の社長は佐藤部長の企みに気づき、息子が利用されているのではなかいかと青木社長に相談していたのだ。

「社長たち、ちゃんとやってくれますかね?」

「今回の一件でかなり懲りたろうから、しばらくは大人しいだろうね。」

「そうだといいんですけど…」

実のところ、俺は彼らがちゃんと更生してくれるのか、まだ半信半疑だった。

しかしその翌日、早速長谷川社長から電話がかかってきた。内容は、取引先との交渉はどのように進めたら良いのかという相談だった。たまたま社長室に呼ばれていた俺は、青木社長が少し嬉しそうな表情で話しているのが分かった。きっと、長谷川社長が変わろうとしてくれているのが、よほど嬉しかったのだろう。

それに加えて、佐藤部長の件も相談があったらしい。本らいなら広格処分に相当するが、長谷川社長は自分にも責任があるからと、処分を下すことにした。昔からの縁もあり、長谷川社長もなかなか決断ができなかったのだろう。青木社長は、佐藤部長もかなり反省しているだろうし、損害を出したわけではないので、今回は音無しでも良いのではと提案したらしい。青木社長のアドバいスに、長谷川社長もかなり感謝していた。

正談の件は後日改めて、食事でもしながら話をしようと青木社長は言っていた。

「これからは、長谷川社長の教育もあるし、忙しくなりますね。」

「本当だな。でも、彼が変わろうとしているのは、仕事に対する姿勢で分かる。これからの長谷川社長には期待でいるよ。食事の時は、お前も一しょに来いよ。」

「はい。しっかり構成しているのか、見極めます。」

「長谷川社長には、かなり優秀な秘書をつけて、マナーや経営画全般をみっちり教え込んでいるらしいぞ。」

青木社長はそう言って笑った。俺は今回のことで改めて、青木社長の人間性の素晴らしさに気づいた。彼が目指す理想の上長像は、間違いなく青木社長だ。今回の件ではかなり頭に来ることが多かっだが、改めて自分がいいるこの青木製作所の素晴らしさを実感した。

俺はこれからも青木社長の元で働き、お客様に対しても取引先に対しても、真身に向き合っていこうと心に誓ったのだった。

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