10年前、結婚式当日に姿を消した元婚約者が、夏祭りの会場で突然私の前に現れた。「俺は大物政治家の娘と結婚したんだ。どうだ?すごいだろう」と、彼は私を一目見下しながら言った。私は彼に対抗馬として選挙に立候補していることを黙っていた。すると彼は、私の強さに気づき、手のひらを返してこう言ったんだ。「よりを戻そう。俺とお前なら確実に勝てる」。私がきっぱり断ると、彼の妻が現れ、会場のマイクで壮絶な暴露…

10年前、結婚式当日に姿を消した元婚約者が、夏祭りの会場で突然私の前に現れた。「俺は大物政治家の娘と結婚したんだ。どうだ?すごいだろう」と、彼は私を一目見下しながら言った。私は彼に対抗馬として選挙に立候補していることを黙っていた。すると彼は、私の強さに気づき、手のひらを返してこう言ったんだ。「よりを戻そう。俺とお前なら確実に勝てる」。私がきっぱり断ると、彼の妻が現れ、会場のマイクで壮絶な暴露...

十年ぶりに彼が目の前に現れた時、あの日の屈辱が鮮やかによみがえってきた。夏祭りの賑わいの中で、彼は何事もなかったかのように私に話しかけてきたのだ。

「あれ、裕子じゃないか。久しぶりだな」

あの日、結婚式をドタキャンしておきながら、この男は平然としている。私は知らん顔をして通り過ぎようとしたが、彼は諦めなかった。

「俺が今どうしてるか、知りたくないのか?」

「別に興味ないけど、話したいなら聞いてあげるわ」

「俺はあの大物政治家、村川孝一郎の娘エミと結婚したんだ。どうだ?すごいだろう。今はお父さんの秘書として働いてるんだ」

得意げに鼻を膨らませる元婚約者・村川義。その傲慢さに呆れつつも、ちらりと見えた村川の姿に私はある違和感を覚えた。村川は険しい顔で商店街を歩き、地元の高齢者が意見を求めても目も合わせず、時間がないと冷たく突き放していた。近くで遊んでいた子供がぶつかって謝っても、睨みつけて舌打ちをする。

私はかつて彼を愛したことがある。あの頃の彼は、こんな人間ではなかったはずだ。しかし大物政治家の娘と結婚し、自分も偉くなったと勘違いしてしまったのかもしれない。

三十分後、よしが再び私の前に現れた。

「なんだよ、俺に嫉妬してるのか?お前はどうせ今でも独身なんだろ。小さな会社の管理職にしがみつくしかないお前がかわいそうだよ」

私は彼の言葉に腹が立ったが、同時に不思議と冷静だった。

「おかげ様で10年前より随分出世させてもらったわ。本当、あなたがいなくなってくれてよかった」

「その年で独身祭りに一緒に来てくれる男もいないお前がかわいそうだよ」

「心配ご無用。私は幸せにやってるわ。この10年、いろんなことを乗り越えて必死にやってきた。私が築いてきた10年の重みを、あなたに侮辱されたくない」

よしは悔しそうに眉をひそめた。その時、ふと彼が言った言葉が引っかかった。

「村川孝一郎のそばにいれば俺の将来も安泰ってもんだ」

「え、大丈夫なの?この時、村川には政治の裏金問題に加え、複数の女性スキャンダルが浮上していた。選挙も近いし、致命傷になるんじゃないの?」

「何も心配ないさ。あんな問題、政治家なら誰にだってある。お父さんの権力で噂は簡単に潰せるさ」

よしは高笑いしているが、本当にそうだろうか。そこに、私の事務所のスタッフが駆け寄ってきた。

「先生、準備が整いました」

「分かったわ。ありがとう。すぐに行くから」

よしはスタッフが着ているジャンパーを見て、目を丸くしている。実は私は、村川孝一郎の対抗馬として今回の選挙に立候補していたのだ。地域貢献活動に力を入れる中で、地元の有権者たちから立候補を促され、やれるだけのことをやろうと立ち上がった。そしてこの日の祭りでは、私の演説会が予定されていたのだ。

「強力な対抗馬って、お前だったのか」

よしは驚きを隠せず、言葉をつまらせている。私は彼をよそ目にステージへ上がり、マイクを握った。

「皆様、お祭りを楽しんでますか?」

私の声が響くと、会場に大勢の支持者が集まり、報道陣までもがステージ周辺に集まってくる。彼は群衆に押され、弾き出されたようだ。十五分間の演説を終え、支持者たちの大きな拍手の中、私はステージを降りた。そこに、さっきよしにぶつかった子供が握手を求めてやってくる。子供と握手を交わすと、母親が力強い励ましの言葉をくれた。

「応援してます。村川なんかに負けないでくださいね」

その様子を見ていたよしが、駆け寄ってくる。

「知らなかったよ。まさかお前がお父さんの対抗馬だったなんて。どうだ?これから俺と一緒に選挙を戦わないか?よりを戻そうって言ってるんだ。俺とお前なら、確実に村川に勝てる」

「お断りよ。あなたとは10年前に終わったの。今更復縁だなんて笑わせないで」

「そんなこと言うなよ。俺たちは愛し合った仲じゃないか」

問題の多い村川よりも私についた方が自分にとって有利だと考えたのだろう。都合よく手のひらを返すよしに呆れてしまう。そこによしの妻エミが現れた。金持ちの妻は、よしの浮気を疑いGPSを仕掛けていたようだ。

「どういうことかしら?」エミは鬼のような形相でよしを睨みつけている。

「エミ、俺たちはやっぱり合わないから離婚しよう」

「何ですって?そんなこと認められるわけないでしょ」

エミはよしの言葉に驚きながら、私の方に視線を向けた。

「この女のせいね。この泥棒猫」

「私は関係ありません。この人とは10年前に終わったの。今更よりを戻すなんてありえないわ」

私が否定しても、エミは激しく詰め寄ってくる。するとよしはステージに上がり、マイクを手にしたのだ。

「皆さん、聞いてください。世間を騒がせている村川孝一郎の裏金問題は事実です」

よしは大衆の面前で村川の不正の一部始終を暴露し始めた。女性問題も全て事実だと。報道陣がカメラを向ける。そして最後にこう宣言した。

「僕は村川孝一郎と決別し、離婚することを宣言します」

「あなた、何を勝手に。離婚なんて認めません」

「いや、俺は裕子と一緒になるんだ」

よしはエミとの離婚だけでなく、私と再婚するとまで宣言した。私は反論したが、その時、私の支援者であるハセベがエミにタブレットを提示した。そこには、よしから復縁を迫られ、きっぱり拒否している私の姿が映し出されていた。

「あなた、裕子さんの方が選挙に勝てると思って裏切るつもりなのね」

エミはよしに対し激しく怒りをぶつける。すると今度はエミもよしの不正を暴露し始めた。よしは村川の名を使い、多くの地元企業から便宜を図る見返りに現金を受け取っていたらしい。選挙に関しても、村川に票を入れるよう地元の有力者を買収していた。二人の暴露合戦はその場にいた有権者たちの一部始終に目撃され、中にはスマホで録画する者もいた。

私は二人の争いをよそに、有権者との交流会へと向かおうと歩き出した。しかしよしは執拗に追いかけてくる。

「裕子、話を聞いてくれ。頼む。俺とやり直してくれ」

「お断りします」

何度断っても、彼はしつこく復縁を迫ってくる。そこに一台のタクシーが止まり、ハセベが私に乗るように促した。よしから逃れるため、気を回してくれたようだ。私はそのままタクシーに乗り込み、自宅へと戻った。

翌朝、テレビでは夏祭りでの騒動が報じられていた。よしとエミの壮絶な暴露合戦により、村川孝一郎の社会的信用は地に落ちた。村川は政治家としての立場も危うくなり、警察が捜査に乗り出す。村川には増収賄の疑いがかけられ、よしには斡旋利得処罰法違反の疑いがかけられた。村川は全てよしがやったことだと逃げ、よしはよしで村川に指示されたと反発した。

しかし、よしはその後も私の周りに現れた。離婚調停中だというのに、執拗に私の周りをうろつき、復縁を求めてくる。そして一ヶ月後、よしが私の自宅を訪ねてきた。

「これを見つけたんだ」

よしは得意げな顔をしながら、私の目の前に婚姻届を広げた。そこには私とよしの名前が記入され、証人欄にはお互いの両親がサインしている。確かに、私が署名したものだ。しかしそれは十年も前のものだ。

「こんなもの、どうして?」

「これがあるってことは、俺たちの婚約は破棄されていないってことだ」

「私たちの婚約は、10年前にあなたが結婚式をドタキャンしたことで破棄されているわ」

「俺は破棄した覚えがない」

「いくら婚姻届があるからって、10年前の日付じゃさすがに役所も受理しないわよ。それに、私はもうあなたと結婚する意思がない」

「それはどうだろうな。これを役所に提出して受理されたら、嫌でもお前は俺の妻になるんだ」

よしはあろうことか私を脅してきた。

「勝手に提出したら、虚偽の届け出で逮捕されるわよ」

「何だって」

「まあ、どうせ逮捕されるんだから、試しに提出してみたら?私は同意していないってはっきり宣言するけどね。それより、10年前あなたが結婚式をドタキャンしたせいで、私が全額キャンセル料を支払ったのよ。私とよりを戻したいって言うなら、まずそのお金を返済するのが先じゃないかしら」

「分かった。それは支払う。だから俺との結婚を受け入れてくれ」

私はあえて何も返事をせず、彼を帰らせた。よしはよほど私とやり直したいのか、翌日にはキャンセル料の全額が私の口座に振り込まれていた。その日の夜、よしから電話がかかってくる。

「お金を振り込んだ。これで結婚してくれるんだろう」

「私は結婚するとは言ってないわ。それに10年前の返済と結婚の約束は別よ。私はあなたとやり直す気はありません」

「そんな、お前は俺を騙したのか?」

「騙してなんかないわ。私は最初からずっと、あなたとの関係は終わったって言ってたはずよ」

よしは激怒し、暴言を吐きながら電話を切った。しかし、彼がこのまま素直に引き下がるとは思えなかった。私はすぐにハセベに連絡し、対応を協議した。弁護士でもあるハセベは、よしが何か仕掛けてきたとしても対処できる頼れる味方だ。

それから数日後、SNSに私の誹謗中傷の動画が流れた。「金返せ。騙された。詐欺だ」という攻撃的な言葉が並ぶ。発信のアカウントはよしのものだった。よしは私とやり直せないと分かり、今度は私の政治家としての未来を潰そうとしているようだ。そのコメント欄には「失望した」「最低」と私への非難の声が並び、選挙事務所には問い合わせの電話が鳴りやまなかった。

「これは明らかな名誉棄損ね」

「そうね。だけどこれにどう対抗すればいい?」

「相手がSNSで仕掛けてくるなら、こちらも同じ方法で反撃しましょう」

ハセベはそう言うと、よしが私にしつこく付きまとっている動画や、私が受け取ったお金が10年前の結婚式のキャンセル費用だった証拠を公表した。動画は瞬く間に拡散され、私の味方を増やし始めた。しかしよしも黙っていない。今度は婚姻届を動画に撮り、私との婚約の有効性を訴えたのだ。SNSに投稿された婚姻届は記入日が隠され、一見今現在の出来事のようにも見える。

私はハセベに正式に依頼し、よしを名誉棄損で訴えることにした。同時にSNSで真実を明かした。カメラの前で、10年前の式場での裏切りや、結婚式当日の混乱、その後の苦しみを語っていると、当時を思い出し、自然と涙が溢れてくる。それを見た人たちからは励ましの声が多数届いた。これにより世論は完全に私の味方となった。

その後、裁判で私の訴えが認められ、よしには損害賠償の支払いが命じられた。同じ頃、よしとエミの離婚調停も決着を迎えた。二人の離婚は一方的な裏切り行為によるものと判断され、よしはエミに多額の慰謝料を支払うこととなった。さらにエミとの間には子供がいたため、養育費の一括支払いも命じられた。

村川孝一郎はその後、議員を失職した。表向きは一連の騒動の責任を取るというものだったが、真の理由は裏金問題による逮捕が近づいていたからだろう。時を同じくして村川は党員資格も停止された。二週間後、村川孝一郎は政治資金規正法違反で逮捕され、よしもまた斡旋利得処罰法違反で逮捕された。警察の捜査により、よしは集めた政治資金を自身の懐に入れていたことも判明し、業務上横領の罪でも再逮捕されることとなった。その後の裁判でよしには実刑判決が言い渡され、合わせて行われた民事裁判により、よしの資産は差し押さえられた。彼は社会的信用と同時に、全財産も失ったのである。

私はと言うと、一連の騒動のおかげで国民の強固な支持を獲得し、参議院選挙でトップ当選を果たし、国会議員としてのスタートを切ることができた。私の当選を誰よりも喜んでくれたハセベと、私は結婚を視野に入れた交際を始めた。彼とはお互いの距離を少しずつ縮めながら、穏やかに愛を育んでいる。ハセベはよしの件で悩んでいた私を精神的にも支えてくれた。十年分の屈辱を晴らすために、私を後押ししてくれたのだ。そんな彼であれば、今後の政治活動でもきっと私の強い味方になってくれる。

ハセベと過ごす時間は私に安らぎを与えてくれる。彼と共に、私を支援してくれる人々の期待に答えられるように、この国を少しでもよくできるように、私はこれからも邁進していく。何があっても決して折れない。負けないと心に決めて、今日も笑顔で走り出していくのである。

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