家族で父の誕生日を祝うため、久しぶりに高級焼肉店へ。みんなが笑顔で「美味しい」と喜ぶ中、隣の席に座った若い男女が突然、私たちを指さして笑い出した。「貧乏人がこの店に来るなんて、背伸びしすぎだろ」――無視しようとしたのに、彼らは止まらない。そして、焼きたての熱い肉を私に向かって投げつけてきたのです。「貧乏人がいると飯がまずくなる。帰れ」と。腕は火傷で腫れ上がり、父にも肉が飛んできた。相手は「エ…

家族で父の誕生日を祝うため、久しぶりに高級焼肉店へ。みんなが笑顔で「美味しい」と喜ぶ中、隣の席に座った若い男女が突然、私たちを指さして笑い出した。「貧乏人がこの店に来るなんて、背伸びしすぎだろ」――無視しようとしたのに、彼らは止まらない。そして、焼きたての熱い肉を私に向かって投げつけてきたのです。「貧乏人がいると飯がまずくなる。帰れ」と。腕は火傷で腫れ上がり、父にも肉が飛んできた。相手は「エ...

腕に焼きたての肉が当たって、熱さと痛みで思わず立ち上がった。隣の席からは笑い声が聞こえる。

「なんだよ、今の反応。面白すぎだろ」

俺は勇気智、34歳の会社員だ。今日は父の誕生日を家族で祝うため、父が行きたがっていた高級焼肉店に来ていた。みんなが「美味しい」と笑顔で、父も大満足そうだった。そんな幸せな時間を、隣に座ってきた二人組の若い男女が壊していった。

「貧乏人がこの店に来るなんて、背伸びしすぎだろ」

最初は無視していた。今日はめでたい日だ。喧嘩をするべきではない。妻も両親も気にしないふりをしていたし、息子は肉に夢中で気づいていないようだった。しかし相手は「無視すんなよ」と話しかけてくる。思わずそちらを見てしまった俺に、彼らはニヤニヤしながら「貧乏人が睨んできた」と言い出した。

それでも俺は黙っていた。若い知らない相手に言い返すのは大人の対応ではない。しかし彼らはやめなかった。

「家族で焼肉とかダサいよな」

「貧乏人がいるだけで飯がまずくなる。帰れ」

そう言ったかと思うと、焼き終わったばかりの熱い肉をこちらに向かって投げてきたのだ。肉は弧を描いて、俺の腕に当たった。痛みと驚きで立ち上がり、急いで肉を払う。腕は赤く腫れ上がり、水ぶくれができ始めていた。

妻と母が氷の入ったコップを差し出してくれる。俺たちが慌てているのを見て、隣の男女は腹を抱えて笑っていた。

「なんだよ、今の反応。面白すぎだろ」

さすがに怒りが込み上げてきた。

「あなた、一体何をするんですか。こっちは火傷したんですよ」

しかし相手は謝る様子もなく、堂々と言い放った。

「貧乏人がここにいるだけで不快なんだよ。しかも俺たちのこと無視して、バカにしてるのか」

「俺たち家族がどこで何を食べようと関係ないでしょう。気にしないでください」

「うまい肉がまずくなるって言っただろうが」

男は名乗った。藤堂ゆや。この辺りでは一番大きい羽根銀行で働くエリートで、銀行のトップの息子の友人だという。

「それを、こんなやっと貯金を貯めてこの店で食べることができましたみたいな人間が俺の近くにいたら、不快になるに決まってるだろう」

有名ブランドの服を着て、女性はキャバ嬢のように派手な格好をしている。金はあるのかもしれないが、下品で成金のような感じだった。

そう思っていると、父が低い声で言った。

「君たちがしたことを、先に謝らんか」

藤堂はニヤニヤしながら「じじいが何か言い出したぞ」と馬鹿にする。そして、「お前にもこの熱いのをくれてやるよ」と言って、肉を父にも投げつけた。直撃はしなかったが、油が顔にかかったようで、父は眉間にしわを寄せた。

「父さん、大丈夫か?」

さすがに事態を理解したのか、息子は目に涙をためて泣き始めた。妻がなだめるが、藤堂は「ガキもうるせえな。ここにいたら邪魔だから、底辺どもは早く帰りやがれ」と怒鳴った。女性の方も「せっかくの肉が台無しよ」と切れ出す。騒ぎを聞いて店員が駆け寄ってくるが、藤堂たちは「邪魔だ」と追い払った。

父の誕生日を祝うために選んだ店で、まさか理不尽なことを言われて怪我までさせられるとは思わなかった。個室を予約していれば良かったと後悔する。拳を握りしめ、言葉で反撃しようとしたその時、先に父が口を開いた。

「今すぐ銀行の代表を呼べ。すぐに謝ったら温情で済ませてやろうと思ったのに、ここまでされたのなら絶対に許さん」

一瞬、何を言っているのか分からないという顔をした藤堂だったが、すぐに「何言ってんだ、じいさん」と笑い出した。「銀行の代表を呼ぶわけないだろう」と手をヒラヒラと振って馬鹿にする。

しかし、それは父の恐ろしさを理解していないから言えることだ。俺たち家族は、こいつら終わったなと思い、怒りよりも哀れみの視線を送り始めた。

それに気づかない藤堂は自信満々に言う。

「うちの銀行に何か文句つけるつもりか? それならやめとけって。俺は有名大学を卒業して即採用されたエリートなんだ。将来有望だし、お前らが痛い目に会うぞ」

父は呆れたように鼻で笑って言い放った。

「自己評価が高すぎるな。きっと職場でも苦労しているんだろう。主に、お前さんの先輩や同期がな」

「はあ? バカにしてんのか」

藤堂は怒り出し、スマホを取り出した。

「お前みたいな貧乏人なんて、どうせうちの銀行を利用させてもらってるに過ぎないんだぞ。代表に行って、五に科してやる」

電話を終えると、こちらを見てニヤリと笑う。

「これでお前らは、一生うちの銀行が使えないな」

しかし俺たちは何も言わない。むしろ哀れみの視線を変えず、「焦げたら美味しい肉がもったいない」と言って、泣きやんだ息子にも食べさせてやる。その様子に藤堂は「なんでビビらねえんだよ」と苛立っていた。

それから30分もしないうちに、羽根銀行の代表が店に来た。藤堂が話しかけようとするが、その前に代表は父に頭を下げた。

「勇気様、ご無沙汰しております」

隣の男女はポカンと口を開けて、間抜けな顔をしていた。

「金を預けさせてもらって、ありがとう」

「それはこちらのセリフです。勇気様がいらっしゃるから、うちの銀行は成り立っているようなものですから」

藤堂は意味が分からないという顔で代表に話しかける。

「あの、羽鳥さん、これは一体……」

すると代表は答えた。

「この方は、うちの銀行で一番お金を預けてくれている勇気浩司様だよ。大きな会社を経営していらっしゃるんだ」

藤堂は目と口を大きく開き、固まってしまった。

実は父はグループ企業の社長で、羽根銀行に会社のお金を預けているだけでなく、自身の資産も入れている。母の両親は元々地主だったため、母も同じようにマンション経営などをしているし、親戚たちも同様に金持ちで、羽根銀行に入金し続けている。羽鳥代表は、父には頭が上がらないのだ。

そう説明された藤堂は、やっと自分の置かれた状況が分かったのか、体を震わせて顔を真っ青にしていった。羽鳥さんが「何かあったんですか」と聞くと、藤堂は口をパクパク動かすだけで何も話そうとしない。

「こいつらに、貧乏人は出ていけと焼きたての肉を投げられて火傷したんです」

俺がそう伝えると、藤堂は「ちょ、何言ってんだよ」と焦り、羽鳥さんは眉間にしわを寄せて彼を睨みつけた。

「どういうことだ。なんで勇気さんたちにご迷惑をかけたんだ」

「違うんです。ちょっと誤解があったみたいでして……」

「俺たちは食事をしていただけですよね。あなたたちに何も迷惑をかけていなかったのに、急に見た目が貧乏らしいとかの理由で、同じ空気を吸いたくないとか言ってきたじゃないですか」

「そ、そこまで言ってない……」

「どこが違うって。俺たちのことを馬鹿にしたことも、熱い肉を投げて火傷を負わせたのも、本当だろう」

「まさか、怪我まで…… どうしてそんな危ないことができるんだ」

「あれは、手が滑っただけなんです……」

「思いっきりこっちに投げましたよね。『貧乏人は帰れ』って言いながら。嘘をつくなんて、恩情際が悪いぞ。罪を認めろ」

俺と父が詰め寄ると、藤堂は言葉を失った。羽鳥さんは「お前はなんてことをしでかしたんだ」と怒り、俺たちに頭を下げて謝った。藤堂も、羽鳥さんが頭を下げたのを見て、やっと謝罪した。

「申し訳ありませんでした……」

「人に言われてから行動するのは、とても遅すぎる。社会人として、これはいかがなものなのか」

羽鳥さんは俺の言葉に同意して、「藤堂君がしたことは常識がなっていない」と叱った。

「なんで勇気さんにご迷惑をかけるようなことをしたんだ」

「銀行の大口顧客だとは思わなかったんです……」

「どうして俺たちに迷惑行為をしたかを聞いているんだ。日本語が通じていないのか? 英語で話した方がいいかな?」

その言葉に少し頭に来たのか、藤堂は目つきを悪くする。しかしすぐに羽鳥さんが「なんだその目は」と怒り、藤堂は下を向いて黙ってしまった。そして、ポツリと言った。

「……せっかくここにデートに来たから、気分よく食べたかったんです」

思わず俺は聞き返してしまった。彼女の前で見栄を張りたいから、迷惑行為をしたというのか。

「お前のデートの邪魔なんて、全くしてないだろ。何か俺たちは冷やかしでもしたか? ふざけたことを言うなよ」

「俺は金持ちアピールしてたし、優秀だって自慢もしてたんですよ。ここの焼肉店も高級なんだって言って誘ったのに、見た目が悪い家族連れが隣にいたんだから、雰囲気ぶち壊しだって思うだろ。それくらいさせてくれよ」

「そんなの分かるはずない。勝手にデートしてるのはそっちだろ。どんな客が来ようと、お前に文句を言う資格なんてないんだ。そんなに周りが気になるんだったら、個室でも予約しとけ」

俺は怒りに任せて怒鳴った。藤堂はびっくりして肩を揺らし、彼女の方も黙ったままで、腕時計をチラチラと見ているだけだった。

「あんたの見栄のために、俺は怪我をした。父さんも顔に油がかかって少し赤くなったんだ。息子たちが火傷しなくて良かったとは思うけど、お前のしたことは俺たちにとっては重罪だよ。家族団欒の父の誕生日を、台無しにしたんだからな」

それを聞いて、羽鳥さんは「勇気様の誕生日を台無しに……」と顔色を悪くした。すると父が言った。

「俺の誕生日はもういい。十分祝ってもらったし、焼肉も美味しかった。ただ、一番気になるのは、自分の都合で無知らずの人間を苦しめること。次に不愉快だと思ったのは、この店や他の客の迷惑を考えなかったことだ」

確かに、藤堂は俺たちを罵倒しただけでなく、店員にきつい態度を取っていた。肉を投げられて床も汚れてしまった。他の客もこちらをチラチラ見て、こそこそと話している。藤堂は多くの人に迷惑をかけているのだ。

すると突然、藤堂の彼女だと思っていた女性が言い出した。

「もう時間なので、帰らせてもらいます」

「えっ?」

その場にいたみんなが驚いた。藤堂は「待ってよ、ゆみちゃん。延長料払うから、まだ一緒にいて」と引き止めるが、女性は「これ以上は無理です」と言って帰っていった。

何がどうなっているのかと思いながら聞いていると、どうやらあの女性はレンタル彼女というものだったらしい。藤堂がお金を払って一緒に食事をしていた、いわば他人だったというわけだ。レンタル時間が過ぎていることに気づいた女性が、声を上げたのだ。

女性がいなくなった後、哀愁漂う藤堂を見て少し気まずい雰囲気になったが、羽鳥さんが咳払いをして話し始めた。

「勇気様に迷惑をかけたことと、銀行を出して店内で暴れ、多くの人に迷惑をかけたことに対して、責任を取らせるつもりです。解雇は免れないので、二度と顔を見せないはずでしょう」

「良かった」

「え、ちょっと待ってください」

藤堂は抗議したが、羽鳥さんは言い放った。

「君が、うちの息子と仲がいいという理由で、銀行員の間で偉そうな態度を取っているのは知っている。そのことも踏まえてのことだ」

藤堂は絶望したような顔をした。そこに、俺は追い打ちをかけるように言った。

「肉を投げられたことに対して、被害届を出させていただきます。こっちは火傷しましたし、おそらく受理されるはずです」

それを聞いて、藤堂は今までで一番顔色を悪くし、土下座までして何度も謝罪してきた。しかし、誰も許すはずもない。

羽鳥さんは「後は任せてください」と俺たちに言った後、藤堂に俺たちの食事代を払わせて、連れて帰っていった。

その後、俺の出した被害届で、藤堂は傷害罪を言い渡されて罰金になった。罰金と治療費や慰謝料を払うことになったのだが、貯金が全くないため、借金で一括で払ってもらうことに。毎月少しずつ払うという選択肢もあったのだが、もう俺たちと関わりたくないと思ったのだろう。もちろん羽鳥さんに解雇を言い渡されたため、今は仕事探しをしているらしい。新しい職場では問題を起こさず、迷惑をかけないようにしてもらえたら幸いだ。

ちなみに、レンタル彼女の人からは「もう二度と利用しないで欲しい」と言われてしまったらしい。お気に入りの子だったようだが、今回のことで藤堂は多くのものを失ってしまっただろう。

一方、俺たちは家族と話し合った結果、父の誕生日を祝い直すことになった。羽鳥さんからはお詫びだと言って旅行券をもらったため、次は温泉旅行に行くつもりだ。

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