私の結婚式の日、新郎の母親が私の着物を「安物」と言い放ち、会場中に響き渡る声でこう言ったんです。「あの母親との絶縁が、あなたがうちの家に入る条件です。」 私は娘の幸せのため、ただ耐えようとしました。でも、娘の口から出た次の言葉が、すべてをひっくり返しました。まさか、あの日の屈辱が、私たち親子の人生をこんなにも変えるなんて、あの時は思いもしませんでした。

私の結婚式の日、新郎の母親が私の着物を「安物」と言い放ち、会場中に響き渡る声でこう言ったんです。「あの母親との絶縁が、あなたがうちの家に入る条件です。」 私は娘の幸せのため、ただ耐えようとしました。でも、娘の口から出た次の言葉が、すべてをひっくり返しました。まさか、あの日の屈辱が、私たち親子の人生をこんなにも変えるなんて、あの時は思いもしませんでした。

彼女の言葉は、まるで刃物だった。結婚式の控え室で、新郎の母である高子は、私が用意した着物を見下すように言った。「まあ、お母様、お久しぶりです。…失礼な置物ね。どうせ無理して買った安物なんでしょ」

周囲には遠藤家の親族や会社幹部が勢揃いしていたが、誰も彼女を止めなかった。それどころか、小さく笑いを漏らす者さえいた。

高子はさらに続ける。「ご教養も期待してないのよ。こちらは貧しいパート作業員の家らしいから。そんな家庭ですもの、社会常識も怪しいところだわ。引き出物を選ぶのにも苦労したのよ。なんせ、あなたのレベルに合わせないといけなかったから」

私は唇を噛んだ。なぜ、ここまで踏みにじるのか。それでも、今日は娘のみほの結婚式だ。私は耐えなければならなかった。

式が始まるまでの間も、嫌がらせは続いた。喉が渇いてウェルカムドリンクに手を伸ばすと、背後から声が飛んでくる。「まあ、装飾品を飲むだなんて、マナー違反もいいところだわ」振り向くと、高子の秘書があざけりの目で私を見ていた。「なんて常識のない貧乏臭い真似はおやめください」わざと周囲に聞こえるような大きな声で注意され、場の空気は一瞬で凍りついた。クスクス笑う人間までいるではないか。

決定的な恥辱は、高子のスピーチで加えられた。「ひろや、みほさん、本日はおめでとう。…でも、みほさん、あなたが遠藤家の一員となるには条件があります」会場が静まり返った。「そうです。絶対に譲れない条件です。…それは、あの母親との絶縁です」

私との絶縁ですって。

高子は笑い続けながら言った。「まあ、理解できますよね。あの御出様ならば、そのようなお方と私は身内になりたくないので」遠藤家側の出席者たちから笑い声が起こり、私の心は深くえぐられた。

もう耐えられなかった。屈辱に耐えかねて席を立ち、ショックでよろめきながら会場の出口へ向かう。これ以上、娘に恥をかかせたくない。それで娘が幸せになれるのならば、自分は身を引こう。

「待って、お母さん!」

みほが叫び、私を追う。会場の視線が一斉にみほへ集まった。そしてみほは高子に聞いた。「あの、念のためお聞きしますけど、母の職業を本当にご存知ないんですか?」

高子は鼻で笑う。「興味ないわ。下層階級の仕事なんて。どうせ作業着を着てパートで必死に働いている貧乏人なんでしょ」

ひろやも母の言葉に合わせるように頷いた。「まあ、あの作業着姿を見れば分かる話だ。僕も興味はなかったし、どうせパートだろ。みほの母さんの職業を聞いても、こっちが悲しくなるだけだ」

みほの夫になるはずの男までもが、高子に加担したのだ。確かに、ある理由でみほは私の職業をひろやに明かしていなかった。しかし、その言葉を聞いた瞬間、みほの中で何かが切れてしまったらしい。「もう我慢できないわ。私、こんな人とは結婚しない」

みほが私の元へ駆け寄り、その背を支えた。会場は騒めきに包まれ、遠藤家の笑い声だけが響いていた。しかし、ここから私たち親子の逆襲が始まるのだ。

高子は余裕の笑みを浮かべ、私とみほの方へ歩いてきた。「まあ、若い子は感情的ね。でも、もう発言は取り消せないわよ。今更取り繕っても遅いからね」

しかし、みほは震える拳を握りしめ、私の背後から一歩前へ踏み出した。「私の母であるこの女性は」そして会場へ向かって真実を告げた。「あなた方がすがっている契約先、アースホールディングスの会長、騒木千影です」

騒めきが広がった。その名はこの界隈で知らぬ者はいない。世界的な総合不動産グループ、アースホールディングス。年間売上は遠藤開発の50倍以上。その会長の名が、まさかの無骨な作業着姿の女と結びつけられたのだ。会場の空気は一瞬にして凍りつく。

しかし、ただ一人。「あははは。面白い!」高子だけは腹を抱えて笑った。「なるほど、そういう設定ね。必死に考えたのかしら」

ひろやも母の背後で苦笑しながら言った。「みほ、そういうのはやめよう。そんなすぐにバレるような悲しい作り話をして、母を困らせるのは本意じゃないだろう」

だが、高子とひろやとは対象的に、部下たちの顔色は蒼白へと変わっていった。「ちょっと、あれ似てるよな。ニュースで見た顔に…」ひそひそ声が次第に周囲へ広がり、重苦しい緊張を生み出す。

私は場を包む動揺を感じ取りながら、静かに前へ出た。「遠藤社長」私は高子へ穏やかに言葉を投げかける。「記者との都市開発プロジェクトに関する30億円の契約を、解除させていただきます」

その瞬間、遠藤側の席から鋭い息を飲む音が走った。思わず椅子を倒し立ち上がる者、その場に固まる者、慌てふためき始める者。一方で、高子は笑い続ける。「本当に面白いわね。あなたは作業服がとてもお似合いよ。会長業なんて、どうせ想像でしょ。女が自分を大きく見せる嘘をついて、虚しくならないの?」

しかし、その笑い声とは裏腹に、彼女の部下の何人かはスマートフォンを握りしめ、震える指で検索をし、その画面を拡大していた。公式サイトの役員挨拶の写真。目元や口元がそっくりすぎる。いや、完全に一致。部下たちの顔色は変わり、額には汗がにじみ出す。「おい、誰か社長に教えてやれよ」「いや、この状況じゃとても無理だ」

高子の笑い声だけが響く中、部下たちは一様に俯き、声を抑え、互いに目を合わせようともしなかった。どうやら部下たちは完全に気づいたようだ。気づいていないのは、当の本人だけである。

「あなた、本当に豊かな想像力をお持ちだこと。妄想が止まらないのなら、小説家にでもなったら?憧れの物語を書き続けたら、素晴らしい作品ができそうよ」何も知らない高子は、さらに私を煽った。「あんなに作業着姿が似合っていたのに、その正体は会長ですって。その話、すごく面白いから、是非続きを聞かせて欲しいわ」

私は静かに目を伏せ、微笑みを浮かべた。「私は叩き上げの人間ですから、作業着は着慣れているのよ」その表情には誇りが満ちていた。「私はパートから始めました。最初は清掃と設備管理を経験しました。その後、現場管理を任され、さらに能力を認められて正社員として登用されました。数々の都市再開発に携わり、現場を歩き、その場所に住む人々の声を聞き、企業を牽引してきました。社長を経て現会長へ。私の履歴に嘘偽りはありません」

会場のみんなは黙って耳を傾けていた。パートの立場から這い上がってきた自分の力を、私は誇りに思っている。

高子はそれでもまだ信じられないらしい。「くだらない。こんな哀れな身の上話を誰が信じるの?あなたは今でも作業着を着て働いているというのに。有名になりたいだけの、哀れな妄想物語ね」

だが、部下たちは黙って目を伏せ、誰一人として高子を静止できなかった。彼らは知っている。目の前の女が、確かに自社が恐れ敬うアースホールディングスの会長であると。あまりの出来事に誰も口を開けず、会場には気まずい沈黙が流れた。華やかに飾られた会場の中で、最も見苦しく浮かび上がったのは高子の笑い声だった。

なぜ高子は、親族となる相手の素性を確認しなかったのか?それは彼女が傲慢だったからだ。高子は、結婚は家と家であり、選ぶのは自分側だと信じきっていた。確実に世間一般での立場が上であろう自分が、相手を選び、試すのだと。みほが持ってきた婚約者の母の情報は、「作業系の仕事をしている」とのみ伝わっていた。それを聞いた高子は興味を失い、家族としての付き合いも望まず、多忙を理由に素性を深掘りしなかった。なぜなら高子はこう考えていたからだ。「下層の人間に興味を持つ必要はない」それどころか、おそらく貧乏人であろう私と家族になることを嫌悪したのだ。「あんな人と身内になるだなんて、我が家の格が落ちそう。耐えられないわ」その傲慢さが、今日の惨劇を招いてしまった。

私はそんな高子へ、最後の言葉を告げる。「契約は解除します。今後、記者との取引は一切行いません」高子が職業や生い立ちで人の価値を判断したことは、ビジネスにおける信頼性、倫理性の欠如に他ならず、契約解除の決定的な理由となった。このような人間がトップの企業とは、とても手を取り合っていこうとは思えない。

部下たちの顔から血の気が引いた。遠藤開発にとって30億円の契約は生命線。この契約解除は致命傷だ。契約解除は遠藤開発の経営計画に決定的な打撃を与え、株価の暴落と資金繰りの悪化を招く深刻な事態となるであろう。あまりの事態に部下たちは震え続けた。しかし、高子だけはまだ何も知らず、一人笑っていた。その無自覚な高笑いは、もはや哀れでしかない。

私は呼吸を整え、穏やかに口を開く。「私が今でも作業着を着て現場に立ち続ける理由をお話しします」皆、私の言葉に耳を傾けた。「先ほどもお話しした通り、私はパートから正社員、現場監督、事業責任者、社長、そして会長へ、叩き上げでここまで来ました。私の経歴は誇張ではなく真実だ。私が現在の地位を得てからも現場へ足を運ぶのは、初心を忘れないため。そして現場の声に耳を傾けるためです。仕事に対する愛着もあります。私は仕事人間なので、会長となった今でも作業着を着て現場へ出向くだけではなく、皆が快適に働けるようにと、トイレ掃除やオフィスの清掃なども自ら定期的に行っているんですよ。決して娘や周囲に自慢するためではありません」冗談っぽくそう言うと、隣で静かに立つみほへ目を向け、私は微笑んだ。

みほには、私の立場を公にしないよう言い聞かせてきた。私の力を使わずに、自分の力で道を切り開く娘であって欲しかったから。私の名前を出せば、みほは条件の良い会社で働くことができ、おまけに優遇されるだろう。それどころか、私の権力を使えば、みほは私の会社で一気に役職付きにもなれるのだ。だが、娘を甘やかすようなことはしなかった。

私の言葉を聞いた高子は、顔を真っ赤にして言った。「だから何だというの。そんな泥臭い貧乏人の苦労話、全然面白くないわ」だが、そのセリフに同意する者は誰もいない。遠藤開発の社員たちですら、痛ましい思いで視線をそらした。

私は表情を変えず話を続ける。「遠藤開発との契約準備を進める中で、私は貴社の評判を調査しました。下調べは重要ですからね」高子が苛立つように前のめりになる。「その結果、顧客からの苦情が急増していることが分かりました。その中には、公共事業における手抜き工事、安全性を無視した重大な事案が含まれています」

会場が騒めき、数人が息を飲んだ。「事実無根よ!」叫ぶように反論した。「誰がそんな嘘を…現場が勝手にやったことでしょう」だが、その声には恐怖が混じっていた。じわじわと高子の胸に嫌な予感が広がる。やっと、目の前の女、作業着姿の貧乏人と侮った女が、もしかすると本当に会長なのでは?そんな不安を感じ始めたのだ。

次の瞬間、遠藤側の席の一角で一人の中年男性が立ち上がった。それは経理部の佐藤だ。普段は目立つことのない、真面目そうな男だった。その顔面は蒼白で、手が震えている。しかし、その瞳には覚悟が宿っていた。「事実です」それは小さな声だった。しかし、その一言で空気は完全に切り替わる。「公共工事の手抜き、構造部材の規格が使用、安全基準を満たさない施工など、全て社長が目認していました。下からの報告が上がっても、握りつぶされ、隠蔽させられました」

その告白により、会場の空気が一気に凍りつく。「嘘よ!私がそんなこと指示するわけない!」慌てて高子は佐藤へ歩み寄り、腕を掴もうとする。しかし、佐藤は震える声で続けた。「僕だけじゃありません。他にも何度も報告した者がいます。ですが、全員、社長の怒りと人事移動の圧力で黙らされました」佐藤は深く頭を下げる。「もう耐えられません。今日、この場で全てを告白します」

彼の告白に、会場は完全に沈黙した。聞こえるのは、高子の荒い呼吸だけだ。高子は必死に言い返した。「私は被害者よ!悪いのはこいつら、現場の連中でしょ!全員首にします。全員!」狂ったように叫ぶその姿に、さすがのひろやも顔色を失った。「母さん、やめてくれ」だが、彼女は止まらない。「悪いのはあんたたちよ!私じゃない!私は悪くない!」

佐藤は震える手で一通の封筒を掲げた。「まだあります」目を見開く高子。「何よ、今度は何の言いがかり?」佐藤は高子の勢いにも負けず発言した。「社長とひろや部長による、会社資金の私的流用です」会場の空気が一変した。高子とひろやの顔から血の気が引く。明らかに、二人は動揺を見せた。「その総額は数千万円。ゴルフ場会員券、私的旅行、ブランド品購入、接待名目での個人口座の振り替えなど、全て記録が残っています」佐藤は封筒の中身を机に並べた。領収書、銀行振り込み明細、内部メールなど。それは言い逃れのできない証拠の山だった。

「おい、ふざけるなよ!」タキシード姿のひろやが怒りながら佐藤の元へ向かい、その胸倉を掴もうとする。その瞬間、私はそれを制した。「やめなさい」その一言で、ひろやの動きが止まった。ほんの数十分前までは、完全に私を見下していたひろや。だが、正体を明かした私の迫力に、ひろやはひるみ、手を離して後ずさる。

皆が見守る中、私はポケットから携帯を取り出し、とあるところへ電話をかけた。「例の件、確証が取れたわ。手筈通り動いてもらえる?」そして私は携帯をしまうと、その場の人間に告げた。「弁護団へ連絡しました。すでに本件は警察への告発手続きが開始されています」

「何ですって!」高子は膝から崩れ落ちる。「やめて、お願い!私は悪くないの!」しかし、その哀れな声は、もはや誰にも届かなかった。ひろやも顔を覆いながら、ただ立ち尽くす。彼の肩は小刻みに震え、足元はふらついていた。その瞬間、誰もが理解した。遠藤開発は、もう終わりだと。警察への通報と外部への情報開示は、企業の存続に致命的だ。ましてや創業者家族による横領となれば、社会的信用は地に落ちる。さらに30億契約の解除は、もはや回復不能の致命傷だった。

私は静かに告げた。「私は人の出でで判断しません。ですが、人の価値を決めつけ、誠実さを踏みにじる者とは、決して手を組まないのです」その言葉は、高子の胸へ深く突き刺さる。「う、嘘…こんなはずじゃ…」高子は床に手をつき、口走った。「私は、あの辺の貧乏人とは違うの!努力してここまで…」しかし、誰も彼女に同調しない。今なお仕事に熱意を持ち、現場に足を運ぶ会長の私と比べ、今の高子はただの傲慢で惨めな女にしか見えなかったからだ。部下たちは目を伏せ、ただ事態を受け入れるしかなかった。高子の姿は、哀れ以外の何者でもない。

私はみほの手をそっと取ると、言った。「行きましょう」「うん」娘は頷き、私の横に並んだ。私たちは二度と振り返らなかった。そして、式場を後にする。遠藤家の崩壊も、それと同時に始まった。遠藤開発の不正は即日大きく報道され、世間の非難を浴びたのだ。高子とひろやは横領容疑で逮捕され、会社は事実上の破綻へ。騒動は1ヶ月ほど続いたが、私とみほの名が表に出ることはなかった。私が全てを水面下で処理し、ひとりの子が娘へ降りかからぬよう動いたからだ。

ある休日、都心の小さなカフェで、みほがカップを両手で包むように持ちながら微笑む。「お母さん、ありがとう。私、あのまま結婚していたら、多分すごく不幸になっていたわ。人を見る目がなかった」「仕方ないわ。人生は長いんだもの。そんなこともあるわよ」私は柔らかく笑い、スコーンを差し出す。日差しはとても穏やかだった。

その後のみほは、仕事に打ち込みながら同僚たちと穏やかに過ごしている。休日は私と映画を見たり、公園を散歩したり。ごく普通の時間が、何より贅沢に思えた。「ねえ、お母さん。今度の休みに旅行しない?海とかさ」娘がこんなに甘えてくるのは、幼少期以来だ。しかし、私には不思議とそれが嬉しかった。「いいわね。旅行に行って、美味しいものをいっぱい食べましょう」二人の笑い声が響き、そこには温かな空気が溢れている。

二人で大きな苦難を乗り越えた。そして、親子の絆は深まったと思う。みほの心の傷はまだ完全には癒えていないけれど、彼女は言う。「私ね、将来はお母さんみたいに、人の心を守れる人になりたいの。謙虚さと、誰にも屈しない強さを兼ね備えたお母さんは、私の誇り」そして、私の会社で新たなキャリアを築くことを宣言する。

その言葉を受け、私は会長職を後任に託し、みほと二人で半年間にわたる世界旅行に出かけることを決意した。将来のために、世界を見て知見を広めてもらいたい。そして帰国後は、自分の力でキャリアを積む。娘ならきっとやり遂げるであろうと信じ、私たちは旅立つのであった。

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