「1億の出資って安すぎ。小遣い程度で偉そうに」——5年前、俺を貶めた加藤部長が、まさかこんな場所で再会するとは思わなかった。あの日、彼は俺の企画を横取りし、会社での居場所を奪った。でも今は立場が逆転してるって、まだ気づいてないみたいだ。 「なんで飯田がお前といるんだ?」——その質問に答えた瞬間、加藤部長の顔色が変わる。名刺に書かれた会社名を見た時のあの表情は、一生忘れないだろう。…

「1億の出資って安すぎ。小遣い程度で偉そうに」——5年前、俺を貶めた加藤部長が、まさかこんな場所で再会するとは思わなかった。あの日、彼は俺の企画を横取りし、会社での居場所を奪った。でも今は立場が逆転してるって、まだ気づいてないみたいだ。 「なんで飯田がお前といるんだ?」——その質問に答えた瞬間、加藤部長の顔色が変わる。名刺に書かれた会社名を見た時のあの表情は、一生忘れないだろう。...

「1億の出資って安すぎ。小遣い程度で偉そうに。」

バカにした声で言い放ったのは、懇親会に参加している大手ホールディングスの部長だ。この人と俺にはある因縁があり、部長は再会早々、俺に一撃をつけてきたのだ。どうやら部長は知らないようだ。お互い昔とは違う立場だということを。

俺の名前は廉、39歳。大学卒業後から5年前まで、コンサルティング業界で成長中の企業で働いていた。他者の経営課題を解決するのが仕事で、毎日忙しいけどやりがいを感じていた。

しかしある日のこと、お世話になっていた部長が病気で倒れ、退職を余儀なくされる。社内には次期部長の責任者がいなかったため、外部から人材を招集することになった。

「初めまして、加藤です。別のコンサル会社で働いていました。これからよろしくお願いします」

加藤部長は最初は無害そうに見えた。「さすがですね。俺も見習いたいです。仕事のやり方を教えてくれませんか?」——こんな感じで口がうまい加藤部長は、あっという間に上層部に取り入り、徐々に本性を表していく。

「おい、飯田。明日までにこの書類まとめておけ」
「え、でももう就業時間は過ぎてますが」
「残業すりゃいいだろ。言わなきゃわかんないのか。無能すぎるだろ、お前」

加藤部長は自分より立場が弱い相手を利用する人だった。特に絡まれていたのは、今年入社したばかりの飯田君。真面目だが気が弱い部分があり、加藤部長みたいな人にとっては格好の餌のようだ。

「飯田君、手伝うよ」
「あ、ありがとうございます」

俺も飯田君と同じく真面目と評価されている。新人時代は散々周りから叱られた。そんな理由もあり、飯田君には親近感を持っていた。加えて、この新人には光るものを感じている。飯田君は正しく教育すればとても有能な人材になるだろう。

しかし、俺が飯田君を気にかけているのが加藤部長のお気に召さなかったらしい。俺も標的に加え、毎日のように嫌がらせをしてきた。

「おい、廉。この案件をまとめとけ」
「わかりました」

部長の仕事を押し付けられるのは日常茶飯事。持ち前の真面目さと仕事の速さでなんとかこなしていた。加藤部長はなかなか牙を抜けない俺に、イライラが頂点に達したらしい。

ある時、俺がずっと温めていた企画をこっそり横取りし、俺が発表するより先に自分の企画として上層部に提出した。部長は功績が認められ会社から表彰される。一方の俺は社内評価がどんどん下がっていった。

「先輩、大丈夫ですか?」——心配そうに声をかけてくる飯田君。俺は昇進コースに乗った加藤部長の目の敵にされているため、今や味方になってくれるのは飯田君以外にいない。

「大丈夫だよ。これまで以上に仕事を頑張って、俺の実力を会社に示せばいいんだから」

しかしこの後も加藤部長の妨害や功績の横取りが続き、会社から評価されず、姉妹ではなく加藤部長の昇進が確定。勝ち誇ったように俺を見た加藤部長を見て、一気に絶望の縁に立たされた。

——いくら頑張っても、あの人がいる限りこの会社では昇進できない。真面目さだけじゃ、卑怯な手を使う人には勝てないのか。

そう悟った俺は、会社を去る決意を固める。

「飯田君、ごめん。君を残して去ることになって」
「気にしないでください。今までありがとうございました。これ、俺のプライベート用の連絡先です。今度飲みに行きましょう」

飯田君から餞別の言葉と連絡先をもらい、最後は笑顔で会社を去ることができた。

それから5年後。会社を去った俺は別の会社に転職を成功させる。そして39歳になった現在、ある大手企業が主催する懇親会に参加していた。企業が新規事業を計画しており、その出資パートナーを見つけるためのパーティーだ。

俺は現在、ある投資会社で働いている。まだ立ち上げたばかりの新しい会社だが、ここ数年で急激に力をつけ、最近は色々な会社から声をかけられていた。今回のパーティーは俺ともう1人の社員が代表として参加している。

会場は市内で1番高級なホテルの宴会场。スペースがかなり広く、内装もとても豪華だった。パーティーの開始時間はまだなのに、もうみんな来てるな。人波に押された俺は、会場の外で開始時間まで待つことにした。

すると——「おい、お前、なんでこんなところにいるんだ?」
「え、加藤部長?」

突然声をかけてきたのは、俺を貶めたあの加藤部長だった。俺がいた前の会社はこの懇親会に参加していないはず。そういうことだと混乱の渦中で部長を見つめると、俺の反応がお気に召した様子でニヤニヤと笑いながらこんなことを口にした。

「実はな、この懇親会を主催している大企業に転職したんだよ。今は営業部の部長だ。今日の懇親会は俺も参加してるんだよ」
「そ、そうでしたか」

どうやら俺が会社を去った後、加藤部長も別の道を歩み始めたらしい。昇進した後に大手企業へ転職とは、順調なサラリーマン人生を送っているようだ。

「で、お前はなんでここに?」
「出資パートナー候補の一社として参加を」
「はあ。お前、投資会社で働いてるのか?」

退職直前に転職先は決まっていたが、加藤部長には何も言わず去った。互いに近況を報告し合う仲でもない。加藤部長はじろじろと俺を見た後、侮りながらこんなことを言ってきた。

「お前みたいな無能の転職先だし、どうせ大した額は出せないだろう」
「一応、1億の出資を予定していますが」
「1億の出資って安すぎだろ」

ゲラゲラと下品な笑い声をあげる加藤部長。そして5年前と変わらない嫌味な顔で俺を罵倒してきた。

「小遣い程度で偉そうに。うちが主催するパーティーに参加するなんて、お前みたいなのは間違いなんだよ。今すぐこの場から消えろ」

そう言いながら加藤部長は俺の肩を小突いてきた。むっとして言い返そうとした瞬間、誰かが俺の名前を呼ぶ。

「廉先輩、もうすぐパーティーが始まりますよ」
「は? お前、飯田か?」

部長がまじまじと見た相手は、俺が前の会社で面倒を見ていた飯田君だ。実は飯田君も、加藤部長が会社からいなくなる前に転職をしていた。理由は部長のいびりだ。俺が去ってから1年ほど経ったある日、飯田君のプライベート用の連絡先にメッセージを送ったのだ。

「最近は忙しくてなかなか時間が作れなかった。そろそろ飯田君に会いたいなと思って」

俺の行きつけの居酒屋に姿を表した彼は、最後に会った時と比べて随分とやつれていた。

「飯田君、その姿は一体どうしたの?」
「実は……」

そこで語られたのは、加藤部長の数々のいびりだった。

「仕事を押し付けられて毎日残業なんです。会社は俺が無能で時間内に仕事を片付けられないから残業ばかりしているという認識で……」
「加藤部長が上長にそう言ってるんだろうな」
「俺、もうあの会社やめようかなって思ってて……でも、転職先を探す余裕もないんですよ」

涙ながらに訴える飯田君。ここで俺は、転職先の会社に飯田君を誘うことにしたのだ。そして今、俺と飯田君はここにいる。

「なんで飯田がお前といるんだ?」
「飯田君はうちの会社に転職して、今も一緒に働いているんです」

そう伝えると、加藤部長は楽しそうに笑い声をあげた。

「無能が仲良く出資の真似か。お前らの転職先っていうのは相当レベルが低いんだな。ま、1億しか出資できない弱小企業だ。お前らみたいな底辺にはお似合いな会社だな」

ゲラゲラと笑う加藤部長を、俺と飯田君は覚めた目で見ている。小さくため息をついた俺は、加藤部長に冷たい声でこう言い放った。

「なるほど。この会社は加藤部長のような最低の人間を雇用しているんですね」
「なんだと?」

加藤部長が睨みつけてくるが、俺はひるまず続ける。

「そんな人のいる会社は信用できません。今後、御社のグループ企業への出資はやめますね。ああ、申し遅れました。俺、こういう会社で働いています」

笑顔を浮かべながら名刺を取り出す。軽蔑な顔で受け取った加藤部長は、名刺に書かれている内容を認識した瞬間、目も口も限界まで大きく開いた。

「ここの会社って、うちのグループ企業に多額の出資をしている業界注目の投資会社じゃないか」
「そうですね。俺はそこで部長として働いています。こちらの飯田君は部長補佐として俺をサポートしてくれてますよ」

明かされた衝撃の真実に、加藤部長は信じられないという顔になった。

話は5年前に遡る。会社を去った俺は、大学時代の友人の紹介である投資会社に転職。コンサルティングとは別の業界だが、前の会社では分析力も養っていた。投資には分析力が何よりも大切だ。おかげで別業界ながらすぐに仕事になれ、着実に実績を出していく。大型案件を成功させ3億円の利益を生み出したり、業界誌に取り上げられるほどの実績を残したりすることができた。

さらに転職先は年齢や勤務年数ではなく実績で昇進が決まるという、少々特殊な会社だった。俺はどんどん結果を出し、あっという間に部長へ昇進。後から俺の紹介で転職してきた飯田君も、爆速で出世コースを駆け上がっていった。他の社員も優秀な人材が多く、出世はかなり熾烈な争いだ。しかしみんな正々堂々と自分の力で戦っている。加藤部長のように他人の功績を横取りするような卑怯者はいない。全員自分の実力で勝負している環境だ。おかげで会社は設立間もないが一気に成長した。

「そ、そんなバカな。無能なお前らが転職を成功させるなんてありえない」
「そう思い込んでいるのは部長だけです。ま、俺はともかく、飯田君は元々才能のある人材でした。部長の高圧的な態度と嫌がらせのせいで、飯田君は本来の実力を発揮できなかっただけです」

俺の言葉に飯田君が頷いて返す。

「廉先輩という優秀な上司のおかげで、のびのび働いてます。部下を生かせるかどうかは上司の腕にかかってるんだなと、この数年間で身に染みて実感しました」

飯田君が遠回しに加藤部長は無能だと伝える。自分への嫌みには敏感なようだ。加藤部長は困惑した表情から一気に怒った顔に変わった。

「てめえ、誰に向かって生意気な口を聞いてやがる」
「あなたは俺の上司ではありません。我が社が出資している相手です。ご自身の立場を理解していないのは、あなたの方では?」

実力勝負の会社で揉まれたからなのか、飯田君はこの数年間で弱気な部分がだいぶ改善された。とはいえ、普段の飯田君は穏やかで優しい青年だ。こんな過激なことを言う人ではない。どうやら飯田君は加藤部長に対してずっと怒りを抱えていたようだ。

このままでは部長がヒートアップすると判断した俺は、2人の間に入る。

「飯田君、もう帰ろう。グループ企業だけでなく、加藤部長の勤務先への出資計画はなしにするから」

今回俺がこの懇親会に誘われたのは、我が社がグループ企業への出資経験があるからだ。安定した出資と対応が評価され声をかけられたが、加藤部長のせいで出資する気は完全になくなった。ちなみに懇親会への参加は我が社から声をかけたものではない。相手企業からどうしてもと言われ参加したのだ。代表として選ばれた俺は緊急時の判断権限を一任され、出資の可否を決めていいと社長からも言われている。

「待てよ。お前、うちのグループ会社への出資をやめるとか言ったけど、そんなことできる立場じゃないだろ。お前はただの部長だ。社長ならともかく、部長にそんな権限はない」

確かに加藤部長の言う通りだ。しかし、グループ企業への出資は停止できる。

「実は出資停止は元から考えていたんですよね」
「へ?」

気の抜けた声をあげる加藤部長。それも仕方ないだろう。この情報は初めて社外に公表するものだ。

「御社の売上、3年連続で落ちてるじゃないですか。市場シェア率も低下する一方で歯止めが効かない。我が社はボランティア団体じゃないんですよ。先が見えない会社にいつまでも投資するなんて、無意味なことはしません」

そう、加藤部長の転職先である大手企業は、最近になって経営に陰りが見え始めた。昔は日本を代表する大手企業だったのだが、海外からの輸入品や新規企業の勢いに押され、売上を落としているのだ。今回の新規事業は数年ぶりのことで、他の投資会社は大手企業の挑戦に期待を寄せているらしい。多くの会社が懇親会に集まったが、我が社は早々に加藤部長の会社に見切りをつけていた。

「これは近々御社に通達する内容でしたので、今ここで明かしても何の問題もありません」
「う、嘘だろ」
「そう思ってもらって結構です。いずれ分かることですから。この辺で失礼します。これから大変でしょうけど、頑張ってくださいね」

呆然とする加藤部長を置き去りにして、俺と飯田君は会場から去った。

それから1ヶ月後。宣言通り、我が社はグループ企業への出資を停止。すると加藤部長が飛んでやってきた。

「この前のことは謝るから、どうか許してくれ」

我が社の応接室で、加藤部長が勢いよく頭を下げる。

「アポイントメントもなしに突然やってきて、忙しい社員を呼び出すなんて、社会人として常識がないのでは?」

同席した飯田君の痛烈な一言に、部長は悔しそうに唇を噛む。

「こ、懇親会の件で俺は上司から睨まれている。お前のせいでグループ企業への出資が停止したんだって言われて」
「別に加藤部長への私怨でやめたわけではありません。懇親会をドタキャンした理由と合わせて、きちんとあちら側へ伝えたんですけどね」

懇親会は加藤部長が理由でキャンセルしたと連絡した。相手側から詳細を教えてほしいと頼まれたので、前の会社での因縁も伝えてある。真実だけを包み隠さず報告したのだが、どうやら会社側は加藤部長に悪い印象を抱いたらしい。ため息混じりに言う俺に、加藤部長がすがるような目を向けてきた。

「なあ、頼むよ。廉、一緒に働いてた仲間だろ。うちにもう1度チャンスをくれよ。この失態を取り戻さないと、会社に居場所がなくなっちまう。もしかしたら降格とか異動とか、何かしらの処罰があるかも」

最悪の未来を想像したのか、顔面蒼白になる加藤部長。しかし俺は首を横に振って答えた。

「再投資はできません。実はすでに別の会社に出資してるんです」
「ちなみに出資先は、加藤部長の勤務先のライバル企業ですよ」

飯田君が続けていったセリフに、加藤部長は絶望の顔になる。

「どどどどうして、ライバル会社なんかに」
「元から話はあったんです。御社への出資を停止したら、ライバル会社に出資するつもりで計画を進めていました。これは俺が決めたことではなく、会社が決めたことだ。俺や飯田君の個人的な感情は含まれていない。全て偶然です」

「そ、そんな……」

力なくその場に座り込む加藤部長。こうなったのは偶然の積み重ねだが、加藤部長が会社から批判の目で見られているのは、俺や飯田君を馬鹿にしたからだ。もし部長が俺たちをいびっていなかったら、俺と飯田君は変わらず加藤部長の元で働いていただろうし、部長は自身の評価を落とすこともなかっただろう。

「もうお帰りください。これ以上しつこいようなら、警備員を呼びますよ」

加藤部長がふらふらとした足取りで立ち上がる。丸まった背中で我が社を出ていくその姿を、俺と飯田君は覚めた目で見ていた。

その後、加藤部長の会社はどんどん業績が悪化。我が社の出資停止を見て、他の投資会社も追随した。半年後には市場シェア率を40%以上落とし、グループ会社はいくつか閉鎖を決めた。業績悪化に伴い、会社はリストラを敢行。懇親会まで開いた新規事業の話もなくなり、今は経営再建に必死になっているとのことだ。

「もしかしたら加藤部長はリストラの対象になっているかもな」
「だとしても、同情の余地はありませんね」

こんな会話を飯田君とした数日後、出資先のとある会社に赴いた際、その会社の下請け工場で作業着姿で働いている加藤部長を見つけた。どうやら本当にリストラされ、こちらに転職したようだ。随分とやつれて白髪も増え、上司に叱られながら暗い雰囲気で働いていた。加藤部長は俺に気づいていなかったので、声はかけずその場を後にする。

——どんな相手でも、軽蔑は忘れないようにしよう。

この一件は俺にとって大きな学びとなった。同じような失敗はしないように気をつけようと、心の中で固く誓った。

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