あの日、私は借金の証文を突きつけられ、再び縄にかけられた。夫が残した土地も、娘との暮らしも、すべて奪われようとしていた。でも、私は知らなかった。あの物乞いの子供が、私の人生を変えるために現れたわけではなかったことを。そして、私が最も信じていた人が、裏で何をしていたのかを。

あの日、私は借金の証文を突きつけられ、再び縄にかけられた。夫が残した土地も、娘との暮らしも、すべて奪われようとしていた。でも、私は知らなかった。あの物乞いの子供が、私の人生を変えるために現れたわけではなかったことを。そして、私が最も信じていた人が、裏で何をしていたのかを。

庭に引き出されたおしずは、借金の証文を突きつける十蔵の前に立っていた。借金の五両、お受け取りください。原本をお返しください。だが、十蔵は受け取らなかった。狙っていたのは初めから銭ではなく、この土地そのものだったのだ。まさにその時、軍代の剣士・黒田倉之助が役人を連れて押し入ってきた。十蔵が金を積んで動かしたのだった。黒田は懐から二通の書き付けを取り出した。一通は十蔵が保管していた借用証の原本で、元金五両の後に二両乗りが別の墨で書き足されていた。もう一通は、おしずが村の井戸へ呪いの品を投げ入れたと自ら認めたことにする偽りの自白状で、おしずが早席にいた頃に使っていた小印が押されていた。

おしずは借用証の控えと夫が残した書き付けを取り出し、こちらの控えにも夫が残した書き付けにも借りた額は五両としか記されておりません。この二両は後から書き加えられたものでございます。それにその自白状を見たことも印を押したこともございませんと言い放った。だが、黒田は二通の書き付けこそ証拠だと主張し、おしずを再び縄にかけた。翌日、庭に引き出されたおしずに黒田は自白を迫った。罪人は怪しい術を自白せよ、自白せねば娘を飯取りした働きに落とすぞ。おしずは震える声で私はこの自白状を見たことも印をしたこともございません。借用証の二両乗りも夫の死後に書き足された偽りでございますと申し立てたが、黒田は聞く耳を持たなかった。役人の一人がお雪を荒々しく引きずり込み、鞭が振り上げられた。まさにその時、庭の隅にいた安介が声をあげた。お待ちください。この自白状に押された印は、安介が十蔵様に命じられて残されていたおしず様の小印を盗み出して偽りの書き付けに押したものでございます。借用証の二両乗りも安介が後から書き加えました。全て偽りでございます。庭がどよめき、十蔵の顔から血の気が引いた。安介は震える膝を抑えながらも言葉を続けた。幼い頃、夜更けに我が家の木陰へ泡を置いて立ち去る新の城の姿を私はこの目で見ておりました。その後、同じ定金を持って文字まで教えていただいたお方をお雪様があの書を読む姿を見て思い出したのでございます。証拠として盗み出した印と、借用証の追記や夏を試した保護神をここにお出しいたします。

黒田は安介の言葉に引き下がらず、弱い者に惑わされるな。構わず鞭を振るえと命じた。だが、まさにその時、御殿の外から完成が湧き起こった。門が音を立てて開け放たれ、家臣たちがどっと流れ込んできた。佐々木勘解由が御触書の写しと家紋を記した箱を掲げると、役人たちが次々とひれ伏した。黒田も十蔵も顔から血の気が引いていった。今夜の身でありながら借金を餌にご家老の土地を奪おうとし、人をやって風を崩させ、借用証に偽りの乗りを書き足した上、偽りの自白状まで作らせた罪、ここに全て明らかである。佐々木の声が庭中に響いた。兼ねてより両内の村を見分しておられた方よりこの村の異変が国元へ知らされたおかげで、ことはここまで露見いたした。おしずはようやく天が行ったと思った。あの日に村を通りかかっていた行商人こそ、若様から守る家臣だったのだ。あの時、安易に買っていった男。遠くから他の様子を眺めていた男。あの全てがこの日のために積み重ねられた見守りだったのだと、おしずは改めて胸が熱くなった。

家老がおしずの縄を解くと、おしずはどっと力が抜け、その場に膝をついた。その後ろから小さな影が歩み出た。見たこともない美しい着物をまとい、髪も丁寧に結上げられていたが、澄んだ瞳は間違いなく末のものだった。お雪はお雪、お雪だよねと呼びかけると、末は優しく頷いた。おしずは呆然としたままその姿を見つめた。物乞いの子供がなぜこれほど立派な身なりで家老を従えてこの庭に立っているのか。こちらにおわしますのは、領内に苦しむ民の暮らしを見て回っておられたご隠居様の若様でございますと佐々木が頭を下げた。末は地下にいた時とは違う、よく通る澄んだ声で言った。おばさん、これまで身分を偽っていたことをお許しください。ですが、あの日分けてくださった一杯の粥は、私がこれまで頂いた中で最も温かい食事でございました。赤汚れた着物をまつわっていた頃の末は言葉少なであったが、この場に立つ若様の言葉には生まれながらの育ちを思わせる静かな気品があった。おしずはその姿を見て、この子が確かに只者ではなかったのだと改めて悟った。末はお雪の頭を撫で、お雪は物覚えが良い。どうか大切に育ててくださいと告げた。おしずは深く頭を下げ、この子だけは何があっても守り抜きますと胸のうちで誓った。ご隠居様はおしずに温かい褒美を下された。米と端物が二着で、育ちも届き、偽りの自白状と改ざんされた借用証は十蔵の罪を示す証拠として取り上げられた。末が差し出した五両は元金の返済として正式に受理され、借金は完済したものと認められた。後から書き加えられた二両分と、十蔵が石田を奪おうとした主張は無効とされ、石田は正式におしずの所有と認められた。長年の苦労がようやく確かな形になって戻ってきたのだった。

かつて指を刺して笑っていた者たちの中には、今更ながらに居心地悪そうに目を伏せる者もいた。十蔵と黒田は縄を打たれ、遠方の里で厳しく裁かれることとなった。代々代々庄屋を務めてきた十蔵の倉は開けられ、長年飢えで苦しめられてきた村人たちに、蓄えられていた穀物が等しく分け与えられた。米や田んぼを受け取りに来た者たちの中には、あの粥を一滴も分けなかった男の姿もあり、その男はおしずに向かって深々と頭を下げ、これまでの仕打ちを詫びた。安介は自ら罪を申し出たため罰を軽くされたが、借用証に偽りの乗りを書き足し、偽りの自白状を作った罪は消えず、しばらくの間村の外れで謹慎するよう命じられた。一方、おちよはおしずが再び囚われたと聞き、タンスの奥にしまい込んでいた金銀の品を包んで、息を切らしながら大観所まで駆けつけてきた。おしずやお雪が捕らえられるのを聞くたびに胸を痛めながらも、十蔵と伊之助を恐れて何一つ行動に移せぬまま日々を過ごしていたのである。守りたいと思いながら守らなかったその弱さこそ自分の罪だと、ようやく認めたのだった。おしず、この年寄りが取り返しのつかぬことをしてしまった。おちよはおしずの前に崩れるように膝まずいた。おしずが慌てて助けを起こすと、おちよはその手を強く握り、嫁と孫を追い出したあの日から幾度となく夜中に目を覚まし、お雪の小さな背中を思い出しておった。お雪がこの婆を許しておくれと涙ながらに詫びた。お雪は少し戸惑いながらも、おばあ様もう泣かないでと言って、その枝だらけの手をそっと撫でた。傍らでは伊之助も決まり悪そうに頭を下げていた。さえ片付ければ家が立ち直ると思い込み、おしずとお雪を追い出した自分の判断が十蔵に利用されたのだとようやく悟ったのである。姉上、あの日は誠に申し訳ないことをいたしました。欺かれていたとはいえ、姉上とお雪を見捨てたのは私自身ですと伊之助は深く頭を下げ、早世に残っていた真の城の頂面を押し出した。お雪がそっと歩み寄り、おじ様、これからは母様を苦しめないでねと小さな声で言うと、伊之助の目にも涙が滲んだ。おしずはすぐには言葉を返さなかったが、やがて謝罪が消えたわけではありません。これからの行いで償ってくださいと静かに告げた。

末が国元へ帰る日、一家は村の境まで見送った。おばさん、私はいつまでも複として覚えていてください。あなたと過ごした日々が私にとって一番温かい時でしたから。末はゴンジーの手も温かく握った。ゴンジーは嬉しさと寂しさの入り混じった顔で何度も深々と頭を下げた。物乞いの子供として同じ釜の飯を分け合ったあの温かさは、キの羽織りをまつわっても少しも変わっていなかったのだ。末はお雪に向かって手を振った。お雪は木の鳥を振りながら、涙の滲む目で見送った。また会えるとお雪が尋ねると、末はしばし待ってから、いつかきっとと答え、それ以上は何も言わなかった。末の一行が峠の向こうに消えるまで、親子はいつまでもその場に立ち尽くしていた。その後、石田は毎年豊かな実りをもたらし、人々はその田を福田と呼んだ。福を招いたという意味だった。田の淵には小さな祠が立てられ、村の者たちは実りの季節になると手を合わせるようになった。祠の前を通りかかる旅人たちも足を止めては手を合わせ、この村に伝わる不思議な話に耳を傾けていくのだった。遠方の村からもその小やしの仕方を学ぼうと人々が訪れた。翌年の春、隣の領地でひどい飢饉が続いた時には、困り果てた豪農たちが師匠の福田を尋ね、おしずとゴンジー、そして安介が夜番もかけてその手を伝えに出向いた。行った先は山向こうの小さな村で、そこでも同じように痩せた石田を抱えて途方に暮れる百姓たちがいた。ゴンジーが水路の見つけ方を教え、安介が畑の直し方を手伝い、おしずが味噌と豆柄と米の寝かせ方を一つ一つ丁寧に語って聞かせた。夜には囲炉裏を囲んでその村の百姓たちがおしずの話に耳を傾け、こんな話は初めて聞いた。ご家老一人でよくぞここまでと感心する声も上がった。半月後、その村の谷も青々とした苗が蘇ったという知らせが届き、村の者たちは涙を流して喜んだという。その村の庄屋はお礼にと山ほどの芋を送り届けてきたが、おしずはその半分を、未だ苦しい暮らしを続ける瀬村の年寄りたちに分け与えた。いつしかその知恵はいくつもの村を飢饉から救う知恵として語り継がれ、ご隠居様の差しにより領内の寺小屋でも教えられるようになった。福田の噂を聞きつけた旅の僧侶や役人までもが、わざわざ遠回りをしてその田を一目見ようと立ち寄ることもあった。

お雪は学問の才に優れ、定金を暗誦できるほどになり、長じては村の子供たちに読み書きを教える師匠になった。あの日、借用証の筆跡がおかしいと最初に気づいたのもお雪であり、芋を売った銭で置き念仏や長明記を記していたのも彼女だった。教え子の中には、かつてお雪を味噌食と嘲った子供たちのそのまた子供もいた。お雪は誰に対しても分け隔てなく丁寧に文字を教え、時には自分が幼い頃どれほど貧しかったかを静かに語って聞かせることもあった。あの頃を笑った人たちのことも恨んではいないのですよとお雪は教え子たちに語り、人は変わることができるのだと身を持って示した。子供たちが声を揃えて文字を読む声が、かつてご家老と娘が指を刺されて泣いた同じ村に、朗らかに響き渡るようになったのである。村の若い母親たちは、あの師匠のように育ってほしいと我が子をこぞって寺小屋に通わせるようになった。おしずは福田の傍らに質素な家を建て、お千代とゴンジーを迎えて、質素ながらも温かい日々を送った。お千代はお雪をことのほか可愛がり、ゴンジーは年を取っても福田の淵で草笛を吹くのを楽しみにしていた。冬の夜には囲炉裏を囲み、ゴンジーが若い頃の思い出話を語り、お千代が愛槌を打ち、お雪が笑い転げる穏やかな時が繰り返された。謹慎の間、安介は誰とも口を聞かず、ただ木々と縄を編み、わじを作って過ごした。時々、お雪が見舞いに訪れ、安介さん、元気にしてと声をかけることが、安介にとって何よりの救いとなった。謹慎を終えると、安介は毎日のように福田に通い、人目と働き続け、少しずつ村人の信頼を取り戻していった。ある年の正月には、自ら村の困窮した家々に余った米を配って回った。あの日、借用証の筆跡を見つめて立ち止まった一瞬が安介の人生を変えたのである。追い出され、あの粗末な小屋で身を寄せ合っていた家族が、誰も羨まないほど穏やかな一家になったのである。かつて指を刺された場所で、今度は誰もが助け合う姿を見せる。それがこの一家の何よりの誇りだった。

秋の実りの頃になると、おしずは決まって福田の風に立ち、里の向こうへ去った若様を思い出した。お雪も大人になってなお、末からもらった木の鳥を大切にしていた。旅人がなぜこの畑がこれほど豊かなのですかと尋ねると、村の年寄りは目を細めて答えた。昔この村に一人の女がおってな。物乞いの子供の言葉を信じ、売れば家族が一月を食いつなげるだけの雑穀に変えられる味噌を、亀ごと石炭へ埋めたのだ。誰もが気が触れたと笑ったが、その味噌と女の諦めぬ心が、死んだも村人の心にも命を戻したのだよ。夫を失ってから若様が村を去るまでの数ヶ月、おしずは家も食いぶちも失いかけ、幾度も命の危機にさらされた。それでもゴンジーという味方を得て、福という恵みに出会い、離れかけた家族との縁を結び直した。石田が福田と呼ばれるようになってから、村では困った者を見捨てないことが少しずつ当たり前になっていった。物語の細部は時代と共に形を変えても、貧しい女が悪意に屈せず土を耕し続けたこと、そして最も低い場所から大きな福が芽生えたことだけは、子から孫へと変わらず語り継がれている。

Thumbnail