別れ話は電話だった。たけしは一方的に「お見合いしてさ」と言い出し、社長令嬢と結婚すると笑いながら告げた。「マ子はこの俺に釣り合わないだろう。貧乏人って感じで、一緒にいて俺までそう見られるのは嫌なんだよね」と言われた瞬間、私の恋心は完全に消えた。私は言い返した。「私はあなたみたいにいい年して親から小遣いをもらって湯水のように使う人とは違うの」。たけしは「終わりだな」と言い、私たちはそのまま別れた。
数日後、後輩のゆりに愚痴を聞いてもらい、私はまた海に出かける日々に戻った。それから2年、ゆりから結婚の知らせが届いた。ドレスを選びにショッピングモールへ行き、カフェで休んでいると、突然懐かしい声が聞こえた。「マイ子、相変わらず貧乏臭い格好してるなあ」。振り返ると、たけしが立っていた。彼は慣れ慣れしく「俺、結婚決まったんだよ。前に話した社長令嬢と」と言い、さらに「お前、出席したいって言うなら呼んでやろうと思ってさ」と笑った。私は「行くわけないでしょ」と断ったが、彼はしつこく「まだそのおもちゃの時計つけてるの?安物が似合うわ」と馬鹿にしてきた。
その時、後ろから声がした。「たけしさん」。駆け寄ってきたのは、なんとゆりだった。彼女は私を見て驚き、すぐに厳しい表情に変わった。「あなたがマ子さんの腕を掴んでるところ見えましたけど、何をしていたんですか?」。たけしは「ただ安物の時計を見てただけだよ」とごまかしたが、ゆりは「ま子さんと別れた最低の彼氏ってあなただったんですね。私の大事な先輩をコケにするなんて許せない」と怒りをあらわにした。そして「ま子さんの時計はお父様からのプレゼントですよ」と言うと、たけしは「でも安者は安物だろう」とつぶやいた。
ゆりが私に目配せをしてきた。私は頷いて言った。「言う必要ないと思ってたから言わなかったけど、この時計1000万します」。たけしは大声を上げて笑った。「そんなわけないだろ。お前みたいな貧乏人の父親が1000万の時計なんて買えないだろう」。そこでゆりがさらに追い打ちをかけた。「ま子さんはうちの会社の社長の娘さんですよ」。私は「私の父は社長で、私は秘書をしてる。この時計は父が私の入社祝いに、いつかこれが似合うようにしっかり勉強しろって特別に作らせてくれたもの」と説明した。たけしはポカンとしたまま「じゃあ、お前が社長令嬢だったら別れる必要なかったのか?」と混乱していた。
ゆりはため息をついて言った。「ごめんなさい。私の大事な先輩を傷つけるような人と結婚なんてできません。父には私から言っておきますから、結婚の話は白紙に戻しましょう」。たけしはすがるように「謝るから」と繰り返したが、私は「あんたの都合でゆりを振り回さないで」と言い放ち、「大企業勤めのお父さんを持つあんたなら、他にもお見合い話はたくさんあるでしょう。お小遣いもたくさんもらってるんだから、社長令嬢じゃなくてもいいじゃない」と笑った。「あんたなんて、お父さんに見放されたら終わりよ。借金地獄に落ちるわ」。するとたけしは力なく頷いた。聞けば、1000万近い借金を抱えていた。ゆりは「借金を隠して結婚しようとしてたの?最低すぎる」と怒った。
私はスマホを取り出して言った。「録音させてもらったから覚悟しておきな。借金の事実もばっちり録音されてる」。たけしは顔色を変えた。「物の価値がわからないって残念ね。とりあえず所持品を売れば、ちょっとは借金返済の足しになるんじゃない?でも、そのネックレスは偽物だから、そんなに根はつかないだろうね」。たけしは驚いて目を見開いた。「まさか本物って言われて高値で買わされたりしてないよね?」。彼は何も言えず、ふらふらと立ち去ろうとした。私は背中に投げかけた。「車は傷つけないうちに売っておきな」。ゆりも「免許も返納したらどうですか?」と付け加えた。
たけしは足早に姿を消した。その後、ゆりは父親に全てを話し、もちろん父親は激怒。たけしは婚約破棄の慰謝料を請求された。たけしの両親にも全てが伝わり、今では実家で給料も生活も管理されている。車や売れそうな所持品は没収され、偽物を高額で買っていたものもあったが、期待したほどの金にはならなかったらしい。借金返済のため、たけしは仕事の他に朝と夜のアルバイトまで始めた。たけしの友達から連絡が来ることもあったが、事情を話すと皆、縁を切っていった。当然の結果だ。私は今もゆりと仲良くやっている。今日もゆりと飲み会の予定だ。



