修学旅行の自由行動中、俺は東京タワーの前で立ち止まった。喉の渇きを覚えて周囲を見渡したそのとき、視界の端に吉本さんの姿が飛び込んできた。普段はクラスで孤立気味の彼女が、見知らぬ他校の女子と何やら話し込んでいる。しかも、彼女は特定の方向を指差し、相手の女子は頭を下げてその方へ歩いていった。ただの道案内をしていただけなのかもしれない。しかし、直後に俺はある光景を目撃して、自分の思い込みの浅さに気づかされることになる。高校二年の春、俺は同じクラスの吉本さんに対して、何となく距離を置いていた。彼女は誰とでも普通に話すくせに、基本的には一人で行動するタイプだったからだ。かっこよく言えば一匹狼。でも、女子の一部にはそれを快く思わない者もいるらしく、修学旅行の班決めのときも、彼女は意地悪な連中と同じ班にされていた。俺はそれを見て、正直、胸がざわついた。だが、自分の班に入れるわけにもいかない。女子一人だけを俺たち三人の班に入れるのは気まずいし、余計なお世話かもしれないと思って、俺はそのとき手を出さなかった。そして、そのまま当日を迎え、東京駅の人の多さに圧倒されながらも、俺は大樹と啓介と三人で観光を満喫していた。東京タワーを階段で登るという無謀な挑戦をして、足をガクガクさせながらも、展望台からの景色に感動し、意気揚々と外へ出た。そんなときだった。吉本さんが、他校の女子を助けている場面を見たのは。彼女はその女子に道を教え、相手が無事に歩き出したのを確認して、小さく頷いた。そして、遠くで彼女を見ていた俺は、何か言いようのない感情に襲われた。なぜ俺は、彼女のことを何も知らないのに、勝手に距離を置いていたんだろう。彼女は確かに一人でいることが多い。でも、困っている人がいれば、こうして自然に手を差し伸べる人間なんだ。俺はその瞬間、自分の幼さを痛感した。そして、修学旅行の三泊目、最終日の自由行動で、俺はふと思い立ってこう言った。「吉本さん、俺たちと一緒に回らない?」彼女は一瞬驚いた顔をしたあと、珍しくほんの少しだけ口元を緩めて、静かに頷いた。その日、俺たちは靖国神社の桜の下を歩き、浅草で食べ歩きをし、最後に東京タワーの夜景を見上げた。普段は口数の少ない彼女が、その日は少しだけ多く話してくれた。帰りの新幹線の中で、俺は窓の外の景色を見ながら思った。もしかしたら、あのとき俺が彼女を助けるべきだったのは、道案内だけじゃなかったのかもしれない、と。



