「お前は自腹で行け。俺の家族は両親だけだ」――夫にそう言われた私は、黙ってプライベートジェットでハワイに先着した。夫と義両親がエコノミークラスで到着した時、彼らの隣には見知らぬ女性がいた。「こいつはただの家政婦だ。俺が愛してるのはエリだけだよ」――その言葉を聞いた瞬間、私は言ってやった。「私は会社を経営しているわ。あなたには言っていなかったけどね」。夫の顔色が変わったのは、その瞬間だった。…

「お前は自腹で行け。俺の家族は両親だけだ」――夫にそう言われた私は、黙ってプライベートジェットでハワイに先着した。夫と義両親がエコノミークラスで到着した時、彼らの隣には見知らぬ女性がいた。「こいつはただの家政婦だ。俺が愛してるのはエリだけだよ」――その言葉を聞いた瞬間、私は言ってやった。「私は会社を経営しているわ。あなたには言っていなかったけどね」。夫の顔色が変わったのは、その瞬間だった。...

「お前は自腹で行け。俺の家族は両親だけだ。他人のお前が同じ飛行機に乗る必要はない」

夫・かずやが役員に昇進した記念に、義母の古希祝いを兼ねて家族でハワイ旅行に行くことになった。ところが、かずやは私を同じ飛行機に乗せないと言い放ったのだ。でも行かないことも許さないらしい。私は自腹で行けだと。分かったわ、そうさせてもらうわ。

当日、かずやと義両親は3人でタクシーに乗り込み空港へ向かった。彼らを見送った私は、別の飛行機に乗り込んだ。私が自分で購入したプライベートジェットに。私がプライベートジェットを持っていることは、かずやも義両親も知らない。

ハワイには、かずやたちが乗った飛行機より先に到着した。ホテルのロビーで私の姿を見つけたかずやたちは、驚きの表情を浮かべている。

「なんで俺たちより先にいるんだよ。まさか体でも売って旅費を稼いだのか?」

かずやは、小遣いももらっていない私がハワイまでの旅費を工面できるとは思っていなかったようだ。

「自腹で来いと言ったのはあなたたちですよね。手段を選ばないなんて、私を侮辱してるとしか思えないわ」

「どんな食わせ物だ、この女は!」

義両親もかずやの言葉を信じ、私を罵倒した。呆れたな。君たちの価値観は、世界から完全に遅れている。

そこに、世界的な実業家である倉田裕介が現れた。

「倉田さんがどうしてここに?」

私は野本幸、34歳。小さな会社を経営しながら、夫のかずやと義両親と共に暮らしている。私が経営する会社は女性向けのサービスを提供している。この会社を立ち上げようと思ったのは、母の存在があったからだ。父を早くに亡くし、母は女手一つで私を育ててくれた。当時は会社の理解もなく、私が熱を出したからと休みを取るだけで白い目で見られたそうだ。それでも職場でどれだけ嫌味を言われても、私のために仕事を辞めるわけにもいかず、母は歯を食いしばって耐えていたという。

そんな母の姿を見て、私は同じように苦労している女性をサポートしたいと思い、大学を卒業する年に会社を立ち上げたのだ。当時、新規事業者向けの応援プロジェクトが実施されており、私の事業を支援したいと申し出てくれた企業があった。そのおかげで、私は今でも会社を続けることができている。

かずやと出会ったのは7年前のこと。当時の私は結婚を考えていた人に一方的に別れを告げられ、落ち込んでいた。そんな私を励まそうと、友人から婚活パーティーへの参加を勧められたのだ。本心では興味も湧かなかったが、30歳までに結婚したいという思いと、私を捨てた元彼を見返したい気持ちで参加した。そこでかずやと出会った。

かずやは大手企業を経営する社長の息子で、将来は自分が後を継ぐことが決まっているという。経済的な安定も問題なく、見た目も爽やかで誠実そうなかずやに私は興味を持った。2人で話してみると考え方や価値観も合い、私たちは意気投合した。その後、結婚を前提に交際を始め、半年後に結婚することになった。

結婚の挨拶に義実家を訪れると、義両親も私のことを心よく受け入れてくれた。私は安心して結婚した。しかし、同居を始めてすぐ、私は自分の選択が間違っていたと後悔することになった。

それまで紳士的に振る舞っていたかずやは態度を急変させ、私に冷たい態度を取るようになったのだ。結婚したというのに一緒のベッドで寝ることもなく、家に帰ってくるのも深夜になってから。私が話しかけてもそっけない態度で「疲れてるんだ」の一言で部屋にこもってしまう。そんな日々が続いた。

そうして冷え切った関係のまま数年が過ぎ、今回のハワイ旅行の話が持ち上がった。そして、かずやが私を排除しようとした。自腹で行けと言い放ったかずやの真意が、この時はまだ分からなかった。

ハワイでかずやたちが泊まるホテルに私もチェックインした。同じホテルのスイートルームに。もちろん自腹で。翌朝、プールサイドでかずやたちと鉢合わせした。かずやの隣には、見知らぬ綺麗な女性がいた。

「帰ってきたのか」

かずやは面倒臭そうに顔を歪めた。

「あら、これが噂の奥さん?」

女性は不気味な笑みを浮かべている。

「こいつはただの家政婦だ。俺が愛してるのはエリだけだよ」

かずやの言葉に、私は腹が立った。

「どういうこと?」

「そのままだよ。俺とエリはもうすぐ結婚する。お前とは離婚だ」

義両親も隣で頷いている。最初から、この旅行は私を置き去りにするためのものだったのだ。かずやの浮気相手を連れて、家族で旅行するために。

「私をバカにしてるの?」

「バカにしてる?お前こそ、俺の稼ぎで生活してきたくせに。何も知らないくせに」

「何も知らないのはあなたの方よ」

その時、ホテルの支配人が私に近づいてきた。

「野本様、お客様がお見えです」

「誰が?」

「クライアントの会長が、ぜひ一言ご挨拶をと」

「後で連絡するわ」

「しかし、倉田裕介様でございます」

その名前に、かずやの顔色が変わった。

「倉田裕介って…世界的な実業家の?」

「ええ、私の会社の主要なクライアントよ」

「お前が?そんなはずないだろ。お前はただの主婦だ」

「私は会社を経営しているわ。あなたには言っていなかったけどね。というか、あなたは私の仕事に興味がなかったから知らなかっただけよ」

かずやは呆然としている。

「じゃあ、この旅行の費用も…」

「プライベートジェットも、ホテルのスイートも、全部私の会社の利益で支払ったわ。あなたたちはエコノミークラスで来たんでしょう?私は全然構わないけどね」

義両親は顔色を真っ青にしている。エリと呼ばれた女性も、困惑した表情でかずやを見つめている。

「かずや、どういうこと?あなた、奥さんの会社がそんなに大きいって知らなかったの?」

「知るわけないだろ!こいつが何も話さないから…」

「あなたが何も聞かなかったからよ。何年も、私の仕事について一度も聞いてきたことがなかったわ」

私はかずやたちを見渡した。

「離婚、でいいわよ。こちらから願い下げよ。養育費もいらないし、財産分与も結構。あなたたちはあなたたちで幸せにやってください」

「ちょっと待てよ!お前の会社って、そんなに儲かってるのか?」

「儲かってるかどうかは、関係ないでしょう?あなたは私を家政婦扱いしたのよ。それなのに、今になって私の金に目がくらむの?」

かずやは言葉を失っている。

「さようなら、かずや。これで縁は切れたわ」

私は振り返らずにホテルのロビーを歩き出した。後ろから何か言う声が聞こえたが、私は振り返らなかった。もう、この人たちと関わることはない。私は自分の会社と、新しい人生に集中するつもりだ。

離婚届を出した翌週、私は会社のオフィスで新しいプロジェクトの資料をめくっていた。倉田裕介氏から、海外展開のオファーが届いていた。私は微笑みながらペンを取った。人生は、まだまだこれからだ。

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