リビングには親戚たちの笑い声が満ちていた。息子の大学合格祝いの席だというのに、夫の勝也は高級腕時計を掲げて得意げに私に見せつけてくる。
「これ、いいだろ?陸の学費代わりに買ったんだ。またゼロから貯め直せばいいさ」
私は平静を装いながら返した。「貯め直す必要なんてないわ。もう500万、あなたのよく知っている人に請求しておいたから」
勝也の表情が一瞬で固まり、私の腕を掴んで寝室へ引っ張ろうとした。だがその動きはすぐに止まった。背後に立っていたのは、鬼のような形相の息子・陸だった。
「お前、何やってんの」
陸は勝也の手を振り払い、私を守るように前に立った。勝也は身長185センチの大柄だが、陸は中学生の頃から筋トレを欠かしていない。勝也が「親に向かって『お前』とは何だ」と怒鳴っても、陸は一歩も引かなかった。
「お前は今日で終わりなんだよ。母さんを傷つけたこと、後悔させてやる」
私は陸と共にリビングへ戻り、全員の注目を集める場所に立った。義両親や親戚たちが祝いの雰囲気のまま、怪訝な顔でこちらを見ている。
「皆さん、お話があります。勝也が陸の学費500万円を着服し、高級腕時計を購入していました。購入日時や支払い方法も全て確認済みです」
沈黙がリビングを支配した。勝也は隅で何も言わず、ただ私を凝視している。義両親は疑わしげな表情で勝也を見たが、勝也は「初耳だ」と嘘をつき、知らぬ顔を決め込んだ。
「ずっとあなたに気づかれないように調べていたの」
そう言った瞬間、玄関のチャイムが鳴った。義母がドアを開けると、そこには仕事で来られないはずだった勝也の兄・正斗さんが立っていた。スーツ姿で険しい表情を浮かべている。
正斗さんはリビングに踏み入り、一言放った。「重要な話がある。だから急いで来た」



