「帝王切開だぞ」
夫のかやとは、担当の先生に向かって吐き捨てるように言った。妊娠九ヶ月、お腹の子が逆子と診断され、リスクを考えて帝王切開を進められた私。入院前に同意書を渡そうと夫を連れて病院へ来たのに、まさかこんな反応をされるとは思わなかった。
「危険って言うけどさ、それってただの逃げだよな。楽したいだけじゃねえか。甘えてるんじゃねえよ」
鼻で笑う夫。私は呆然とした。子どもの安全を第一に考えた選択が、なぜ「甘え」になるのか。先生が困惑気味に説明しても、夫は聞く耳を持たない。
「お前の体のどっかが悪いから逆子になるんだろうが。それを逆切れかよ」
信じられない言葉が続く。私は必死に説明しようとしたが、夫は「帝王切開で産んだ子は根性なしになる」「お腹を痛めて初めて愛情が湧く」と理解不能な主張を繰り返すだけだった。
「分かってると思うけど、帝王切開なんて恥ずかしいことしたら離婚だからな」
そう言い捨てて、夫は同意書を突き返し、挨拶もせずにその場を出ていった。私は立ち尽くすしかなかった。帝王切開は四人に一人が経験する普通の出産方法なのに、なぜここまで否定されなければならないのか。
それからも私は何度も説明を試みた。しかし、夫の態度は変わらない。妊娠十ヶ月目に入っても逆子は戻らず、ついに私は決意した。
「もう待てないわ」
同意書にサインをしようとしたその瞬間、夫が叫んだ。
「だったら離婚だぞ!」
離婚の言葉を出せば私が引き下がると思ったのだろう。でも、私はもう迷わなかった。サインを済ませ、帝王切開の日を決めた。
その後、義母から連絡が来た。夫が激痛を訴えて救急車で運ばれたらしい。病院では尿路結石と診断され、鎮痛剤を処方されて帰宅したとのこと。「確かに激痛と聞くけど、鎮痛剤で抑えられているならなんとかなるでしょう」と、私は冷たい考えしか浮かばなかった。
そして、私の出産の日がやってきた。



