寝室のベッドの上で、私は凍りついていた。リビングから聞こえてきた夫の声。騎士の冷ややかな口調が、はっきりと私の耳に届いた。
「ナーカーさん、あいつの生命保険の受け取り人を俺に変更しておいたから、あとは事故が起きるのを待つだけだよ」
私は今日、学生時代の友人の結婚式に出席するはずだった。しかし急な体調不良で予定をキャンセルし、誰にも連絡せずに寝室で休んでいた。夫たちは私が家にいるとは夢にも思っていない。
義母の喜びに満ちた声が、壁一枚隔てた私の耳に刃物のように突き刺さる。
「ふふふ。楽しみね。あの子が消えればこの家も、あの子の父親が持っている莫大な財産も全部私たちのものよ」
私は息を殺し、涙をこらえながらその恐ろしい会話の全てを記録し始めた。暗い部屋の中で、私の瞳だけが静かに、そして鋭く光っていた。
「たしかに本当に大丈夫なの?警察に怪しまれたりしないかしら」と、期待に満ちた声で義母が尋ねる。
「大丈夫だよ、母さん。あいつの父親はもうすぐ定年を迎えるただの警察官だ。現場の知識なんてたかが知れてる。ちょっとした不注意の事故に見せかければ、疑う余地なんてないさ。あいつは俺を信じきってるし、疑うはずがない」
夫のその言葉に、私は奥歯を噛みしめた。ただの警察官。父のことをそんな風に思っていたなんて。父がどれほど誇りを持って仕事をしてきたか、こいつらは何一つ分かっていない。
「お前も作死だね。まあ、あの嫁も中身は空っぽのお嬢様だしな。死んで役に立つならそれが一番の親孝行ってもんだ」
義父の卑劣な声が響く。空っぽのお嬢様。結婚してから三年間、私がどれだけ彼らに尽くしてきたと思っているのだろう。節約して義母の介護の準備まで進めて、騎士の昇進のために人脈作りまで手伝ってきた。その全てが彼らにとっては利用価値のある獲得物に過ぎなかったのだ。
怒りで指先が震えていた。しかし今の私の中に、彼への愛情は一滴も残っていない。
私は静かにスマートフォンを握りしめ、ある人物に連絡をした。発信ボタンを押すと、すぐに相手が出た。
「もしもし、お父さん。今すぐ聞いて」
その連絡からわずか数分後、彼らの計画は人生最大の地獄へと変わる。私は震える声を必死に抑えながら、録音した会話を父に送った。
「この家を建てるための頭金、誰が出したと思っているの?私はあなたたちのために尽くしてきたのに、感謝の代わりに殺されるなんて」
私の声は自分でも驚くほど落ち着いていた。やがて、家のチャイムが鳴り響く。玄関の向こうには、父が呼んだ刑事たちが立っていた。
刑事たちが慌てふためく夫を力づくで押さえつけ、階段へと引きずり出していく。義母は「私はただお金が欲しかっただけなのよ」と叫びながら、階段を転げ落ちた。
最後に残ったのは、腰を抜かして動けなくなっている騎士だった。
「リナ、嘘だろ。僕たちの結婚は…お前が僕を…」
私は彼を見下ろし、凍てつくような声で言った。
「お前たちが犯した罪は保険金詐欺や不法登記だけではない。20年前の事件も含めて、地獄の底まで私が案内してやる」
彼の顔が絶望で歪んでいくのを、私は冷めた目で見つめていた。これまで私が注いできた愛情は、裏切りによって完全に消え去っていた。


