「あなたみたいな時代遅れの料理人は、今日付けで解雇です。さようなら」
父から受け継いだ旅館の新社長・矢島咲さんに、30年間守り続けてきた料理長の座を突然奪われた。彼女は若いシェフを連れてきて、「うちはこれからリゾートホテルに生まれ変わるの」と、まるで古い皿を捨てるように私を切り捨てた。
私はこの旅館で、先輩方から伝わる出汁を守り、お客様の笑顔のために腕を磨いてきた。常連の方々が「この味を待ってたんだ」と涙を浮かべるのを見るたび、この仕事に誇りを持ってきた。なのに新社長は「そんな古臭い客はうちには必要ない」とまで言い放った。
この人は旅館の魂を何も分かっていない。説得しても無駄だと悟った私は、静かに調理場を去ることにした。しかし、その背中に新社長の嘲るような笑い声が響いた。
「どうせアナタ、どこも雇ってくれないわよ」
その言葉が頭から離れない。私はもう一度だけ、この旅館に何が本当に必要だったのかを証明するつもりだ。



