# 息子の結婚式で、私は人生最大の屈辱を味わいました。純白のドレスをまとった新婦が、私が差し出した300万円のご祝儀袋の中身を確認し、周囲に聞こえる声で言い放ったのです。 「うちの実家は500万円包んでくれましたよ。それが普通です。お母さん、正直ケチですよね」…

# 息子の結婚式で、私は人生最大の屈辱を味わいました。純白のドレスをまとった新婦が、私が差し出した300万円のご祝儀袋の中身を確認し、周囲に聞こえる声で言い放ったのです。 「うちの実家は500万円包んでくれましたよ。それが普通です。お母さん、正直ケチですよね」...

「え、たったこれだけですか?」

その言葉を聞いた瞬間、私の心臓が止まるかと思いました。結婚式場の華やかなシャンデリアの光が、急に冷たく感じられたのです。私は石田け子、息子の高雪の結婚式に出席するため、心を込めて準備したご祝儀を渡したばかりでした。300万円。決して少なくない金額のはずです。

しかし、純白のドレスに身を包んだ由美さんは、ご祝儀袋の中身を確認すると、信じられないような表情で私を見つめていました。

「母さん、来てくれてありがとう」

つい先ほどまで、高雪はそう言って笑顔を見せてくれていたのです。私は息子の門出を心から祝福し、幸せな気持ちでいっぱいでした。

「高雪さん、由美さん、本当におめでとう。ささやかですが、お祝いの気持ちです」

そう言って差し出したご祝儀が、まさかこんな反応を引き起こすとは夢にも思いませんでした。周囲の空気が一瞬で凍りつき、華やかな音楽も遠くに感じられます。私の全身から、すっと血の気が引いていくのを感じました。

由美さんは、まるで汚いものでも見るような目でご祝儀袋を見下ろしていました。そして、周囲に聞こえるような大きな声で言い放ったのです。

「お母さん、うちの実家は500万円包んでくれましたよ。それが普通だと思ってました。正直、ケチですよね。高雪さんのお母様なのに」

由美さんの言葉は、まるで鋭い刃物のように私の心を切り裂きました。周囲の親族たちの、こそこそとした声が聞こえてきます。300万円でも十分すぎるのに、最近の若い人はね…。視線が痛い。私は必死に平静を保とうとしましたが、手が小刻みに震えていました。

そして何より辛かったのは、高雪の反応でした。

「ま、仕方ないよ。母さんも年金暮らしだし」

息子は由美さんの肩を抱きながら、まるで私を擁護するような口調で言いました。しかし、その目は明らかに失望の色を浮かべていたのです。35年間、愛情を注いで育てた息子が、妻の非常識な発言を咎めることもなく、むしろ同調している。その事実が、私の心を深く傷つけました。

私は深呼吸をして、何とか顔を作ろうとしました。しかし、由美さんの攻撃は止まりません。

「そういえば、高雪さんから聞きました。大学の学費も奨学金を使ったんですよね?」

私は愕然としました。高雪は一体、何を話しているのでしょうか?

「いえ、高雪の学費は全額、私が……」

「あら、そうでしたっけ?でも、私立大学の学費なんて、今思えば大した額じゃないですよね」

500万円。4年間で私が支払った学費の総額です。さらに、一人暮らしの仕送りとして月10万円を4年間。合計すると980万円にもなります。夫が亡くなった後、私は必死に働いて高雪に不自由のない学生生活を送らせたのです。

記憶が鮮明に蘇ってきました。朝5時に起きて弁当を作り、正社員として働きながら、夜はパートの仕事も掛け持ちしていた日々。土日も休まず働き、自分の服は10年以上同じものを着回し、病院にも行かず、全てを高雪のために捧げた20年間。高雪が「母さん、ありがとう」と言ってくれる笑顔だけが、私の支えでした。

「お母さん、新居の頭金も当然出してくれますよね?」

由美さんの言葉に、私は現実に引き戻されました。

「頭金ですか?それは……」

私の口ごもりに、由美さんはさらに畳み掛けます。周りの親族たちも、何か言いたそうにしながらも、誰も口を挟もうとはしません。私の妹が心配そうな顔で見ていましたが、やはり黙っていました。

「山田さんのところは、結婚の時に2000万円も援助したって聞きましたよ。それに比べたら、300万円のご祝儀なんて、お小遣い程度ですよね」

お小遣い?その言葉が、私の心に深く突き刺さりました。私は高雪が就職するまでの20数年間で、総額いくら使ったか計算したことがあります。教育費、生活費、医療費、習い事……決してお小遣い程度では済まない、莫大な金額でした。

高雪が小学生の頃、修学旅行の費用を捻出するために、私は大好きだったコーヒーをやめました。高校の入学金を準備するために、自分の誕生日プレゼントを諦めました。そして、大学の入学金や学費のために、自分のへそくりを全てはたきました。それなのに、目の前で「お小遣い程度」と言われ、息子がそれを何も言わずに受け入れている。その現実が、何よりも辛かったのです。

私はテーブルの上に、ほとんどの親族から見える位置にあった、私の母からもらった古い真珠のネックレスを、無意識に握りしめました。それは母の形見で、私にとって唯一の宝石でした。

「……帰ります」

私はそう言って、席を立とうとしました。しかし、高雪が私の腕を掴みました。

「母さん、まだ引き出物があるから」

その言葉に、私は再び席に座るしかありませんでした。目の前で繰り広げられる華やかな披露宴。しかし、私の心は真っ暗でした。

披露宴が終わり、私は会場を後にするため、入口に向かいました。すると、高雪が追いかけてきて、小さな声で言いました。

「母さん、悪かったね。でも、由美の実家は大きな会社を経営してて、これからの付き合いもあるからさ。理解してくれよ」

その言葉で、私は完全に悟りました。高雪は、もう私の息子ではないのだと。彼の新しい人生の中心は、由美さんであり、由美さんの実家なのだと。私はたった一人、取り残されてしまったのです。

タクシーを待つ間、私は母の形見のネックレスを握りしめながら思いました。私は、一体何のためにここまで頑張ってきたのだろう、と。そして、その瞬間、私は静かに決意しました。

この人生、もう誰かのために生きるのはやめよう、と。息子に捧げた35年の時間は決して無駄ではなかったけれど、もう充分だ。残りの人生は、私自身のために使おう。

そんな思いを胸に、私は帰路につきました。家に帰ったら、まずあの古くなった洋服を全部捨てて、ちゃんとした自分の服を買おう。病院にも行こう。ずっと行けずにいた歯科にも。そして、ずっとやりたかった旅行の計画を立てよう。

心の中では、悲しさと寂しさがぐるぐると渦巻いていました。しかし、それと同時に、ある種のすっきりとした解放感もありました。もう、誰かのために自分を犠牲にする必要はないのです。

自宅のドアを開けると、静まり返った部屋が出迎えてくれました。息子の物は、もうほとんどありません。嫁いでから、高雪は私の家に来ることはありませんでした。電話も、近況を伝えるたびに「うん、元気だよ」と素っ気ない返事だけ。

私はリビングのソファに深く腰を下ろし、考え込んでいました。そして、ふと目に入ったのは、壁にかかった夫の写真でした。

「あなた、私はどうすれば良かったのかしら」

写真の中の夫は、何も答えません。ただ、優しく微笑んでいるだけでした。

数週間後、私のスマートフォンが鳴りました。高雪からの着信でした。私は少し迷いましたが、通話ボタンを押しました。

「母さん、元気?」

あの日以来、初めての声に、私は少しだけ胸が締め付けられました。しかし、次の言葉で、その感情は消え去りました。

「あのさ、ちょっと相談があるんだけど。由美の父さんから、会社の設備投資の話が来ててさ。うちの土地を担保にしたいんだよ。母さんに印鑑を押してもらいたいんだ」

私は、家のローンが完済している唯一の財産、この家を指して言われているのだと、すぐに理解しました。35年間、毎日働いて、コツコツと返済してきた家です。

「……ごめんなさい、高雪。それはできないわ」

私がそう言うと、高雪は信じられないような口調で言いました。

「え?なんで?母さん、俺のためなら何でもしてくれるんじゃなかったの?」

その言葉に、私はすべての迷いが吹き飛びました。

「今まで、あなたのためなら何でもしてきたわ。でも、もうそれは終わりよ。私はもう、あなたのために生きるのはやめることにしたの」

電話の向こうで、高雪が何か言おうとする気配がしました。しかし、私はそこで通話を切りました。積年の思いを伝えた後、私は深く息を吐きました。寂しさはありますが、それ以上に、しばらく感じたことのない清々しさがありました。

これからは、私の人生。私はそうつぶやき、古い写真アルバムを開き始めました。新しい人生を始めるために、まずは過去と向き合おうと思ったのです。

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