ある日、炊き出しのボランティアに参加したとき、俺は全職の後輩にばったり会った。当時、彼女は会社の中でも目立つ存在で、将来を有望視されていた。そんな彼女が、今はホームレスに混じって並んでいる。一瞬、目を疑った。どうして彼女がこんなことになったのか。理由を聞いて、俺は思わず涙を流した。
俺の名前はせいや。30代後半で、小さな会社を経営している。自分の会社を持つことは、子供の頃からの夢だった。親戚のおじさんが会社を経営していて、おじさんはいつも優しくて頼れる人だった。周りのみんなから慕われていて、俺もおじさんみたいな人間になりたいと思った。学生時代はアルバイトで社会経験を積みながら勉強に励み、大学を卒業してからは一般企業に就職した。仕事をしながら学ぶことばかりだった。そして社会人になって10年が経った頃、やっと会社を立ち上げることができた。
最初は不安定で、いつ潰れてもおかしくなかった。でも、周りの支えで何とか乗り越えてきた。特に社員たちには感謝しかない。彼らがいるおかげで、会社は安定し、規模も少しずつ拡大している。夢を追いかけるのに必死すぎて、女性との関係はずっとゼロだった。学生時代の友人の多くは結婚して家庭を持っていた。独身のやつもいたけど、仲の良いグループの中で彼女すらいないのは俺だけだった。そろそろ彼女くらい作らないと、と思いながらも、そんな簡単に相手は見つからない。
そんな俺が毎月欠かさずやっていることがある。それは炊き出しのボランティアだ。忙しい日常の中で、自分にできることはないかと思って始めたことだった。ある日、その炊き出しで彼女と出会った。彼女は学生時代、俺と同じサークルで、いつも明るくて誰からも好かれていた。社会人になってからも仕事ができると評判で、将来有望って噂だった。なのに、どうして。
彼女は俺の姿を見ると、逃げるようにその場を離れようとした。俺は慌てて彼女を追いかけた。しばらく走っていると、ベンチに座っている彼女が見えた。声をかけると、彼女の体がぴくりと跳ねた。
「せいや先輩」
彼女は俺と目を合わせようとせず、うつむいて黙っている。俺も何から話し始めればいいか分からなくて、その場でおろおろしていた。すると、彼女がぽつりと口を開いた。
「なんで、追いかけてきたんですか?」
その声音は、昔の彼女とは全然違っていた。今にも消えてしまいそうな、弱々しい声。俺はどうやって彼女を助ければいいのか、頭の中がぐるぐる回っていた。そして、彼女の話を聞いて、涙が止まらなくなった。
彼女は会社を辞めた後、うつ状態になり、仕事を転々とした。最終的に家を失い、路上生活を始めたという。親にも連絡できないまま、日々を生き延びるだけで精一杯だった。俺は彼女を見て、放っておけないと思った。すぐにでも助けたい。そう思った。
「うちの会社で働かないか?」
彼女は驚いて顔を上げた。しかし、すぐに首を振った。
「そんな、私なんか……」
「いいから。まずは少しずつでいい。一緒にやろう」
俺はそう言って、彼女を会社に迎え入れた。最初は事務仕事から始めた。彼女は真面目に働いた。元々優秀だったし、徐々に仕事も戻ってきた。会社の雰囲気も悪くなかった。彼女も少しずつ心を開いてくれたような気がした。
しかし、しばらくして、ある異変に気づいた。彼女が時々、誰かと連絡を取っているようだった。何か隠しているようにも見えた。俺は気になったけど、プライバシーは尊重しようと思って、深く追求しなかった。
やがて、会社で奇妙なことが起こり始めた。契約が突然キャンセルされたり、機密情報が漏れたり。最初は偶然だと思った。しかし、ある日、社員が俺のオフィスに来て、震える声で言った。
「社長……あの後輩さん、何か変ですよ。知らない人と話してるのを見ました」
俺は彼女に直接問い詰めた。すると、彼女の目つきが変わった。
「……もう手遅れですよ。あなた、会社を失うことになるから」
俺は言葉を失った。何が起きているのか理解できなかった。彼女はかつて、俺が助けたかった人間だ。今の彼女は……違う。何かがおかしい。彼女の背後に、何か大きな力が動いている気がした。俺は、この罠からどうやって抜け出せばいいのか、まったく分からなかった。



