シャッターを上げる音が、まだ眠たげな商店街に響いた。俺は店先に立ち、空を見上げる。5月の雲が低く、湿った風が頬を撫でていく。入口の脇に置かれたダンボールを店内へ運び込む。キャベツ、玉ねぎ、トマト。手のひらに伝わる重さが、今日も一日が始まることを教えてくれる。
奥から母が顔を出した。
「悟、今日は牛乳の入荷が午前中だからね。」
「ああ、分かってる。ケースのスペースは昨日のうちに開けておいたよ。」
「ありがとう。あんたが帰ってきてくれて、本当に助かってる。」
母は笑ったが、その笑顔の奥にいつもの疲れが滲んでいる。俺は何も返さず、品出しの続きに戻った。
俺の名前は田代悟。42歳。3年前まで東京の大学病院で外科医をやっていた。天才と呼ばれたこともある。今はこの小さなスーパー「田ストア」の店長だ。
父が病気で亡くなったのは4年前の冬だった。俺は外科医でありながら、自分の父の異変に気づけなかった。それが全ての始まりだった。
開店10分前、レジ前に3人のパートが集まる。そのうちの1人、三浦裕子がメモを片手に立っていた。彼女は35歳。この店で5年働くベテランだ。旦那さんと中学生の息子と隣町に住んでいる。
「店長、今週の特売はチラシ通りで行きますね。ただ、卵の仕入れがまた少し上がっていて…」
「ああ、それは聞いてる。利益はギリギリだけど、客寄せだから値段は据え置きで頼む。」
「分かりました。けど店長、本当にこの値段で続けて大丈夫なんですか?」
裕子の声には、いつもの遠慮といつもの不安が混じっていた。俺はレジを開けながら釣り銭を数える。1円玉、5円玉、10円玉。銀行で両替してきたばかりは薄かった。
「大丈夫だ。今月はなんとかする。心配かけてすまない。」
「謝らないでください。私たちこそ、もっと売上に貢献しないといつも思ってますから。」
そう言って彼女は他の2人のパートに今日の段取りを伝え始めた。
開店時間になる。扉のロックを外し、自動ドアのスイッチを入れる。最初の客が入ってきた。近所の男性だ。毎朝新聞と豆腐を買いに来る。
「悟ちゃん、おはよう。」
「おはようございます。佐々木さん、今日は雨にならないといいですね。」
東京で「田先生」と呼ばれていた日々が、遠い昔のように感じる。
昼を過ぎた頃、レジが少し落ち着いた。俺は事務室に下がって伝票の整理を始めた。机の上には先月の収支表が広げてある。赤字。数字は嘘をつかない。近隣に大型のディスカウントストアができたのは2年前だった。それ以来、客足はじわじわと細っている。町の人口も減っている。若い世代は出ていき、戻ってこない。
事務室の扉の向こうから母の咳が聞こえた。一度、二度、三度。小さく乾いた咳だった。俺は伝票を置き、立ち上がった。
「今行く。」
母が台所の上で胸を抑えていた。顔色は悪くないが、息が浅い。俺の医者としての目が勝手に動く。
「母さん、いつから咳が続いてる?」
「嫌だね。心配しなくていいよ。ただの風だから。」
「風なら1週間で治る。もう3週間経ってるだろう。明日病院に行こう。」
「忙しいのに悪いよ。」
「忙しくない。店のことは裕子さんに頼める。明日の午前中に予約を入れる。」
母は何か言いかけてやめた。俺の目を見て、ゆっくりと頷いた。母は俺が医者をやめた本当の理由を知っている数少ない人間だ。だからこそ、俺の医者としての感覚には逆らわない。
夕方、店内が込み始めた頃だった。レジに立つ俺の耳に、奥から声が飛んできた。
「ちょっと君、待ちなさい。」
振り返ると、フード付きの黒い上着を着た少年が菓子パンの棚の前で固まっていた。中学生くらいだろう。痩せていて、目つきが鋭い。ポケットの膨らみが不自然に四角かった。
「ポケットの中、見せてくれる?お願い。トラブルにしたくないから。」
少年は唇を噛んで裕子を睨んだ。そして突然走り出した。レジの脇をすり抜け、出口へ向かう。俺はとっさに手を伸ばし、その細い腕を掴んだ。
「待て。話を聞かせてくれ。逃げなくていい。警察も呼ぶつもりはない。」
少年の腕は驚くほど細かった。力を入れたら折れてしまいそうだった。ポケットから出てきたのは菓子パンとおにぎり1つ。合計で500円にも満たない。
「店長、警察に連絡しますか?」
「いや、事務室で話を聞く。」
裕子は驚いた顔をしたが、何も言わずに頷いた。他の客がチラチラとこちらを見ている。俺は少年の背中に手を添え、奥へと歩いた。少年は抵抗しなかった。
事務室の椅子に座らせ、俺は向かいに腰を下ろした。机の上にはポケットから出した菓子パンとおにぎりが並んでいる。
「名前は川崎蓮君か。何年生だ?」
「中2。」
「これ、自分で食うのか?それとも誰かのためか?」
少年の肩がピクリと動いた。答えはなかった。俺はそれ以上追い詰めるような問い方はしなかった。冷蔵庫からお茶を出し、少年の前に置く。菓子パンの袋を開け、皿に盛って差し出した。
「腹が減ってるなら、まず食え。話はそれからでいい。」
少年はしばらく動かなかった。やがて震える手で菓子パンを掴み、口に運んだ。一口、二口。咀嚼する音と鼻をすする音が事務室に静かに響いた。食べ終える頃には、少年の頬を涙が伝っていた。俺は何も言わず、ただ茶碗にお茶を注ぎ足した。
翌朝、俺は母を連れて隣町の総合病院に向かった。助手席の母はいつもより口数が少なかった。窓の外を流れる田んぼを見つめ、時折軽く咳をする。待合室で名前を呼ばれるまで、母は雑誌をめくっていた。
「悟、あんた、診察室まで一緒に来てくれるかい?」
「ああ、もちろん。母さんが嫌じゃなければ、隣で聞かせてもらうよ。」
医者は40代くらいの男だった。胸部レントゲンと血液検査の結果を淡々と並べて説明した。肺に影があると医者は言った。精密検査が必要だと。医者の口調は丁寧だったが、俺にはその先が見えていた。俺は外科医だった頃の癖で画像をじっと見た。影の輪郭、位置、大きさ。父の時と同じ場所ではない。だが、楽観できる影でもなかった。
「先生、悪いものなんでしょうか?」
「今の段階では何とも言えません。来週CTを撮りましょう。」
「先生、紹介状だけいただけますか?大学病院で見てもらいたいんです。」
医者は俺の顔をちらりと見た。俺が医者だったことを知っている口ぶりだった。小さな町だ。噂は早い。
帰り道、車の中で母はぽつりと言った。
「悟、あんまり気を張らないでね。父さんの時みたいに自分を責めるのだけは、もうやめておくれ。」
「責めてないよ。ただ、今度はちゃんと最初から見ていきたいだけだ。」
「あんたは医者をやめても、医者のままだね。」
俺はラジオの音量を少しだけ上げた。昼のニュースがどこか遠い国の話を伝えていた。
その日の夕方、俺は店を裕子に任せて蓮の家へ向かった。昨日少年から聞き出した住所だった。古いアパートの2階。廊下の蛍光灯が1本切れかけて点滅している。ドアをノックすると、しばらくしてチェーン越しに女が顔を出した。化粧気のない顔は疲れきっていた。30代後半だろうか。目の下のくまが深く落ちていた。
「川島さんのお宅ですか?田ストアの田と申します。」
「うちの子が何かしましたか?」
「立ち話もなんですから、少しお時間いただけませんか?」
女はチェーンを外した。玄関に上がるなり、奥の部屋から蓮が顔を出し、俺を見て固まった。部屋は6畳一間だった。茶ぶ台の上に食べかけの菓子がある。昨日のものに違いなかった。
女は事情を聞き、深く頭を下げた。
「申し訳ありません。本当に申し訳ありません。連絡します。働いてる店2つ掛け持ちしてるんですが、来月の給料で必ず弁償します。」
「顔を上げてください。」
女はゆっくりと顔を上げた。その目はもう泣く力すら残っていないように見えた。蓮は部屋の隅で膝を抱えて座っていた。俺は茶ぶ台の菓子に目をやった。
「蓮君、昨日のあれは、お母さんに食べさせるためだったのか。」
蓮は答えなかった。
「私、最近あまり食べられなくて。胃が痛くて。蓮には心配かけまいと思ってたんですけど…」
「病院には行かれましたか?」
「保険証が今手元になくて。色々あって…」
俺は黙って頷いた。事情を根掘り葉掘り聞く気はなかった。封筒を取り出し、茶ぶ台の上に置いた。中には店の商品券と弁当の引き換え券が入っている。俺が今朝自分で書いて作ったものだった。
「これ、うちの店で使ってください。期限はありません。それから、明日から蓮君、店を手伝いに来ないか?時給は出す。きちんとした仕事として頼みたい。」
「なんでそんなことを?」
「昨日君は逃げなかった。腕を掴まれてからは、ちゃんと俺の話を聞いた。それは信用できる人間の態度だ。」
蓮は俯いた。女はまた深く頭を下げた。今度は声を出して泣いていた。
「川崎さん、明日保険証のことは役所に相談すればなんとかなります。一緒に行きましょう。胃の痛みは放っておかないでください。」
女は涙声で「はい」とだけ答えた。アパートの階段を降りながら、俺は夜の空を見上げた。
それから3日後の昼下がりだった。店の自動ドアが開き、見覚えのある背の高い男が入ってきた。仕立てのいい紺のスーツ、艶のある革靴。間違いなく洗練された姿が薄暗い店内で浮いていた。
「久しぶりだな、田代。」
「黒沢か。どうしてここに?」
黒沢一。大学病院時代の同僚だった。今は教授だと聞いている。俺と同じ年、43歳。黒沢は店内をぐるりと見回した。品出しの途中だった野菜のケース。古いポスター。レジの前で立ち話をしているパートの主婦。その視線には隠しきれない哀れみがあった。
「お前のお母さんの紹介状、回ってきたよ。うちの呼吸器科が担当することになりそうだ。」
「そうか。世話になる。」
「世話になるじゃない。お前が戻ってきて診察すればいいだろう。腕は鈍ってないはずだ。」
俺は黙ってトマトのケースを棚に戻した。髪が蛍光灯の下でつややかに光っている。
「悟、お前いつまでこんなことやってるんだ?お前の手はここでキャベツを並べるためにあるのか?お前のお母さんを救えるのは、お前自身だろう。」
「俺はもう診察しない。それは3年前に決めたことだ。」
「お父さんのことは事故みたいなものだ。誰にも防げなかった。お前1人の責任じゃない。」
「責任の話はしていない。」
俺は手を止め、黒沢を見た。黒沢の目には苛立ちとわずかな心配が混じっていた。こいつは昔から真っすぐな男だった。
「お前ほど診察のうまい外科医を、俺は他に知らない。それを捨ててこんな田舎で…」
「黒沢、母のことは頼む。お前に任せれば間違いない。」
黒沢は何か言いかけ、口を閉じた。代わりにポケットから名刺を取り出し、レジ脇に置いた。
「気が変わったら連絡しろ。せめて診断会議には立ち合え。お前の目が必要な場面が必ずある。」
そう言って黒沢は背を向けた。ドアが閉まる直前、黒沢は振り返らずに言った。
「お前のお母さんの腫瘍は、悪性の可能性が高い。覚悟しておけ。」
ドアが閉まった。店内の冷蔵庫の音が急に大きく聞こえた。俺はレジの脇に置かれた名刺を見つめた。呼吸器科教授 黒沢一。
裕子が遠慮がちに近づいてきた。
「店長、大丈夫ですか?お知り合いですよね。」
「ああ、昔の同僚だ。母のことで少し話があってな。」
「店長、お母様どこか悪いんですか?」
「まだ検査の段階だ。心配かけたくないから、他のみんなには黙っていてくれ。」
裕子は頷いた。店の奥から、品出しを手伝っていた蓮の足音が聞こえた。あの日から蓮は学校が終わると毎日店に来ていた。真面目に働いている。俺は名刺を手に取り、エプロンのポケットに入れた。
6月の半ば、母のCT結果が出た。肺腺癌、ステージ2。手術可能な段階だが、年齢と部位を考えると、執刀医の腕がそのまま病後の経過を左右する。黒沢から電話があったのは結果が出た翌日だった。
「診断会議に来い。診察じゃなくていい。お前の母さんのことだ。家族として座っていろ。」
「分かった。日時を教えてくれ。」
「金曜の午後2時だ。」
電話を切って、俺はしばらく受話器を握ったままでいた。机の引き出しの奥に、畳んでしまったままの白衣があった。3年前に辞職した日に持ち帰り、それきり袖を通していない。俺は引き出しを開けた。白衣は1枚も皺なくきちんと畳まれていた。母が時々虫干しをしていたのだろう。
「悟、行くのかい?」
振り返ると母が扉の前に立っていた。
「ああ、家族として話を聞いてくる。手術は黒沢に任せるつもりだ。」
「悟、無理はしなくていいんだよ。お前が無理をすると、私が治っても嬉しくないからね。」
母の声は穏やかだった。俺は白衣を畳み直し、引き出しに戻した。
金曜の朝、俺は店を裕子に任せて家を出た。出がけ、レジ前で裕子が深く頭を下げた。
「店長、店のことは何も心配しないでください。お母様のこと、しっかり聞いてきてあげてください。」
「すまない。蓮君のことも頼む。最近、表情が柔らかくなってきた。あの子のペースで見ていってやってくれ。」
「はい。蓮君、昨日ね、自分から『おはようございます』って言ってくれたんですよ。」
裕子は涙ぐみながら笑った。蓮は野菜売り場でキャベツを並べていた。不器用な手つきだが丁寧だ。俺が出かけるのを察して、蓮はぺこりと頭を下げた。
「店長、行ってらっしゃい。」
「ああ、行ってくる。蓮君、留守の間、裕子さんを助けてやってくれ。」
「はい。」
たった一言の返事だったが、その声には最初に会った日のトゲトゲしさはもうなかった。母親のマナの胃の検査結果も軽い胃炎だけで済んでいた。役所での手続きも済み、母子の生活は少しずつ立て直され始めていた。
俺は車に乗り、東京へ向かった。午後2時、大学病院の会議室。長い机に呼吸器科のスタッフが8人並んでいた。俺は末席に座り、配られた資料に目を落とした。母の名前が患者番号と並んで記載されていた。黒沢が画像を映し出し、所見を述べていく。俺は資料に書き込みをしながら医師たちの議論を聞いた。腫瘍の位置、血管との距離、リンパ節への影響。聞き取り診断する自分の頭が、3年前と同じ速度で動き始めていることに俺は気づいていた。
ある若い医師が術式の選択について意見を出した。無難だが、母の年齢を考えると術後の負担が大きすぎる方法だった。俺は黙って聞いていた。発言する立場ではないと自分に言い聞かせていた。
「悟、見るか?」
全員の視線が俺に集まった。
「家族としてここに座っているだけだ。」
「家族の意見も聞かせてくれ。執刀医として参考にしたい。」
俺は資料をもう一度見た。ペンを握る手に自然と力が入る。
「胸腔鏡での部分切除を中心に、リンパ節郭清は最小限にとめてほしい。母は体力がない。長時間の手術には耐えられないと思う。」
「同感だ。俺もその術式を考えていた。」
会議室の空気がほんの少し緩んだ。若い医師が「なるほど」と小さく呟いた。黒沢は俺を見て、わずかに口元を上げた。
手術日はその2週間後と決まった。当日、俺は母に付き添って病院にいた。店は裕子が回してくれていた。
ここから先は、後日裕子が涙ながらに俺に話してくれたことだ。その日、店には朝から町の人たちが次々とやってきたという。佐々木さんは新聞と豆腐のついでに、裕子に小さな包みを渡した。中身は神社のお守りだった。
「悟ちゃんのお母さんに渡してくれ。みんなでずっと待ってるってな。」
商店街の魚屋も、向いの花屋も、長年の常連客たちも、それぞれに何かを置いていった。お守り、手紙、千羽鶴の途中のもの。レジの脇のカウンターは、夕方には人々の気持ちで埋まっていた。裕子はその1つ1つをダンボールに丁寧に詰めながら、何度も泣いたという。
そして蓮だ。蓮はその日、学校から走って店に来た。ランドセルを置くなり、裕子の前に立ち、こう言ったらしい。
「店長のお母さん、絶対治るよね。店長、俺にご飯食わせてくれた人だから。俺、店長のためなら何でもする。」
裕子はしゃがみ込んで蓮の頭を撫でた。言葉は出なかったという。ただ2人で店の床にしゃがんだまま、しばらく動けなかった。
その頃、手術室の前のベンチで、俺は両手を組んで座っていた。5時間。長い手術だった。扉が開き、黒沢がマスクを下げて出てきた。顔には汗が滲んでいたが、目は澄んでいた。
「成功だ。腫瘍は全て取り切った。経過も良好だ。」
「ありがとう。本当にありがとう。」
俺は深く頭を下げた。頭を下げたまま、しばらく顔を上げられなかった。黒沢が俺の肩を一度だけ叩いて去っていった。
母が退院した日、店の前には町の人たちが集まっていた。横断幕も派手な飾りもない。ただ、いつもの顔ぶれがいつもの笑顔で立っていた。裕子と蓮が入り口の前で母を迎えた。
「皆さん、ご心配おかけしました。」
そう言って母は深く頭を下げた。何人かの女性客が目元を拭っていた。
その夜、店を閉めた後、俺は事務室で黒沢からの手紙を開いた。封筒には紹介状の様式と非常勤医師の登録案内が入っていた。手紙にはこう書かれていた。
「悟、お前の手はまだ必要とされている。月に1度でいい。地域医療の応援に来てくれ。お前が逃げた人間だなんて、もう誰も思っていない。お前は戻ってきた人間だ。」
俺は手紙を膝に置き、しばらく天井を見上げていた。事務室の小さな窓から、夏の初めの星が1つ見えていた。
翌朝、俺は店先に立ち、空を見上げた。6月の風が青葉の匂いを運んでくる。入口のダンボールを店内に運びながら、俺はエプロンの紐を結び直した。蓮が走ってきた。学校に行く前に、毎朝店の前を通るようになっていた。
「店長、おはようございます。」
「おはよう、蓮君。今日も元気に行ってこい。帰りに寄ってくれ。新しい品出しを覚えてもらうから。」
「はい、店長。」
蓮が朝の商店街を駆けていく。俺はその背中を見送りながら、ポケットの中に入れたままだった黒沢の名刺にそっと触れた。白衣はまだ引き出しの中にある。だが、それでいいのだと今は思える。
母の咳はもう聞こえない。店のレジの音が今日も静かに鳴り始めた。俺の戻る場所は、ここだ。



