「お母さんは家族じゃないから、もう立ち入り禁止ね。」…

「お母さんは家族じゃないから、もう立ち入り禁止ね。」...

「お母さんは家族じゃないから、もう立ち入り禁止ね。」

目の前でドアがピシャリと閉められた。私は汗水流して働き、退職金のほとんどを注ぎ込んで買ったタワーマンションの最上階の部屋。その前で、私はただ立ち尽くすしかなかった。

私の名前は裕子。65歳。長年勤めた会社を退職したばかりだ。一人娘のみさは、夫の健太さんと暮らしている。娘は「健太さんの収入だけじゃ将来が不安」と漏らしていた。物価は上がるし、毎月のやりくりもいっぱいいっぱい。この先が怖いと言う娘を見て、私は何か力になりたいと思った。

そして私は決心した。退職金のほとんどを使って、タワーマンションの最上階の部屋を娘夫婦のために買ったのだ。娘は涙を浮かべて「お母さん、ありがとう」と喜んでくれた。その顔を見て、私も本当に嬉しかった。

しかし、幸せな時間は長くは続かなかった。いつの間にか、健太さんの両親まで同居し始めたのだ。そしてある日、私がマンションを訪ねると、娘のみさが迷惑そうな顔で言い放った。「私たち家族の生活があるから。お母さんはもう家族じゃないから立ち入り禁止。」

後日、さらに信じがたい事実を目の当たりにする。私がこだわって選んだ高級家具が勝手に売り払われ、代わりに健太さんの両親の趣味だという悪趣味な置き物がリビングに鎮座していた。

そして決定的だったのは、娘がSNSに投稿した一文だった。「親のお金は私のもの。口は出すけど金も出す。厄介なスポンサー。」

この投稿を見た瞬間、私の心の中で何かがプツリと切れた。胸の奥で、私という存在が音もなく崩れ落ちる。彼女にとって私は、札束の重さでしかなかったのだ。私の善意と愛情を指先一つで笑いに変え、完全に踏みにじられた。私は静かに、そして確実に、彼らを叩き潰す準備を始めることを決意した。

あの日、実の娘に「家族じゃない」と言われ、自宅のドアを閉められてから、私の世界からは色が消えた。初めは何かの間違いだと思いたかった。何度もみさに電話をかけたが、コール音が虚しく響くだけ。ついには、呼び出し音が鳴っても切られる始末。私は一人、自宅のソファーに座り、ただ時間だけが過ぎていくのを待つ日々。

ある日、私は見るのをやめようと思っていたみさのSNSアカウントを、ふと見てしまった。そこには私の知らない娘の生活が、これでもかと投稿されていた。

とある日の投稿は動画だった。「今夜はタワマンのスカイラウンジ貸し切りでパーティー」というテキストと共に、みさが踊っている。再生ボタンを押すと、下品な笑い声と共に、きらびやかな夜景が目に飛び込んできた。スマホの画面をスクロールする指が震える。

「みさ、やばくない?この夜景。」
「ケ太さんも出世してすごいね。」

取り巻きたちにちやほやされ、娘のみさはまんざらでもない顔でグラスを掲げた。「まあね、これくらい普通よ。夜景は毎日見てると飽きるわよ。」

背景には、私が選んだ美しい窓。しかし、そこに私の居場所はなかった。

健太さんの両親である竹夫さんとト子さんも、まるで王と女王のようにソファーにふんぞり返っている。竹夫さんは健太さんの友人たちに自慢しながら偉そうに語っていた。「ケ太もようやく一人前になったもんだ。ま、俺の息子だからな。これくらいの城は当然だろう。」

その横でト子さんは取り巻きの女性にマナー講座を始めていた。「あら、あなた、そのワイングラスの持ち方、なってないわね。ここは一流の場所ですもの。相応の振る舞いをなさらないとね。」

私が毎月支払い続けている管理費で利用できる共有施設は、完全に彼らの支配する城と化していた。

「この夜景、最高だろ。俺の城なんだぜ。ていうか、ママの金だけどね。」
「どうせ私のものになるし。」

ト子さんは高らかに笑っていた。「本当にいいATMを見つけたわね。」

コメント欄には、友人たちの羨む声がさらに私の心をえぐる。「みさって本当、親ガチャだよな。勝ち組じゃん。」

それに対するみさの返信を見て、私は言葉を失った。「でしょ。だって最高のスポンサーがいるからね。」

私は娘にとって、ただの金ヅルでしかないのだ。心臓をわし掴みにされるような痛み。怒りよりも先に、深い深い悲しみが私を襲った。

続けて表示されたのは、竹夫さんの投稿だった。葉巻を片手に高級なブランドグラスを掲げる写真。その腕には、私が健太さんにプレゼントした数十万円はする腕時計が、これ見よがしに巻かれていた。

「女は黙って男を支えるのが美徳。裕子さんもようやくその役目に目覚めたというわけだ。結構なことじゃないか。」

役目?私の人生は、この人たちのためにあるとでも言うの?

さらに別の投稿では、ト子さんが私のことをこう書いていた。「娘のために尽くすのが母親の務め。裕子さんはそれを果たしているだけ。感謝こそすれ、文句を言われる筋合いはないわ。」

どこまでも自分本位なその考え方に、吐き気がした。

そして、追い打ちをかけるように事件が起きる。郵便受けに届いた一通の封筒。それはクレジットカード会社からの利用明細書だった。

「あら、今月はなんだか分厚いわね。」

何気なく封を開けた私の目は、次の瞬間釘付けになった。請求総額の欄に印刷された、信じられない数字。合計で100万円近い金額が、この1ヶ月で使われていた。

「え、何この金額?先月、何か大きな買い物をしたかしら?」

震える指で明細を一枚ずつ確認していく。そこには私の知らない店の名前がずらりと並んでいた。

銀座の高級ブランドバッグ40万円。有名ホテルのアフタヌーンティー2万円。エステのコース契約30万円。海外のショッピングサイトでの決済25万円。

「そんなはずない。私が行くような場所じゃない。これはスキミングか何かの犯罪よ。」

そう思った時、ある一つの店名が私の目に留まった。それはみさが昔、一度でいいから通ってみたいと憧れていた超高級エステサロンの名前だった。

頭の中でバラバラだったピースが、カチリと音を立ててはまっていく。私の心臓が嫌な音を立てて脈打つのを感じた。

まさか。私の脳裏に、数ヶ月前のみさとの電話が蘇る。あの時の甘えるような猫なで声。

「お母さん、お願い。ネットの引き落とし、このカードで登録させてくれない?」

私は少し戸惑ったが、娘は言葉を続けた。「公共料金と一緒だとポイントも貯まるし、すぐ自分のカードに変えるからね。」

あの時の言葉を、私は信じた。信じてしまった。私が光熱費の支払いのために登録しておいたカード情報を、あの子が悪用したのだ。間違いない。あれは全て嘘だったのである。

震える手で、私は受話器を取った。今度こそ問いたださなければ。

何度電話をかけ続けたか分からない。虚しく響くコール音の後、ようやく繋がった。しかし、電話口から聞こえてきたのは、私をさらに絶望の縁に突き落とす悪魔のような声だった。

「もしもし。あ、お母さん。何度もうるさいわね。私はお母さんみたいに暇じゃないんだからね。一体何の用よ。」

恨めしそうな声で返事をする様子にひるむことなく、私は声を出す。「みさ、あなた今何をしているの?」

「今、健太さんたちとアフタヌーンティー楽しんでるんだけど。」

スピーカーにしているのか、電話の向こうから健太たちの下品な笑い声が聞こえてくる。

「おい、みさ、まだ金残ってんのかって聞いとけよ。本当いい金ヅルね。」
「おい、先短いんだから、若者のために使うのが正しいのよ。」

そして、聞き覚えのある低い声が続いた。「そうだぞ。文句があるなら、叱りつければいいだけだ。黙って金を出すのがあいつの役目なんだからな。分からせてやらないとな。」

「みさ、あなた、やっぱり私のカードを…」

その声は悪びれる様子もなく、むしろ楽しんでいるかのようだった。「ああ、それね、別にいいじゃん。ちょっとくらい。どうせお母さんのお金は、いつか私たちのものになるんだから。」

そして彼女はとどめを刺す一言を放った。「生きてるうちに有効活用してあげるだけ、感謝して欲しいわよね。」

その言葉は、私の心を完全に折るのに十分すぎた。もうあの子は、私の知っている娘ではない。私の愛情も、何も届かない場所にいる。電話は一方的に切られ、私の手には虚しさだけが残った。

その夜、私は一睡もできなかった。枕を濡らし、声を殺して泣くしかできない。なんて惨めなんだろう。全てを捧げた娘に裏切られ、財産を食い物にされ、私はただ泣くだけ。

しかし、夜が明け、朝日が部屋に差し込んできた時、私の涙は完全に乾き切っていた。悲しみと絶望の底で、私の中に一つの感情が芽生えていることに気がついた。それは氷のように冷たく、鋼のように硬い、静かな怒りだった。

もう泣くのは終わりだ。私はあの子たちに奪われたもの全てを取り返す。いや、奪われた以上の代償を、きっちりと支払わせてやる。

その足で、私は弁護士事務所のドアを叩く。初老の、しかし目の鋭い男性弁護士に、私はこれまでの全てを話した。

「証拠はありますか?」

私は鞄から、これまで集めてきたもの全てを取り出した。みさのSNS投稿をプリントアウトした数十枚の紙。私のカードが不正利用されたことを示す利用明細。管理組合に匿名で問い合わせをして入手した、度重なる騒音クレームの報告書。

弁護士はそれらの証拠の山を一つ一つ確認し、静かに言った。「完璧です。これだけ揃っていれば、我々はあらゆる手を打つことができます。」

その言葉は、絶望の闇の中にいた私にとって一筋の光のように思えた。

それから私の日々は一変する。昼間は弁護士の指示に従ってさらなる証拠を集めて回った。夜は法律書を読み、来るべき日のために知識を蓄えた。もう涙は一滴も出ない。私の心は、復讐という名の冷たい炎で満たされていたのだから。

弁護士と共に全ての準備を終えた日、私は静かにその時を待った。

「裕子さん、よろしいですね。第一段階を実行します。」

「お願いします。一片の情けは不要です。」

その数日後、私の携帯がけたたましい音を立てて震えた。画面に表示されていたのは、みさの名前。無視を続けた相手に、今更何の用だろうか。もちろん私には分かっていた。私が仕掛けた第一の罠が発動したのだ。

私はわざと数回鳴らした後、ゆっくりと通話ボタンを押した。

「もしもし。お母さん、大変なのよ。」

電話口から聞こえてきたのは、今にも泣き出しそうな、切羽詰まった娘の声だった。あの、私を笑っていた傲慢な態度はどこにもない。

「どちら様でしょうか?」

「え、私よ。みさ。お母さん、何言ってるの?」

わざと他人行儀に、冷たく言い放つ。「ああ、みささん。何かご用?申し訳ないけれど、知らない人からの電話には出ない主義でして。」

電話の向こうで、みさが息を飲むのが分かった。「そ、そんなこと言ってる場合じゃないの。税務署から、税務署から手紙が来たのよ。」

その声は恐怖に上ずっている。電話の奥からは、健太さんやその両親の慌てふためく声が聞こえてくる。「早くなんとかしろって言え。お前の母親なんだろう。」

いつもは偉そうにしている竹夫さんのうろたえた声も混じっていた。「健太。お前が金の管理をしっかりしないからこうなるんだ。どうなっている?説明しろ。」

どうやら四人揃って、地獄の通知を眺めているらしい。実に滑稽な光景だ。

私が弁護士を通じ、娘夫婦に数千万円相当のタワーマンションを贈与したと税務署に情報提供した結果だった。もちろん彼らが税金など払っているはずもない。

「追徴課税が数千万円になるかもしれないって、そんなの払えるわけないじゃない。」
「数千万って、私たちの老後がパーじゃないの。」

彼女たちはヒステリックに叫ぶ。「お母さんが買った家でしょ。なんとかしてよ。」

あまりに身勝手な文句に、私は思わず鼻で笑ってしまった。「あら、それは大変ですわね。」

「大変ですわね、じゃないわよ。お願い、助けて。お母さん。」

私は冷たく言い放った。「おかしなことをおっしゃるのね。私はあなたのスポンサーなのでしょう。家族じゃない人からのいきなりのお願いは、ちょっと…。それに、あなた言っていたじゃない。親のお金は私のものだって。だったら、あなた自身で何とかできるんじゃないかしら。」

私がSNSの投稿と全く同じ言葉を返すと、みさは絶句した。今まで金の苦労などしたこともない娘。自分の贅沢な生活がいかに危うい作りの上にあったか、今頃思い知っているだろう。

「では、ご機嫌よう。」

私は一方的に電話を切り、静かに携帯をテーブルに置いた。きっと今頃あのタワマンでは、見苦しい責任のなすり付け合いが始まっているはずだ。

「どうしてくれるんだ?役立たずが。」
「お前の母親のせいだぞ。」
「なんですって?あんたが私をそうしたんじゃない。全部あんたのせいよ。」

ト子さんは泣き叫んでいる。「この消しから、あんな女と結婚するなんて間違いだったのよ。」

そして竹夫さんは怒鳴り散らした。「やかましい。そもそもお前たち二人が、あんな女の金を当てにするからだ。情けない。」

第一の制裁。彼らが何よりも信じていた金という価値観を、まずはへし折ってやった。だが、私の復讐はまだ終わらない。主犯格は娘だけではないのだから。

その翌日、健太さんが務める会社にも、弁護士から一通の郵便が届けられた。差出人は私の代理人弁護士。そして内容証明という赤い判が押された特別な手紙だ。

そこには、健太さんが私のクレジットカードを不正に利用したこと。そして所有者である私に無断で不動産トラブルを起こしていることが、冷静なしかし厳しい言葉で綴られていた。手紙は会社の法務部と、健太さんの直属の上司の元へと届けられる。

健太さんが会社での体面や評価を何よりも気にしていることは知っていた。友人たちにタワマンを自慢し、SNSで勝ち組をアピールしていた男。その虚飾の鎧を、私は内側から引き裂いてやることにしたのだ。

弁護士からの報告によると、内容証明を受け取った上司は、健太をオフィスフロアのど真ん中で怒鳴りつけたらしい。「これは一体どういうことだね?会社に泥を塗る気か?」

周りの同僚たちが一斉に健太に注目する。その視線は好奇と軽蔑に満ちていた。健太は顔面蒼白になり、滝のような汗を流しながら、どもりながら言い訳を始めた。「ち、違います。これは義母の嫌がらせで…少し認知症気味で、妄想が激しいんです。俺は被害者で…」

しかし、そんな見え透いた嘘が通用するはずもない。同僚たちはひそひそと話す。「おい、見たかよ。健太の顔。」「タワマン自慢してたけど、義母さんの金だったんだな。」「やばいだろ。犯罪じゃないか。」

その声は健太の耳にも届いていた。彼は逆上して私に電話をかけてきた。「おい、お前のせいだぞ。どうしてくれるんだ?俺の人生をめちゃくちゃにしやがって。」

「あら、健太さん。何か勘違いをされているのではなくて?私は弁護士を通して事実を述べただけです。」

「ふざけるな。今すぐ取り下げろ。俺は、俺は終わりだ。」

私は冷静に言い放った。「自業自得という言葉をご存知かしら。では、お仕事の邪魔をしてはいけませんものね。ご機嫌よう。」

私は健太さんの絶叫をBGMに、静かに電話を切った。

その日のうちに彼の悪行は社内の知るところとなり、健太さんは全てのプロジェクトから外され、地方の子会社への出向という名の左遷を命じられた。もちろん給料も大幅にカット。彼が必死に築き上げてきたエリート会社員というプライドは、こっぱみじんに砕け散ったのだ。

金とプライド。あの二人が何よりも大事にしていたものを、私は容赦なく破壊した。きっと今頃あのタワマンで、互いを罵り合っているに違いない。

「あんたのせいで、私のブランドバッグが買えないじゃない。」
「みさ、お前の母親のせいで会社を首になったらどうするんだ?」

ざまあみろと、私は心の中で呟いた。

しかし、まだだ。まだ終わりではない。彼らから奪い取るべきものは、まだ残っている。それは彼らが今も占領し続ける、あの忌々しい城そのものだ。

税金と会社での問題。金とプライドを同時にへし折られた娘夫婦たちは、あのタワマンで見苦しい責任のなすり付け合いを演じているらしかった。弁護士からの報告によれば、竹夫さんとト子さんも交えて、毎日怒鳴り声が聞こえてくるとのこと。

しかし、彼らはまだ気づいていなかった。自分たちが唯一の安住の地だと思い込んでいるその場所が、次の瞬間には地獄になるということを。

私は最後の電話をかけた。相手は電力会社、ガス会社、水道局、そしてインターネットのプロバイダー。そもそもあのタワマンのライフラインに関する契約は、全て私の名義のままだった。光熱費や通信費も、全て私の口座から引き落とされ続けていたのだ。彼らは私の金で買った家で、私の金で維持される快適な生活を、ただ享受していたに過ぎない。

私は所有者として、そして契約者本人として、全てのサービスの解約を淡々と申し出た。電話口の担当者はいくつか本人確認の質問をした後、事務的な口調でこう告げた。「承知いたしました。本日21時を持ちまして、全てのサービスを停止させていただきます。」

その日の夜、私は弁護士と共にタワマンの向いにあるホテルのラウンジにいた。窓からは、最上階で煌々と明りが灯るあの部屋がよく見える。私は時計に目をやった。午後9時。その瞬間だった。まるで何かの合図のように、あの部屋の明りがふっと消えた。漆黒の夜空にぽっかりと開いた闇の穴。私の第二の制裁が実行されたのだ。

きっと今頃彼らはパニックに陥り、見苦しい罵り合いを始めているだろう。

「健太、どうなってるの?停電じゃないの?」
「あんたがしっかりしないから。」
「うるさいな。俺だって分からん。」
「おい、みさ。絶対お前の母親が何かしたんだろう。」

暗闇の中、彼らが慌てふためき、物にぶつかる音が聞こえてくるようだった。そして、あれだけ威張り散らしていた竹夫さんの情けない声が響く。「健太。何をやっている?早く明りをつけんか、この役立たずが。」

「うっせえよ。みさの母親のせいだろ?みさがなんとかしろよ。」

「ちょっと私に言わないでよ。あんたがなんとかしなさいよ。」

みさは泣き叫ぶ。「ふざけるな。お前がちゃんと丸め込んでおかないからだろ。」

「そうだそうだ。息子が左遷されたのも、税金の話も、全部あの女のせいじゃないか。それを止められなかったお前たちのせいだ。」

竹夫さんはもはや威厳のかけらもない。「あなた、さっきから黙って聞いてれば。健太を甘やかしたあんたにも責任があるでしょう。」

豪華な夜景を映し出していた巨大な窓は、今やただの暗いガラス。全自動の床暖房も止まり、部屋には冷気が満ちていく。彼らが誇っていた最新AIのスマートホームは、ただの箱になったのだ。

そして彼らは気づく。ここから脱出しなければと。しかし、それももう遅い。私は管理組合に所有者として連絡し、彼らのカードキー情報を全てセキュリティシステムから抹消させていた。

ガチャガチャと必死にドアの鍵を回す音。しかし電子ロックは、うんともすんとも言わない。エレベーターを呼ぼうにも、カードキーがなければボタン一つ押すことができないのだ。彼らは地上数十メートルの高層の牢獄に、完全に閉じ込められた。

しばらくして、私は弁護士と共にゆっくりと立ち上がる。組合に話を通してあるので、私たちは問題なくマンションの中へと入っていく。エレベーターで最上階へ。目的の部屋の前には、スマホのライトだけを頼りに床に座り込む四人の姿があった。その姿は惨めそのものだった。

私が足音を立てると、四人の顔が一斉にこちらを向く。その目には、怒りと恐怖と、そしてわずかな願いの色が浮かんでいた。健太さんが獣のような形相で私に掴みかかろうとした。「てめえ、よくも…」

しかし、その腕は隣に立つ弁護士によって冷静に制される。その隙に、今度はみさが顔面蒼白のまま、這うようにして私の足元に駆け寄ってきた。「お母さん、ごめんなさい。私が全部悪かったの。土下座でも何でもするから、だから助けて。」

健太さんも我に返り、慌ててみさを突き飛ばすようにして叫んだ。「そうだ。裕子さん。俺を嵌めたのはみさなんです。」彼は必死の形相でみさを指さした。「こいつが、母親はATMみたいなものだって言ったんです。俺は悪くありません。」

「なんですって?一番ブランド買ってたのはあんたでしょ?私のせいにする気?」

「そうだそうだ。我々は関係ない。息子夫婦が勝手にやったことだ。」

見苦しい言い訳と責任のなすり付け合い。私は何も答えず、ただ静かに彼らを見下ろした。私の冷たい視線に、四人の声は次第に小さくなっていく。

「一通り言い終わったかしら。」

静まり返った廊下に、私の声だけが響く。「ATM。スポンサー。随分と好き勝手言ってくれたわね。」

私の言葉一つ一つが、彼らの顔から血の気を奪っていく。「私が汗水流して稼いだお金で買った家で、私が支払う電気と水で暮らし、挙句の果てには私のカードで贅沢三昧。あなたたちがやっていたのは、ただの強奪よ。」

「強奪だなんて…そんな。俺は、俺はただそそのかされただけで、スポンサーとか言ってない。俺は関係ない。」

「そそのかされた?関係ない?笑わせないで。あなたたちは全員、同じ穴のムジナよ。私の善意という蜜に群がった、ただの虫けら。」

「あなたたちが私から奪ったのは、お金や家だけじゃないわ。」

彼らは口をパクパクさせながら私を見つめる。そして私は最後の言葉を突きつけた。「私の愛情と信頼。その全てを、あなたたちは私から奪ったのよ。それに対する代償を、これから一生かけて支払ってもらうわ。」

そして私は、持っていた分厚い封筒を彼らの前に落としてやる。「これはあなたたちへのプレゼントよ。中身は二つ。一つは、私が選んだ高級家具を勝手に売り払ったことに対する窃盗罪での刑事告訴状。もう一つは、これまでのカード不正利用、無断居住、そして精神的苦痛に対する損害賠償請求の訴状。」

暗闇の中、スマホのライトで書類の文字を追い、絶望に顔を歪める四人。ト子さんは「ひっ」と短い悲鳴を上げ、その場にへたり込んだ。「う、嘘だろ?刑事告訴って、前科がつくじゃないか。損害賠償…こんな金額、払えるわけない。」

その醜態を見て、私は最後に氷のような微笑みを浮かべてこう言い放った。「家族ごっこは、もう終わりよ。」

私の声だけが、静まり返った廊下に冷たく響き渡った。

あの夜、闇の廊下に残された四人がどうなったのか。弁護士からの報告は実に淡々としたものだったが、その内容は私の想像を絶するほど悲惨なものだった。

竹夫さんとト子さんは、あの夜のうちに夜逃げ同然で姿を消したものの、弁護士の追跡から逃れることはできなかった。結局彼らは、老後のために蓄えていた資産のほとんどを損害賠償として差し押さえられた。静かな田舎で穏やかな生活を送る夢は潰え、今では古いアパートの一室で互いを罵り合いながら、惨めに暮らしているという。

「あんたの育て方が悪いから、あんな恥知らずになったのよ。」
「お前が甘やかすからだ。」
「もう終わりだ。わしらの人生は。」

そして、娘のみさと健太さんの末路はもっと悲惨だった。税金の追徴課税、会社からの左遷、そして私からの数千万に上る損害賠償請求。彼らの元には、社会的信用も、住む場所も、そして金も、何一つ残らなかった。

タワマンを追い出された二人は、都心から遠く離れた日の当たらない安アパートに転がり込んだらしい。健太さんは地方の子会社で、かつての部下たちから笑い物にされながら単純作業をこなす日々。毎晩安酒を煽っては、みさに当たり散らした。「全部お前のせいだ。お前の母親が…。お前さえいなければ、俺の人生は…」

一方のみさは、プライドだけは高いまま。ろくに働いたこともない彼女を雇ってくれる場所などなく、かつて見下していたスーパーの品出しのパートですら、すぐに首になったという。きらびやかだったブランド品は全て売り払い、かつての友人たちからは雲の子を散らすように連絡が途絶えた。SNSのアカウントは、現実を投稿できずに止まったままだ。

ある日、みさは最後の望みをかけて私に電話をかけてきたらしいが、その番号はもう使われていない。その時の彼女の絶望したような声が、留守番電話に残っていたと弁護士は言っている。「お母さん、ごめんなさい。もう一度だけ、助けて…。」

二人の世界には、かつての華やかさのかけらもない。残ったのは、一生かかっても返せないほどの莫大な借金と、互いへの憎しみだけ。まさに自ら作り出した地獄の中で、永遠に罵り合い続ける運命なのだ。自業自得。その言葉以外、私には何も思い浮かばなかった。

後日、私はあの忌々しいタワーマンションを売却した。幸いなことに、都心の一等地にある最上階の部屋は、過去最高値で買い手がついた。皮肉なものだ。彼らが私から奪い、堕落の限りを尽くしたあの城は、最終的に私に莫大な富をもたらしてくれたのだから。

そして今、私は港にいる。目の前には、世界一周へと旅立つ白く巨大な豪華客船。手にしたチケットには、私の名前だけが記されている。もう誰かのために生きる必要はない。誰かの顔色を伺う必要もない。私の人生は、今日この瞬間から、全てが私のものだ。潮風が心地よく頬を撫でる。私はスーツケースのハンドルを握り直し、ゆっくりとタラップへと歩き出した。

その時の私の顔は、きっと最高の笑顔だったに違いない。

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