「お前は首だ。今日から俺の息子がお前の店舗に入る。付けで交代だ」
新社長に呼び出された俺は、解雇通知を突きつけられてそう告げられた。新社長は岸田啓介。前社長の一人息子で、就任してからずっと定年間近の俺に早期退職を促していた。
俺はこの自動車ディーラーで長年働いてきた。若い頃は成績が伸びず苦労したが、お客様のことを考えた接客と車の知識を磨き続け、今では店舗で一番の売上を誇るまでになった。前社長は社員一人ひとりをしっかり見て評価してくれる人で、俺もその期待に応えようと必死に働いてきた。
だが岸田社長は違った。店舗に来るたびに「年寄りの君がいると若い世代が迷惑だ」「店舗の足を引っ張っている」と嫌みを言い、早期退職を迫ってきた。俺は何度も「定年まで働かせてください」と断り続けた。
ある日、後輩に新型車の性能を教えているところを岸田社長に見られた。すると彼は「俺の言った通りじゃないか。新型車の性能が分からなくて後輩に教えてもらっていたんだろう」と馬鹿にしたように言ってきた。
「違います。後輩に頼まれて教えていたんです」
俺がそう言い返すと、岸田社長は怒鳴りつけた。
「いい加減にしろ。いい年した高齢者が嘘をついて恥ずかしくないのか?」
「何も嘘はついていません」
「もういい。早期退職しなかったことを後悔させてやるからな」
そう言い捨てて去っていく岸田社長に、後輩が謝ってきた。
「山本さん、すみません。俺のせいで」
「いや、君のせいじゃないよ」
すると後輩は深刻な顔で言った。
「他店舗でも年配の社員が何人か早期退職させられたらしいです。岸田社長は年配の社員のことを思って進めたと言ってますが、何度も強く言われてやめざるを得なかったみたいです」
「なんでそんなに年配の社員を目の敵にするんだろうな」
「噂で聞いたんですけど、あの社長、若い頃にフラフラしていて、前社長に相当厳しく指導されたらしいです。その腹いせで高齢者を嫌っているらしいですよ」
俺は呆れて言葉を失った。そんなとばっちりで早期退職させられようとしているのか。絶対に退職はしないと心に決めた。
数日後、本社の社長室に呼び出された。嫌な予感がしたが、行かないわけにもいかず足を運ぶ。中に入ると、岸田社長と若い青年がいた。
「俺の息子だ。今日からお前の店舗に入れることが決まった」
「山本です。これからよろしくお願いします」
俺が挨拶すると、岸田社長はケラケラと笑い出した。
「何言ってんだ?お前とは働かないよ」
そう言って渡されたのは、俺の名前が書かれた解雇通知書だった。
「付けでお前と息子は交代する。お前は首だ」
「そんなの不当解雇です!」
「お前が若い社員に迷惑をかけて業務妨害をしているんだ。十分解雇の理由になる」
「担当顧客もいらっしゃいますし、急な交代は無理です」
「こんなおじさんに誰も担当されたくないでしょう」
息子も鼻で笑いながら言った。
「俺は若いし、おじさんと違って物覚えもいいからな。時代遅れの年寄りは必要ないんだ」
もうこんな人とは働けない。
「わかりました。解雇を受け入れます」
俺の言葉を聞いて、岸田社長は満足そうに笑っていた。
数日後、岸田社長から電話がかかってきた。
「おい、お前の顧客を引き止めろ」
電話に出た瞬間、怒鳴られた。
「お前が担当していた大手企業が契約を打ち切ると言い出したんだ。お前が何とかしろ」
「なぜそんなことになったんですか?」
「そんなことはいいから何とかしろ」
理由も教えずに勝手な要求をしてくる岸田社長に、これ以上話す気になれない。
「首になった私にはもう関係のないことです」
そう言って電話を切った。後輩に事情を聞くと、岸田社長の息子が俺の顧客を引き継いだらしい。しかし息子は経験も知識もなく、失礼な態度ばかり取って顧客を怒らせていた。契約は次々に切られ、損害は50億を超えると言う。
数日後、岸田社長が自宅にやってきた。土下座して謝ってきた。
「本当にすまなかった。お願いだ。顧客を取り戻してほしい」
「前にも言いましたが、もう僕には関係のないことです」
「君がこんなにすごい人だなんて知らなかったんだ。このままでは損害が50億を超えてしまう」
「必要ないと言って僕を首にしたのはあなたです」
「君の売上を知っていれば首にしなかった」
その言葉に嫌な気持ちになった。年齢でいらないと決めつけ、売上があると分かれば態度を変える。社員をしっかり見ていない人と働く気はない。
「お帰りください」
俺はきっぱりと言って玄関の扉を閉めた。
その後、ディーラーはVIP顧客を怒らせたことで悪評が広まり、自動車メーカーから契約を切られ、倒産した。
前社長から電話があった。
「山本君、今回は本当にすまなかった。まさか君が解雇されていたなんて全く知らなくてね」
岸田社長は前社長の体調が優れないことをいいことに、相談も報告もせず好き勝手していたらしい。
「前社長は謝らないでください。僕もすみません」
「君は何も悪くないよ。君が頑張って大切にしてきた顧客もいなくなってしまって、本当に申し訳なく思っている」
前社長とその息子は借金返済のために日々働いているらしい。
「責任は全てあいつに追わせるよ。厳しく育てたつもりだったが、何も分かっていなかったようだ」
前社長は寂しそうだった。
「今日は君に最終職を紹介しようと思って連絡したんだ」
前社長は有名ディーラーを紹介してくれた。
「知り合いがいて、君の話をしたら是非うちで働いて欲しいと言ってくれたんだ」
「本当ですか?ありがとうございます」
「君の豊富な経験と知識を生かせると思う。これからも活躍を期待しているよ」
その言葉に胸が熱くなった。前社長はやはり素敵な人だ。
俺は紹介されたディーラーで再出発することにした。こんな年齢での再就職は不安だったが、職場環境もよく、すごく働きやすい。これからも初心を忘れずにしっかり努力し続けようと改めて決心した。



