「お前ら社員に発言権はない。全て俺が決めるんだ。お前らはそれに従っていればいいんだよ。」
突然やってきた新社長は、めちゃくちゃな指示を強引に通し、社員たちを振り回した。ベテラン社員として何とかしようと俺は新社長に抗議したが、全く聞いてもらえない。
「年取っただけの社員が偉そうに言ってるんじゃない。勤続年数が長いベテランってだけで偉そうにするな。」
「いえ、そんなつもりはありませんが、もう少し社員のことも考えていただけないでしょうか。」
「うるさい。お前みたいな能力のないじじいは黙って仕事してればいいんだよ。お前が無能なせいで足引っ張ってるの分かってるのか?」
同僚に迷惑をかけているつもりは全くない。現場の混乱は俺の責任だとばかりの言い草だ。そしてついには早期退職を促されてしまう。
「これだから老害じじいはさっさと退職してくれないかな。お前がいなくなれば、その分無駄に払ってた給料も減る。そしたら有能な社員を雇えるんだよ。」
せせら笑う新社長にもう何を言っても無駄だと感じた俺は、退職を決意した。
が、数日後、新社長から突然電話がかかってくる。
「お前、早く会社に戻ってこい。」
慌てた様子で会社の惨状を話す新社長に、俺は呆れて笑いそうになる。
「自分で巻いた種は自分で何とかしてください。」
俺は新社長をさらに絶望へと突き落とす、とっておきの真実を教えてやることにした。
俺の名前は山本達也。俺は旅行代理店に30年以上勤めている。今ではもうすっかりベテラン社員になった。
俺は元々旅行が好きで、旅行代理店に就職することが目標だった。大手の旅行代理店への就職も考えたが、ずっと働くからには自分が働きたいと思うところを選ぼうと思い、そんな時に地元に小さな旅行代理店があることを知った。気になった俺はそこに会社説明会に行き、その時初めて浅井社長に会ったのだ。
浅井社長の生き生きとした姿を見て、俺もこの会社に入りたいと感じた。友人や家族からは「旅行代理店でも大手の会社に入った方がいいのではないか」と反対されたが、俺の決意は硬かった。
就職した当時は社員も少ないため、社長も社員たちと一緒に働いていた。そして一緒に仕事をするにつれ、ますます浅井社長への尊敬の気持ちが強くなっていったのである。浅井社長はいつも社員のことを第一に考えてくれ、いつも皆の意見を聞いてくれていた。こんな社長の姿を見て、俺もこの会社のためにと自分ができることを考え、一生懸命仕事に取り組んできた。
浅井社長や社員たちの努力もあり、会社は徐々に大きくなっていき、社員も増えていく。今では部署内でも最年長のベテラン社員になった俺だが、後輩たちにも頼ってもらい、この仕事にやりがいを感じている。
そんな時、突然社員たちが集められ、社長から話があると告げられた。
浅井社長は自分の年齢のことも考えて社長を退任するという。全く噂にもなっていなかった話で、皆が驚いてざわざわとし始める。年齢はあるが浅井社長はまだまだ元気で、誰もそんなことは予想すらもしていなかった。俺も驚いて言葉を失ってしまう。
こんな俺たちの反応とは裏腹に、浅井社長は嬉しそうな顔をして話を続けた。
「後任の社長はすでに決めてあるから安心してほしい。」
浅井社長のその言葉の後に、皆が集まっている部屋に見知らぬ男性が入ってきた。見た目だけで自分よりだいぶ年下だとわかる。
「彼が新社長になる高木俊君だ。彼は大手銀行で働いていたエリートだよ。」
見知らぬ若い男性が新社長になると言われ、社員たちはますますざわめき出す。急に社長が退任するだけでも驚いてしまうのに、知らない人が新社長と言われて動揺するのも無理はないだろう。
「彼は自ら自分のスキルを発揮できるのではないかと言って、この会社の社長になりたいと言ってくれたんだ。」
新社長の高木さんは、浅井社長が誇らしげに話す言葉を聞いて嬉しそうに微笑んでいる。
「俺は子供もおらず、後継者をどうするか悩んでいたところ。甥である彼がそう言ってくれてね。そのやる気を見て、俺は彼に全てを任せることを決めた。大手銀行に務めていた実績を考えれば能力も十分だろう。」
その後も新社長が大手銀行で働いていたことをやたらと主張して話す。浅井社長は絶対に大丈夫だと新社長のことを信じて疑っていない様子だった。
俺は浅井社長の甥であることを知り、新社長に決まったことは仕方がないとも思ったが、いくら大手銀行のエリートだとはいえ、大丈夫なのだろうかと不安は消えない。
俺がこんなに不安に思うのには理由があった。それは会社が大きくなるにつれて、浅井社長は少しずつ変わってしまっていたことだ。今までは社員たちと会社のためにと一緒に考えて意見を出し合い仕事をしていたが、最近はあまり社員たちの前に現れなくなっていた。たまに見かけた時に相談をしても「自分たちで考えて決めればいい」といった感じだ。あまり会社のことについて真剣に考えなくなってしまったのだと、浅井社長に対して不安を感じていた矢先の新社長就任だ。誰だって本当に大丈夫なのだろうかと不安になってしまうことだろう。
しかし、一社員である俺はどうすることもできず、決まったことを受け入れるしかなかった。「分からないことがあればベテランの俺が教えればいい」と考え、新しい社長とうまくやっていこうと気持ちを切り替えることに。
その後少し立って、正式に高木さんが新社長に就任した。それから浅井前社長は姿を見せることがなくなり、本当に全てを任せたのだと察する。
高木社長はすぐに俺たち社員を集めて、これからの会社について話をしてきた。
「今までどうやって仕事をしていたかは知らないが、これからは全て俺が決めたようにやってもらうからな。」
最初に見た時は浅井前社長の隣で微笑んでいるだけだったため、勝手に温厚な人なのだろうと決めつけていた。しかし、そんな姿からは想像できないほどの強くきつい口調で、きっぱりと俺たちに言い放つ。態度も偉そうで、俺たちの意見は聞く気がないといった感じだ。そんな姿を見て、気持ちを切り替えていた俺でもまた不安になってしまった。
高木社長が就任して数ヶ月、会社の雰囲気はガラッと変わった。高木社長はいつもピリピリとした雰囲気で、俺たちに横柄な態度で指示する。そのせいもあり、皆で相談し合って仕事をするという雰囲気ではなくなってしまったのだ。
社長は旅行業界のことは何も分かっていないのにも関わらず、この会社のことを知ろうとする様子が感じ取れない。全て自分が考えたことが正しいのだと、その謎の自信のもと好き勝手なことを言ってくる。そして高木社長は次第にめちゃくちゃなことを言い出すようになっていった。
「個人の顧客より法人の顧客の方が1回の金額が大きい。だからこれからは個人の客は適当にあしらってくれ。法人顧客へ営業もバンバンしろよ。」
突然の命令に驚き、言葉を失ってしまう。大事なお客様を適当にあしらってくれなどという社長がいるのだろうかと言葉が出なくなってしまう。確かに法人の顧客だと社員旅行などで利用され、人数も多ければその分売上の金額も多くなる。しかし1年で何度も社員旅行に行くはずもなく、時期も決まっているため、営業を増やしたところであまり売上アップに期待はできない。何よりもうちの会社が小さな会社だった頃から利用してくれている個人のお客さんもたくさんいるのだ。社員たちも皆そんなことは分かっているため、高木社長の命令に誰もが納得できない様子だ。
そう思っていると、部長が少し柔らかい口調で高木社長に反論を始めた。
「しかし、うちには個人のお客様もたくさんいらっしゃいますし、適当にあしらうなんてことはできません。」
彼らも部長の言葉に頷いている。それでも高木社長は全く聞く耳を持たず、それどころか意見したことに対して怒り始めた。
「誰に向かって口応えをしているか分かってるのか?」
「いえ、口応えをしたいわけではありませんが、そんなことをしてしまうとたくさんのお客様を失ってしまうことになります。」
高木社長の鋭い目つきと言葉の圧に、部長の声も小さくなっていく。しかしそれでも部長は社員や会社のためにと精一杯思いを伝えてくれた。俺は部長の思いを感じ、高木社長が少しでも聞く耳を持ってくれたらと、心の中で願いながら高木社長の言葉を待つ。
「ふん、お前ら社員に発言権はない。全て俺が決めるんだ。お前らはそれに従っていればいいんだよ。今後は逆らったらどうなるか考えて発言してくれ。」
俺の願いは届かず、高木社長には何も伝わらなかったようだ。さらに脅しのようなことを吐き捨てて、この場から去ってしまった。高木社長の去っていく姿を見ながら、俺たちは何も言葉が出ず、少し沈黙の時間が流れる。
そしてその数日後、高木社長に意見を言った部長が課長にされることになった。部長への嫌がらせと、俺たち他の社員が意見をしないようにするための牽制にしか思えないほど急な人事移動だ。もう高木社長の言う通りにしなければこの会社に居場所はないのだと、その時痛感した。
それからますます会社の雰囲気は悪くなり、ただただ高木社長が思うままに好きなようにしているといった感じになった。部長の降格から、高木社長に意見を言える人などおらず、皆が不満や疑問を持ちながらも高木社長に従うしかない日々を送る。
そんな時、またも急な人事移動が発表された。それは俺が所属する海外旅行部の大幅な人員削減だった。
「これからは国内旅行に力を入れることにした。俺は海外旅行に興味がないからな。それに国内旅行に関しては色々と補助金を出してくれる地域も多いしな。」
高木社長の自分の好き嫌いの問題で会社の方針を決めたような発言だ。海外旅行部の社員は半分以上が国内旅行部や全く関係ない経理部などの部署に移動させられることに。その移動もどのように決めたのか全く予想もできないほどいい加減に人が選ばれたような感じだった。
俺はそのまま海外旅行部に残ることができたが、これもたまたまなのだろうと思い、移動した同僚たちのことを考えると胸が痛くなる。急な人事移動に社内はめちゃくちゃになってしまった。人が足りている部署に大量に移動させられ、仕事がなく困ってしまう社員もいれば、反対に俺たち海外旅行部は人がいなくなったことで、たくさんの仕事を1人1人がこなさなくてはならない。
前社長の頃は大きな人事移動もなければ、移動の希望も積極的に聞かれ、ほとんどの人が希望する部署で働くことができていた。そのため今まで経験したことのない業務をさせられる社員もおり、俺は先輩として後輩の様子を見に行っていたが、皆疲れきった顔をしていた。旅行部の皆も仕事の量が増えすぎたことで、皆疲労困憊といった感じだ。
「山本さん、もう俺限界です。もう会社やめようかと考えてます。」
ついには後輩にそんな相談をされるようになってしまった。俺はそんな皆の様子を見て、さすがにこのままではいけないと高木社長に直接話しに行くことを決意した。もちろん意見を言うことで高木社長に何をされるかわからない。自分も移動することになるかもしれないし、最悪首と言われてしまったらどうしようかとも考えた。それでも長年勤めてきた会社のためにと腹をくくる。
「高木社長、先日行われた人事移動の件ですが、一旦元の部署に戻してもらうことはできないでしょうか?」
「はあ?何言ってんの?そんなこと無理に決まってるだろう。」
「めちゃくちゃなことを言っているのは分かっています。課長が国内旅行を中心にしていきたいというお気持ちも分かりました。しかしこのままでは今まで行っていた業務もまともにできなくなってしまいます。」
「たかが人事移動で今までの業務ができなくなるわけないだろう。そんな無能ばっかりってことか。」
「もう一度その部署の仕事内容や仕事量をしっかり見てから人事を決めていただきたいとお願いしています。」
何を言っても馬鹿にしたように嘲笑で返してくる高木社長に、だんだんと腹が立ってきてしまい、俺の口調も少しずつ強くなってしまった。
「なんなんだよお前。年取っただけの社員が偉そうに言って。勤続年数が長いベテランってだけで偉そうにするな。」
「いえ、そんなつもりはありませんが、もう少し社員のことも考えていただけないでしょうか?」
「うるさい。お前みたいな能力のないじじいは黙って仕事してればいいんだよ。」
社長は強い口調で俺を罵倒すると、その場から立ち去ってしまった。そしてその日から俺は高木社長に目をつけられてしまったようで、会うたびに暴言を浴びせられるようになった。
「おい、おい、ボケじじい。お前、今までの業務ができなくなるとか言ってたけど、お前が無能なせいで足引っ張ってるの分かってるのか?」
こんなことを平然と言ってくるのだ。意を決して伝えたのは無駄だったのだと悲しくも思った。これから俺は同僚の負担を少しでも減らすことができればと、今まで以上に仕事に励む。高木社長の暴言も日に日に増していったが、今はそんなことを気にしている場合ではないと我慢を続ける。
そんなある日、突然高木社長から呼び出された。何を言われるのかと緊張しながら高木社長の待つ部屋へ向かう。
「今日はお前に早期退職の提案をしようと思ってな。」
思ってもいなかった早期退職という言葉に驚き、言葉を失ってしまう。
「そろそろ自分が無能なせいで同僚が迷惑をしているって気づいたんじゃないか。」
「同僚に迷惑をかけているつもりは全くありません。」
「これだから老害じじいは。お前がいなくなれば、その分無駄に払ってた給料も減る。そしたら有能な社員を雇えるんだよ。」
「それは私を首にするということですか?本当にそれでいいのですか?」
「首なんて言ってないよ。ただお前のためを思って早期退職を進めてあげてるんだ。お前がいなくなっても会社は困らないからな。」
高木社長は名言こそ避けているが、こんなの「やめろ」と言われているようなもんだ。腹が立ったが、しかしふとこのままここで働くことが自分にとって良いのだろうかと思ってしまった。以前とは違い自分が思うように仕事ができるわけでもなく、毎日高木社長に暴言を浴びせられながら大量の業務をこなす日々。旅行が好きで目標だった旅行代理店に就職したのに、今では会社やこの仕事のことも嫌だと感じるようになってしまっていたのだ。
俺は「1度考えさせて欲しい」と返事をして、その足で前社長の元へ相談へ向かった。これまでの高木社長のめちゃくちゃな行動や社員たちが困っていること、そして早期退職を促されたことを全て話した。しかし前社長から帰ってきたのは「高木社長に任せているから、彼がそう言っているのなら仕方がない」という答えだった。
前社長ならどうにかしてくれるのではないかと少し期待もあったため、俺はその言葉にすごくショックを受けた。そしてその瞬間、もうこの会社を退職しようと決意した。
「先日の返答ですが、早期退職いたします。お世話になりました。」
「やっと分かったか。これでお前の同僚たちも迷惑がかからなくて済むしな。」
俺が高木社長に早期退職をすることを伝えに行くと、高木社長は満足そうに笑っていた。その顔を見て、自分の決めたことは間違っていなかったと改めて感じる。そして俺はそのまま会社を退職し、立ち去った。
さて、その後の俺はといえば、別の旅行代理店に就職した。この年でもう再就職は無理かと思っていただけに、とてもありがたいことだった。新しい会社では、数ヶ月間耐えてきたのが馬鹿らしく思えるほど、また楽しく働くことができている。
そんなある時、突然俺の携帯に高木社長から電話が来た。何か嫌な予感がした俺は、用もないし出ないでおこうと無視をしていたが、一向に電話は鳴りやまない。このまま鳴らされ続けられても困ってしまうと思い、しぶしぶ電話に出る。
「はい。何でしょうか。」
「お前、なんで俺の電話にすぐ出ないんだ?」
高木社長は俺が無視をしたことで相当怒っているのか、電話越しに鼓膜が破れそうなほどの大声を出される。
「もう私は退職した身ですし、用はないかと思いまして。」
「グダグダ言ってないでいいから。お前、さっさと戻ってこい。」
「な、何なんですか?突然。どういうことですか?」
「うーん。それはなあ。」
高木社長に尋ねると、少し言いづらそうに話を始めた。どうやら俺が退職をした後、予想はできていたが、色々と起きてしまったようだ。
俺は海外旅行部の中でも手配担当として、手配のことについては全てを任されていた。一緒に働いていた社員たちは俺がどんな仕事をしているかを知っていたが、社長はそんな責任のある仕事をしていたことさえ知らなかったのだろう。話を聞けば、手配先の担当者が俺と話をしたいと言ってきたそうだが、退職したことを伝えられ、急なことに不審感を抱いてしまったそうだ。今やっている仕事は綺麗に終わらせてきちんと引き継ぎをしてから退職したいと希望を言ったが、聞いてくれなかったのは高木社長だ。高木社長は俺がやっていることは誰でもできると言って、すぐに退職するように命じてきた。そのためにまともに引き継ぎもできず退職してしまっていた。
そんな状況なのだから、手配先の担当者が不審感を抱くのも無理はないだろう。その結果、今まで円滑に進んでいた手配作業がうまくできなくなってしまい、それによりトラブルが発生する。さらには高木社長が行った人事移動のせいで、トラブルが起きても海外旅行部の人員不足で手が回らずに対応しきれず、クレームが殺到しているという。同僚や手配先、何よりもお客様のことを考えると胸が痛いが、これも高木社長が会社のことをきちんと考えるいい機会になればいいと思った。
実は前の会社が大きくなったのは、海外旅行部門に力を入れたからだった。今まで国内旅行を中心にやっていたが、前社長に俺が話を持ち出し、「これからは海外旅行にも力を入れた方がいい」と提案。それもあり、俺は前社長の頃から海外旅行に関しては任されて、後輩たちも一緒に頑張ってくれていた。元々海外旅行部にいた社員たちも急な人事移動で移動させられ、不満が溜まっていたのだろう。トラブルが起きてから「何とかしろ」と言われても、誰も何もしなかったようだ。
「なんでお前がそんな重要な仕事をしていたことを黙っていたんだ。退職するならきちんと言うべきだろう。」
「俺は高木社長に本当に退職していいのか聞きましたよ。それでもお前がいなくても困らないと言ったのは高木社長です。」
「知らない。全部お前の責任だろう。また雇ってやるから、さっさと戻ってこい。」
社長は自分が困っているから俺に電話をしてきたはずなのに、上から目線でそう言ってくる。会社が大変になっても偉そうにしている高木社長に呆れて、笑いそうになってしまう。
「実は今、大手の旅行代理店に再就職して働いているんです。残念ですが、そちらに戻るつもりはありません。」
「そんな。なんでお前がそんなところに就職できるんだよ。いじって嘘ついてんだろう。」
自分で言うのも恥ずかしいが、実は俺の仕事ぶりは業界内では有名だった。小さな旅行代理店を実質大きくした人として噂されているほどだった。そのため退職した直後に、今の大手の旅行代理店から「是非働いて欲しい」と声をかけてもらっていたのだ。
俺の話を聞いて、本当に大手の旅行代理店で働いていることを信じたようで、高木社長は言葉を失ったのか少し沈黙の時間が流れる。そしてその後、今度はさっきまでの偉そうな態度が嘘のように優しい口調で、俺を諭すように話しかけてきた。
「俺が間違っていたよ。今まで行ったこともやったこともきちんと謝罪する。人事移動も君の言う通りに行うよ。だから戻ってきてほしい。」
なんて都合のいい人間なのかと呆れて、何も言いたくなくなるほどだ。
「本当に悪かった。このままだと会社がやばいんだよ。長年いた会社だろ。お願いだよ。」
「すみませんが、もう何を言われても本当に戻る気はありません。自分がしたことをきちんと反省してください。」
俺はそれだけ伝えると、話しているのも時間の無駄だと感じ、そのまま電話を切った。
それから前の会社の業績や評判はどんどん悪化していった。事情を知った前社長が社員から話を聞いて高木社長を退任させ、また自分が社長になることにしたそうだ。そのタイミングで俺の元にも前社長から連絡が来た。
「今まで会社のことを考えずに、何も知らない高木社長に全てを任せていたことを反省し、俺にも謝罪してくれた。これは前社長も最近になって知ったことらしいが、どうやら高木社長は前に働いていた大手銀行でも問題を起こしていづらくなり、自主退職していたそうだ。こんなに短い期間で職を点々としているせいもあり、なかなか再就職は厳しいそうだ。何も確認せずに、やる気があるだけの理由で社長にしたことを後悔しているよ。俺は全然会社のことを考えていなかった。君が相談してくれた時もまともに聞かず、本当に申し訳ないと思っている。」
「いえ、僕も長年お世話になったのに退職してしまいすみません。」
俺は会社をやめてしまったことに少し後ろめたさを感じていた。そんな俺に前社長はただ謝り続けてくれた。
「君が会社のために今まで色々と頑張ってくれていたのは、誰よりも知っているよ。それなのに私は会社が大きくなって少し天狗になっていた。」
それから少し話をしたが、電話越しにも前社長が俺の尊敬していた頃に戻ったような気がして嬉しく思った。前社長は改めて会社のためにまだまだ頑張ると言っており、俺のことも頑張って欲しいと応援してくれる。もう1度きちんと話ができて良かったと思った。
俺は今の会社でも仕事ぶりが認められ、部長に昇格することになっている。それに同僚たちとも協力して仕事をし、良い関係を築けていると思う。これからもしっかりと会社や社員、そしてお客様のことを考えて仕事をしていこうと、前社長と話をして改めて決意したのだった。



