結婚式の朝、私は幸せの絶頂にいた。控え室で式を待っていると、彼のスマホに通知が届いた。「大好き。嫁にバレないでね。すず」—その言葉を見た瞬間、背筋が凍った。彼は私と結婚するのに、他の女にこんなメッセージを送っている。私は彼のスマホを開き、LINEの履歴と画像フォルダーを確認した。そこには、私と出会う前から続いていた浮気の証拠が山ほどあった。彼は私を裏切っていた。それでも式は始まり、牧師が「誓…

結婚式の朝、私は幸せの絶頂にいた。控え室で式を待っていると、彼のスマホに通知が届いた。「大好き。嫁にバレないでね。すず」—その言葉を見た瞬間、背筋が凍った。彼は私と結婚するのに、他の女にこんなメッセージを送っている。私は彼のスマホを開き、LINEの履歴と画像フォルダーを確認した。そこには、私と出会う前から続いていた浮気の証拠が山ほどあった。彼は私を裏切っていた。それでも式は始まり、牧師が「誓...

結婚式の朝、私は幸せの絶頂にいた。ウェディングドレスに着替え、控え室で式の開始を待っていると、スマホの通知音が響いた。どうやら文明が私の控え室にスマホを置き忘れたらしい。届けようと手に取った瞬間、再び通知が届いた。

「大好き。嫁にバレないでね。すず」

画面に表示されたその言葉に、私の背中は凍りついた。鈴とは誰なのか。嫁にバレないでとはどういう意味なのか。いても立ってもいられず、私は文明のスマホを開いた。ピンコードはデート中に何度も見ていたから覚えていた。

勝手に覗き見るのは気が引けたが、もし浮気しているならこのまま結婚するわけにはいかない。LINEの履歴と画像フォルダーを確認した私は、絶望のどん底に突き落とされた。文明と鈴は間違いなく浮気していた。おそらく私と出会うずっと前から。

私はスマホを閉じ、椅子に座り込んだ。そこに文明が戻ってきた。「はい、忘れ物」

私は満面の笑みを浮かべてスマホを渡した。「サンキュー」と文明は何も気づかず、式場へ向かっていった。

式が始まり、父の隣でバージンロードを歩きながら、私は怒りを抑えていた。一歩踏み出すたびに、文明と鈴への怒りが込み上げてくる。このまま結婚したくない。それでも式は進んでいく。何食わぬ顔で愛を誓う文明に腹が立った。

牧師が「誓いますか」と問いかけた。私は思わず「誓いません」と曖昧な返事をしてしまった。会場中がざわめく。隣の文明も動揺している。「緊張してるのか?」と小声で話しかけてくるのが憎らしい。

牧師が咳払いをし、もう一度「誓いますか」と尋ねた。今度ははっきりと「誓いません」と告げた。

「何を言ってるんだ?緊張でおかしくなったのか?」文明は牧師に式を続けるよう指示した。指輪の交換でも、私は手を差し出すのを拒否した。左手を固く握り、文明が開こうとしても「嫌よ」と崩さなかった。それでも文明は参列者に気づかれないよう、私に指輪をはめるふりをして自分の左手を差し出してきた。

私は指輪を握りしめると、参列者に見えるように式場の隅に放り投げた。

「何をするんだ?」会場中にどよめきが走る。

「あなたとは結婚しません」私は改めて婚約破棄を宣言した。

「ここまで来て何を言ってるんだ?」文明は怒りをあらわにした。「結婚は絶対だ」

「鈴と浮気してるのよね。そんな人と結婚なんかできるもんですか」

「何を言い出すんだよ。そんなわけないだろう」文明は否定するが、額には冷や汗が浮かんでいる。

「これまでずっと私を騙してた。そうでしょ」

「誤解だって。一体どうしたんだよ」文明は参列者に向かって「まゆみちゃん、仕事で疲れてるのかな」と笑って見せた。

「疲れてなんかないわ。そんなに疑うなら証拠を見せてみろよ」

私はその場で、文明のスマホに残っていた画像フォルダーの写真を見せつけた。控え室でLINE履歴と画像をすべてスクショしておいたのだ。文明の画像フォルダーには、鈴と全裸で抱き合っている写真が何枚も保存されていた。

「これでも事実無根だって言いはるの?」

会場には双方の会社の上司や同僚が大勢いた。文明の上司は頭を抱え、私の父はショックでその場に気を失い、母は周囲に介抱されていた。文明自身は反論もできず、顔面蒼白で立ち尽くしていた。

その時、由香が立ち上がった。「式を台無しにするなんて大人げないわよ。みんなあなたのためにわざわざ来てあげたのよ」

私は呆れてため息が漏れた。「先輩に人を非難する資格があるの?」

「何よ?」

「文明の浮気相手って、先輩ですよね」

文明の浮気相手は、私に文明を紹介した由香自身だった。LINEで使っていた「すず」という名前は、由香の旧姓である鈴木を省略したものだった。

「何を言ってるのよ。そんなわけないじゃない。私を巻き込まないでよ」由香は必死に否定する。しかし、画像に顔がはっきり映っていなくても、LINEのやり取りから由香であることは明白だった。

「とぼけるのはいい加減にしてください。啓介さんの親友だってことをいいことに、堂々と自宅に呼んでスリルを味わってたんでしょ」

「やめてよ。自分が裏切られたからって、私の家庭まで壊すつもり?」

その時、啓介が立ち上がった。「由香と文明は、まゆみちゃんと出会う前から関係を持っていた」

「あなたまで何を言い出すの?」由香は動揺している。

「おい、こいつはまゆみのストーカーだ。こんなやつの言うことなんか信じるな」文明は大声で啓介を非難した。

「証拠ならちゃんとあるぞ」啓介は写真を取り出し、その場にばらまいた。

何枚あっただろうか。大量の写真には、文明と由香が腕を組んでデートする様子や、ホテルに入っていく姿が映っていた。その中の一枚には、二人が温泉旅館に泊まっている様子が写っていた。写真の日付は、文明が私に出張だと言っていた日だった。

「私に出張だって嘘をついて、先輩と温泉旅行に出かけていたのね」

「本当に出張だよ」

「じゃあこの日付は何?これだけじゃない。あなたと先輩が裸で抱き合ってた日も、私は出張だって聞いてたわ」

文明はあくまで仕事だったと言い張ったが、どれも結婚式の打ち合わせがある日で、私の予定表にも記録が残っている。

「本当なんだって信じてくれよ」

その時、文明の上司が声を上げた。「総務部のお前が何をしに出張に行くんだ」文明の仕事ではそもそも出張などないという。由香の上司も「処分は覚悟しておけ」と厳しい言葉を投げかけた。

「なんでスマホなんて置き忘れるのよ、このバカ」由香は真実を暴露された腹いせに、文明を激しく罵倒した。

「お前だって裸の画像なんて送信してくるなよ」文明は由香の言葉に腹を立て、浮気を認めるような発言をしてしまった。

「やっぱり全て事実だったのね」

文明は「しまった」と口を押さえたが、時すでに遅し。

「私との写真は削除しているのに、先輩との写真は大事に残しているなんて、よっぽど好きなのね」文明の画像フォルダーには、私との写真は一枚も残っていなかった。それなのに、由香との写真は数えきれないほど保存されていた。

最初から二人に騙されていたことを知り、私は呆れてしまった。

由香と文明は以前から関係を持っており、それが啓介にバレそうになった。しかし関係を止めたくない二人は、文明が結婚すればうまくカモフラージュできると考えたようだ。

「ああ、そうだよ。確かにお前の見た目は俺のタイプだ。でもそれだけだ」文明は開き直り、私のことを「乳臭い」と非難し、畑仕事も「虫だらけで気持ち悪い」と本当は嫌いだったことを暴露した。

「だったらプロポーズなんかしないでよ」

「それはお前が社長令嬢だからだ。そうじゃなきゃ誰がお前なんか」

文明は私の父の財産が目当てだった。私の父が大手企業の社長であることは、結婚の挨拶よりも以前に由香を通して知っていたらしい。二人は私が文明と結婚すれば父のお金で遊べると考え、うまくいけば父の会社を手に入れることもできると、私に近づいたのだ。

「本当に最低ね。あなたたちにはきっちり慰謝料を支払ってもらうから」

当然のことながら、式は中止となった。私は文明と由香の両方に慰謝料を請求することを告げ、式場を後にした。式場の費用と当日キャンセルとなった披露宴会場の費用は、原因を作った文明に全額請求されたが、文明は支払いを拒否した。

しかし数日後、文明の両親が私の自宅を訪れ、支払いを約束してくれた。文明の両親は深々と頭を下げ、息子の不始末を謝罪したが、両親が謝ることは何ひとつない。私は困惑するばかりだった。

「文明を許すことはできません。二度と私の前に顔を見せないようお伝えください」

いくら両親が謝ってくれても、私の気持ちは収まらない。文明自身は謝罪の言葉ひとつなく、何の連絡もない。

その後、啓介も由香と離婚したらしい。私と啓介の両方から慰謝料を請求された二人は、自分たちは悪くないと支払いを拒否した。仕方なく私と啓介は弁護士を通して請求し、支払いに応じなければ裁判になると知った二人は、しぶしぶ支払った。

数日後、由香は人事部から呼び出しを受け、解雇を言い渡された。私が務める会社は父が経営しており、社長は由香の行動は社会倫理に反していると激しく非難した。由香は反論もできず、肩を落として会社を去っていった。

同じ頃、文明も会社を首になった。文明が務める会社は父の会社と大きな取引を行っており、父から特に何も言っていないものの、今後の関係を考えて解雇を決めたのだろう。

その後、二人はそれぞれの実家からも縁を切られ、しばらくは文明のマンションで一緒に暮らしていたようだが、次第に喧嘩が絶えなくなったという。文明は人のものにしか興味が湧かないらしく、せっかく由香と一緒に暮らせるようになったのに、別の人妻と浮気をして由香の怒りを買った。同時に由香も別の男性との浮気が発覚し、毎日のように言い争いを繰り返した後、二人してマンションを追い出された。

その後、文明は再就職したが、サービス残業が当たり前で休みもまともに取れないブラック企業だったらしい。やめることもできず、次第に心を病んでしまったそうだ。由香はマッチングアプリで知り合った男性の元を点々としていたが、既婚者の男性の妻から訴えられ、また慰謝料を請求された。しかしすでに財産を使い果たしていた由香は支払いができず、逃げ回っているらしい。

しばらくして、町で啓介と出会った。最初は少し気まずかったが、啓介がいつから二人の関係に気づいていたのか気になっていた私は、思い切ってカフェで話をすることにした。

「実はずっと前から知ってたんだ。だけど、まゆみちゃんと文明が結婚すれば、二人の関係も終わるんじゃないかって思ってた」

啓介の話では、文明と由香の関係は私が文明と出会う二年前ほど前からだったらしい。啓介は二人の関係に気づきながらも、文明との友情を壊したくない一心で追求することができなかったという。由香は昔から男性関係が派手で、文明との浮気の前にも何度か男性とのトラブルがあったそうだ。それでも由香に惚れていた啓介は、すべて許してきたのだとか。

「ずっと黙っててすまない」

「いえ、啓介さんが謝ることは何もないですよ。でもどうしてあの時、声を上げてくれたんですか?」

啓介は真実を告白しようと何度も私の前に現れていたが、その度に躊躇して何も言えなかったと話した。しかしそれならば、結婚式の日も何も言わなくても良かったはずだ。結果的に啓介が声を上げてくれたおかげで、文明と由香の浮気が確定し、私は直前で結婚を止めることができた。

「由香と文明は、俺がまゆみちゃんのことを笑いものにしていたんだ」

文明が由香の家を訪れていた時、啓介がいないところで二人は何も気づかずに「バカな二人」と笑っていたそうだ。その姿を見た啓介は、由香と文明を見限ることを決めたという。

「もしあの場でまゆみちゃんが何も言わなかったとしても、俺が二人の悪業を暴露するつもりだったんだ」

由香との夫婦関係や文明との友情を考え、それまでずっと悩み続けていた啓介だったが、幸せになれると信じている私を不幸にしてはいけないと思うようになったのだとか。啓介は文明に結婚を考え直すよう話をしたらしいが、文明は聞く耳を持たず、由香との関係も一切認めることがなかった。それでも啓介はなんとか結婚を止めようと、あの場で全てを明らかにするつもりで参列したらしい。

啓介の行動はすべて私を思ってのことだった。それを知った私は、どこか安心した。

それから時々、啓介と二人で会うようになった。啓介はとても真面目で、決して嘘をつかない。誠実な姿に、いつしか私は心を惹かれるようになった。父も啓介のことが気に入ったようで、時々家族の食事会に招待するようになった。啓介は最初こそ戸惑っていたが、次第に心を開いてくれるようになり、自然な笑顔を見せてくれるようになった。

しかしお互いに傷が癒えるまでは友人関係でもいいと思っていた。啓介はそんな私の気持ちに気づいていたのか、ある日「こんな自分でよければ、ずっと一緒にいてくれないか」と言ってくれた。

そして今日、私は啓介と結婚する。今度こそ、みんなの前で永遠の愛を誓うのだ。参列してくれた人たちの中にはあの日のことを知っている人もいたが、みんな私が本当の幸せを掴んだのだと心から祝福してくれている。

牧師の前に立ち、私は「誓います」としっかりと宣言した。会場からは大きな拍手が湧き起こる。啓介と微笑み合いながら、私は新たな一歩を踏み出した。

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