「かっこよかったです」
えみこさんにそう言われて、俺は心臓が高鳴るのを感じた。いや、今は謙遜している場合じゃない。俺は今こそ、本当の気持ちを伝えなければならない。
「あの、これからもえみこさんが困った時は、俺が全力で守ります。好きです」
彼女は言葉を失って固まっている。やはり、俺の告白は失敗に終わったのだろうか。
「いいんですか?私で」
俺の名前はナツ・タツル。5歳の娘を育てるシングルファザーだ。妻が2年前に亡くなるまでは、営業職としてバリバリ働いていた。しかし、シングルになってから娘のハルを育てるため、残業や休日出勤のない開発部へと移動させてもらった。
俺の妻も元気な時は仕事をしていた。ハルを保育園に預け、フルタイムで働く妻だったが、ある日体調を崩し、倒れたまま帰らぬ人となった。突然シングルファザーになった俺は、悲しみの中、必死にハルを育ててきた。
今までも家事は妻と分担していたから、何もできないわけじゃなかったけれど、やはり1人で全部こなすのはとても大変だった。周りは助けてくれる人ばかりで感謝しているが、ハルが寂しくならないよう、俺はできるだけ自分がハルの面倒を見たかった。
ハルもそんな俺を気遣ってくれているのか、自分でできることはどんどんやってくれる。正直、ハルがいなかったら無理だったと思うほどしっかりした子だ。
そんな俺たちは休日になると、自分たちにご褒美と言って外食に出かける。ファミレスや回転寿司もよく行くが、ハルが好きなのは俺の友人がやっている居酒屋だ。
「今日はどこに食べに行く?」
「げんちゃんの店がいい」
げんちゃんというのは、俺の友人・蒼田ゲンスケのことだ。ゲンスケもうちの事情をよく知っており、シングルファザーの俺を気にかけてくれる友人の1人でもある。
「じゃあそうしようか」
ハルはしっかり者の女の子だが、外ではとてもシャイで、初対面の人にはかなり壁を作る。慣れるまでがいつも結構苦労するのだ。ゲンスケにも最初は話もできず、俺の後ろに隠れていたくらいだが、今では優しいゲンスケが大好きで、げんちゃんげんちゃんと懐いている。
次の週末、俺とハルは早起きをした。
「よし、今日はパパといっぱい遊ぼう」
最近忙しくて遠出をしていなかったから、俺はハルを久しぶりにどこか連れて行ってあげたかった。
「パパ、どこに行くの?」
「今日はな、ハルがずっと行きたかったところだよ」
俺はハルを車に乗せて、ワクワクしながら出発した。着いたのは遊園地だ。
「ああ、遊園地やった!」
ハルは車から降りるとすぐに興奮して、遊園地の入り口まで走った。
「ハル、待ってよ」
ハルが嬉しそうにはしゃぐ姿を見て、俺は連れてきてよかったと心から思った。
「パパ、あれがいい!」
ハルが指したのは、大きなキャラクターの風船だった。
「しょうがないな。特別だぞ」
今日はハルに存分にわがままをさせてあげよう。普段はママもいない2人きりの生活で、きっと寂しい気持ちもあるだろうに。ハルは俺にダダをこねたりわがままを言うことがあまりない。それが逆に心配だったりもするのだ。
娘というものは父親にとって難しいものであると聞いたことがあるが、俺はできる限りハルの気持ちを理解できるような父親でいたいと思っている。
遊園地ではたくさんのアトラクションに乗り、ハルも俺もだいぶ歩き回って疲れた。
「ハル、そろそろお腹空かない?」
「うん、お腹空いた。げんちゃんのところ」
「うん。ゲンスケには伝えたから、テーブル取ってくれてあるよ」
親友のゲンスケは居酒屋を営んでいる。俺たちは何でも食べられそうな勢いで、ゲンスケの店に向かった。
「おお、ハルちゃんいらっしゃい」
「げんちゃん!」
忙しそうに動くゲンスケは、俺たちを予約席に通してくれた。
「今日は何にする?」
「私、手羽とポテト」
「ハルちゃん、いつものやつね」
ゲンスケはニコニコしながらハルの注文に答えた。
「じゃあ俺はピーマンの肉詰め。あとウーロン茶とカルピスで」
「はいよ。今日ちょっと混んでるから、遅くなったらごめん」
ゲンスケはそう言うと、足早に厨房に戻っていった。確かに週末の今日はお客さんも多く、店内は満席のようだった。
ウーロン茶とカルピスが来て、俺とハルはいつものように乾杯した。
「あ、おいしい」
カルピスを飲んで「リールを飲んだみたいな反応」をするハルを、俺とゲンスケで笑った。
「ハルちゃん、どっかのサラリーマンみたいに」
俺がウーロン茶をそうやって飲むから、真似してるんだろう。
「いつまで酒禁止するの?」
俺はゲンスケと飲み友達だったくらい、昔はよく酒を飲んでいた。しかし、妻が亡くなってからはハルもいることだし、なんとなく酒を飲むのをやめている。子供がいるというのは、いつ何が起きてもおかしくない。
「そうだな。ハルが成長して、俺の助けがいらなくなったら飲もうかな」
「そっか。その時は俺と乾杯しようぜ」
ゲンスケは手羽先とポテト、ピーマンの肉詰めにサービスの枝豆をテーブルに置いて、また仕事に戻っていった。俺とハルは楽しく食事をした。お腹も空いていたから、なおさら料理も美味しく感じる。
「パパ、もっとこれ食べたい」
ハルは大好きな手羽先の骨を指さして言った。
「オッケー。ゲンスケ忙しそうだから、パパ自分で注文してくるわ。ハルは待ってて」
「うん。わかった」
俺は席を立って、ゲンスケのいる厨房まで行った。そして手羽先を追加で注文し、ハルの待つ席まで戻った。
「あれ?ハル?」
俺は席にハルがいないことに焦った。待っててって言ったのに。トイレでも行ったのかと、俺は周りをキョロキョロ見渡した。するとハルは、座っていたテーブル席の反対側にあるカウンターで、知らない女性と座って話していた。
「これ美味しい?」
「うん。大人は美味しいって感じるのよ」
「そうなんだ。なんで大人はお酒を飲むんだろう?」
「不思議よね。私も子供の頃はそう思ってたな」
俺はハルが知らない人と普通に話していることに驚いた。
「す、すみません。娘が」
その女性はこちらを振り向くと、色の綺麗な人で、にっこり笑って俺に挨拶した。
「ハルちゃんのパパですか?初めまして」
もう自己紹介してたのか。いつもは人見知りで、誰かに話しかけるなんてしないのに。
「え、そうなんですか。それは嬉しいな」
女性はホリ・エミコさんと言うらしい。
「実は私、お2人のことを見かけたことがあるんですよ」
「え、そうなんですか」
「はい。この近くのスーパーによくいらしてますよね。パパと一緒で仲良し親子だなって見てました。それで今日はたまたまこのお店に来たら、ハルちゃんがいてびっくりしましたよ。私がじっと見てたからか、ハルちゃんの方から話しかけてくれて」
「そうだったんですね。お恥ずかしい」
買い物してるところを見られてたんだ。俺は自分たちのテーブルを指して、エミコさんを誘ってみた。
「あの、よかったらご一緒しませんか?」
「あら。でもせっかくのお2人の食事にお邪魔じゃないですか?」
「私もお姉ちゃんと一緒に食べたい」
俺はエミコさんのコップやお皿を自分たちのテーブルに運んだ。ハルはエミコさんになぜかすごく懐いていて、おしゃべりも止まらなかった。初めての人にこんなに話すハルを、俺は初めて見た気がする。
楽しい時間を過ごして、ハルは眠くなったのか目をこすり出した。俺の背中におぶさって寝始めたので、俺たちはお開きにすることにした。
「エミコさん、ありがとうございました。今日はお礼に僕が払わせてください」
「いえいえ、とんでもない。私も楽しかったから、お礼なんていりません」
何回かそんなやり取りをして、結局はそれぞれの支払いを済ませた。俺はハルを背負いながら店の外に出た。
「途中まで一緒に帰りましょうか」
「はい。ハルちゃん疲れたんですね」
「今日は2人で遊園地に行ってきたんですよ」
「遊園地いいなあ。いつも2人で本当に仲良し親子ですね。奥様もこんな旦那さんがいて幸せですよ」
「実は妻には先立たれていまして。ハルが3歳の頃です」
「え」
エミコさんはかける言葉を失って黙ってしまった。
「今までなんとか頑張って2人で暮らしてきたんです」
「ごめんなさい。私てっきり奥様もいらっしゃるかと」
「いえいえ、気にしないでください。それに今はもうハルもだいぶ立ち直っていますし、僕もですけど」
ふとエミコさんの方を見ると、彼女の目には涙が光っていた。
「ごめんなさい。泣くなんて」
「いや、こちらこそこんな話をしてすみません」
「落ち着くまでうちでお茶でも飲みませんか?うちのアパートにちょうど着いたところです」
俺はハルをベッドに寝かせて、エミコさんにお茶を入れた。
「どうぞ」
「すみません。いただきます」
彼女は鼻をすすりながらお茶を手に取った。ふうと深呼吸してから、エミコさんはゆっくり話してくれた。
「私も実は息子がいるんです。ハルちゃんの1つ上かな。でも別れた主人に親権を取られてしまって、今は会えないんです」
俺はなぜエミコさんがハルと仲良く話せたのか、やっとわかった。なんとなく子供の扱いも上手だとは思っていた。
「私たち夫婦は最初はうまくいっていました。子供ができるまでは、2人ともお互いの仕事を尊重して、たまには出かけたり仲良く過ごしていたんです。でも子供が生まれてから、その子の教育方針や、さらには家柄まで出てきて、私がのけ者になることが増えてきたんです。向こうはエリートの家系で、息子にも受験をさせるとか習い事とかも全部向こうの家が決めるんです。私は我慢できなくなって、息子と逃げ出そうとしました。でもそんな私から息子は取り上げられ、何度も話し合いをしましたが、結局は向こうに親権を譲ってしまったんです。今ではすごく後悔してます」
そこまで話すと、エミコさんはまた涙を流した。
「泣かないで。大事な人と離れるっていうのは、それ以上辛いことはないよね」
俺は亡くなった妻のことを思い出した。
「今は会えないけど、いつか会えると願っていれば、きっと会えるよ」
俺は他にどんな言葉で慰めればいいか分からなかった。死んでしまってはもう会えないけれど、生きていればいつかきっと会えると信じたい。
「今は主人は再婚をして、新しい奥さんと幸せに過ごしているみたいなんです。息子も新しいお母さんと嬉しそうに写真に映っていました。でも私は、息子の幸せを願ってないみたいで、ただ息子に会いたいという自分の気持ちばかりで、そんな自分がすごく嫌です」
エミコさんは涙が止まらなくなって、テーブルに突っ伏してしまった。俺はどうにもできなくなって、そっとエミコさんの肩をポンポンと撫でた。
しばらく泣いて落ち着いてから、エミコさんは帰って行った。
「またいつでも辛い時は言って。話聞くくらいならできるからさ」
「お恥ずかしいです。でもありがとう」
その日はそれでさよならした。
それから俺たちは約束していなくても、たまにゲンスケの店で会うようになった。エミコさんが行くのは大体火曜日と金曜日の夜だ。ハルがゲンスケにこっそり聞いたらしい。
「だってエミコちゃんに会いたいんだもん」
ハルがなぜそんなにエミコさんになついているのか、俺は疑問だった。まあ確かに美人で優しくて楽しい彼女と一緒にいたい気持ちは俺も一緒だが。俺はある日、ハルに聞いてみた。
「ねえ、ハルは誰かに話しかけたりしないのに、どうしてエミコさんには話しかけたの?」
「エミコちゃん、あの時1人でなんだか泣きそうだったの」
「そうだったんだ」
エミコさんの悲しみがハルにも伝わっていたらしい。
「それにね、エミコちゃんちょっとだけママに似てる」
「え」
俺はそんなこと思ってなかったから、ハルが言うことに驚いた。
「顔じゃなくて、なんか似てるの?」
ハルが言うのは、全体の雰囲気とかそういうことなのかな?俺はハルがエミコさんのことをそんな風に思っていたことを、少し嬉しく思った。
「これからもエミコさんと会いたい?」
「うん」
ハルは元気よくそう言った。
「パパは?」
「え」
「パパはエミコちゃんに会いたい?」
正直な子供のストレートな質問はドキッとさせられる。
「うん。パパも会いたいかな?」
ハルにそう聞かれて、エミコさんに会いたいのは実は自分なのではないかと思った。妻がいなくなって必死にハルを育ててきて、もう随分恋心なんて忘れてしまっていると思っていたのに。でも、こんな父親の恋心を知るなんて、ハルはどうなのだろう。俺ははっきりと自分の気持ちをハルに言うことはしなかった。
ハルは俺がエミコさんに会いたいというだけで喜んでくれている。だからきっと応援してくれているのかとも思うのだが、肝心の相手は離婚して息子さんにも会えない悲しみの中にいる。こんな俺なんかと恋愛なんて、到底考えていないかもしれない。俺の頭の中はぐるぐるとそんなことが巡っていた。
それから数週間、俺は仕事が忙しくなり、ハルをゲンスケの店に連れて行くことができなかった。ゲンスケから何回か連絡をもらい、行きたい気持ちはあった。それにエミコさんにもずっと会っていなくて、そちらの方が気がかりだったのだ。
しばらくして仕事が落ち着き、ハルに行きたいところを聞いたら、やはりゲンスケの店だった。ハルもやっぱりエミコさんを恋しがっていた。
「いらっしゃい。待ってたよ、ハルちゃん」
ゲンスケが大きな声でそう言うと、こちらをすぐ見てくる客がいた。エミコさんだ。
「エミコちゃん!」
ハルはエミコさんを見つけるなり走り寄っていった。
「おいおい、今まではげんちゃんって俺に来てくれてたのによ」
ゲンスケはわざとすねるふりをして言った。
「久しぶりね、ハルちゃん」
エミコさんは抱きつくハルをギュッと抱きしめ返した。
「うん。エミコちゃんに会えなくて寂しかった」
「うん。私もだよ」
俺は2人のこんな姿に、連れて来れなかったことへの罪悪感が湧いた。
「タツルさん、お久しぶりです」
柔らかく笑うエミコさんの笑顔に、俺も久しぶりに癒される。そしてハルが言っていた「パパも会いたい」という言葉を思い出して、急に恥ずかしくなった。俺もエミコさんに会えなくて寂しかったと実感した瞬間だった。
俺たちは久しぶりの再会に乾杯して、楽しい夕食を囲んだ。
「ハルちゃん、はい、ポテトどうぞ」
「ありがとう」
ハルはエミコさんに会えなかった間にあったことを嬉しそうに話していた。俺にも話していないことを話し出したりして、まるで本物の母と娘のように見えたのは、俺の勝手な解釈だろうか。
「パパ、ちょっとトイレついてきて」
「うん、いいよ」
エミコさんを1人残し、俺とハルはトイレに立った。トイレから帰ってくると、何やら知らない男性にエミコさんが話しかけられている。俺はハルと目を合わせた後、そっと席まで歩いた。
「いいじゃん。いつも1人だったよね」
その男性は酔っているらしく、ろれつが回らない口調でエミコさんを誘っていた。
「あの男は何?あんたの旦那じゃないよね」
「あなたには関係ありません。誰かと飲みたいなら他を当たってください」
迷惑そうにエミコさんが答えている。だんだんとヒートアップしてきたその男性は、言葉も荒くなっている。
「なんだよ。こんだけ誘ってやってるのに、少しぐらい良くないじゃねえか」
「今日は3人で食事してるので」
「あいつ、子持ちだろ。子供なんかいるやつより、俺と飲んだ方が楽しいって。ぶすのやつなんかやめちまえよ」
俺は自分のことを言われて、内心ふつふつと怒りが湧いてきた。
「何なんですか、あなた?」
この年になって喧嘩なんてしたくなかったが、大事な人を守るためなら仕方がない。
「はあ。だからあんたのこと、子連れ中年男なんかより俺の方がいいだろって言ってたの」
この野郎。俺は殴りかかりたい気持ちを一瞬で止めた。ちらりと横を見ると、ハルが見ているからだ。
「失礼ですけど、彼女に聞いたんですか?あなたは振られてると思いますけど」
「私はタツルさんたちと一緒にいたいです」
「お客様、すみません。店内で大きな声で騒がれる方は入店禁止になっております」
みんなから攻められたその男は、逆上して俺に襲いかかってきた。
「なんだこの野郎。いい気になってんなよ」
「きゃっ」
店内にエミコさんとハルの叫び声が響いた。と同時に、俺の体は自動的に動いていた。俺は男の胸ぐらを掴んで背負い投げをしていた。俺は柔道の有段者だった。
天井をあおいだ顔で見て床に寝そべっている男と、それを見て静まる店内。
「おお、やっちゃった」
ゲンスケが呟いた声だけが聞こえた。
男はその後何も言わずに店を後にした。奴は前からエミコさんを狙っていたらしい。ゲンスケは要注意人物と思って、それで俺が来ていない間も気にかけてくれたらしい。と言っても、あいつが何かしたわけではなかったから、警察に通報もできなかったという。
「タツルのおかげで、うちの店の厄介な客を片付けることができたぜ」
ゲンスケに感謝されて、俺たちはその日帰ることにした。
「パパ、あんな技できたの?すごいかっこよかった」
「ああ。使ったの初めてだけど」
「私もあの、タツルさんかっこいいと思いました」
エミコさんにも褒められて、俺は顔が赤くなるのを感じた。
「あの人に最近しつこく誘われてたんです。何度も断ってるのに、店に行く度に声かけてきて。本当にありがとうございました」
エミコさんはそう言うと、深々と頭を下げた。
「いや、そんな」
俺は謙遜したが、エミコさんに自分の気持ちを伝えるのは今しかないと思った。
「いつでも困った時は言ってください。エミコさんのことを俺が全力で守ります。エミコさんのこと、好きなんです」
ついに自分の気持ちを言ってしまった。ハルの目はキラキラしていた。エミコさんはと言うと、言葉を失っている。やっぱり彼女にそんなつもりはなかったのか。俺は娘の前で告白したことを激しく後悔した。
「あの、いいんですか?私で」
「え、何言ってるんですか?あなたじゃないとダメなんです」
「う、嬉しいです。私もタツルさんが好きです」
「ほ、本当ですか?」
「タツルさんのことが好きだったけど、タツルさんはまだ奥様のことが忘れられないんだと思っていました。だから私のこの気持ちは打ち明けちゃいけないって。数週間会えなくてとても寂しかったけど、私からは会いたいなんて言ってはいけないと我慢してました」
エミコさんは涙ぐんでそう言った。
「じゃあ2人は恋人?」
ハルのその言葉に、俺とエミコさんは笑った。
「うん。そうだね。ハルはどう思う?」
「嬉しい。2人とも大好き」
ハルは俺の手とエミコさんの手を取って、ブンブン振った。
こうして俺とエミコさんの交際は始まった。ゲンスケにも報告すると、彼は得意げに言った。
「俺は2人がくっつくんじゃないかと思ってたよ。俺の店で知り合ったんだから、俺がキューピッドだよな」
ゲンスケは結婚式ではスピーチさせろとうるさかった。
「まだ結婚なんて言ってないだろう」
「でも私も結婚してほしい。エミコちゃんと」
「もうみんな気が早いんだから」
エミコは照れ臭そうにそう言った。
それから2年後、俺たちは本当に結婚することになったのだ。エミコは今では会えなかった実の息子と、たまに会えるようになった。息子の方からエミコに会いたいという意思表示があったのだ。
「あの時タツルさんは、信じていればいつか会えるって言ってくれたものね」
「そうだよ。頑張って生きてれば、いつか願いは叶うんだ」
ウェディングドレスに身を包んだエミコは、いつもより一層綺麗だった。教会の扉から、ハルが2人の指輪を持って歩いてくる。
俺たちはこれからも家族で幸せの道を歩いていくだろう。



