「貧乏人がよく来られたわね。」
その一言が、パーティー会場に響いた。タワーマンションのコミュニティルーム。ママ友のアイさんに招待された私は、幼い息子の豊かを連れて、その場に立っていた。アイさんは私を上から下まで値踏みするように見て、ニヤリと笑った。
「あなたが誘ったんでしょうが。」
心の中でそう呟いたが、口には出さなかった。アイさんはこのマンションの高層階に住むママたちのリーダー格で、低層階に住む私たちのような人間を蔑むのが習慣になっているようだった。私たちが最近引っ越してきたこのマンション。住む階によって人間の価値が決まるなんて、私は信じたくなかった。
「せっかくお招きいただいたので、来ました。どうもありがとうございます。」
私が礼を言うと、アイさんは満足そうに頷き、周りのママたちに向かって話し始めた。
「ここにいる子供たちはね、みんな近くの私立小学校を受験するのよ。あの小学校のことはあなたも知っているでしょう?南関の超エリート小学校よ。だからみんな英語がペラペラなのよ。」
私はその名前を聞いて、内心驚いていた。その小学校は、夫が理事長を務めている学校だったからだ。しかし、私はそれを悟られないように、無表情で聞いていた。
「そうだわ。今から面接の練習も兼ねて、1人ずつ英語で自己紹介をしましょう。とこさんも、よろしくて?」
アイさんは私に微笑みかけたが、その目は笑っていなかった。バカにしていられるのも今のうちだ。私はそう思いながら、豊かの顔を見た。豊かは不安そうに私の袖を掴んでいる。
いや、話は少し前から始めなければならない。
私の名前は鈴木智子。夫と、もうすぐ6歳になる息子の豊かと一緒に暮らしている。最近、夫の仕事の関係でこの辺りに引っ越してきた。この地域は保育園や小学校、緑豊かな公園などが多く、子供がのびのびと過ごすにはうってつけの場所だった。近くにある幼稚園は、口コミサイトでの評判も良く、見学に行った際も職員の人たちがとても笑顔で迎えてくれたため、そこに豊かを通わせることにした。
今日は初めての登園日。豊かが緊張しているのが伝わってくる。私も内心ドキドキしながら、幼稚園に向かった。
「おはようございます。今日から入園の鈴木豊か君ですね。豊か君、よろしくね。」
幼稚園の門に着くと、担任の先生が笑顔で迎えてくれた。豊かも緊張しつつも、しっかりと挨拶ができた。すると、一人の男の子が近づいてきた。
「ねえねえ、この子誰?」
「今日からお友達になる豊か君だよ。」
「豊か君?この子はユウ君。豊か君って言うんだ。よろしくね。」
「うん。よろしく。」
同じクラスのユウ君が話しかけてくれたおかげで、すっかり緊張が解けた豊かは、そのままユウ君と一緒に部屋に入っていった。
「おはようございます。うちの子が連れて行ってしまって、すみません。」
豊かたちを見届けていると、ユウ君のママが話しかけてきてくれた。
「とんでもないです。むしろおかげ様で、豊かの緊張は解けたようです。」
私たちはそのまま軽く自己紹介をし、少し立ち話を楽しんだ。ユウ君のママは、サヤカさんという名前で、感じのいい人だった。
「豊か君のママって、面白い方ですね。そういえば、最近越してきたんですよね。」
「ええ。だから、この辺のことはまだよくわからなくて。」
「お家はどの辺ですか?私、生まれも育ちもここなんで、よければ案内できますよ。」
「それはありがたいです。」
そう言って私がマンション名を言うと、サヤカさんは急に警戒したような顔になった。
「え?あそこに住んでるんですか?」
あそこのマンションは何か曰く付きなのだろうか。不動産屋はそんなこと言ってなかったけど。サヤカさんは「急に用事を思い出した」と言って、その場を離れてしまった。
何か気に触るようなことをしたかと思いながら、マンションのエントランスに着くと、女性が数人集まって話し込んでいた。その中の一人が声をかけてきた。
「あら、おはようございます。」
「おはようございます。最近引っ越してきた鈴木智子です。よろしくお願いします。」
「はーん。アイはそう言って、私を値踏みするように見た。」
「こちらこそよろしく。ともこさん。ともこさんはお子さんはいらっしゃるの?」
「はい。今ちょうどそこの幼稚園に送ってきたところです。」
「あら、私たちもそこに通わせてるのよ。何歳クラスなの?」
「年長クラスです。」
「じゃあ、同じクラスね。きっと今頃、子供たちも仲良く遊んでいるんじゃないかしら。」
集まっていた女性は、みんなあの幼稚園のママ友らしい。綺麗な格好をしていて、とてもママとは思えない。アイさんはその中でも一番豪華な格好をしていて、話し方からしても、このグループのリーダーだろう。
「ところで、ともこさんは何階に住んでいらっしゃるの?」
「2階ですよ。」
すると、周りの空気が一瞬凍ったが、すぐに笑いが起こった。
「あら、2階。随分と庶民的にお住まいなのね。私たちは全員、高層階に住んでいるのよ。まあ、私は最上階だけど。」
「はあ。」
だからなんだと言いたい気持ちを抑えて、私はその場を後にした。
夕方、幼稚園に迎えに行くと、豊かはユウ君と一緒に折り紙で紙飛行機を作って遊んでいた。初日にしては楽しそうな様子で安心した。
「ママ、お帰り。あのね、僕、ユウ君とお友達になったの。」
「そう、良かったわね。」
豊かが楽しそうに話をするので、私も自然に笑顔になっていた。
「ねえ、ママ。今日、ユウ君とお家で遊んでもいい?」
「僕も豊か君ともっと遊びたい。」
「じゃあ、ユウ君ママに聞いてみましょう。ちょうどそこにユウ君ママがお迎えに来たわ。」
「ねえ、ママ。今日、豊か君の家に遊びに行ってもいい?」
サヤカさんは少し困った顔をしたが、ユウ君と豊かが懇願すると、しぶしぶ許可を出してくれた。
マンションのエントランスに着くと、サヤカさんは周りをキョロキョロと見渡していた。何にそんなに怯えているんだろう。部屋に着き、ユウ君と豊かが遊び始めたので、私はずっと気になっていたことを聞いてみた。
「ねえ、ユウ君ママ。どうしてそんなにこのマンションを警戒しているんですか?もしかして、何か曰く付き?」
サヤカさんはしばらく沈黙した後、思い切って口を開いた。
「ここのタワマンの人は、みんなお金持ちでしょう。私たちみたいに他のところに住んでいる人間は、貧乏人だって馬鹿にされているんです。挨拶もろくに返してくれないし、たまに声をかけてくれたと思ったら、マウントしてくるし。」
「まさか、そんな幼稚なことをするなんて。」
でも、サヤカさんがここまで言いづらそうにしているということは、きっと私もそう思われているんだろう。
「そんなことをする人たちの気が知れないわ。私はそんなことしないから、安心してください。そうだ。ユウ君ママさえよければ、敬語はなしにしない?」
「うん。ありがとう。」
サヤカさんは少しほっとした表情になり、その後はお茶を飲みながら他愛もない話を楽しんだ。
それから数日、豊かは毎日幼稚園に行くのが楽しみで仕方がないようだった。「今日もユウ君いるかな」と毎日ウキウキしながら言っている。しかし、その日は違った。
いつもなら私より早く起きてくる豊かが、なかなか起きてこないのだ。
「豊か?そろそろ起きないと幼稚園遅刻しちゃうよ。」
「行きたくない。」
あれだけ毎日楽しみにしていた幼稚園に行きたくないなんて。慣れない場所で疲れが出たのだろうか。熱はなく、顔色も良好。体調不良ではなさそうだった。しかし、あまりにも嫌がるため、私は幼稚園に電話して休ませることにした。その際に豊かの様子を聞いたが、特に変わったことはなく、環境の変化で疲れたのだろうということだった。
気分転換に散歩にでも行こうと、私は豊かを連れて外に出た。すると、そこに帰宅途中のサヤカさんがいた。
「サヤカさん、おはよう。」
「智子さん、おはよう。今日は豊か君、お休みなの?」
実は、と私たちはそのまま近くの喫茶店に入り、話を聞いてもらうことにした。一通り話を聞くと、サヤカさんは豊かに話しかけた。
「ねえ、豊か君。幼稚園で何かあった?」
豊かは無言で下を向いている。
「じゃあ、何かお友達に嫌なこと言われた?」
豊かの体がビクッと反応する。
「例えば、ゴミとか。」
サヤカさんが言いかけたところで、豊かは堰を切ったように泣き出した。
「もう、幼稚園行きたくないよ。」
「豊か、大丈夫よ。大丈夫。」
私は突然泣き出した豊かに驚きつつも、ギュッと抱きしめた。しばらくすると豊かは落ち着きを取り戻し、店員さんが気を利かせてティッシュを持ってきてくれた。
「前に、マンションのママ友が私たちを馬鹿にしてるって話をしたでしょ。実はあの幼稚園、子供たちの間でもそういう風潮があるみたいなの。特にママ友リーダーの息子さんは、クラスでもリーダー的な存在らしくて。まさか、子供にまでそんな上下関係があるなんて思ってもみなかった。」
でも、それなら急に幼稚園に行きたくないと言い出したこととも辻褄が合う。その日はそのまま帰宅し、夕飯を食べて眠りに就いた。
翌朝、やはり今日も豊かは幼稚園に行くことを嫌がる。さらに外に行くことも拒むのだ。買い物に誘っても、公園に誘っても、首を横に振るだけ。仕方がないので、そのまま幼稚園を休んで家で過ごすことにした。豊かは幼稚園を休んでいいことを伝えると、ほっとした表情になった。
昼ご飯の時間。豊かには幼稚園に持っていくためのお弁当を用意していたため、それを出した。すると、
「僕はゴミじゃないよ。」
と言って、豊かは泣き出した。昨日のサヤカさんの話も引っかかっていたため、私は思い切って聞いてみた。
「豊か?豊かはゴミなんかじゃないよ。誰がそんなこと言っていたの?」
「同じクラスのカイト君。僕は2階の庶民に住んでいるから、ゴミなんだって。」
ああ、カイト君というのはアイさんの息子である。なんてひどいこと。子供同士の悪ふざけにしても、度がすぎている。
「でも、ユウ君はもっとかわいそうなんだよ。ユウ君、いっつも無視されて、おもちゃも貸してもらえないの。」
豊かはユウ君がいじめられているのを見ているのも辛いのだという。私はただひたすらに豊かを抱きしめ続けた。
「豊かがゴミなわけないじゃない。豊かはママとパパの宝物だよ。」
その日の夜、帰宅した夫に、昨日今日聞いた話を洗いざらい伝えた。夫は「そうか、そんなことが」と冷静を装っているようだったが、表情には怒りが見えた。そりゃそうだ。大事な息子がいじめられて、黙っていられるわけがない。
翌日、私がゴミ出しに向かうと、アイさんたちがまたエントランスに集まって話をしていた。
「あら、智子さん。最近、幼稚園に来ていないけど、どうしたの?」
しらじらしくアイさんが聞いてくる。
「幼稚園に嫌なお友達がいるらしくって。」
「あら、そうなの?それは大変ね。」
相手はあなたの息子だと言いたかったが、私が口を開く前にアイさんが話し始めた。
「でも、ずっと家にいても退屈でしょ?私たち、明日ここのコミュニティルームでパーティーをするのよ。よかったら、いらっしゃる?本当は高層階の人しか呼べないのだけれど、智子さんは特別に来てもいいわよ。」
話によると、そのパーティーはタワマンの住人の親睦会のようなものらしい。
「へえ、是非参加させていただきます。」
すると、周りの人たちがクスクスと笑い出した。
「まあ、恥知らずとはこのことね。この会の参加者はみんな高層階に住んでいるエリートなのよ。貧乏人のあなたたちが来たら、浮いちゃうんじゃないかしら。貧乏人は高層階なんて住めないから、そもそも世界が違うのよ。」
あんたが誘ったんでしょ、と思いながらも、私は引かなかった。
「高層階に住むつもりもないですけどね。でも、是非そのエリート様たちにお会いしてみたいです。きっと豊かにもいい刺激になると思いますし。」
「そんなに言うなら、智子さんの席も用意しておくわ。是非、ご主人もご一緒にいらして。では、ご機嫌よう。」
アイさんたちはそのまま各部屋へ帰って行った。
私は帰ると、早速豊かにその話をした。
「カイト君のいるところになんて行きたくない。絶対嫌だ。」
豊かが嫌がるのは百も承知だった。しかし、これは豊かが参加しないと意味がないのだ。
「豊か、豊かが嫌な気持ちはよくわかる。でもね、ママにいい考えがあるの。」
「何それ?」
「はね、私は豊かにある作戦を伝えた。」
豊かはこの作戦に共感したようで、顔色がパッと明るくなった。
あとは明日を待つのみだ。
翌朝、私たちは早速着替えてコミュニティルームに向かった。ドアを開けると、みんなが一斉にこっちを見る。豊かが少し怯えた表情をしていたので、「大丈夫だよ」と気持ちを込めて背中をトンと叩いた。
「あら、本当にいらしたの?貧乏人がよく来られたわね。それにしても、随分素敵なお洋服ね。一張羅かしら。」
周りがクスクスと笑う。こんな風に思われるのは、普段は動きやすさ重視の服装をしているためだろう。
「TPOをわきまえて服は選んでるんです。普段、こんな服を着てもしょうがないですから。」
アイさんは一瞬眉間にしわを寄せたが、すぐにマウントを取ってくる。
「まあいいわ。そうだわ。ここにいる子供たちはね、みんな近くの私立小学校を受験するのよ。あの小学校のことはあなたも知っているでしょう?南関の超エリート小学校だから、みんな英語がペラペラなのよ。そうだわ。今から面接の練習も兼ねて、1人ずつ英語で自己紹介をしましょう。」
知っているも何も、と思ったが、喉まで出かかったところで飲み込んだ。豊かも「それって」と言いかけたが、私の顔を見て何か察したようで、そのまま口をつぐんだ。
「じゃあ、まずはカイトからね。」
順番に自己紹介が始まる。なるほど。悪くはないが、やはり付け焼き刃に過ぎない。発音の未熟さや語彙の少なさ、表現の幼稚さが目立つ。これでエリートか。他の子供たちも大したことはなかった。
「さあ、最後は豊か君よ。どうぞ。」
周りが一斉に豊かを見る。アイさんは子供相手にも関わらず、意地の悪い顔をして豊かを見つめる。私にもこの雰囲気が伝わっているようで、「できない」「無理だ」と口ぐちに言っている。
「豊か、いつも通りでいいわよ。」
「う、でも大丈夫。ここの人たちはエリートなんだから。」
「分かった。」
豊かは一息つくと、自己紹介を始めた。
周りがざわつく。当たり前だ。豊かとこの子たちとではレベルが違う。豊かは大人顔負けの発音で流暢に、さらに身振り手振りを交えながら話した。
「皆さんとしっかりお話をするのは、これが初めてですよね。何か質問ありますか?英語でどうぞ。」
誰も言葉を発さない。数秒の沈黙の後、カイト君が「なんて言ってるかわからなかった」と言った。素直に分からないことを認められるのはいいことだ。でも、それをアイさんは良しとしなかった。真っ赤な顔をして、カイト君を睨んでいる。
「そうね。子供には難しかったかしら。でも、お母様方はもちろん分かりましたよね。」
誰も目を合わせようとしない。
「え、まさか幼稚園児の話が聞き取れなかったんですか?エリートの皆さんが。しょうがないですね。アイさん、皆さんに日本語で訳してあげていただけますか?」
アイさんは明らかに焦った表情になり、「え、ああ」と周りを見渡していた。
「エリートなんですよね。もちろんわかりますよね。」
「じゃあ、あなたはどうなのよ。英語で話せるの?」
見事な逆切れだ。
「英語ね。私は一息ついて、軽く英語で自己紹介をした。」
「まあ、分かるわけがないが、どうかしら。あ、フランス語の方が良かったですか?」
ちょうどその時、夫が遅れて入ってきた。
「皆さん、遅くなって申し訳ございませんでした。鈴木徹也です。以後お見知りおきを。」
夫が自己紹介をすると、みんながざわざわと騒ぎ始める。
「鈴木徹也って、まさか。」
アイさんの顔が見る見るうちに曇る。
「皆さん、よくご存知ですよね。そう、夫は子供たちが受験する予定の小学校の理事長だ。私たちは仕事の関係でこちらに引っ越してきたんです。まあ、もうすぐ引っ越すんですけどね。ああ、でも隣のマンションに引っ越すだけなので、これからもよろしくお願いしますね。」
「え、隣って。」
隣のマンションはここよりもランクが高い。そこの最上階に住む予定だったのだが、工事が間に合わなかったため、このマンションに仮住まいしていたのだ。
「皆さん、夫の小学校を受験してくださるんですよね。ありがとうございます。でも、残念ながら今のままでは皆さん不合格ですな。我が子が求める生徒は、協調性と思いやりがある子供です。今のままでは善悪の区別もつかないようでは、うちには入れません。妻と通話をつなげていたので自己紹介も聞いていましたが、英語のレベルもまだですね。あれでは遊びに過ぎません。うちが超難関と言われているのは、人間性と頭の良さが両方備わった子供でないと入学できないからです。いじめをするようなお子さんは論外です。」
夫にばっさりと言われ、周りのママたちは開いた口が塞がらない。
「何を偉そうに。」
そう言って、アイさん親子は帰って行った。私たちもやることはもう終わったので、帰宅することにした。
「豊か?よくやったわ。作戦は大成功ね。」
「うん。みんなきっと僕がゴミじゃないって思ってくれたよね。」
私が豊かに言った作戦は、みんなと同じように英語を話せるということを分かってもらうことだった。言うまでもなく、豊かの方がレベルは上だ。だから、わざと下手に話すことに抵抗があったのだろう。相手が理解できないと分かっているからだ。豊かは相手のレベルに合わせて話すことができる。あえていつも通りにさせることで、親は黙らせられるし、子供たちは豊かを見直すだろう。そう思って、いつも通り話すよう指示したのだ。
週明けの月曜日、豊かは久しぶりに幼稚園に行った。帰ってくると、豊かは嬉しそうに話をしてくれた。
「今日ね、カイト君以外みんな、ごめんなさいって謝ってくれたんだよ。」
いつも豊かをゴミだと言っていた子供たちが、反省して謝ってきたらしい。カイト君は意地でも謝ろうとせず、今はクラスで孤立しているようだ。その後、豊かは楽しく幼稚園に通っていた。孤立しているカイト君をおぼつかなく思って声をかけてはいるが、そっぽを向いてどこかへ行ってしまうらしい。
「でもね、僕知ってるんだ。本当はカイト君もみんなと遊びたいんだよ。」
きっとアイさんがカイト君に何か言っているんだろう。カイト君自身は悪い子ではない。親の教育の問題だ。
月日は流れ、卒園の日を迎えた。あれから豊かは休むことなく幼稚園に通い、楽しい時間を過ごすことができた。この春からは小学生になる。あのタワーマンションのママたちは、夫に一喝された後に心を入れ替えたようで、ボランティア活動を始めたり、服装を変えたりしたようだ。一人を除いてだが。アイさんはあれから、マンションのママたちの間で孤立していったらしい。
カイト君以外の子供たちは私立小学校に合格することができたが、カイト君は落ちてしまったようだ。その上、あのタワマンも無理して買っていたようで、現在ローン地獄だそうだ。公立の小学校に通わせることになったが、そこでもタワマンマウントをするために散財し、さらにはアイさんの夫の会社が倒産し、家計は火の車だ。それが原因で2人は喧嘩し、離婚したようだ。アイさんは人知れずタワマンを売り払い、実家に戻ったらしい。カイト君もアイさんに連れられて引っ越し、転校を余儀なくされた。
向こうでは、マウントを取らずに友達ができるといいな。
私たちは予定通り、隣のマンションの最上階に引っ越した。豊かがユウ君と同じ小学校を希望していたため、あの小学校に通っている。
「こんにちは。お邪魔します。」
「ユウ君、いらっしゃい。」
ユウ君と豊かは相変わらず仲がいい。結局、どこに住んでいるかなんて、さして問題じゃないんだ。子供たちが笑ってくれていたら、それでいい。
私は子供たちの笑い声を聞きながら、窓の外を見下ろしていた。
