「いや、絶対に謝らないわよ。あなたが怪我をしたのは、全部あなたのせいなんだから。」勝ち誇った笑みを浮かべながら、ルリ子さんはそう言い放った。彼女の言葉に、私はただ唇を噛むことしかできなかった。
私はルリ子さんに胸ぐを掴まれ、そのまま引きずり倒された。両手両足はひどいすり傷だらけで、血が滲んでいる。なのにこの人は、私が怪我をさせられたことに対して、一切謝ろうとしない。どうしてこんなに平気な顔をしていられるのだろう。悔しさで体が震えた。この時、私はまだ知らなかった。これからルリ子さんの身に、まさに因果応報とも言える報いが訪れるということを。
私の名前は原田里。今日は幼稚園に入ったばかりの娘・愛の、生まれて初めての運動会だ。どんな結果になっても、愛をいっぱい褒めてあげよう。そう決意して、私は朝早くから場所取りのために幼稚園へと向かった。番見通しのいい場所を確保し、娘の晴れ姿をしっかり録画できるようデジカメを構えて、出番を待っていた。
その時だった。「ちょっとあんた、確か里さんだったわよね。この場所、私に譲りなさいよ。」威圧的な声に、私は思わず身構えた。彼女は霧島ルリ子さん。ママ友たちの間でも、悪い意味で有名な人だ。何しろ、彼女の夫はヤザの組長をしているらしく、断るたびに夫の名前を出して周囲を脅し、女王のように振る舞っているのだ。
私もできれば関わりたくないと思い、普段からルリ子さんを避け、当たり障りのない付き合いしかしていなかった。まさか、この晴れの日に目をつけられるなんて。
「すみません、私、朝早くからこの場所に来て娘の出番を待っているんです。申し訳ないんですが、他の場所に行ってもらえませんか? 」
できるだけ優しく言ったつもりだった。だが、ルリ子さんは露骨に苛立った顔をした。
「何よ里さん、私の言うことが聞けないっていうの? まだ他に空いてる席はたくさんあるでしょう。」
「そこも見晴らしのいい場所だと思いますよ。」
「私はここがいいのよ。分からない? 私、ここで運動会を見たいの。」
「私もこの場所で娘を見たいんです。できれば他の場所に行ってくれませんか?

」
「はあ、そう。里さんってそういう人なのね。」
ルリ子さんは私から視線をそらし、一歩後ろに下がった。分かってくれたのだろう。私は安心して、グラウンドの方を向こうとした。の、その時だった。
ルリ子さんは突然、私の胸ぐを掴むと、そのまま私を引きずり倒した。
「痛い…。何をするんですか! 」
驚きと痛みに耐えながら、なんとか体を起こすと、両手両足にはひどいすり傷ができていた。だが、ルリ子さんはそんな私のことなどお構いなしといった様子で、それまで私が立っていた場所に堂々と立つと、勝ち誇ったような笑みを浮かべたのだ。
「ルリ子さん、そこは私の場所ですよ。どうしてこんなひどいことをするんですか! 」
「今は私の場所なのよ。見て分かるでしょ? 」
「ルリ子さんが無理やり私をどかしたんじゃないですか!
こんな怪我までして、ひどい。謝ってください。」
「なんで? 里さんが邪魔だからどかしただけじゃない? 最初から私の言うことを聞いていれば、怪我なんかしなかったのに。あなたってバカね。」
なんとか立ち上がる私だが、すり傷だらけになった手足からは血が滲んでいた。れに気づいた他のママ友が慌てて駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫里さん? ひどい怪我よ。とにかく一度、保険室に行きましょう。」
ママ友に支えられながら、私は保険室へ向かった。保険室の先生は、傷だらけになった私の手足を見て驚きつつも、すぐに治療をしてくれた。
「ルリ子さんは、いつもあんな調子なのよ。すぐに怒鳴りつけるし、何でも暴力で解決しようとするしかも謝らないしこちらが何か言うと、すぐにヤザをしている旦那さんの名前を出すのよだから、あまり関わらない方がいいわ。」
ママ友は気の毒そうな顔をしながらも、どこか諦めたように語った。これ以上ルリ子さんに関わっても、ろくなことがないのを、ママ友もよく知っているのだろう。
だけど、私は許せなかったし、諦めきれなかった。ルリ子さんにはきちんと謝らせたいと思ったし、あの場所は、私が愛のために朝早くから準備して取れた、一番いい場所なのだから、絶対に譲りたくはない。
「でも、私、ちゃんとルリ子さんと話してみます。」
このまま引き下がるのは、あまりにも悔しい。れに、私はママ友にお礼を言うと、ある場所に連絡をしてから、再びグラウンドへと向かった。
ルリ子さんは、元々私がいた場所で、堂々と運動会を眺めている。
「ルリ子さん、その場所は私の場所です。だから、返してください。それに、怪我をさせたのもちゃんと謝ってください。大人ですよね。」
勇気を出して声をあげる私に対し、ルリ子さんは見下すような目を向けた。
「里さんって結構しつこいのねえ、いやよ。こは私の場所あなたは言うことを聞かなかったから怪我をしたの。だから、全部あなたが悪いの。」
「おかしいでしょう!
胸ぐを掴んで引きずり倒したのは、ルリ子さんじゃないですか。」
「だから何よねえ、里さん、いい? 私の夫はヤザの組長をしているのよ。分かってる? 文句があるなら、ヤザの夫に頼んで、家族ごと消してあげましょうか? 」
ルリ子さんの言葉に、私は思わず黙り込んだ。するとルリ子さんは、意地の悪い顔をして私を見る。
「ヤザは怖いのよあなたの夫も、可愛い娘さんも、全部消せちゃうんだからだから、私に逆らうなんてやめておきなさい大事な家族を失いたくないでしょう。」
その言葉を示すかのように、周囲にいる人たちはルリ子さんから視線をそらしていた。の態度から、私のことは気の毒だが、それ以上にルリ子さんと関わりたくないという様子が、ひしひしと伺える。ママ友の言う通り、ルリ子さんは今までも、夫がヤザの組長であることを使って他人を脅し、こんな風に嫌がらせをしてきたのだろう。
「そんなにヤザが偉いんですか?
ヤザと言っても、どうせ小さな組なんでしょう。」
私は怒りから、ついそんな言葉を口にした。小さいという言葉に、ルリ子さんはカチンと来たのだろう。怒りのこもった視線を、私へと向ける。今まで、ヤザの夫を出せば全てが済んでいたのに、私が言い返したのも気に入らなかったのだろう。
「何よ、私の夫を馬鹿にしているの? 私の夫は、赤狼組の組長よ。」
「どうあ、驚いた。」
赤狼組は、この町全体を支配しているヤザだ。構成員の数も多い。の地域に住むママ友たちが恐れるのも当然だろう。
だが、私だってこのまま引き下がるわけにはいかない。れに、私は手にしたデジカメをルリ子さんに突きつけた。
「ルリ子さんが私を引きずり倒すところ、私、デジカメで動画撮影していましたから、これを証拠に被害届を出しました。いいですよね。」
私の言葉を聞いて、ルリ子さんは鼻で笑った。
「何言ってるの? さっき言ったでしょ? 私の夫は赤狼組の組長なのよ。警察は動いたりしないわだって、夫は警察よりずっと怖いもの。」
きっとルリ子さんは、警察が来る前に、私の家族をヤザに襲わせるつもりなのだろう。だから私は最初から、警察に被害を訴えるつもりはなかった。
「誰も警察に被害届けを出すとは言ってませんよね。」
「何よ、警察じゃなければ、どこに被害届けを出すって言うのよ。」
「白蛇組の組長と若頭それと、青龍組の組長です。」
ルリ子さんは目を丸くした。白蛇組は、地域一体を支配する巨大なヤザだ。青龍組はその隣にある組だが、やはり赤狼組よりずっと大きい。私の口からヤザの名前が出てきたことによほど驚いたのだろう。ルリ子さんは叫ぶように声をあげた。
「なんでそこで白蛇組やら青龍組やらが出るのよあなた正気?
」
ルリ子さんの言葉に、私は微かに笑ってみせた。
「正気ですよ。だって、白蛇組の組長は私の父ですから。」
「そ、そんな嘘をついて私に対抗しても無駄よ。」
「本当ですよ。私の兄は白蛇組の若頭そして、私の夫は青龍組の組長ですと実は私、ヤザの娘ですから。」
ルリ子さんだけに聞こえるよう、声で告げる。
その時、私の元へ男たちがやってきた。私の父と、兄と、夫だ。保険室で私が連絡をした相手は、私の家族だったのだ。
「遅くなったな、里。」
「おいおい、ひどい怪我してるじゃないか。こいつにやられたのか。」
兄は、私の両手に巻かれた包帯を見て、心配そうな顔をする。
「大丈夫だったか、里。」
「ん? あの女、どっかで見たような。」
夫は私の怪我を心配しているようだが、それ以上にルリ子さんの顔を見て、首をかしげていた。何かルリ子さんの顔に、思い当たることでもあったのだろうか。
一方、父は鋭い視線をルリ子さんへと向けていた。
「あなたが、ルリ子さんですか? いやあ、私の娘が随分とお世話になったようで。、まあ、ここでは何ですから、詳しい話はもっと静かな場所でしましょうか。」
言葉を発させぬ圧力を与えながら、父と兄はしっかりルリ子さんの肩を掴む。ルリ子さんは真っ青になると、何も言えないまま、父と兄に脇を抱えられ、黒塗りの高級車へと乗せられていった。
「里、お前も来るだろう? あいつとちゃんと話をつけておきたいもんな。」
ヤザの名を使って散々偉そうに振る舞う上、怪我をさせても平気な顔をしているなんて、絶対に許せないものなのだ。れは夫の車に乗り、そのまま白蛇組の事務所へ向かった。
大広間に入った時、すでにルリ子さんは床に正座をさせられていた。
「な、何よ!
私、悪くないわよ。悪気があってやったわけじゃないもの。」
ルリ子さんはすっかり怯え、声は震えているが、すぐに謝罪をするつもりはないようだ。
その言葉を聞いて、男たちは呆れた顔を見せた。
「おいおい、悪気がなくて、里のことを引きずり倒したのか。」
「もういい大人のくせに、そんな真似をするなんて、人間社会のルールを学ぶ機会がなかったのかよ。」
「悪気に関係なしに、やったことにはけじめをつけなきゃならんよそれが俺たちヤザの世界だ。」
「ヤザの嫁なら、それくらい分かってるだろう」
「ここで開き直るとか、どれだけ反省する気もないんだよ。」
「里に怪我をさせたのは、どう見ても事実じゃねえか。」
ルリ子さんは、今にも泣き出しそうな顔で周囲を見る。
その時、事務所のドアが開き、一人の男が飛び込んできた。
「ルリ子、お前はなんてことしてくれたんだ! 」
「あ、あなた助けて。のこの人たちが、私に謝れなんて言うのよ。」
事務所に入ってきたのは、ルリ子さんの夫だった。
「君が赤狼組の組長さんかね。」
「はい。霧島と申します。」
「今日呼んだ理由は他でもないうちの娘を、お前の奥さんが掴み倒して怪我をさせたそうなんだよ。証拠もここに動画がある。」
「君は自分の妻の素行さえ管理できないような、なさけない男なのかね。」
「申し訳ございません。私の監督不行き届きで、お嬢さんに迷惑をおかけしました。」
その場で深々と頭を下げる夫を前に、ルリ子さんは呆れと絶望が入り混じった顔を向けた。
「あなた、どうして謝ったりしてるのよ。組長なんでしょ? なんとかならないの? 」
「ば、バカ言うな。相手は白蛇組の組長さんだぞうちのように小さい組が、立ち向かえるような相手じゃないそれくらい、お前だって分かってるだろう。」
「なんでよ!
どうして今まではずっと私のこと守ってくれてたじゃない。」
「それはお前が騒ぎを起こすから、メンツを保つため、仕方なくやってただけだ。」
「いつも『もうやめろ』と言ってただろうが。」
「そ、そんなのお前と来たら、何度も何度も同じようなことをして。」
ルリ子さん夫婦はその場で言い合いになりかけるが、父が一つ咳払いをすると、ぴたりと喧嘩をやめた。やはり白蛇組の組長がこれから何を言い、どのような処遇が待っているのかが気になるのだろう。
「どうやら、お前の奥様は赤狼組の名を使って、随分と迷惑をかけているようですね。」
「はい。そのおっしゃる通りです。申し訳ありません。」
「娘の話では、お前の奥様は周囲に向かって、やりたい放題しているとかこのままでは、赤狼組の名前も傷つくことでしょう。」
「そうですか。ここで一つ、提案ですが、赤狼組にはうちの幹部を入れ、組員に余計な迷惑をかけていないか確認するというのは、いかがですかな? 」
つまり、赤狼組の監視をするということだ。の意味を、ルリ子さんの夫も理解しているようだった。赤狼組に父の部下が入るということは、これを足掛かりにし、赤狼組を傘下にするか、そのまま吸収する目論みもあるのだろう。
「分かりましたそのようにします。」
「ちょ、ちょっとあなた、それじゃ私が困るじゃない。」
「うるさいお前、分からないのか? 白蛇組がその気になれば、うちの組なんてひとたまりもないんだぞ。」
再び言い合いを始めるルリ子さん夫婦を、夫は首をかしげながら見ている。うかと思うと、夫は不意に何かを思い出し、大きな声をあげた。
「思い出したぞこの女、誰かと思えば、俺の会社の金を持ち逃げして、行方をくらましていたやつじゃないか。」
夫は組長を務める傍らで、組の資金で運営している会社の経営にも携わっており、組長兼社長として働いている。の会社で数年前、横領騒ぎがあったのだ。
経理を任せていた女性が、かなりの金額を持ち逃げし、その穴埋めで夫は随分苦労したのは、私も覚えている。まさか、あの時の犯人がルリ子さんだったなんて。
「間違いない。髪の長さと化粧が違うから、すぐに思い出せなかったんだ。」
「あれだけの金をちょろまかしたんだとっくに高飛びしたかと思っていたが、こんな近くにいたとはなあ。」
私たちの会話に気づいたのか、ルリ子さんは気まずそうに目をそらした。
「何よ、あの会社、関係だったの? 逃げ切れたと思ってたのよ。」
「どこまでついてないのよ。」
小声だが、私の耳にはそんな言葉が聞こえた。やはり、犯人はルリ子さんだったようだ。
「ルリ子、お前、そんなことまでしていたのか。」
夫は驚いた顔でルリ子さんを見る。の横領の件は、夫も知らなかったようだ。
「あの時は、うちの会社に随分な穴を開けてくれたよなあ。」
「おい、あの金はどうした?
」
「す、そんなのもう使っちゃってないに決まってるでしょ。」
「おいおい、ガキの小遣いって金額じゃなかっただろう。」
「一体、何に使ったって言うんだ? 」
「あの時は随分と騒ぎになったが、その金も払えないと来たか。」
父と夫はちらりとルリ子さんを見る。ルリ子さんは、ただ気まずそうに視線をそらすだけだった。
「この女を絞ったところで、一文にもなりゃしないだろうな。」
「仕方ない。青龍組に支払ってもらうとするか。」
「え、俺がですか? 」
「ああ、お前に金を払えとは言わんさ他の代償を支払ってもらうがな。」
父は笑いながら、一本の電話をかける。の直後、夫のスマホが音を立てて鳴り始めた。
「電話、取っていいぞ。」
父に促され、夫は電話を取る。
「ああ、な、だ、なんだって? 襲撃を受けただと。」
驚く夫を前に、父は微かに笑ってみせた。
「組長が不在の時に襲うとは、全く運がないな。」
「まさか、白蛇組が。」
「やあ、お前さんの嫁がうちに開けた穴の代金だと思えば、安いもんさ。」
夫は、その場に力なく膝をついた。
「何があったのよ、あなた!
」
「いや、いや、今までより贅沢な生活ができなくなるっていうの。」
「うるさい! 全部、お前のせいだろうが! お前が白蛇組を敵に回したから、俺の組が潰されたんだぞ! 」
「いやよ!
そんなの絶対認めない! 私、絶対に許さないんだから! あなたが悪いんだって、みんなに言いふらしてやる! 」
ルリ子さんは私の前でわめき立てる。の姿を見て、夫は呆れたようにため息をついた。
「もういいだろ、里。病院で応急手当てだけだと心配だしな。」
「でも、大丈夫かしら?
」
「心配しなくても、父さんとお兄さんがなんとかしてくれるさ。」
「それより、愛の運動会、まだ間に合うだろ。」
「そうね。」
「お父さん、兄さん、あとはよろしくお願いするわね。」
私は夫に連れられ、病院へと向かった。両手に派手な傷を負ったと思ったが、傷自体は浅く、治療を終えた私はすぐに幼稚園へと戻っていった。
グラウンドに着くと、今朝の騒ぎを知っていた他のママ友が、私の場所を譲ってくれた。
「今ちょうど、愛が走ろうとしているところよ。」
よかった、これから走るみたい。
「よし、俺が動画を撮ってやる。」デジカメ貸してくれ。」
夫はデジカメを構えて、愛の姿を撮影する。
笛の合図で一斉にスタートした後、愛は小さな体で懸命に走り、一番に駆け抜けていった。
「やった! パパ、ママ、見てた? 」
愛は無邪気に笑いながら手をあげて喜ぶ。れはその姿を微笑みながら見守っていた。
それから一ヶ月後、運動会の後、ルリ子さんは私がヤザだと周囲に言いふらしていたらしい。だが、ルリ子さんは元々ママ友からほとんど信用されておらず、まともに取り合う人はほとんどいなかった。
私は普段から夫がヤザだなんて伝えていないし、夫は表向き、会社の経営者になっている。
それに、ヤザをちらつかせて周囲を脅していたルリ子さんと、一度もヤザの名を借りたことがない私とでは、どちらを信じるかなんて、火を見るより明らかだろう。ママ友たちは、誰もルリ子さんの話を信じず、私に対して「酷い噂をばらまかれて大変ね」と気遣ってくれる人の方が多かった。
ヤザの夫という後ろ盾をなくしたルリ子さんは、自然とママ友から孤立していった。元々ヤザの名で周囲を従わせていたのだから、それも当然だろう。
ルリ子さん夫婦の間には、次第に喧嘩が絶えなくなったという。して、ついに夫は離婚届けを置き、妻子を捨てて出ていってしまったそうだ。
残されたルリ子さんは、しばらく自宅に留まっていたのだが、金遣いの荒い彼女は、貯金もなく、家のローンも返せる状態ではなかったようだ。
家を手放しても借金が残ったようで、子供を育てる余裕もなくなってしまったのだろう。ルリ子さんの子供は、すぐに施設に預けられたのだという。
ルリ子さんもしばらくは、この町のボロアパートで過ごしていたようだ。だが、今まで横暴に振る舞っていた報いなのだろう、街中から白い目を向けられることに耐えかねたルリ子さんは、気づいた時にはこの町から姿を消していた。
私はと言うと、今日も周囲のママ友たちと平和に過ごしている。
愛は、運動会で一番になったことが嬉しかったのだろう、夫が撮った動画を何度も再生して楽しんでいた。
「見て見て、ママ私、一等なの。」
「良かったわね。」
「パパが綺麗に撮ってくれて、じいじにも見てもらいたいな。」
「そうね来年の運動会は、おじいちゃんにも来てもらいましょうね。」
来年は、父を誘い、親子三世代で運動会を楽しもう。嬉しそうに笑う愛を見て、私はもう次の運動会が楽しみになっていた。。