半年ぶりにやよいさんが店に現れたとき、俺は正直、何と言っていいのか分からなかった。彼女が忙しくなったのは喜ばしいことだ。なのに連絡がぱたりと途絶え、会えない日々が続くうちに、俺は毎日のようにしょんぼりして暮らしていた。そんな矢先の突然の来店だった。
「お久しぶりです、橋田さん」
すると、俺の横にいた娘がとんでもないことを口にした。
「お父さん、ずっと会えなくて落ち込んでたの」
俺の名前は橋田涼。妻が家を出て行ってから、一人娘のあかりと二人で支え合って暮らしている。シングルファザーという立場は今や珍しくないかもしれない。だが、両親も近くに住んでいない俺にとって、仕事と子育てを両立させるのは並大抵のことではなかった。
俺は元妻と結婚する前から自営業をしていた。小料理屋を営んでいるのだ。最初は小さな店だったが、少しずつ大きくすることができ、今では二号店、三号店まで構えるほどになった。店を大きくすることだけを考えて、この十数年必死にやってきた。そのせいで、確かに家庭はほったらかしにしていた面があると思う。妻はいつの間にか彼氏を作り、あかりと俺を置いて一人で去っていった。不倫をした妻は許せないが、そうさせてしまった俺にも責任の一端はある。
あかりは最初、ママがいないと泣いて暮らしていた。だが、そのうち俺が店に連れて行き、手伝いをさせると、それが楽しかったのか夢中になった。九歳になった今では、たくましく元気に過ごしている。離婚後、店のすぐ横の小さな家を買い、あかりは店の手伝いが終わるとそこに帰って先に寝る。何かあってもすぐに帰れるから、その点は安心だ。
以前の俺は、店に子供を連れて行くなんて考えられない仕事人間だった。しかし娘と二人になり、家族の存在を一番に優先したいと考えるようになった。あかりはホールの手伝いをしてくれるのだが、下手なアルバイトを雇うよりも仕事ぶりがいい。
「父さん、あのサラダはみんな残してるよ。メニューから外した方がいいんじゃない? それより、こういうサラダの方がいいよ。トイレの壁にこれ飾ったらどうかな?」
あかりの忠告はどれも唸るようなものだった。言う通りに改善すると、お客さんからの良い反応がすぐに返ってくる。もしかしたらこの子には経営者としての素質があるのかもしれない、なんて親ばかを考えるほどだった。
俺があかりを連れてくることは、事前に店のスタッフ全員に相談した。みんな離婚のことも理解してくれて、心よく承諾してくれた。それどころか、自分も子供を夕方連れてきて手伝わせたいと言う子持ちのスタッフが何人かいた。俺はもちろん歓迎した。みんなが働きやすいように協力し合える体制を作りたかったのだ。子供が病気の時はお互い様だと言って、穴を埋め合えるようになった。子供たちは店の手伝いをしてくれたり、俺たちの自宅で一緒に遊んでくれたりして、親たちからは「こんな店を作ってくれてありがたい」と感謝の言葉が絶えなかった。俺だってみんなには感謝している。みんながいなければ、子育てしながら店を経営するなんてできなかっただろう。
「いらっしゃいませ!」
今日もスタッフとして働くあかりの元気な声が響く。ここは観光地なので遠方から来るお客さんもいて、子供たちが手伝っているのを微笑ましく見てくれる。看板娘として、あかりは店の繁栄に大いに貢献してくれている。
そんな俺たち親子だが、ある日、故郷ふれあい祭りという地域の店や企業が出展するイベントに参加した。大きなイベント会場で催されるこの祭りに参加すれば、店の知名度はもっと上がると思ったからだ。全国からテレビ中継も来ている。たくさんの店が出展する中で、俺とあかりも休憩をもらい、他の店を見て回ることにした。
「お父さん、見て。あのお店、綺麗だよ」
あかりが指を差したのは、隅っこの小さいスペースでガラス工芸品を売る店だった。
「本当だ。あかりは好きそうだな」
俺はあかりに手を引かれながら、その店の前に行った。
「こんにちは。いらっしゃいませ」
大人しそうな綺麗な女性がニコッと笑って接客してくれた。小ざっぱりとしているが痩せている。お世辞にも繁盛しているとは言えない店だった。女性のそばには小さな女の子がポツンと座っていた。まだ幼稚園児くらいだろうか。
「いらっしゃいませ」
可愛らしいその女の子も、一丁前にお店の手伝いをしていた。
「よろしければ見ていってください。こちら、全て私どもの手作りで出させてもらっています」
「全部手作りなんですか? すごいですね」
俺はその繊細な作りのガラス工芸品の数々に驚いた。ガラスのコップ、箸置き、大皿や小皿から花瓶まで、百点ほどの工芸品が並んでいた。
「この小皿、お店の小鉢に使うと素敵じゃない?」
あかりは真剣に一点ずつ吟味していた。
「ああ。うん、そうだね」
俺もその小皿に自分の料理が乗っているところを想像した。
「じゃあ、せっかくだから購入させてもらおうかな」
「ありがとうございます。この小皿でよろしいですか?」
「違います。ここにある全部です」
「え?」
俺とその店の女性は、同時に大きな声を出した。
「ち、ちょっと待って。あかり、全部は買えないよ」
「なんで? お店で使うんだから、ここにある分は買わないと足りないよ」
すると、お店にいた女の子がニコニコしながら言った。
「全部買ってくれるの? お姉ちゃん、ありがとう」
「いや、ごめん。全部はちょっと……」
俺が言いかけた時、女の子は信じられないことを言った。
「ママ、これで今日のご飯買えるね」
店の女性は、その女の子を切なそうに見つめている。この親子はガラスの工芸品を売って生計を立てているのだ。もし売れなかったら、その日のご飯も食べられないくらい切羽詰まっているらしい。俺はこんな二人を前に、断ることができなくなっていた。しかも、この様子だとこの親子も親一人子一人の同じ境遇なのかもしれない。俺は何か不思議な縁も感じ、あかりの言う通り、出展された百点の品を全部買い取ることにした。その日に持ち帰ることはできなさそうだったので、商品は後日配送してもらうことにした。
「本当に、本当にありがとうございます」
やよいさんというその女性は、何度も頭を下げてくれた。聞くと、やはり彼女もシングルマザーで、娘のみれいちゃんを育てながらガラス工芸品を売って生活しているらしい。俺と彼女は携帯の番号を交換して、その日はそのまま別れた。
数日後、しっかり梱包された彼女の作品がうちの店に届いた。
「すごい、素敵な器ですね、社長」
「俺というか、あかりが見つけたんだよ。店で使うならこれがいいってさ」
「さすがあかりちゃん。見る目がありますね」
「でしょ? えへん」
あかりは得意そうに店のみんなに見せびらかしている。やよいさんの作るガラス工芸は、確かにあまり見たことがないデザインで、独特の色と形をしていた。古来からあるデザインをうまく生かしているようでもあれば、そのデザインの中に新しさも感じる。何とも言えない素敵な作品ばかりだ。
「社長、この商品って個人的にも購入できますかね? 私も家に欲しいな」
他のスタッフにも購入したいという人がいたので、俺はやよいさんに連絡をしてみた。
「この前買った商品の納品、ありがとうございました。ところで、追加で注文することはできますか? うちのスタッフもみんな気に入って、個人的に購入したいと言っているんです」
「本当ですか? 嬉しいです。ありがとうございます」
やよいさんは電話口でとても喜んでいた。やよいさんはその他の作品の写真もいくつか送ってくれて、スタッフたちは楽しそうに吟味していた。それらの作品も無事にお店に届き、箱を開けるとみんなから感嘆のため息が漏れた。
すると、あかりがこんなことを言い出した。
「ねえ、お父さん。このガラス製品をうちの店で売ったらどう?」
確かに、最近やよいさんの器で料理を出すようになり、お客様から「この器はどこのものですか」と聞かれるようになった。
「そうだな。いいかもしれない。店にはまだ少しスペースもあるし、うちは観光地に近いから。お客さんもお土産に買っていく人がいるかもしれないね」
あかりのアイデアで、店のショーケーススペースに土産物コーナーを作ることを、やよいさんにも相談してみた。
「私の作品を置いていただけるなんて、そんな嬉しいことはありません。是非よろしくお願いします」
やよいさんも快諾してくれたため、彼女を呼んで直接土産コーナーの相談をしたかった。
「是非、みれいちゃんも連れてきてください。あかりが楽しみに待っています」
遠方から来てくれるやよいさんたちのために、俺たちの自宅の客間に泊まってもらうことにした。
「お久しぶりです」
俺たちは店のみんなと一緒に、彼女たちを温かく迎えた。
「皆さん、本当にありがとうございます。これからうちの商品をよろしくお願いします」
やよいさんは今にも泣きそうな顔で俺たちに頭を下げた。
「こちらこそ。素敵な器と巡り合えて、料理が引き立つようになったんだと思います。やよいさんのおかげです」
俺たちは店を閉めた後、定期納品の契約を交わした。子供たちは自宅に戻って一緒に遊んでいる。
「みれいちゃんは、またお姉ちゃんに会いたいってすごく楽しみにしてたんですよ」
「あかりもです。まるで本当の姉みたいに、おもちゃやらお手紙を用意していましたよ」
俺は四人分の夕飯を作り、子供たちを店に呼び寄せた。
「みんなでご飯にしよう」
「お腹ペコペコ」
「ねえ、みれいちゃん」
「うん。ペコペコ」
何でもあかりの真似をするみれいちゃんが可愛くて仕方ないようだ。俺はやよいさんの器を使って、たくさんの小鉢と店の人気メニューを出した。特に刺身は、やよいさんのガラスの皿に乗るとキラキラ輝くようだ。
「こんな素敵なお料理を載せていただいているんですね。光栄です」
やよいさんは俺の料理を褒めまくってくれた。
「私にはこんな手の込んだ料理は作れませんし、お恥ずかしながらこんな高級な食材は買えません。みれいも、お刺身なんて初めて食べるかもね」
「うん。このお魚、美味しい」
みれいちゃんは初めて食べる刺身を気に入ったようだ。
「この小鉢の副菜には、こういうのとかが入ってます。あと、この魚はこの辺でも取れるのは珍しくて、塩をつけて食べると美味しいですよ」
俺ではなく、あかりが料理の説明をしたから驚いた。今までお客様にもそんな風に説明して回っていたのだろう。スラスラと全ての料理の紹介をしてのけた。
「あかりちゃん、本当にお父さんの右腕となってお仕事してくれてるんですね」
「もしかしたら、俺よりも分かりやすい説明かもしれません」
俺とやよいさんは笑い合った。
「ここは海にも近いので、魚が新鮮で美味しいんですよ。それに、やよいさんの作品が売れれば、これからたくさん美味しいものも食べれますよね」
俺はこの二人の幸せを願わずにはいられなかった。こんなに必死に一生懸命生きている二人には、お腹いっぱい食べてもらいたいし、不安なことはできるだけなくしてあげたい。
「本当に、あの日橋田さんにお会いしなかったら、私たちどうなっていたか。実は、みれいのためにもお店は畳もうかとも考えていたんです」
「そうなんですか」
「はい。ずっと迷いながら工芸品を作っていたけれど、なかなか商品は売れないし、稼ぎも少ないし。お金にならないのなら、やっぱり自分たちの生活は成り立たないし、みれいのためにも普通の会社に転職した方がいいかなって思って」
「そうだったんですね。じゃあ、俺たちがやよいさんの作品を見つけられたのはラッキーだったんだ」
「本当にありがたいことです。でも、まだまだこれからですね。たくさん売れるように頑張らなきゃ」
そう言うやよいさんを、俺は精一杯応援したいと思った。
しかし、いくらうちの店に置いたからと言って、爆発的に売れたり、定期的な顧客ができるわけではないだろう。俺はどうしたらやよいさんの作品に固定客がつくかを考えてみた。まず、俺は彼女を地元のイベントに誘ってみた。少なからず知り合いにも聞いて、やよいさんのガラス細工を広めてもらおう。そしてさらに、県外の友達の店に彼女の作品を置いてもらえないか交渉してみた。持っていってみて好評だったから、置いてもらえることになった。こうして少しずつ、やよいさんと俺は商品の営業をしていった。その間、店の仕事は穴を開けてしまったが、みんなが協力して頑張ってくれていた。もちろんあかりも頑張って手伝ってくれた。
どんどん置いてくれる店が増えていく中で、SNSで投稿してくれる購入者が増え、またたく間に彼女の作品は全国的に有名になった。彼女は自分でもサイトを立ち上げ、インターネットでの販売もしていくことになった。営業したお店の中からは、オリジナルのペアカップを作って欲しいと注文をもらったりした。彼女はそのオリジナル作品を作るため、しばらくその制作に集中することにした。一緒に営業に回ったり、うちの店の納品をしてもらったりしていたので、しばらく会えないのは初めてのことだった。
その間も俺たちは個人的に連絡を取り合っていた。彼女とみれいちゃんの生活が心配だったのもあるが、俺は単純に彼女に会えなくて寂しい気持ちが大きかった気がする。オリジナル作品が完成し、少し落ち着いた頃、やよいさんから久しぶりに「みんなでご飯を食べませんか」とお誘いの連絡が来た。しかも今回は、やよいさんの自宅に招いてくれるらしい。俺は少し緊張しつつも興奮気味のあかりと一緒に、やよいさんの家を訪問した。
「橋田さん、あかりちゃん、いらっしゃいませ」
彼女の久々の笑顔は、俺の胸をドキドキさせた。彼女の工房は自宅の敷地内にあり、そこも見学させてもらった。
「父が使っていた工房をそのまま、こんな感じで使ってるんです。そんな父も、もう亡くなってしまったんですけど」
寂しそうに言うやよいさんだったが、自分の作品たちを愛おしそうに見る彼女の顔はキラキラ輝いていた。
「ねえ、私も作ってみたいな」
「だめだよ、あかり。作るのは簡単じゃないんだから」
「あかりちゃん、やってみる?」
やよいさんは笑顔になって、あかりを工房の奥に連れて行った。
「すみません。わがまま言って」
「いいんですよ。嬉しいですよ。やりたいなんて言ってくれて」
彼女はエプロンをつけて、一層職人らしくかっこよく見えた。暑いガラスの吹き上げを汗をかきながら真剣にするやよいさんに、俺はしばらく見とれていたと思う。あかりも少し吹くのを体験させてもらったり、自分で色を選ぶのを楽しそうにしていた。
「お姉ちゃん、こういうのが似合いそう」
今日はいつもとは逆に、みれいちゃんの方がお姉さんのように色々教えてくれている。二人のほのぼのとしたやり取りには、俺もやよいさんも目を合わせて笑い合ってしまう。
「あとは一晩冷ましたら完成よ。今度、完成品を持っていくね」
「ああ、楽しかった。ありがとうございました」
満足の行くものができたようで、あかりはとても嬉しそうだった。
「お腹も空いたし、みんなでご飯にしましょう」
やよいさんは自宅の方に、たくさんの料理を用意してくれていた。
「こんなにたくさん作るの、大変だったでしょう」
「橋田さんのようなプロの方にご飯を出すのは気が引けますが、日頃の感謝を少しでも返したくて。よかったら食べてみてください」
「いただきます」
俺たちはみんなニコニコ顔で夕食を囲んだ。なんだか、元からこの四人で食卓を囲ったことがあるかのような、不思議な感覚だった。
「うん。マジでお世辞じゃなく、美味しいですよ」
「本当ですか? よかった」
やよいさんのほっとした時の笑顔が、俺は大好きだ。食事後、子供たちが遊び出したので、俺はやよいさんの洗い物を手伝うことにした。
「本当に橋田さんは私たちの救い人です。今日も満足に食べさせてあげられたのは、橋田さんのおかげなんです」
「そんなことないです。あかりだって、みれいちゃんと出会ってからずっと楽しそうにしていて。母親のいない寂しさを少しずつ癒やしてくれてるのは、お二人なんですよ」
「あの、橋田さん。また今度、ご飯作らせてください。こんな家でよければ、みんなでご飯を食べて楽しく過ごしてもらえたらなって。少しずつでも、橋田さんに恩返ししていきたいんです」
「ありがとうございます。是非、お邪魔させてください」
それから、今日はちょっとご報告もあって。
「何ですか?」
「実は、橋田さんと一緒に営業に行った時に、地方のガラス工房の方と名刺を交換したんです。その方から、うちの技法を教えて欲しいって連絡があって。その方の工房にはまだ若い職人さんたちがたくさんいるらしく、講師の手が足りないとかで、私に来てくれないかって声をかけてくださったんです。さっきあかりちゃんに教えていて、心が決まりました。私、自分の作品を作るのも好きですけど、この技術をもっとたくさんの人に広めたいなって」
「すごいじゃないですか。行ってきたらいいですよ」
俺は彼女に新しい夢ができたことを嬉しく思うと同時に、彼女が遠くへ行ってしまうという現実に、内心焦りを感じていた。
「それで、どこに行かれるんですか?」
「沖縄のガラス工房です。あ、でも、とりあえず半年というお話で」
半年? 俺は半年、彼女と会えないのか? 俺がぼうっとしたまま言葉を返せないでいると、彼女は慌てて言った。
「行くまでにまだ少し時間はあるので、またご飯しましょうね」
俺たちは今までよりも頻繁に連絡を取り合って、お互いの家を行き来するようになった。彼女は作品や納品の準備、SNSの運用まで大忙しとなり、一緒に営業に回ることはできなくなったが、インターネットでどんどん話題になるので、営業に回ることも必要なくなった。そしてついに、沖縄に行く日が来た。彼女は店の販売は一旦休止し、みれいちゃんと共に旅立って行ってしまった。
彼女が沖縄に行ってから、連絡はだんだんと少なくなってしまった。俺はメッセージの返信をまだかまだかと待つ日々が続いた。もちろんあかりも寂しがっていたが、それよりも父が落ち込んでいるのが気になっていたのだろう。
「お父さん、半年後には戻ってくるんだから、気長に待ちなさいよ」
俺よりもだいぶ大人に育った娘の言うことを聞いて、俺は彼女の帰りを待った。そして半年後、俺が開店の準備をしていると、外にお客さんが来た気配がした。
「もう少々お待ちください」
俺が店の扉を開けて言うと、そこにはやよいさんとみれいちゃんが立っていた。
「橋田さん、お久しぶりです」
やよいさんは小麦色に日焼けして、元気そうな笑顔を俺に向けた。
「え、やよいさん、帰ってきたんですか?」
「連絡できずにごめんなさい。今日はサプライズで来ちゃいました」
いたずらっぽく笑う彼女を、俺は抱きしめたくなった。しかし、ここは店だし、みれいちゃんもいる。気持ちを押し殺して、二人を中に入れた。学校から帰ってきたあかりも、みれいちゃんを見つけて抱きついた。
「お帰り、みれいちゃん」
「ただいま、お姉ちゃん」
二人の再会を見て、なんだか泣きそうになる。
「またみんなで会えるって言ったでしょ」
やよいさんも涙を拭いている。
「お父さんったら、ずっとやよいさんからの連絡待ってたのよ。スマホを何回も見てはため息ついて。もう落ち込みすぎてどうしようかと思ったわ」
あかりのとんでもない発言を、俺は口を押さえて止めた。
「おい、何言ってるんだよ」
「だって、本当のことでしょ? みれいちゃん、あっちで遊ぼう」
そう言うと、あかりはみれいちゃんの手を引いて自宅の方に行ってしまった。
「あ、えっと、その、すみません。なんか……」
俺は汗をかきながらやよいさんの方に向き直る。しかし、そんな俺を差し置いて、やよいさんは言った。
「いえ、あの。私も、橋田さんに会いたかったです」
「え?」
俺はやよいさんからの意外な告白に、またもやパニックになった。
「半年間離れてみて、橋田さんのことが大切な人になっていたんだって分かりました。あまり連絡できずにごめんなさい。電話やメールをしたら、会いたくて帰りたくなっちゃいそうで」
彼女は顔を真っ赤にしてそう言ってくれた。こんなことを女性から言わせてしまったと、俺も慌てて彼女に言った。
「俺も、俺もやよいさんのことが大好きなんだって。この会えない期間で気づかされてしまいました。やよいさん、よかったら俺と交際していただけませんか?」
俺は改めて交際を申し込んだ。
「はい、よろしくお願いします」
俺たちはしばらくの間、中距離の自宅を行き来して過ごしていたが、お互い仕事が忙しくてなかなか会えないこともあり、二人でのデートもなかなかできないでいた。子供たちもいるから仕方ないが、そんな時はあかりが気を利かせてくれた。
「今度のお休み、やよいさんも休みって言ってたよ。みれいちゃんと遊んでるから、二人で出かけてきてよ」
なんてできた娘なのだろう。一年ほど付き合った後、俺は意を決して、彼女たちを自宅へ呼ぶことにした。自宅の裏に彼女の工房を増設し、そこにお客さんを招いてガラス工芸品の制作体験ができるようにしたのだ。観光で来たお客さんが、ご飯も食べてそのままガラス作りを体験してもらえるような店になった。これで俺たちは、お互いに夢を叶えることができたのだ。
もちろん、うちに来てもらう前に俺は彼女にプロポーズをした。
「俺と一緒に、新しい家族として暮らしてください。君と、家族と、君の夢も守っていくよ」
「ありがとう、橋田さん。まさか、あの出会いで私たち四人が家族になるなんてね」
俺たちはしっかりと抱きしめ合った。俺たちの結婚を一番祝福してくれたのは、もちろんあかりとみれいだった。
「もう、お母さんって呼んでいいの?」
「早速切り替え早いな」
「やっと結婚したんだもん。遅いよ、二人とも」
ますます大人びるあかりに、俺はいつまでも敵わない。結婚の記念に、俺たちは家族四人でお揃いのコップを作った。朝日が降り注ぐカップボードには、四つの綺麗なガラスのコップが並んでいる。
