温泉で疲れを癒そうと訪れた平日の午後、まさかの再会が待っていた。「え、秋人、どうしてここにいるの?」湯船から聞こえたその声は、三年前に離婚した元妻のひよりだった。しかも隣には、かつて義母だった人がいる。気まずさで固まる私に、ひよりは悪びれもなく言った。「久しぶりにどう?」あまりのことに言葉を失う私へ、義母が微笑みながら衝撃の一言を放つ。「私も仲間に入れてもいい?」その瞬間、私の中で何かが崩れ…

温泉で疲れを癒そうと訪れた平日の午後、まさかの再会が待っていた。「え、秋人、どうしてここにいるの?」湯船から聞こえたその声は、三年前に離婚した元妻のひよりだった。しかも隣には、かつて義母だった人がいる。気まずさで固まる私に、ひよりは悪びれもなく言った。「久しぶりにどう?」あまりのことに言葉を失う私へ、義母が微笑みながら衝撃の一言を放つ。「私も仲間に入れてもいい?」その瞬間、私の中で何かが崩れ...

私は名前を明と言う。現在三十三歳。三十の時に離婚した、普通のサラリーマンだ。

二十七歳の頃、三年間付き合ったひよりと結婚した。友人の紹介で知り合った彼女は、とにかくエネルギッシュな女性で、じっとしていることができないような人だった。常に何か予定を入れたがるタイプで、私も毎日ジェットコースターのような日々を送っていた。そんなひよりと一緒にいると、今まで足を踏み入れたことのない世界を見ることができたし、初めての体験も数えきれないほどさせてもらった。それが楽しくて、私はどんどん彼女に惹かれていった。

しかし、それはあくまで恋人同士だったからこそ刺激的で楽しかったのだと思う。結婚して最初の一年は順調だった。結婚してもひよりの活動力は衰えず、常にスケジュールは埋まっていた。私もその頃はまだ若く体力もあったので、彼女の突拍子もない誘いに付き合って、いろんなことを一緒に楽しんだ。

だが、結婚して一年が過ぎた頃、私は昇進して仕事の忙しさが尋常ではなかった。毎日終電まで残業が続き、正直心身ともにヘトヘトだった。そんな状態の私は、休日にひよりの外出に付き合うのがしんどくなってしまった。

「疲れてるなら寝てればいいよ。ゆっくり休むのも大切だから。私は一人でも大丈夫だからさ」

ひよりはそう言って、一人で遊びに出かけるようになった。きっと彼女なりの優しさだったんだろうけど、当時の私は、こんなにしんどい時は隣にいてほしいな、なんて子供みたいな願望を抱いてしまっていた。そこで、たまには家でゆっくり過ごさないかと提案してみた。

「え、家にいても暇じゃん。せっかくの休みなんだから外に出たいんだよね。なんか家に閉じこもってるって息が詰まるっていうか」

ひよりは悪びれる様子もなくそう返してきた。

きっと、こういった小さな溝が私たちの離婚の前兆だったんだと思う。常に外の世界に目を向けるひよりと、たまには静かに充電したい私。この休日の過ごし方の根本的な違いは、最初は小さな火種だったはずなのに、いつの間にか燃え広がり、私たちの夫婦関係に深い亀裂を生んでしまった。

結局、その広がり続けた溝を埋める術もなく、私たちはただすれ違う毎日を送るようになった。そして三十歳を迎えた時、ついに離婚という決断を下すことになった。決して互いに嫌いになったわけではない。しかし、もう夫婦という形ではいられないと思ったんだろう。このまま一緒にいてもお互いを傷つけ合うだけだし、いつか憎しみ合うようになってしまうかもしれない。そう思うともう潮時なんだろうなと、二人の間で暗黙の了解ができていた。

引っ越し当日、ひよりはいつもの明るい笑顔で私に言った。

「秋人、これからも元気でね。交際期間が三年と結婚して三年。一緒に過ごした六年間は本当に楽しかったよ。これからはもう夫婦じゃなくなるけど、もし何か困ったことがあったら遠慮なく連絡してきて。秋人には幸せになってほしいから」

「ああ、俺も楽しかったよ。本当に色々とありがとう。ひよりも何かあったら連絡してこいよ。じゃあ元気でな」

私も負けずに精一杯の笑顔で答えたと思う。こうして私たちはそれぞれの新しい人生を歩み始めた。しかし、ここからは自分のために生きようと、私は前を向いて歩き始めた。

それから三年が過ぎ、三十三歳になった私は見事に落ちぶれていた。離婚した時に夢見ていたバラ色の未来とはかけ離れた現実。女性なんてまるでなく、孤独が私の日常をじわじわと蝕んでいた。満たされない日々をただ送り、いつの間にか仕事だけに染まったつまらない人間になっていたのだ。

ひよりとはあれ以来一度も連絡を取っていない。きっと彼女は今もいろんな世界に飛び込み、自分の人生を謳歌しているだろうから。そんな眩しいひよりの日々を、私の手で汚したくなかった。

ある日、仕事漬けの毎日に嫌気が差していた私は、思い切ってどこかに行こうと考えた。どうせなら溜まった疲れを洗い流せる場所がいい。温泉なんていいかもしれない。ひょっとしたら素敵な女性に出会えたりするかもしれないしな。そんな妄想と下心が頭の中で膨らみ、私は混浴のできる温泉に行こうと思い立った。携帯で検索してみると、意外にも自分の住んでいる県内にあることが分かった。早速、週末にその温泉へ行くことを決めた。

平日の仕事を乗り越え、ようやく週末がやってきた。こんな風に気ままに一人で出かけるなんて本当に久しぶりだな。そんなことを考えながら車に乗り込み、ナビの案内に従って山道を走り、ついに目的地の温泉にたどり着いた。脱衣所へ向かい、服を脱いで体にバスタオルを巻きつけた。誰かいるかな?胸をドキドキさせながら温泉への引き戸を開けると、女性の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。テンションは一気に上がった。

そして、湯船に浸かっている女性たちを見た瞬間、私は思わず声を上げてしまった。なんとそこにいたのは、まさかのひよりだったのだ。しかも、ひよりだけじゃない。なんとひよりの母親も一緒だった。ひよりは母親似で、母親とは顔立ちも雰囲気もまるで違う。ひよりの母親は息を飲むほどの美人で、どこかのんびりとした空気感をまとっていた。結婚したお母さんはひよりを育て上げ、私たちが結婚した年に夫であるひよりの父親を亡くしたと聞いた。あの時は悲しみに打ちひしがれるお母さんの姿を見ているのが辛くて、私まで涙が止まらなかったのを今でも覚えている。

私が昔のことを思い出していると、ひよりが私に気がついた。

「え、秋人、どうしてここにいるの?」

本当に驚いたのか、かなり大きな声でそう叫んでいた。

「ああ、秋人君、すごい偶然ね」

お母さんもひよりの声に気づいたようで、私を見て驚いていた。

「ああ、びっくりした。ひより、久しぶりだね。お母さんもご無沙汰しております」

「なんでここにいるのよ」

ひよりは興奮気味の様子で私に問い詰めてきた。

「なんでって、ちょっと疲れてたからのんびり温泉にでも浸かろうと思って」

「え、本当にすごい偶然。それよりも元気にしてた?新しい彼女は?」

ひよりは何も変わっていなかった。明るくてエネルギッシュで、今も元気そうな彼女を見て、私は心の底からほっとした。

「見ての通り元気だよ。まあ、彼女はいないけどね。もし彼女がいたら、こんな寂しい温泉街には来てないよ」

「でも、ちょっと痩せたんじゃない?結婚してた時よりも顔色が悪い気がするし」

ひよりとは対照的に、お母さんは穏やかな声で心配してくれた。

「確かに少し痩せたかもしれません。でも大丈夫ですよ」

「本当?もしよかったら今度家にいらっしゃい。ご飯でも作ってあげるから。うちは主人もいないし、ひよりも出かけてばっかりだから一人が多いの。今日も久しぶりにひよりに会ったのよ。自分一人のために料理を作っても、なんだか寂しいし味気ないからさ」

そう言ってお母さんは可愛らしい笑顔で誘ってくれた。私は素直に頷いた。そこから三人で昔話に花が咲き、湯の中で和やかな時間が流れた。

しばらくして、話は自然と恋愛の話題へと移っていった。ひよりは最近彼氏と別れたらしく、現在は婚活中だと堂々と宣言していた。

「秋人は離婚してから誰とも付き合ってないの?」

「まあな、相変わらず仕事漬けでさ」

「へえ。じゃあ、寂しい日々を送ってるんだね」

「まあなあ、正直夜とかは寂しいかな」

「じゃあさ、久しぶりにどう?」

ひよりは、いつまでも一人身の私に同情でもしたのか、突拍子もないことを言い出した。

「いきなり何を言い出すんだよ。冗談はやめてくれよ。お母さんの前でそんな冗談言うなよ」

「え、冗談なんかじゃないってば。私だって今は彼氏がいないわけだし。それに秋人だって三年間も一人で寂しかったんでしょ。ここで会ったのも何かの縁だし。元夫婦なんだから別に問題ないんじゃない。久しぶりにお互いの寂しさを埋め合って、また明日からそれぞれの道で頑張ればいいのよ。我慢ばっかりしてると心まで痩せちゃうわよ」

ひよりはいたずらっぽく微笑んで誘ってきた。ひよりの言っていることは分からなくもないけど、お母さんはそれを聞いてどう思っているんだろう。私はちらっとお母さんを見ると、お母さんとばっちり目が合ってしまい、私に向かって優しく微笑んだ。

「ひよりの言う通り、別にいいんじゃないかしら。でも…でも、せっかく三人で出会えたんだから、私も仲間に入れてもらってもいい?」

お母さんも衝撃的な言葉を投げつけてきた。

「お、お母さんまでそんなご冗談を」

「ああ、それいいじゃん。せっかくこうして会えたんだから、みんなで楽しく過ごそうよ」

ひよりはケラケラと笑いながらあっさりとOKを出した。

「私だってもう何年も一人身だもん。秋人君の寂しさも痛いほど分かるから、きっと癒してあげられるわ」

そう言ってお母さんが私の手を握ってきた。相手が元妻の母親とはいえ、女性に手を握られるのも数年ぶりのことで、それだけで私の体は熱くなった。いや、やばい。本能的にはそう思っていても、温かい手が心地よくて振り払うことなんてできなかった。

すると、今度は反対の手をひよりが握ってきた。

「こうして触れ合うのも久しぶりだね」

昔と変わらない屈託のない笑顔でひよりは言った。

「他にお客さんもいなさそうだし。せっかく再開したんだから、楽しまないと損だよ。ひょっとしたらこれが最後になるかもしれないし」

確かに、と思ってしまった。そして私が何か言葉を発するよりも早く、ひよりは私の体に触れ始めた。

「ひよりったら、そんな寂しいこと言っちゃだめでしょ。またいつか会えるかもしれないじゃない」

お母さんはそう言って、私の背中に手を添えてきた。二人の女性から同時に触れられるという前代未聞の事態に、私の脳は停止寸前だった。しかし、何とも心地よくて、抵抗するなんて考えは一ミリも浮かばなかった。そのままひよりに唇を重ねられると、私の中で眠っていた何かが覚醒したような気がした。さらにお母さんからも柔らかなキスをされ、完全に私の中のスイッチが入ってしまった。

どうしてこんな展開になったんだ?私は混乱した頭の片隅でそんなことを考えていた。久しぶりに聞くひよりの声と、いつもより甘くどこか艶めかしいお母さんの声が、私の鼓膜を何度も振わせていた。結局私たちはそのまま一つになった。遠慮も我慢も一切なく、ただ本能の赴くままに互いを求め合った。あまりにもあっという間の出来事で呆気なく感じるのも、結婚していた頃と変わらない。

そして私はお母さんにも手を伸ばした。二十歳近くも離れているはずなのに、お母さんの肌は信じられないほど滑らかで、吸いつくようだった。見た目の若々しさもさることながら、その奥に潜む艶な雰囲気に私は完全に心を奪われていた。お母さんの甘い吐息が耳元をくすぐり、その吐息が私の理性を一瞬で溶かしていった。ただ触れられるだけなのに、ひよりとするのとは全く違う感覚だった。お母さんの熟練されたテクニックなのか、それとも単純に私との相性がいいのか。当時の私にはそんなことを考える余裕なんてなかった。

その間、ひよりは息を整えながら、まるで映画でも見ているかのように興味深そうに私たちの様子を観察していた。見られているという状況が不思議と刺激になって、私の興奮をさらに掻き立てた。そして私は絶頂に達し、互いに力尽きた。

「秋人たち、結構相性良さそうだったね。私はさっさと終わらせるのが好きだから、男の人からしたら物足りないんだろうね。でも、お母さんと気が合うならまたこうして二人で楽しめばいいじゃない。二人とも一人身なんだから悪いことじゃないでしょ。結婚してた時だってお母さんとはいい関係だったわけだし、そういうのもありだと思うよ」

ひよりは本気なのか冗談なのかよくわからないことを言って笑っていた。

「まあ、秋人君が嫌じゃなかったらね」

お母さんは控えめにそう言っていた。この先、元妻の母親と本当にそういう関係になるのか。私は現実味が分からずに、ただ曖昧に頷きを返した。

温泉の熱気と予想外の出来事で頭がまだ少しぼんやりしている中、私たちは湯から上がり、休憩所で冷たい飲み物を飲みながらしばらく談笑した。そして服を着るために一旦解散し、私は脱衣所へ向かった。一人になった途端、さっきの出来事がまるで走馬灯のように頭の中で駆け巡った。俺は何をしてるんだろう?温泉で疲れを癒しに来ただけなのに。それでも不思議と嫌な気持ちや後悔は微塵もなかった。むしろ全身が温かくなり、心も満たされていて、久しぶりの感覚を味わっていた。

家に帰っても、お母さんとの感触が鮮明に蘇ってくる。まるで体中に電流が走ったみたいだった。あんな強烈な快感は今まで味わったことがない。私は何度も何度もお母さんのことを思い出してしまう。違うことを考えようとしても、すぐに彼女の顔が浮かんできて、その度に体が熱くなる。それだけ、今日の出来事は私の中で衝撃的な体験だったのだ。

次の日から、またいつもの仕事だけの単調な日常が始まった。食事は適当に済ませ、ただひたすら仕事に没頭する毎日。心がどんどんすり減っていくような気がしていた。そんな状態が四ヶ月も続いた。その間、私は一度もお母さんに連絡を取っていない。やっぱり元妻の母親だし、あんなことがあった後で気軽に連絡を取るなんて気が引けてしまう。それに、わざわざ私のために食事を作ってもらうなんて申し訳なさすぎる。結局、私は一人で頑張るしかなかった。

記憶の中のお母さんの優しい笑顔と温かい手の感触。そしてあの優しい声だけが、私の心の支えだった。それが恋愛感情なのかどうかは自分でもよくわからなかったが、あの温泉でお母さんによって心が癒えたのは紛れもない事実だ。

そんなある日のこと、部下がとんでもないミスをやらかした。そのフォローをしなければならなくなった私は、連日深夜まで残業するはめになった。寝る時間すらまともに取れない日が一週間ほど続き、さすがの私も限界ギリギリだった。食事を取る気力すら湧かなかった私は、無意識のうちにお母さんに電話をかけていた。

「お母さん、会ってもらってもいいですか?」

疲れきっていたせいか、ただその一言だけが喉から絞り出された。お母さんは私の様子をひどく心配してくれて、とりあえずあなたの家の住所を教えて、と言われた気がする。しばらくすると、お母さんが家の前まで迎えに来てくれた。私は意識朦朧のままお母さんの車に乗り込んだ。気がつくと、私はお母さんの家にいた。

「とりあえず今はゆっくり眠りなさい」

そう優しく促され、私は意識を手放して深い眠りに落ちた。

目を覚ますと、外はもうすっかり明るくなっていた。やっちまった。俺はお母さんにすごい迷惑をかけてしまった。私はとっさにそう思った。私の様子をずっと見ていてくれたのか、お母さんは私の隣に座ったまま静かに眠っていた。申し訳なさと、そばにいてくれる安心感。そして一人じゃないという温かい気持ちが一気に押し寄せてきた。

「すみません」

私は謝りながら、可愛らしい寝顔のお母さんの頭をそっと撫でた。するとお母さんはゆっくりと目を覚ました。

「あら、私も寝ちゃってたみたい。おはよう。よく眠れた?」

「あ、はい。あの、本当にすみませんでした。突然電話してしまって」

「こんなの気にしなくていいの。それよりも、頼ってくれたことが嬉しいから。すぐに朝ご飯を作るから待ってて」

「そ、そんな申し訳ないので大丈夫です」

「遠慮しなくてもいいのよ。私もお腹空いちゃったから」

この優しい言葉と細やかな気遣いが、疲弊した私の心にじんわりと染み渡った。そしてお母さんは手際よく朝食を用意してくれて、二人で一緒に食べることにした。誰かと一緒に食事をするのも、人が作ってくれた温かい手料理を食べるのも本当に久しぶりで、私は胸がいっぱいになった。

食べ終わると、お母さんは私の隣に座り、「無理しちゃだめじゃない。いつでも頼ってって言ったのに」と言って、優しく抱きしめてくれた。その温かさに、心がゆっくりと解きほぐされていくのを感じた。しばらくお母さんの優しい腕の中で甘え、幸せな気持ちに浸っていたのだが、少しして私がゆっくりと顔を上げると、彼女は唇を重ねてきた。

「疲れてるから、今はやめておこうか」

艶めかせながら見つめてくるお母さんは、正直めちゃくちゃ魅力的だった。断るなんて選択肢は私の中には存在しなかった。

「いや、続けてください」

そう言って、今度は私から彼女にキスをした。甘い空気が満たされた部屋で、私たちはゆっくりと時間をかけて愛し合った。あの温泉で感じたような、体中を電流が走るような感覚が蘇って、私は我を忘れていた。

その日は一日中、二人でゆったりと過ごした。特に何かをするわけでもなく、ただ一緒にいるだけで心が安らぐのを感じていた。そしてその日から、私たちの関係は以前とは明らかに変わった。週末になるとお母さんは必ず私を家に誘ってくれて、二人で料理をしたり、一緒に食事をして笑い合う。夜になると、二人で並んで映画を見ながら手を繋いだりキスをしたりするようになった。たくさんのハグと優しい言葉で、お母さんはいつも私を癒してくれた。いつしかこの場所が、私の本当の居場所のような気がしていた。

そんな関係が半年も続いた頃には、私は本気でお母さんに恋をしていた。年齢差も、元妻の母親という立場も関係なく、私は気持ちを止めることができなかった。だから自分の気持ちがはっきりと分かったその日、私はすぐに彼女に告白した。

「どうしてもお母さんのことが好きなんです。どうしても一緒にいたいんです」

私の真剣な思いが伝わったのか、お母さんは最終的に頷いてくれた。そしてその日から、私たちの交際が始まった。付き合い始めてからも、週末に二人で過ごす穏やかな日常は続いた。私はもうこれ以上ないほどに幸せを感じていた。

付き合って半年が経つ頃には結婚を意識し始め、私はお母さんにプロポーズをした。しかし、帰ってきた答えはまさかの否だった。

「あなたは娘の元旦那さんでしょ?それに、私たちは二十歳も年が離れている。これから先待っているのは介護生活よ。今はまだ元気だけど、二十歳の差は大きいと思うわ。秋人君が好きだからこそ、あなたに迷惑はかけたくないの。このまま恋人として付き合っていきましょう。家族にならなければ、私が介護が必要になった時、簡単に切り捨てることができるでしょ」

そんなことは覚悟していたし、簡単に別れるつもりはないとも言った。家族として責任を持ってそばにいたいとも、何度も伝えた。それでもお母さんは首を縦には振ってくれなかった。それが彼女なりの愛情であり、優しさなんだということは理解していた。ただ、私の気持ちがその程度だとしか思われていないことが、正直悲しかった。

それでもいつか必ずOKをもらおうと、私は前向きに考え、お母さんとの交際を続けた。どれだけ彼女が私の心の支えになっているか、どれだけ大切に思っているかを、毎日言葉と態度で伝え続けた。

そこからあっという間に二年が過ぎた。私たちの関係は変わらず恋人同士のままだった。

そんなある夜のことだった。

「これでもう、何度目のプロポーズかしらね」

お母さんは少し茶化すように言ったけれど、その瞳は優しかった。

「もう数えられないくらいしてるけどさ、もう一度プロポーズさせてほしい。俺はあなたのことが好きです。あなたは僕の癒しなんだ。だから、僕に責任を持たせてほしい。介護がどうとか言うけど、そんなの百も承知だ。僕はあなたと家族になって、最後までずっと一緒にいる。それくらいの覚悟はできている。それだけ本気なんだ」

私は何十回目か何百回目か分からないプロポーズをした。今まで何度も断られてきたのに、それでも私を愛し続けてくれる。お母さんは少し考えてから口を開いた。

「今でも年齢のことはどうしても考えちゃう。でも、もうあなたの強い気持ちに勝てる気がしないわ。こんなにも長い間、一途に思い続けてくれるなんて思ってもいなかった。それに、本当はずっとあなたのプロポーズを受け入れたかった。ただ、置いていくだけの自分の人生に、あなたを巻き込みたくなかったの。だから、これが人生で最後のわがままにしたいと思う。それなら、あなたのそばにいてもバチは当たらないかなって」

お母さんは先日、ひよりに相談したらしい。

「バチなんて当たるわけないでしょ。離婚した私が言うのもあれだけどさ、秋人って本当に真面目でいい人だよ。私とは合わなかっただけ。そうじゃないと二年も待っててくれないでしょ。思い切って飛び込んでみたら」

そう言ってひよりは背中を押してくれたらしい。

「長い間待たせてごめんね。私の残りの人生を一緒に歩んでください」

そう言って、お母さんはようやく頷いてくれた。私は嬉しくて、涙が止まらなかった。

それからもう十年が経とうとしている。私は四十六歳になり、お母さんは六十六歳になった。それでも信じられないことに、二人ともめちゃくちゃ元気にしている。付き合っていた頃と変わらず、二人で笑って食事をして、夜は一緒に映画を見る。お母さんは時々ソファーで居眠りしてしまうけれど、そんな姿すら私は愛おしいと思っている。

ひよりは私たちの結婚に快く賛成してくれたし、今でもいい友人関係を続けている。アクティブなひよりは今でも彼氏を作ったり別れたりしながら、全力で人生を楽しんでいるらしい。互いの幸せを願いながら離婚した私たちだが、今ではそれぞれがそれぞれの幸せを掴んでいて、会うたびに幸せそうで良かったと言葉を交わす。

きっと私とお母さんの夫婦には、これからも色々なことが起こるだろう。しかし、何があっても私の愛情は変わらないし、一生支え続けていく。私の願いが一つ叶うなら、一日でも長く夫婦で穏やかな日々を過ごしていきたい。私たち二人の旅は、まだまだ始まったばかりなんだ。

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