孫の5歳の誕生日会で、ケーキを運んでいる最中、嫁が私を「もう来ないでください」と冷たく告げた。理由を聞くと、「八百屋の仕事が恥ずかしい」「格が違う」と言い放った。40年間、朝3時から起きて働き、息子の学費も生活費もすべてこの八百屋で支えてきたのに。土の匂いのする手で、息子を育て、孫の世話までしてきたのに、彼らは「おばあちゃんの手、臭い」と笑った。私はただ静かに微笑み、「わかりました」と受け入…
「もう来ないでください。」 その言葉が響いたのは、孫の優馬の5歳の誕生日会でした。私は心を込めて作った特製のケーキを運んでいる最中でした。ろうそくの炎が揺らめく中、嫁の知恵が冷たい表情で私を見つめていました。 「お母さん、ちょっとお話があります。」 知恵の声は氷のように冷たく、息子の工事は困ったような顔で視線をそらしています。優馬は無邪気にケーキを見つめていますが、その場の空気は明らかに変わっていました。 「これからはもう私たちと関わらないでいただけますか?」 知恵の言葉に、私は手に持っていたケーキ皿が震えそうになりました。孫の誕生日という、最も幸せであるべき瞬間に、まさか絶縁を言い渡されるとは思っても見ませんでした。 「そう、わかりました。」 私は静かにそう答えました。心の中では激しい感情が渦巻いていましたが、表情には出さず、むしろ静かな微笑みを浮かべていました。40年間、朝早くから夜遅くまで働きながら家族を支えてきた私の人生が、この瞬間、音もなく崩れていくような気がしました。 「理由を聞いてもよろしいでしょうか?」 私が静かに尋ねると、知恵は鼻で笑うような仕草を見せました。 「お母さんの八百屋の仕事って、正直恥ずかしいんです。優馬の幼稚園のお母さんたちに、おばあちゃんが野菜売りだなんて言えません。」 その言葉は私の胸に鋭い刃のように突き刺さりました。工事も小さく頷いています。 「時代遅れなんだよ、母さん。今時、八百屋親なんて……」 私の脳裏に、これまでの40年間の記憶が走馬灯のように蘇ってきました。毎朝3時に起きて市場へ仕入れに行き、新鮮な野菜を地域の皆様にお届けしてきた日々。その収入で工事を大学まで行かせ、総額800万円もの教育費を捻出しました。結婚する時には貯金から500万円を援助し、優馬が生まれてからの3年間は毎日無償で孫の世話をしていました。朝から晩まで、ただひたすら家族のために働いてきたのです。 「お母さんの手、いつも土臭くて、優馬に触らないでって言ってるのに。」 知恵の嘲るような言葉に、私は自分の手を見つめました。確かに長年の仕事で節くれだった手。でも、この手で育てた野菜で、工事は大きくなったはずです。 「でも、なぜ今なのですか?」 私の問いかけに、2人は顔を見合わせました。何か別の理由があるような、そんな予感が私の心をよぎりました。 「実は知恵の実家が大手企業の役員をやっていることが分かったんです。」 工事が切り出しました。 「向こうのご両親と会った時に、母さんの職業の話になって、正直恥ずかしかったんだ。」 知恵が得意げに続けます。 「うちの父は海外事業部の専務なんです。母も元キャリアウーマンで、今は文化教室の講師をしています。格が違うんですよ、お母さん。格が違う。」 その言葉が私の心に重くのしかかりました。私はただの八百屋です。でも、それが恥ずかしいことでしょうか。 「先月の幼稚園の懇親会でも困ったんです。『優馬のおばあちゃんのお仕事は?』って聞かれて、つい『会社員です』って嘘をついちゃいました。でも、運動会の時にお母さんが野菜の差し入れを持ってきたでしょう。あれで全部バレちゃって。」 私は覚えています。運動会の日、朝採れの新鮮な野菜で作ったサラダと手作りの漬け物を持っていきました。皆さんに喜んでいただけると思っていたのです。 「『まあ、本当に八百屋さんだったのね。』ってみんなに笑われました。野菜の匂いがするって、影で言われているんです。」 知恵の言葉は次第にエスカレートしていきました。 「優馬も言ってるんですよ。『おばあちゃんの手、臭い。お友達のおばあちゃんはいい匂いがするのに。』って。」 私は優馬を見つめました。5歳の孫はケーキを前に何も知らずに座っています。本当にそんなことを言ったのでしょうか?それとも、知恵が言わせているのでしょうか? 「この前なんて、お母さんが迎えに来た時、優馬が泣き出したんです。『八百屋のおばあちゃんだ』って、園児にからかわれたって。」 工事も口を開きました。 「母さん、僕も会社で肩身が狭いんだ。取引先との会食で家族の話になると、いつも話題を変えてる。『お母様は何をされているんですか?』って聞かれるのが、本当に苦痛で。」 息子の言葉は私の心を深くえぐりました。あんなに可愛がって育てた工事が、母親の仕事を恥じるなんて。 「それに、お母さんの服装も問題です。」 知恵が畳みかけるように言います。 「いつも同じような地味な服ばかり。この前、幼稚園の発表会に来た時の格好、覚えてますか?あの紺色のカーディガン、何年前のものですか?」 確かに私の服は地味です。でも、それは無駄遣いをせず、工事の教育費を優先してきたからです。おしゃれよりも家族の将来を大切にしてきました。 「お母さんといると、私たちまで貧乏臭く見られるんです。」 知恵の言葉に、工事も頷いています。 「正直、母さんがいると恥ずかしいんだ。この前、会社の同僚家族とバーベキューをした時も、母さんを誘わなかった理由、分かるでしょう?」 「分かりませんでした。あの時は『人数の都合で』と言われて、納得していました。まさか存在自体を疎まれていたとは。」 「お父さんは元銀行員で、退職後も投資で成功されているから、まだ対面(つら)が立つんです。でも、お母さんは……」 知恵が言いました。私の夫、ただおのことまで引き合いに出されるとは思いませんでした。 「父さんも困ってるよ。この前、父さんに相談したら『母さんの仕事は立派だ』って言ってたけど、本心じゃないと思う。だって、父さんの友人たちとの集まりに母さんを連れて行かないじゃないか。」 「それは違います。ただおは私の仕事を誇りに思ってくれています。集まりに行かないのは、私が店を開けられないからです。」 でも、今この場で弁解しても、きっと言い訳にしか聞こえないでしょう。 「とにかく、もう限界なんです。」 知恵が結論めいたことを言いました。 「優馬の教育にも悪影響です。将来、おばあちゃんみたいに八百屋になるなんて言い出したら困ります。もっと大きな夢を持って欲しいんです。」 八百屋は小さな夢なのでしょうか?地域の人々の健康を支え、新鮮な野菜を届ける。それは誇るべき仕事ではないのでしょうか? 「だからお母さん、もう私たちには関わらないでください。優馬とも合わせません。」 知恵の最後通告に、私は何も言えませんでした。ただ、心の中で静かに決意していました。あなたたちは知らないでしょう。この八百屋の収入で、どれだけのことをしてきたか。そして今も、どんな形であなたたちを支えているか。それを思い知る日が、きっと来るはずです。 「母さん、正直に言うよ。」 工事が深いため息をついて、決定的な言葉を口にしました。 … Read more