義母が最近、やけにうちの夫婦のことに首を突っ込んでくる。無断で訪ねてきて、私たちの喧嘩のことを聞き出しては、ニヤリと笑う。彼女は「妻が母親に話すことって、あなたが思うより多いのよ」と言った。だが先週、彼女が、妻が家にいない間にだけ起きた、私たちの家の蛇口の漏れのことを、当然のように口にした。妻はそのことを一度も彼女に話していない。私はサイバーセキュリティの仕事をしている。侵入の痕跡を探すのが…
「あの蛇口のことを、どうしてあなたが知っているの?」 私はカウンターを拭く手を止めた。妻のジェンも、食洗機に皿を並べる手を止めて、母親を見た。 「何の蛇口?」とジェンが尋ねた。 「ゲストバスのやつよ。ポタポタ漏れてるでしょ」と、ディアンは当然のことのように言った。 「どうしてそれを知ってるんだ?」私は声のトーンを抑えて、できるだけ穏やかに尋ねた。これが私の仕事だ。侵入の痕跡を見つけること。 ディアンは肩をすくめた。「ジェンが話してくれたんでしょ」 「私は木曜日に家に帰るまで、その蛇口のことを知らなかったわ」とジェンがゆっくり言った。「母に話した覚えはないわ」 「まあ、誰かが話したんでしょ」ディアンはワインを一口含んで、話題を変えた。隣人の新しい庭の話に。 でも私は引き下がらなかった。なぜなら、私は断言できたからだ。あの蛇口のことを、誰もディアンに話していないと。ジェンはアッシュビルで研修に出ていて、水曜日に急に漏れ始めた蛇口を発見したのは、家で独りだった私だけだ。私は誰にも話さなかった。電話もせず、テキストも送らず、何も投稿しなかった。 つまり、ディアンは超能力者か、それとも、私も妻も家にいない時間に、私の家の中にいたということだ。 それがすべての始まりだった。 私はトーマス。34歳。サイバーセキュリティの仕事をしている。普段は不正アクセスを追跡し、侵入パターンを分析する。自分の家で、その“侵入者”を相手にすることになるとは、皮肉な話だ。 状況を整理しよう。義母のディアンは61歳。元歯科医院の受付主任で、2年前に夫が35年間の結婚生活に終止符を打って出て行ってから、様変わりした。それまでは口うるさい程度の普通の義母だった。しかし夫が出て行ってから、約8か月前、彼女は突然、私たちの結婚生活に「手を貸す」ことに熱心になった。 予告なしの訪問。週に3、4回。勝手にキッチンの配置を変え、私たちのテレビを見て、ソファでくつろぐ。「で、二人の仲はどうなの?本当のところ」と、読書用メガネをかけて、セラピストみたいな口調で尋ねる。私は「うまくやってるよ」と答える。実際そうだったから。すると彼女は、妙に含みのある微笑みを浮かべる。私が知らないことを知っている、という顔で。 「妻が母親に話すことって、あなたが想像するより多いのよ」と彼女は日曜の夕食で言った。豆の器を回しながら、まるで世間話のように。 私はジェンを見た。ジェンは自分の皿を見つめていた。 一週間ほど前、私たちはお金のことで言い合いをした。ゲストバスのリフォームを今やるか、来年まで待つか。普通の夫婦げんかだ。その2日後、ディアンがペンキの見本を持って現れた。ゲストバス用の色だと言う。「ジェンがバスルームの話をしてたから」。ジェンはディアンの背中越しに「言ってない」と口パクした。 私はそれを心にメモした。習慣だ。 その後も続いた。ディアンはジェンが「話した」と否定する会話を引用し、私が歯磨き中にジェンにぽつりと零した仕事の忙しさを知り、私が買った新しいランニングシューズや注文した本のことまで口にした。小さな、具体的な、家の外に漏れるはずのない情報ばかりだった。 私はジェンに注意深く尋ねた。「最近、君のお母さん、前よりずっと絡んでくる気がしないか?」 「トーマス、彼女は寂しいのよ。夫に捨てられて。近くにいたいだけよ」 「でも、俺が誰にも話してないことを、彼女が知ってるんだ」 ジェンは「私がパラノイアになってる」と言いたげな、あの顔をした。「私の母よ。私たちは話すの。多分、私が忘れてるだけよ」 私は引き下がった。妻がいて、馬鹿じゃない。いつ引っ込むべきかは分かっている。でも、それがどんな“パターン”なのかも分かっていた。それが私の仕事なんだ。 そして、あの蛇口の件が来た。 私はジェンに相談することにした。裏庭で夕食を終えた後、ビスケットが庭で蛾を追いかけている静かな夜だった。 「なあ、君のお母さん、最近、日中に家に来てる?俺たちが両方仕事に行ってる時に」 ジェンは眉をひそめた。「そんなの知らないわ。どうして?」 「俺の書斎の中の物が動かされてるんだ。小さなことだけど。もしかして何か取りに来たのかと思って」 「ちょっと、トーマス。まさか私の母が、私たちの家に忍び込んでるって言うつもり?」 「誰も非難してない。聞いてるだけだ。彼女は緊急用の鍵を持ってる」 「彼女は泥棒じゃないわ」 「俺は泥棒って言ったんじゃない。来てるかどうか聞いたんだ」 ジェンの顎が強張った。「彼女は今、本当に大変なのよ。35年連れ添った夫に捨てられて。毎日あの大きな家で独りなの。たまに顔を出すくらい、何が悪いの?」 「もし彼女が俺の個人ファイルを漁ってるなら、それは別の話だ」 「彼女がそんなことするわけないでしょ。もう、トーマス。仕事で一日中脅威を探してるから、家でもそうなるのね」 その言葉は刺さった。意地悪だからではなく、部分的に当たっていたからだ。 私は口を閉じた。でも、監視はやめなかった。 2日後、またディアンが夕食に来た。キッチンでジェンの料理を手伝いながら、彼女はこう言った。「ねえ、あなたは本当に頑張ってる。あなたにふさわしいのは、あなたを優先してくれる人よ。トーマスはいい人だけど、あのコンピューター画面と結婚してるようなものじゃない?」 「お母さん、やめて」 「批判してるんじゃないの。見たままを言ってるだけ。あなたのお父さんもそうだった。目の前に座ってても、心は別の所にいた。私はあなたに、私と同じ思いをさせたくないの」 「トーマスはお父さんじゃないわ」 「ええ、でもパターンは繰り返すのよ、あなた」 私はスマホを置いて、壁を見つめた。パターンは繰り返す。彼女は少なくとも、その点については正しかった。 夕食後、ディアンはトイレに行った。6分ほどで戻ってきた。戻ってくる時、彼女はスマホをポケットにしまい、微笑んでいた。 その夜、私はリビングの共有ノートパソコンが、いつも自分が閉じた状態にしているのに、開いていることに気づいた。ジェンも使ってないと言った。そのノートパソコンには、私たちのiMessageが同期されている。 誰かが、私たちのメッセージ履歴を、3週間分も遡って読んでいた。私とジェンが、住宅ローンの借り換えや、私が検討していた退職金口座についてテキストしていた期間だ。 胸が締め付けられた。パニックではなく、認識だった。このパターンは仕事で何百回も見てきた。不正アクセス、システム内の水平移動、情報収集。 誰かが、私の結婚生活を偵察していた。 それから数日後、別の記憶が蘇った。ディアンが帰り際、車の中で電話をしていたのだ。「サンドラが言ってたわ。家の件はややこしいって。婚前取得財産だから」 婚前取得財産。私はこの家を、ジェンと出会う2年前に買った。私の名義だ。これは、決して争ったことのない問題だった。守る必要すら感じたことがなかった。しかし、どうやら誰かが、その件について質問していた。サンドラという誰かに、ディアンが情報を渡していた。 私は同僚のグレッグに相談した。4年間一緒に働き、2回のシステム刷新と、人生が10年縮むようなランサムウェア騒動を乗り越えた男だ。ランチで、訪問、書斎の書類移動、蛇口の件、ノートパソコン、電話の盗み聞きまで、全部話した。 グレッグはサンドイッチを食べながら、最後まで聞いて、ナプキンを置いて言った。「つまり、君の義母は、君の結婚生活に対して、ソーシャル・エンジニアリング大作戦を展開してるってわけだ」 「大げさだな」 「間違ってるか?」 … Read more