俺はクラスで一番目立たない陰キャだった。ある日、駅前でヤンキーに絡まれた時、同じクラスの女子ヤンキー・ユリカに助けられた。それから彼女が気になって仕方なくなり、一緒に昼飯を食べるようになった。映画デートの帰り、勇気を振り絞って告白したら、彼女は「言葉だけじゃ信用できないな」と微笑んだ。その時はただ照れてるだけだと思った。でも、その後に起きた出来事で、俺は彼女の本当の強さと、自分が隠してきた秘…
俺にはずっと友達に秘密にしていることがあった。だから陰キャと呼ばれるくらい目立たないように過ごしていた。そんなある日のこと。地元のヤンキー集団に絡まれてるところを、クラスメイトの女子ヤンキーに助けられたのだ。その時から、それまで気にも止めていなかった彼女が気になって仕方なくなった。彼女のことを目で追い、ついには一緒にお昼を食べる仲に。そして彼女と映画に行った帰りに告白を試みるが、言葉だけじゃ信用できないな。 俺は森山翔太。高校2年生の頃の俺は、クラスでも目立たない存在だった。勉強もスポーツもそこそこできてはいたが、だからと言って人目を引くほどのものもなければ、逆にうざられる要素もない。見た目も地味な、いわゆる陰キャというやつだ。いつもの仲間といつもの話題で時間を過ごす、可もなく不可もない。これが俺の学校生活の基本だった。 だからと言って、そんな生活に不満などない。むしろ、周囲に隠しておきたい秘密があった俺にとっては、売った状況だった。あとは余計なことには首を突っ込まずに、目立たないように過ごすだけ。そう、あの日までは順調にそんな生活を送っていた。 その日の放課後、俺はいつもの陰キャ仲間たちと駅前のゲーセンに立ち寄った。2時間ほど遊び、ゲーセンを出た時のことだ。友達との会話に夢中になっていた俺は、前方から自転車を押しながら歩いてくる人に気づかずにぶつかってしまった。ガシャーンと周囲に大きな音が響く。 俺の方は怪我がなかったが、相手は自転車ごと倒れてしまった。 「すみません。」 「うん。悪くぶつかった相手は、同じ学校のヤンキー連中だった。」 「何してくれてんだよ。」 「本当にすみませんでした。よそ見をしていてぶつかってしまったのは俺の方だ。」 だから俺は一生懸命に謝った。しかしヤンキーたちは、いい獲物を見つけたという感じでニヤニヤと笑っているだけで、許そうという気持ちはさらさらなさそうだ。それどころか、いつの間にか連中の仲間がわらわらと湧いてきて、俺たちを取り囲んでいた。 「ああ、ハンドルがこんなに曲がっちゃったよ。このチャリのハンドルは、おしゃれにまっすぐだったんだぜ。それなのに、こんなにまがりみたいに曲がっちゃってさ。どうしてくれんの?」 あの程度の衝突でそんなに曲がるわけないだろ。最も、こいつらにとって真実はどうでもいいことで、単純に因縁をつけて金を巻き上げるきっかけができた。それだけのことだ。だが、自転車のハンドルが曲がっていないという証拠もない。面倒なことになったと思ったその時だった。 「ちょっと待ちなよ。その子たち、困ってるだろう。」 ヤンキーたちに囲まれた俺たちに、夕方にも声をかけてくる人がいた。声のする方を振り向くと、見たことのある姿が。よく見てみると、同じクラスのユリカだった。 「あんたらさ、因縁つけるとか、今なことしてんじゃねえよ。」 「ちっ、ユリカじゃねえか。めんどくせえやつに見つかっちまったな。」 「ああ、めんどくさいって誰のことだよ。」 ユリカが現れたことによって、それまで強気だったヤンキーたちの勢いは弱っていくのが分かった。ヤンキーたちが関わりたがらないって、どういうことだよ。 「やめと、やめと。行こうぜ。」 倒れた自転車を引き起こすと、そそくさとヤンキーたちが退散していく。塩が引くようにヤンキーたちはいなくなり、ガランとしたその場に立ち尽くす俺たち。あっという間の出来事で、俺たちの理解は追いつかない。すると、呆けている俺たちにユリカが声をかけてきた。 「あんたたちもさ、じんたら歩いてんじゃないよ。気をつけなきゃ危ないだろ。」 「すみません。」 「あのね、私に謝ったって意味ないんだよ。もこんなタイミングよく私みたいなのが通るとは限らないんだからね。」 「ごめんなさい。」 「だから違うだろう。」 「あ、ありがとうございます。」 そうだよな。絡まれてたところを助けてもらったんだもんな。俺たちはユリカにめちゃくちゃ感謝した。同じ年のクラスメートだが、自然と口調は敬語になってしまう。陰キャ仲間たちも危機を脱したことにほっとした表情を浮かべていた。俺もほっとはしていたが、それと同時に頭の中にはてなマークが浮かびっぱなしだ。 それにしても、ヤンキーたちも恐れるユリカって、一体何者なんだろう。 その事件があってからというもの、俺は学校に行ってもユリカのことを目で追いかけるようになっていた。それまではクラスメートという認識だけだったが、あんな面を見たら、ユリカという人物が気になって仕方ない。なんとなく目で追いかけているうちに気づいたことがある。 俺たちは元々が陰キャのグループでクラスから浮いていたが、ユリカはユリカでクラスから浮いているように見えたのだ。だからと言って誰かに嫌われてるとか、のけ者にされているという感じではない。どちらかと言えば、ユリカのことを慕ってはいるが、なんというか、その接し方はクラスメートとしての対等な関係には見えなかった。ことなく周囲のクラスメートはユリカには特別に気を使っているように見える。 なんだこの違和感は?ヤンキーより喧嘩が強いのか?それともやばい連中との付き合いでもあるのか?そんな疑問を抱きながらもユリカの観察を続けていた、ある日のことだ。昼休みになると必ず1人で教室を出て行ってしまう。その後を俺は思い切ってつけていくことにした。 屋上へと続く階段に向かったユリカは、踊り場でスマホを眺めながら、手に持っていた袋からパンを取り出しほおばる。 「あれ?あんたは?」 こっそりと隠れて見ていたつもりが、ユリカに見つかってしまった。俺は勇気を振り絞り、1歩前に出る。 「あ、あの、俺、同じクラスの森山翔太です。」 「うん、知ってるよ。なんか用?」 「えっと、あの、あの時は焦って帰っちゃったから、ちゃんとお礼を言えてなかったなと思って。」 「あの時?ああ、あの駅前でヤンキーたちに絡まれてた。」 「そう、それです。俺なんてされるようなことしてないよ。」 「ちょっと奴らと話しただけだから。」 「それでも、あの時あの場面で止めに入ってくれたのはすごいことだと思うし。」 「はあ、あんなのすごくも何ともないから。」 確かにユリカは話しかけにくい雰囲気を持っている。なんか何とも表現しがたい存在感とでも言うか。だからと言って、話しかけた相手を無にすることはしない。それどころか、ちゃんと会話をしてくれる。クラスのみんなは知らないかもしれないが、彼女は俺たちを助けるためにヤンキーたちに立ち向かうくらい優しい一面を持っている女性だ。そういう彼女を知っているからこそ、俺はここぞとばかりにユリカにグイグイと尋ねていった。 「ところで、昼休みはいつもここで?」 「そうだけど、そのパンはコンビニで買ったの?」 「そうだよ。」 「ふーん。あのさ、俺もここで食べていい?」 こんなことを言うつもりはなかったのに、不意に出た言葉に自分でも驚いた。はあ、なんでだよ。一瞬嫌がるそぶりを見せたユリカ。ちょっと図々しすぎたかなと後悔した。でも、本当に嫌がっていたら、ヤンキーたちの時と同じようにぐっと態度と言葉で威圧されるはずだ。そういう雰囲気ではないから、大丈夫かな。 「じゃあ、俺お弁当取ってくるよ。」 「は?マジかよ。」 俺は嬉しくなって、早く戻るために急いでその場から駆け出す。そしてお弁当を持ってきてユリカの近くに座り、少し強引ではあったけれど一緒にお昼ご飯を食べた。それからはなんとなく、お昼休みには階段に行ってユリカと一緒にいるようになった。 そうなると、それまで一緒にお昼を食べていた陰キャ仲間たちとは別行動になっているわけだが、どうやら正太にも彼女ができたかという感じで、温かい目で見守ってくれていた。まあな、すごい自信だな。この状況を特に違和感があるとは感じていなかった。ユリカのことをもっと知りたい。その思いに俺の心は支配されていたからだ。 俺が持ってきているお弁当は、毎日自分で作っている。ユリカとお昼を一緒に食べるようになってから、彼女が毎日パンを食べているのが気になっていた。そこで俺は、ユリカの分のお弁当も作って持っていくことに。すると予想外にユリカは喜んでくれた。 「嘘。マジで本当にもらっていいの?」 「ああ、どうせ自分の分と母親の分も作ってるから、そのついでだよ。」 … Read more